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マンションの大規模修繕工事とは
大規模修繕工事は健全にマンションを維持するのに必要不可欠ですが、足場をかけておこなう大がかりな工事なため膨大な費用と時間がかかります。大規模修繕工事の費用と期間についておさえておきましょう。大規模修繕工事の費用
大規模修繕工事の費用は、100戸以上の大規模マンションで1億5,000万円~2億円、50戸以下の小規模および中規模マンションで3,000~4,000万円ほどです。マンションは築年数が経過するほど劣化が進むため、大規模修繕工事も回数を重ねるほど工事費用が高くなる傾向があります。 大規模修繕工事の資金は区分所有者から毎月徴収している修繕積立金です。修繕積立金の徴収額が適切でないと、修繕資金が足りずに必要な工事ができません。 国土交通省「令和5年度マンション総合調査」では、長期修繕計画上の修繕積立金額が現在の残高を下回っているマンションは39.9%で、上回っている管理組合よりも高い割合を占めています。それだけ大規模修繕の資金不足に悩んでいるマンションが多いのが現状です。 参照:国土交通省「令和5年度マンション総合調査 管理組合向け調査の結果」大規模修繕工事にかかる期間
大規模修繕は、工事を開始するまでの準備期間は1~2年程度です。工事開始から完了までは、マンションの規模や内容によって異なります。規模 | 工事期間 |
小規模マンション(50戸以下) | 3~4ヵ月程度 |
中規模マンション(50戸超~100戸) | 4~6ヵ月程度 |
大規模マンション(100戸超~) | 6ヵ月から1年程度 |
大規模修繕工事の周期は必ずしも計画通りでなくてもよい
マンションの大規模修繕工事の周期は12年程度で計画されているケースが大半ですが、実際はもう少し遅らせられるマンションも少なくありません。 たしかに12年周期で大規模修繕工事ができれば、どこにも不具合がない理想の状態を維持できます。しかし予算には限度があるため、必ずしも12年周期で修繕することがマンションにとってのベストとはいえないのです。 大規模修繕工事をおこなうタイミングは、長期修繕計画を鵜呑みにするのではなく、マンションの劣化状況や使われている配管の素材などから、総合的に判断することをおすすめします。 マンション管理に保全的にならなければいけない管理会社は、立場上、修繕周期を遅らせる提案はできません。管理組合が「本当に今大規模修繕をして修繕積立金を使ってよいのか」「過剰な工事にならないか」といった意識を常にもって慎重に大規模修繕を進めていきましょう。大規模修繕工事の進め方
大規模修繕工事はいくつかのステップで進めます。 本記事では、修繕委員会の発足から工事完了までの流れを解説します。
ステップ1 修繕委員会の発足
管理会社からの大規模修繕工事実施の提案を受けて、準備を進めるための修繕委員会を立ち上げます。
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- 今すぐに大規模修繕工事の実施が必要な状態なのか?
- 設計事務所やコンサルティング会社など外部専門家の起用は?
- 工事終了後の資金計画の見通しは?
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資金の見通しを立てるために重要な長期修繕計画を見直します。本当に予定されていた通りに大規模修繕を行えるのか、行ってよいのか判断するために有効です。ステップ2現状把握・劣化診断
大規模修繕工事の実施にあたり、工事範囲や工法選定のためにマンションの劣化状態を調査します。
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- 大規模修繕工事の実施ありきで劣化診断が行われていないか?
- 修繕積立金の残高も考慮し、どのような修繕を望むか?
- 今すぐ大規模修繕工事を行うべきか?
