マンションの顔ともいえる外壁の修繕は、足場を組む大がかりな工事になります。工事費用が高額になるケースも多いため、修繕内容や費用相場など理解を深めておきたいところです。
多くのマンションでは長期修繕計画にもとづき、大規模修繕工事で実施されていますが、改めて「工事のタイミングと工事内容」を見直すことで、長いスパンで考えたときにコストダウンできることがあります。ただし適切な工事時期を逃すとマンションの安全性を損ねるなどの問題が生じるため、実施時期の見極めが重要です。
そこで本記事では、マンション外壁修繕をおこなうべきタイミングや費用相場、よくあるトラブルを解説します。助成金についても触れますので、金銭面で不安がある管理組合の皆さまもぜひ参考にしてください。
目次
マンション外壁修繕の重要性
マンション外壁修繕は、マンションの性能や資産価値を維持するために欠かせません。外壁修繕を怠ると、ひび割れや剥落、欠損といった劣化が進み、劣化部分から雨水が浸入すると躯体の耐久性を低下させます。最悪の場合、外壁が剥落して通行人にケガを負わせてしまうことも。
管理不行き届きが原因で剥落事故が起きた場合、マンションの評判は下がり、売買取引においても不利になります。当然、賠償責任も負わなければいけません。
また、剥落事故が起きていなくても、外壁の劣化が目立つマンションは、美観が損なわれ資産価値は下がります。マンションの性能や美観の維持、事故防止のために、適切に外壁修繕を実施しましょう。
マンション外壁修繕の種類と工事時期の目安
マンションの外壁修繕は大規模修繕の工事内容のひとつです。大規模修繕の周期は、国土交通省の「長期修繕計画ガイドライン」で目安とされている12年が一般的ですが、このサイクル通りに行わなければならないわけではなく、劣化状況を踏まえて、時期を検討することがのぞまれます。
外壁修繕といってもさまざまな種類があるため、ここでは以下3つの工事時期の目安についてみていきましょう。
・塗り替え
・タイルの補修
・コンクリートの補修
順に解説します。
塗り替え
塗り替えのタイミングの目安は、以下4つの劣化状況がみられるときです。
・チョーキング現象
・クラック(ひび割れ)
・剥離
・鉄部のサビ
チョーキング現象とは、外壁を触ったときに白い粉が付着する症状です。目視だけでは、チョーキング現象が起きているかは分からないため、触って確認してみましょう。
クラックは「ヘアークラック(幅0.3mm未満、深さ4mm未満)」と「構造クラック(幅0.3mm以上、深さ4mm以上)」の2つに分けられます。微細なヘアークラックは、塗装で改善可能です。構造クラックは塗装の前に、シーリング材を注入するなどの補修も必要になります。
塗装の剥離や鉄部の錆がみられるときも、塗り替えのタイミングです。紫外線や雨風の影響を受けやすいため、劣化が進む前に対処しましょう。
マンションの外壁塗装については、以下の記事でも詳細を解説していますので、興味のある方はご覧ください。
マンション外壁塗装のポイント!費用・色選び・タイミングや注意点について徹底解説
塗料の耐用年数
塗り替えのタイミングを判断するときは、塗料の耐用年数も参考になります。塗料は種類によって、耐用年数や特徴がさまざまです。どのような塗料がつかわれているのか確認しておきましょう。
塗料の種類 | 耐用年数 | 特徴 |
アクリル塗料 | 約3~6年 | 色鮮やかな発色と価格の安さが魅力。耐久性は高くないため、外装よりも内装向き。 |
ウレタン塗料 | 約7~10年 | 耐用年数が長くないこともあり低価格。光沢感が持続するため美観重視する場所への部分使いとしても使われる。 |
シリコン塗料 | 約10~13年 | 現在では主流の塗料。耐久性と価格のバランスがよい。汚れや色落ち、熱にも強い。 |
フッ素塗料 | 約15~20年 | 耐用年数が長く、高額。耐候性や耐寒性など高性能。高層ビルで使われることが多い。 |
無機塗料 | 約10~20年 | 紫外線に強く耐久性が高い。無機物(セラミックやケイ素などが配合されている。 |
特殊塗料 | 約10~15年 | 太陽光・雨などで汚れを落とす光触媒塗料など、特殊な塗料。 |
タイルの補修
以下の劣化状況が確認できるときは、タイルの補修が必要です。
・浮き
・ひび割れ
・欠損
・剥落
