マンションの大規模修繕のひとつであるシーリング工事。「シーリング」という言葉自体、聞き馴染みがなく、どのような工事なのか想像できない方もいるのではないでしょうか。
シーリング工事は、外壁の塗り替えやタイルの貼り替えなどと比べるとあまり目立ちませんが、マンションの防水性や気密性を保つために欠かせない工事です。
本記事では、マンションのシーリング工事の概要や工事すべきタイミング、費用について解説します。注意点も紹介するので、シーリング工事を控えている管理組合の皆さまもぜひ参考にしてください。
目次
マンションのシーリング工事とは?
マンションのシーリング工事とは、外壁タイルの目地、外壁ボードのつなぎ目、窓サッシと外壁のすき間などを、シーリング剤で埋める工事です。
マンションなどの建物は、地震の揺れや気温差による膨張などに耐えられるように、外壁ボードやコンクリートを繋ぎ合わせています。このつなぎ目にシーリング剤を注入することで、マンションの防水性・気密性・伸縮性を確保しているのです。
他の建築材料と同様にシーリング材も経年劣化しますので、一定の年数が経過すると本来の役割を果たせなくなります。シーリングが機能しなくなると、雨水による漏水被害や漏水による躯体の劣化を進めてしまうため、定期的なシーリング工事が必要です。
シーリング工事には「打ち替え」と「打ち増し」の2つの方法があります。それぞれどのような工事なのか解説します。
打ち替え工事
シーリングの打ち替え工事は、劣化したシーリング材を剥がして取り除き、新しいシーリング材を充填する方法です。古いシーリング材が残らないため、新築時と同様に最大限のシーリング効果を発揮できます。
打ち増し工事
打ち増し工事は、古いシーリング材を残したまま、上から新しいシーリング材を注入することで、劣化部分をカバーする方法です。
古いシーリング材の撤去費用がかからないため、工事費用をおさえられますが、シーリング効果は打ち替え工事に比べると長持ちしません。既存のシーリングを撤去できないサッシまわりや入隅、劣化の程度が少なく安い費用で応急処置したい場合に有効です。
シーリング材の種類
マンションで使われるシーリング材は、粘着性が高く弾力のある、不定形シーリングと呼ばれる素材です。シーリング材の種類と特徴について、以下の表をご覧ください。
シーリング材の種類 | 特徴 |
シリコン系 | 一般的によく使われているシーリング剤。耐久性や耐熱性が高い。上から塗装ができないため、外壁には使用されない。 |
変成シリコン系 | 紫外線や雨に強い。塗装もできるため、外壁・屋根など大規模修繕向き。 |
ウレタン系 | 弾性が高くひび割れに強い。。紫外線に弱く、ホコリも付きやすいため、塗装による保護が必要。 |
ポリサルファイド系 | 耐熱性・耐久性が高い。柔軟性が低いため金属ではなくコンクリートやタイル向き。 |
アクリル系 | 湿り気のある場所にも使えるが、耐久性が低い。 |
シリコン材は種類によって異なる性質があるため、施工場所や目的に合わせて選びます。工事業者から指定されたシーリング材がどのような性質をもつのか知っておくと、工事に対する理解が深まるでしょう。
マンションのシーリング工事のタイミング
マンションのシーリング工事のタイミングは、前回の打ち替え工事から「5~10年経過後」が目安です。シーリング材は5年経過後から目に見える劣化が始まりますが、日当たりがよく紫外線を浴びる時間が長いなど、環境によって劣化の進行度合いが異なります。
シーリング材に、ひび割れや痩せによるすき間が発生していれば、工事が必要な状況です。経過年数だけでなく劣化状況も踏まえて工事のタイミングを判断しましょう。
マンションのシーリング工事の費用目安
シーリング工事費用の目安は以下の表のとおりです。
工事の種類 | 単価 |
打ち替え工事 | 900~1,200円/㎡ |
打ち増し工事 | 500~900円/㎡ |
打ち増し工事のほうが単価は安いですが、打ち替え工事に比べシーリングの効果は長持ちしません。劣化の程度によっては打ち増しできないケースもあるため、専門業者に劣化状況を確認してもらい、見積もってもらいましょう。
シーリング工事の手順
ここでは「打ち替え工事」と「打ち増し工事」2つのシーリング工事の実施手順を紹介します。
打ち替え工事の場合
シーリングの打ち替え工事の手順は以下のとおりです。
打ち替え工事の手順
(1)カッターなどの道具をつかって、既存のシーリング材を隅々まで取り除く
(2)目地底を調整するため、バックアップ材を取り付ける
(3)シーリング材のはみ出さないように、マスキングテープで養生する
(4)接着剤を塗り、シーリング材を注入する