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- 劣化診断ツアー経験豊富な専門家が現地に出向き、管理組合の皆さまとマンションを点検するツアー型の劣化診断です
- 大規模修繕セカンドオピニオンサービス劣化診断を進めていくなかで、疑問や不安があったときに相談できるサービスです。第三者の公正な立場で客観的なアドバイスが可能です。トラブルを未然に防ぐためご活用ください。
ステップ3予算・工事計画の検討
総会で大規模修繕工事実施の決議をとるために概算予算を検討します。また、設計監理方式で行うのか?責任施工方式で行うのか?といった工事の進め方についても検討します。
設計監理方式:管理組合が設計事務所等を選び、設計事務所が劣化状況の診断、修繕設計、施工会社選定を行う方式
責任施工方式:一社の施工会社に設計・工事監理・施工をお願いする方式
第三者の介在がある設計監理方式のほうが、客観性があり価格や品質を精査ができますが、悪質なコンサルタントも存在するため注意しましょう。
提示される概算予算に対して「その金額は妥当なものなのか?」「不当に高額な項目はないか?」「不要不急な修繕項目は含まれていないのか?」「修繕積立金の今後の不足が懸念される場合は今後どう見直すのか?」といったことも同時に検討が必要です。
これらを経て、工事実施の総会決議を取ります。
また、マンション大規模修繕工事を進めるにあたって、施工会社に何をどこまでお願いするのか?により発注方式が異なります。発注方式もこのタイミングで検討が必要です。
発注方式の検討におすすめコラム
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- 予算書の金額は妥当なものか?不当に高額な項目はないか?
- 不要不急な修繕項目は含まれていないか?
- 修繕積立金の不足が懸念される場合、今後どう見直すか?
さくら事務所のサポートサービス
- 大規模修繕工事見積書チェック 直接、理事会・修繕委員会に出席してサービス内容のご説明・カウンセリングと現地確認の上見積書の精査を行います。ご送付いただいた予算書や見積書の内容を精査し、オンラインでの解説することも可能です。
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ステップ4施工会社選定
検討された工事の進め方に基づき、施工会社を選定します。
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- 設計監理方式で、談合の疑いはないか?
- 劣化診断の内容を反映した適切な修繕計画になっているか?
- 不要不急な工事項目は含まれていないか?
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ステップ5総会で決議
工事の概要が決まったら、総会を開催し決議を取ります。共用部分に変更が無ければ過半数の決議で工事を発注できます。とはいえ、納得のいく説明をすることは当然の義務なので、広報誌の作成や総会前に説明会を開くなど、事前に組合員の意見に耳を傾け、組合員との信頼関係を築いておきましょう。 大規模修繕工事に前向きでない方や関心がない方も一定数いるでしょう。一度不信感を持たれると、挽回するのは困難です。説得力のある説明ができるよう、しっかりと備えておきましょう。総会に至るまでの準備も大切です。広報誌の作成や臨時総会の開催などで、事前に組合員の意見に耳を傾け、組合員との信頼関係を築いておきましょう。ここをチェック!
- 組合員への説明内容に間違いはないか?
- 分かりやすく納得のいく説明はできているか?
- そもそも信頼関係を築けているか?
さくら事務所のサポートサービス
- 大規模修繕セカンドオピニオンサービス もしあなたのマンションが、設計監理方式や管理会社一任方式で工事を進めることになっても、さくら事務所のコンサルタントによるセカンドオピニオンサービスをご利用になれば、客観的な第三者からのアドバイスを受けることができます。「この工事の進め方で大丈夫?」「設計監理コンサルタントが提案する工事が、本当に必要とは思えないのだけど・・・」「いつの間にか一時金を徴収されることになっていた」などご不安な点がございましたら、是非さくら事務所にご相談ください。
ステップ6工事説明会
総会で決議が採れ、正式に施工会社に工事を発注したら、組合員や居住者に向けて工事説明会を開催します。 工事説明会のタイミングは、工事開始の約1か月前に行われることが多いです。改めて、工事に関する概要や注意点、詳細なスケジュールなどを説明します。とくに騒音を伴う工事や洗濯物の扱いなど、日常生活に支障がでる内容については、着工後に「こんなの聞いていない」と苦情が出ないよう、丁寧に説明しましょう。 長期間にわたる大規模修繕工事には、組合員や居住者の協力は欠かせません。一方的な説明だけでなく、質疑応答や意見をいただく機会を設けるなど、組合員や居住者の声にも耳を傾けます。説明会であがった意見は、施工会社とも共有しながら対応策を検討し、必ずフィードバックしましょう。ここをチェック!