タイル自体は、耐久性が高く劣化しにくい素材です。しかし地震による揺れや気温変化などにより、タイルを貼り付けているモルタルや接着材の効果が弱まり劣化が進みます。また、タイル間のシーリング材の耐用年数が10年程度なこともあり、ほかの外壁と同様に大規模修繕ごとのメンテナンスが必要です。
タイルの浮きは、パールハンマーと呼ばれる打診棒をタイルにあてたときの音の高低で判断します。外壁タイルについては、建築基準法で「おおむね6ヵ月~3年以内に手の届く範囲の打診」「10年に一度、全面的な打診調査や同等以上の精度を有する赤外線調査」が義務付けられています。
参照:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」
コンクリートの補修
コンクリートを補修するのは、以下の劣化がみられるときです。
・クラック
・欠損
・爆裂
コンクリートの構造クラックや欠損は、マンションの構造部分に直接影響を与えるため、耐久性を損なわないためにも早めに対処しましょう。
クラックや欠損を放置すると、劣化部分から水が浸入し、内部の鉄がコンクリートを押し出す「爆裂」が生じることも。より大がかりな工事になるため、早めに補修する必要があります。
コンクリートがひび割れする原因については以下の記事を参考にしてください。
コンクリートがひび割れする原因と対策!危険性を見極めて正しい補修をしよう
【種類別】マンション外壁修繕の費用相場
国土交通省の「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、大規模修繕工事の戸当たり工事金額でもっとも多いのが100~125万円です。総工事金額の約6割が建築系工事で、その約5割が外壁関係なことから、大規模修繕のなかでも外壁関連の修繕費用が多くの割合を占めています。
参照:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
ここからは、以下の種類別のおおよその費用相場をみていきましょう。
・塗装
・タイル補修
・コンクリート補修
・足場仮設費用
順に解説します。
塗装
塗装の費用相場は、1㎡当たり1,500~5,500円です。塗料の種類によって異なり、耐用年数が長いほど高額になります。外壁塗装で主流のシリコン製塗料だと2,300~3,500円が相場です。
1回の工事費用をおさえて耐用年数の短い塗料でこまめに塗り替える、1回の工事費用は高額になっても耐用年数の長い塗料で総工事回数を減らすなど、目的や方向性をはっきりさせて塗料を選びましょう。
タイル補修
タイルの張替えは1枚当たり約500円、タイルの浮き補修は1か所当たり約500~900円です。補修する範囲が広いときは1枚当たりではなく、1㎡当たりで計算されます。補修や張替え、張替えの場合はタイルの種類などにより、金額に差がありますが、1㎡当たり10,000~50,000円程度が相場です。
浮きの補修には「アンカーピンニング工法」が用いられます。アンカーピンニング工法とは、浮いているタイルの目地に穴をあけ接着剤を注入し、アンカーピンで補強し固定する方法です。浮きの程度によって、張替えか浮き補修かが決まります。
コンクリート補修
ヘアークラックは1㎡当たり2,000〜6,000円、構造クラックは1㎡当たり1,000〜4,000円が相場です。ヘアークラックの場合、ひび割れ部分にシーリング材を充填したあと塗装します。
構造クラックの場合は、クラック部分を取り除くようにU字型にカットしたあと、シーリング材を充填し塗装するのが一般的です。漏水を伴う重度なクラックには、樹脂を注入する大がかりな工事になります。
足場仮設費用
足場仮設費用の相場は1㎡あたり600~800円です。国土交通省の「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、足場仮設が含まれる仮設工事費は大規模修繕の約19~25%を占め、建築系工事に続き2番目に金額の割合が大きくなっています。
外壁修繕のためだけに足場を仮設するのは負担が大きいため、大規模修繕でほかの工事と合わせてできるように、計画的に準備を進めておきましょう。
参照:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
マンション外壁修繕に関する助成金