(5)シーリング材をヘラで平らにならして、マスキングテープを剥がす
打ち替え工事の場合は、劣化したシーリング材を除去しなければいけません。取り残しがあれば新しいシーリング材が剥がれやすくなってしまうため、効果の持続性を高めるためにも重要な工程です。
打ち増し工事の場合
打ち増し工事は、打ち替え工事の手順(1)を省いて進められます。窓やドアのサッシ周りなど、防水紙を切ってしまうおそれがあり、やむを得ず打ち増し工事する場合は、既存のシーリングの除去をおこなわずに打ち替えます。
また、既存のシーリングをすべて残しておくのではなく、取り除ける範囲で除去したあと、打ち増しする方法もあります。新しいシーリング材の層を厚くできるため、劣化したシーリングをすべて残して打ち増しするよりも、効果を持続可能です。
シーリング工事する際の4つの注意点
シーリング工事をする際の注意点は以下4つです。
・音や臭いが発生する
・雨天や強風時には工事ができない
・打ち増しは剥離の原因になりやすい
・作業員のスキルにより精度が左右される
順に詳しく解説します。
(1)音や臭いが発生する
シーリング工事を実施する際の足場仮設時や、既存のシーリング材を撤去するときに騒音が発生します。また、シーリング材が硬化する過程で強い臭いが生じることも。シーリング材の種類によって、臭いの種類や程度は異なるため、施工業者に確認しておきましょう。
騒音や悪臭は、マンション居住者や近隣住民にとって大きな負担になります。工事のスケージュールが決定したら早い段階で告知するなどの配慮が必要です。
(2)雨天や強風時には工事ができない
シーリング工事は雨天・強風時には適していません。下地が塗れていると接着剤を弾き、シーリング材と下地との間にすき間ができてしまいます。
また、シーリング材は湿度が高いと硬化しにくい特性があるため、雨が降っていなくても湿度が高い日や結露が生じているときは要注意です。悪天候に備え、工事の予備日を設けておくなど、事前に施工業者と打合せしておきましょう。
(3)打ち増しは剥離の原因になりやすい
打ち増し工事は、外壁とシーリングの間にすき間ができやすく、剥離の原因になります。ひび割れや痩せが生じているシーリングの上から、新しいシーリング材を注入しても劣化したシーリングは残ったままです。
打ち増しはあくまでも応急措置のため、打ち増しでのシーリング工事を希望する際は、専門業者に劣化状況を調査してもらい、次回の打ち替え工事も視野に入れるなど長期的な視点で検討しましょう。
(4)作業員のスキルにより精度が左右される
シーリング工事のみならず、大規模修繕工事全般に言えることですが、工事は、作業員のスキルで精度が左右されます。安定した技術力がある施工業者を選ぶことが重要ですが、大規模修繕工事において、管理組合では、一つ一つの工事を担当する業者を選ぶことはできません。
できる限りの対策としては、足場を解体する前にシーリングをはじめとした引渡し前のチェックをすることでしょう。管理組合の立場に立って検査に立ち会ってくれる信頼できる専門家に依頼できるとベストです。
シーリング工事で漏水や気密性の低下を防ごう
シーリング材にひび割れや痩せによるすき間などの劣化が生じていれば、工事のタイミングです。劣化を放置していると雨水の浸入や気密性の低下を引き起こし、マンション躯体の劣化を早めます。
シーリング工事は、既存のシーリングを除去して新しいシーリング材を注入する「打ち替え」と既存のシーリングの上から新しいシーリング材を補填する「打ち増し」の2通りです。劣化の程度や場所によって工事の方法が決まるため、シーリングの劣化がみられるときは専門業者に調査してもらいましょう。
さくら事務所では、大規模修繕工事に向けた劣化診断を実施中です。マンションの工事・建築に精通している専門家が、建物や設備の劣化状況を調査します。工事を請け負ったり工事業者を斡旋したりしないため、利害関係のない第三者として、工事の必要性を的確に判断できるのが強みです。
「長期修繕計画にあるからやっておこう」ではなく、マンションの実態に則した工事の必要性や優先順位、実施時期をアドバイスさせていただきます。サービスを利用した管理組合様からは「修繕積立金の倹約につながった」との感想をいただいております。
そもそも、長期修繕計画が見直されていないマンションも少なくありません。国土交通省のガイドラインでは、5年ごとの長期修繕計画の見直しが推奨されています。工事金額や劣化状況は、計画当初の予想とは、少なからずズレが生じているはずです。このズレにより、修繕積立金不足に悩まされている管理組合も多く見受けられます。
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