- 工事の説明内容に漏れはないか
- 組合員や居住者の不安や疑問を解消できているか
さくら事務所のサポートサービス
- 大規模修繕セカンドオピニオンサービス もし工事説明会が紛糾しそう、施工会社とのコミュニケーションがうまくいかないなど、ご不安があればご相談ください。技術面・管理組合運営面での実績豊富なさくら事務所のコンサルタントが、気持ちよく大規模修繕工事をスタートできるよう、サポートさせていただきます。
ステップ7契約・着工
総会の決議を経て、施工会社との工事請負契約・工事監理契約を行います。
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- 着工後の追加工事が発生した場合、工法や金額は適切か?
- 仕様通りに修繕工事が行われているか?
さくら事務所のサポートサービス
- 大規模修繕工事品質チェック 定期的に工事現場を巡回し、品質管理や進捗状況を確認し、報告書にまとめ提出します。新たに検討が必要な事項や施工会社からの報告があった場合も、専門用語を使わずに分かりやすくご説明します。
- 大規模修繕セカンドオピニオンサービス 新たに追加予算が発生し資金不足に悩んでいる場合などにご相談ください。豊富なデータベースから見積もりの妥当性を判断したり、追加費用を最小限に抑えて工事できる方法がないかなどアドバイスいたします。
ステップ8工事完了
工事の完了を確認し、引き渡しを受けます。
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- 請負工事契約書通りに工事が完了しているか?
- 手抜き工事や雑な工事はないか?
- 次回の大規模修繕工事に備え、修繕積立金見直しの必要はないか?
さくら事務所のサポートサービス
- 大規模修繕工事品質チェック 工事完了後検査をおこないます。不具合があれば補修後再度検査を実施し、工事を完了してよいかのアドバイスをいたします。
- 長期修繕計画見直し業務 大規模修繕工事を実施すると、マンションのどこを直せばどれくらい費用が掛かるものか、実際にかかった費用から、現実的な数字を把握することができます。このタイミングで長期修繕計画を見直すことで、より適切な修繕積立金徴収についてのシュミレーションができるようになるでしょう。また、大規模修繕工事を経験したことで、管理組合にも一定の知識が蓄積されることから、「次回の工事はこうしよう!」といった方針も持てるようになります。
大規模修繕の工事内容と工程
大規模修繕の工事内容について工程ごとに解説します。 工事内容の工程は以下のとおりです。 (1)仮設工事 (2)下地補修工事 (3)シーリング工事 (4)塗装工事 (5)鉄部塗装工事 (6)クリーニング工事 (7)防水工事 上記以外のバリューアップ(改修)工事についても解説するので参考にしてください。工程1:仮設工事
大規模修繕工事の最初の工程は仮設工事です。マンションに直接関係する工事ではありませんが、工事するにあたって必要不可欠な項目です。 仮設工事は共通仮設と直接仮設の2種類あります。 共通仮設工事は現場事務所や作業員の休憩所などの用意、直接仮設工事は足場をかけることです。 足場は工事が始まる前に全面的に架設するのが一般的ですが、数か月ごとに足場を架ける場所を移動させる方法もあります。工程2:下地補修工事
仮設工事のつぎは、コンクリートのひび割れや外壁タイルの浮き・欠けの補修です。外壁タイルの浮きは剥落する危険性があるため、数ある工事でも重要な工事になります。コンクリートのひび割れやタイルの欠けは、今すぐ危険ではありませんが、マンションの躯体の劣化を進行させるため、足場をかける大規模修繕では欠かせない項目です。工程3:シーリング工事