外壁修繕に対して助成金を設けている自治体もあるため、該当する方は積極的に活用しましょう。ここでは、東京都品川区の「住宅改善工事助成事業(エコ&バリアフリー住宅改修)」を紹介します。
住宅改善工事助成事業(エコ&バリアフリー住宅改修)は、環境やバリアフリーに配慮した工事が助成の対象です。
外壁関係では、遮熱性塗装や外壁耐火パネルの設置費用の10%(上限100万円)が助成されます。管理組合が申請する場合は「品川区内の分譲マンションであること」かつ「助成対象工事について総会等で承認を得ていること」が条件です。
ほかにもさまざまな要件が定められているため、詳細は東京都品川区の公式ホームページでご確認ください。
外壁修繕の助成金については下記記事でも紹介しています。
外壁工事の助成金(補助金)はいくら?適用条件や受け取る方法・注意点を解説
マンション外壁修繕4つのトラブル事案
マンションの外壁修繕で考えられるトラブルは以下4つです。
・騒音と臭いが発生する
・日当たりが悪くなる
・窓からの作業員の視線が気になる
・形状によっては膨大な費用と工期がかかる
順にみていきましょう。
(1)騒音と臭いが発生する
外壁修繕中は騒音や悪臭が発生します。居住者には非常に大きなストレスがかかるため、全体の工事期間のほかに、とくに臭いや音が発生しやすくなる期間についても周知しておきましょう。
共用部の掲示板へ案内文書を掲示するだけでなく、各戸に文書を配布するなど多方面から抜け漏れがないように周知することも大切です。
(2)日当たりが悪くなる
外壁修繕がはじまると、足場を組み養生シートがマンションを囲むため、日当たりが悪くなります。バルコニーも使えないため、洗濯物を干すスペースに困る方もいるでしょう。
普段の生活を送れなくなることから、工事に対して非協力的な言動をする居住者もいるはずです。居住者の声に耳を傾け、少しでも不安や疑問を解消できるよう配慮すると同時に、外壁修繕の重要性を理解してもらいましょう。
(3)窓からの作業員の視線が気になる
外壁修繕中は、住戸の窓のすぐ横で作業員が作業していることがあります。実際は作業員が部屋を覗いていなくても覗かれているように感じたり、何かの拍子で視線が部屋に向いてしまったりすることもあり、プライバシー面を心配する方もいるでしょう。
不安視されることは、事前にすべて洗い出し、居住者の理解を得られるように、とくに時間を割いて事前に説明しておきましょう。居住者の協力を得られるように、理解を求めておきましょう。
(4)形状によっては膨大な費用と工期がかかる
タワーマンションなどの高層マンションや特徴的な形状のマンションは、足場を組めずにゴンドラをつかうなど、特殊な方法でしか工事できない可能性があります。
当然、費用がかさみ、工事期間も一般的なマンションよりも長くなるでしょう。工事業者も限られるため、早めに準備を進めておかなければいけません。
外壁修繕の前に専門家に劣化状況を調査してもらおう
外壁修繕は、基本的に大規模修繕のタイミングでおこないますが、劣化状況から実施時期を見直すことも大切です。クラックや剥落、タイルの浮きがみられる場合は、修繕が必要なタイミングになります。
足場を組む外壁修繕は、居住者の生活が制限されるため、トラブルに発展することも少なくありません。しかし外壁修繕を怠ると、マンションの耐久性の低下や大きな事故に発展し、資産価値を下げてしまいます。スムーズに外壁修繕を実施するためにも、早い段階から計画し、居住者の理解を得ておきましょう。
とはいえ、外壁の劣化状況を個人で判断するのは困難です。気になる劣化がみられる場合は、専門家に調査してもらいましょう。
さくら事務所では、大規模修繕工事前の建物劣化診断を実施中です。マンションの建築・設備に詳しい専門家が、現地に出向いて劣化状況を確認します。工事の受注や斡旋はしないため、利害関係のない第三者の公平な立場で、マンションの実態に沿って的確にアドバイスできるのが強みです。
劣化診断のほかに、長期修繕計画の見直しも実施しています。長期修繕計画は5年ごとの見直しが推奨されていますが、建設当初から見直されていないマンションも少なくありません。長期修繕計画を見直すことで、修繕積立金の値上げや修繕積立一時金の徴収を回避できることもあります。修繕積立金の資金繰りにお悩みの方もぜひお気軽にご相談ください。