マンション修繕積立金とは、長期的に建物の健全な状態を維持すべく、そのための資金を区分所有者で計画的に積み立てていくお金であり、マンションで長く安心して住むために欠かせないものです。
その重要性も広く伝えられ、中古マンション購入者の間でも修繕積立金を意識する方、お住まいのマンションでの修繕積立金の金額について見直したいという方がいます。
とはいえ、修繕積立金が適正な金額かどうか、ぱっと見で判断することは不可能です。
そこで、国のだす具体的な数字として、国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の数字を目安にされる方もいらっしゃるかもしれません。
結論から言ってしまえば、あくまで目安、参考程度に見ていただきたいと思いますが、そもそもこのガイドラインはどのようなものなのでしょうか?
2021年(令和3年)9月、約10年ぶりに改定された修繕積立金のガイドラインと注意点についてさくら事務所のマンション管理士が解説します。
目次
マンションの修繕積立金に関するガイドラインとは
そもそも「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」とはどのようなものなのでしょうか?
国土交通省が2011年に発表し、その活用方法については、もともと「分譲事業者から提示された修繕積立金の額の水準について、新築マンションの購入予定者が判断する際の参考になるよう」また「見直しの必要性や見直し後の修繕積立金の概ねの水準について、区分所有者間の合意形成がより促進される」ことを期待して作成したとされていましたが、2021年9月に、新築分譲だけでなく、既存マンションでも活用できるような改定が行われています。
マンションの修繕積立金に関するガイドライン(令和3年9月 国土交通省)
修繕積立金の目安となる金額が示されている
本ガイドラインでは、実際に作成された長期修繕計画の事例を収集し、その事例の「平均値」と「事例の大部分が収まるような幅」として、修繕積立金の目安を専有面積のm2ごとに金額で示しています。
具体的に収集された事例とその算出は、大まかにいって以下のようになります。
①自らの居住を目的としたマンション
②長期修繕計画作成ガイドラインに沿って作成された長期修繕計画
③計画期間内(大規模修繕工事2回分が含まれる期間)に必要な修繕工事費の総額と、専有面積当たりの月額単価
また、マンションに機械式駐車場がある場合は、修繕工事に多額の費用を要し、修繕積立金に大きく影響することから、機械式駐車場に係る修繕積立金は特殊要因として別に加算する仕組みとしています。
修繕積立金ガイドラインの計算方法
上記の方法で収集・計算された金額は、階数と建築延床面積ごとに、【15階未満】「5,000m2未満」「5,000~10,000m2」「10,000m2以上」と【20階以上】の4つの区分で平均値と幅が示されています。
ガイドラインにもあるように個々のマンションごとに様々な要因によって変動しばらつきも多いことから、平均値の他に、事例の大部分が収まるような範囲を示す「事例の3分の2が包含される幅」があわせて示されています。
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修繕積立金ガイドラインを目安にする際の注意点
サンプル数はかなり増加したが、平均値であることに注意
あくまで参考・目安にとありますが、いくつか注意点があります。
改定に伴い、サンプリングされたマンション長期修繕計画は84事例から366事例に増加しましたが、階数・建築延床面積で区分されているとはいえ、エレベータすらないような団地型5階のマンションから、共用施設の豪華な超高層マンションまでが含まれています。単純に平均値だけを参考とせず、マンションの規模・施設・築年数などを考え合わせながら、自らのマンションは、「事例の3分の2が包含される幅」の高い方に属する可能性が高いのか、低い方に属する可能性が高いのかを意識しつつ、活用することが望まれます。
さらにいえば、資料編P23には、修繕工事費の地域差についても考慮すべきことにも触れられています。独立行政法人住宅金融支援機構の「マンションライフサイクルシミュレーション~長期修繕ナビ~の解説書」を参考具体例として例示し、修繕工事費に地域補正値を乗じることで補正を行うことを示されています。
2013年9月以降での修繕費用で算出されている
少し古い調査資料などはあるものの改修工事に特化した適切な指数が見当たらないことから、比較的近似な動きをすると推定される建設物価調査会「建築費指数」工事原価の指数の最大格差で比較(最新/2013年平均)すると、(126.6/104.5≒)1.21倍になっています。
古い工事費単価を採用しているとこれだけの差異が生まれる可能性があることにご注意ください。
2013年(平均) 「104.5」
2021年10月(最新) 「126.6」
【参考】一般社団法人 建設物価調査会「建築費指数」
計画期間が大規模修繕2回を含む30年以上の期間に伸長
一般的に、マンションの修繕で費用が掛かってくるのは、最初の30年を超えたところにあるにもかかわらず、以前の長期修繕計画作成のガイドラインでは新築時は30年以上で、さらに既存マンションの長期修繕計画は25年以上でしかありませんでした。
改定により、大規模修繕(全面的な外壁塗装等を伴う工事)の修繕周期が12~15年となった改定も相まって、「計画期間は、30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれえる期間以上」とされました。これでもまだ課題がないわけではありませんが、これにより「ガイドラインの目的」にコメントされている計画期間の不足によって「修繕積立金の不足が生じる」恐れは、多少軽減されるものと思われます。
なお、さくら事務所では、計画更新業務を担う管理会社から協力を得られた場合には、修繕コストのピークが現れる傾向の強い築40年前後の期間を含む、築60年目までを計画期間に含めた超長期修繕計画の作成をお勧めしています。
修繕積立金の変動要因は他にもある
上記に加え、ガイドラインには修繕積立金の変動要因として、以下のようなものが挙げられています。(概略抜粋)
・建物等の形状や規模、立地、共用施設の有無等
・仕上げ材や設備の仕様
・区分所有者の機能向上に対するニーズ
上記に加えて、作成ガイドラインの改定では、「脱炭素社会の実現に向け、マンションの省エネ性向を向上させる改修工事も各区分所有者の光熱費負担を低減させる観点から有意義」であるとのコメントが追加されています。個々のマンションの規模や設備仕様はもちろん、「居住者がどんな修繕計画を望むのか?」によっても、変わってくるのです。
さらにいえば、もっとも大きな変動要素に、一時金徴収が計画されているケースや駐車場使用料の管理費会計への繰入れがあります。
このように様々な視点が求められる長期修繕計画を管理組合だけでは検討が難しいケースが多くあります。一方で、管理会社とは利害関係が異なるため、全面依存も難しいのが現状。当社では、完全な第三者の立場で、様々なマンションの長期修繕計画の見直しや検証を行っておりますので、ぜひご相談ください。
なお、今回の改定では、従来計算式に算入されていなかった「専用使用料等からの繰入額の総額」が追加され、修繕積立金の算定に際し、修繕積立金以外からの収入も加算して計算できるようになりました。
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修繕積立金のガイドラインはあくまで目安として考える
なんの目安も基準も無かったところに、ガイドラインで修繕積立金の「平均値」が提示されたことは、画期的なことでした。
ただ結論、あくまで「参考値」程度の意味付けしかありません。それを超えているとしても、必要な積立額を充足していることを約束するものでもありません。
また、「毎月いくらを積み立てているのか?」も重要ですが、「マンションとして戸当たりどれほどの修繕積立金残高を有しているか?」「積立計画(理想)と積立残高(現実)に乖離がないか?」もチェックポイントになるかもしれません。
マンション全体で共有する将来ビジョンとそれに即した長期修繕計画であり、「実現するための資金計画に問題がないか?」が重要で、いざという時に足りないでは困る積立金の計画ですから、「保守的」な計画であることも大切です。
お住まいのマンションの長期修繕計画について、気になる方はご相談ください。
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