劣化したシーリングの打ち替えや打ち増し工事をおこないます。シーリングとは、窓サッシと外壁のつなぎ目やタイルの目地などにあるゴム製の防水材です。シーリングの劣化が進むとひび割れややせが生じ、雨漏りの原因になるため、シーリング工事で気密性を高めて防水効果を回復させます。工程4:塗装工事
外壁やバルコニーなどの塗装工事です。塗装の方法は、マンションの築年数や塗装の劣化状況などによって異なります。既存の塗料の上から塗装する方法や既存の塗料を薬剤で剥離してから塗り替える方法があります。工程5:鉄部塗装工事
外部階段や廊下の手すり、駐車場や駐輪場への扉などの鉄製部分を塗装します。鉄部は錆の発生が早いため大規模修繕での塗装のみだと不十分です。大規模修繕工事を含めて3~5年程度に1度塗装します。ただし鉄部塗装は、基本的には足場がなくてもできるため必ずしも大規模修繕のタイミングに合わせる必要はありません。工程6:クリーニング工事
クリーニング工事はエントランスの石や、マンション内のタイルなどを薬品洗浄します。張り替え・交換せずに美観を向上させるのが目的です。そのほか屋外の敷地駐車場のラインの引き直しもクリーニング工事に含まれます。工程7:屋上防水工事
屋上防水工事は、塗膜・シート防水・シンダーコンクリート(コンクリの下に防水層がある)などさまざまな方法があります。大半のマンションでは、鉄部塗装と同様に大規模修繕工事以外のタイミングでもメンテナンスが必要です。 従来の防水保証は10年が基本でしたが、今は15年や30年の保証もあります。屋上防水工事も足場が不要なケースが多いため、防水の種類・耐用年数・保証年数・劣化状況などを管理会社などを確認して、大規模修繕で防水工事を実施するのか判断しましょう。その他:バリューアップ(改修)工事
修繕工事で可能な限り新築時の状態に戻すだけでは、時代とともに変化する社会や居住者のニーズを満たせません。 資金に余裕があり居住者の希望がある場合は、ライフスタイルに合わせて居住性を向上させるバリューアップ(改修工事)を検討しましょう。 たとえば、階段にスロープを設ける、廊下に手すりを付ける、エントランスを自動ドアに変更するなどが挙げられます。マンションの大規模修繕工事を進める際の3つの注意点

(1)「修繕積立金の残額=大規模修繕の予算」ではない
1度の大規模修繕で、修繕積立金の残高をすべて使い切るのは危険です。とくに1回目の大規模修繕工事は、修繕積立基金が含まれているため修繕資金が多い状態になっています。2回目以降は徴収額を増やさない限り、1回目と同じ金額は貯められないのです。 資金不足を回避するためには、少なくとも30年程度先までに必要になる修繕費用を正しく算出し、修繕積立金の積立状況を考慮しながら、大規模修繕工事の予算を決定しましょう。(2)ウィークポイントを改善する仕上げや工事方法に変更する
マンションには「ほかの部分より汚れやすい」「ひび割れが発生しやすい」「水が溜まりやすい」などのウィークポイントがあります。 ウィークポイントは、同じように修繕してもまたすぐ同様の症状が発生するため、仕上げや工事方法を変更するなど、根本的な解決策を講じなければいけません。管理組合で把握しているウィークポイントがあれば、事前に管理会社や施工会社に相談しておきましょう。(3)施工時の不具合を見逃さない
大規模修繕工事で、施工時の不具合が見つかるケースも少なくありません。たとえば、外壁タイルの広範囲にわたる浮きや構造スリットの設置不良などがよく見受けられます。 しかし、施工時の不具合と経年劣化を見分けるのは難しく、専門家による調査が不可欠です。施工時の不具合を証明できれば、分譲会社や施工会社との折衝次第で修繕費用を負担してもらえる可能性があります。 気になる点がある場合は、第三者の専門家に相談し調査を依頼しましょう。大規模修繕工事の流れを知って、マンションの居住快適性と資産性を上げよう!
