新型コロナウィルス対策、過去の教訓に学ぶマンション内感染の意外なルート

  • Update: 2020-02-23
新型コロナウィルス対策、過去の教訓に学ぶマンション内感染の意外なルート
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株式会社さくら事務所

この記事はマンション管理士/一級建築士などの専門家が監修しています

新型コロナウイルス「COVID-19」の感染者数は、中国本土だけでなく日本でも85人(クルーズ船を除く)の感染者を出し(2月20日時点)、今も世界中に拡散しとどまるところを知らない状況が続いています。

感染予防というと出入国の際の健康チェックや渡航禁止規制など水際での対策や外出時の満員電車や人ごみに注意するという印象ですが、マンション内でも注意すべき点があります。

2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)流行時、香港の大規模高層住宅(アモイガーデン)内で集団感染が発生、42人の死者を出しています。

ここでは、マンションの建築・設備に精通したさくら事務所のマンション管理コンサルタントが、アモイガーデンでの集団感染の教訓から、マンション内感染の可能性とその防止策について解説します。

死者42人、マンション内感染はこうしておきた

2003年、香港のマンション「アモイガーデン」で集団感染が発生、3月31日には10日間の隔離命令が出される事態となった。

同マンション内でこのとき、213人のSARS感染が疑われる入院患者が出ていたが、そのうち107人は1つの棟(E棟)で、尚且つ各階の7号室・8号室に住む住民だった。

調査の結果、E棟の各階の8号室、各階の7号室ともに、下水管でそれぞれ垂直に繋がっていることが判明。

下水管は各号室のトイレ、キッチンの流し、洗面台、バスタブ、バスルームの床等の排水がつながれ、下水管への入り口である排水口の部分には排水トラップが設置されています。

排水トラップは下水からの臭気・虫などの侵入を防ぐために設置されていますが、長期間の不在などでは排水トラップ内の封水が蒸発、排水口経由で下水から臭気や虫などが侵入することもあります。

実際、同マンションでは、トイレでの悪臭の苦情が多く発生していました。

アモイガーデンで行われた実験の結果でも、バスルームのドアを閉めてバスルームの換気扇のスイッチを入れたときに、バスルームの床の排水口経由で下水管からの空気の流入が確認されました。

E棟の患者の発生が8号室と7号室とに集中したことは、SARS患者の便中の病原体のコロナウイルスによって8号室と7号室の下水管が病原体のコロナウイルス(SARSウイルス)に汚染され、そのウィルスを含んだ下水の小さな飛沫がバスルームの床の排水口経由で8号室や7号室のバスルームを汚染したためと考えられています。

バスルームの換気扇は建物の明かり取りの吹き抜け(ライトコート)につながっているため、この吹き抜けを通じて他の部屋にもウイルスが拡散した可能性があります。

また、4階では下水管内の圧力を調整するためのパイプに大きな割れ目も確認されました。

大きな割れ目からは下水の飛沫が建物の明かり取りの吹き抜けへ流出していた可能性もあります。

建物の明かり取りの吹き抜けでの油の飛沫を使った実験では、風の状況にもよりますが飛沫は横に広がりながら33階建ての建物の高さを数分で上昇するという煙突効果も確認されました。

参考:香港のアモイガーデン(Amoy Gardens)におけるSARSの集団発生について
(2019年7月11日 
横浜市健康福祉局衛生研究所感染症・疫学情報課 公開)

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日本のマンションでも排水の構造はほぼ同じ

以上が香港のアモイガーデンでのSARS集団発生のあらましですが、日本のマンションの排水構造と基本的に何ら変わりはありません。

マンション居住者の方から「バスルームや洗面台、トイレや部屋の中などで下水の臭いがする」「バスルームにチョウバエ(小さな黒い虫)がいる」などのご相談を受けることは珍しくありません。

数は多くありませんが、トイレの便器内の水が吹きあがることがあるといった相談もあります。

これらの現象は、アモイガーデンと同様の状況を生み出す可能性もつながります。

封水切れは、長期間の不在や空室によるバスルームやトイレなどの長期不使用以外にも、ささいなことが原因で起こることがあります。

例えば、キッチンの換気扇を使用したときに玄関ドアやサッシ窓が開け難くなる、という経験された方はいるでしょう。

通常、換気扇を使用する際、居室内の空気は強制的に排出されますが、給気口などから十分な外気が取り入れられていれば起こりません。

ですが、冬場は室内が寒くなったり夏場はエアコンによって冷やされていた空気が外に逃げてしまうため、給気口を閉めたままにして換気扇を使用することもあるでしょう。

すると、室内が外気に比して負圧となり、玄関ドアやサッシ窓が開けにくくなってしまうのです。

この状態が進むとキッチンやバスルーム、トイレ、洗面台、洗濯機パンなどの排水口に設置された排水トラップ内の封水を吸い上げてしまい、悪臭が発生します

また、24時間換気システムが装備されたマンションでは常に室内全体を換気しているため、所定の給気口を十分に開けていない場合にはさらに発生しやすい環境になっていますので注意が必要です。

マンションで排水管からの感染拡大を防ぐためのポイント

この教訓を活かし、同じ悲劇を起こさないよう、マンションにお住まいの方には次の点に注意していただきたいと思います。

1)換気設備の使用に際しては十分に給気を行う(給気口がない場合は窓を開けて換気をして使用する)

2)臭気などの発生が気になる場合にはキッチンやバスルーム、トイレ、洗面台、洗濯機パンなどの排水口(トラップ)にこまめに給水する

3)長期間不在にする場合にはバスルームや洗面台などの排水口をサランラップなどで覆い、飛沫や臭気の居室内への侵入を防ぐ

4)排水管(下水管)の漏水を放置せず、早めに確実に修繕する(下水の漏水で建物内で感染が広がる可能性もあります。)

5)敷地内の汚水桝などのメンテナンス(清掃)を確実に行う

6)老朽化した排水管(下水管)については専門家の診断を受け、必要に応じて配管の引き換えやオーバーホールなどの措置を早期に検討する

未だその全貌が明らかになっていない、新型コロナ・ウィルス。

マンションは多くの方が生活する場ですので、他のルートでの感染ももちろん考えられます。

とはいえ、万全の予防体制をとるためにも、リスクとなりうるポイントは1つでも多く知って、それぞれの対策をしていただくことをお勧めします。

★マンション内での新型コロナ感染拡大防止についてはこちらも併せてご覧ください。

「新型コロナウィルス感染拡大防止!マンション内でクラスターを出さないために」

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土屋 輝之
監修者

土屋 輝之

2003年さくら事務所に参画、不動産仲介から新築マンション販売センター長を経る間に、不動産売買及び 運用コンサルティング、マンション管理組合の運営コンサルティングなどを幅広く長年にわたって経験。不動産、建築関連資格も数多く保持し、深い知識と経験を織り込んだコンサルティングで支持される不動産売買とマンション管理のスペシャリスト

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ホームインスペクション(住宅診断)をはじめとする個人向け不動産コンサルティングや管理組合向けコンサルティングを行っている。400を超えるマンション管理組合のコンサルティング実績をもち、大規模修繕工事や長期修繕計画の見直し、瑕疵トラブルなどの管理組合サポートサービスを提供している。

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