建物劣化診断の内容とは?や費用を解説!最大限活用するための実施時期・方法も

  • Update: 2024-10-17
建物劣化診断の内容とは?や費用を解説!最大限活用するための実施時期・方法も

建物劣化診断では、マンションの建物の劣化状況を調査します。

多くのマンションで大規模修繕に向けて実施されていますが、その場合、診断結果を有効活用できていないケースが多いのが現状です。

そこで本記事では、建物劣化診断の必要性や一般的な調査内容や費用のほか、診断結果を最大限活用する方法や当社が実施する劣化診断のメリットを紹介します。

建物劣化診断を最大限活用できれば、診断費用を上回る工事コスト削減も可能です。建物劣化診断を実施すべきか悩んでいる管理組合の皆さまはぜひ参考にしてください。

建物劣化診断とは

建物劣化診断は、建築士などの専門家が竣工図面・改修履歴の確認やアンケート・現地調査をおこない、マンションの屋上から外構まであらゆる部分を診断します。

診断により劣化状況がわかれば、どの部分にどのような工事が必要かわかるため、大規模修繕に備えて建物劣化診断をおこなうのが一般的です。

建物劣化診断では、工事の優先順位や適切な工事時期も判断できます。長期修繕計画を見直す際に活用すれば、マンションの劣化状況を踏まえた、より納得感の高い計画を立てられるでしょう。

一般的な建物劣化診断のおもな調査内容

一般的な建物劣化診断のおもな調査内容は以下のとおりです。

・共用部躯体

・外壁(タイル・塗装)やシーリング

・屋上防水

・共用部(バルコニー・廊下・エントランス・階段など)部)

・鉄部塗装

・給排水設備

躯体

躯体は数年で劣化が進行するものではないため、築年数が浅いマンションの場合は、ほぼ問題ないケースが多いでしょう。しかし、マンションの強度に大きく関係する部分です。躯体部分ではおもに以下の内容を調査します。

・ひび割れ

・コンクリートの中性化や圧縮強度

・コンクリート内部の鉄骨の錆

・柱や土台の腐食

高所はドローンを使った赤外線調査、目視できない内部の劣化は超音波装置など専用機械で調査するのが一般的です。躯体の状況によっては、コンクリートの一部をコア抜きするサンプリング調査を実施するケースもあります。

外壁やシーリング

外壁タイルの浮き状況や塗装、サッシ廻りやタイル目地などのシーリングの劣化状況を診断します。まず、目視や打診棒でタイルを叩き、打音から浮きの有無を確認します。また、塗装部分に関しては、塗料のふくれや割れ、剥がれや摩耗を確認します。サッシ廻りなど開口部のシーリングの破断や変形、軟化などの劣化現象の有無をチェックします。機械を使って調査する場合、外壁タイルの場合は、温度差を赤外線カメラで測定し、浮きの有無を確認する赤外線法や、付着力を診断する引張試験、塗装の場合は引張試験や塗膜に切り込みを入れテープで引きはがし付着力を診断するクロスカット試験など行います。

屋上防水

屋上防水の劣化状況を診断します。屋上防水にはおもにアスファルト防水・塗膜防水・シート防水などがあり、加工方法によって調査の仕方も変わります。

また、場合によっては目視や打診調査に加えて屋上防水に穴を空けてボーリング調査することも。防水加工以外には、排水口の詰まりをチェックするなど、屋上排水の機能なども診断範囲に含まれています。

屋上の防水機能が低下すると、建物全体の劣化に繋がりやすく大規模修繕時に高額な費用が発生する場合があるので、建物劣化診断でできるだけ早く不具合を発見することが大切です!

共用部

所有者が共同で管理する共用部(バルコニー、廊下など)の建物劣化診断では、竣工図面や過去の修繕履歴を確認して劣化が発生しやすい箇所を把握する予備調査をした後、実際に専門家が現地入りして外観や廊下などを直接診断します。

また、理事会関係者と日程調整をおこなったうえ、バルコニーの立ち入り調査することも。さらに、居住者に対してアンケートを実施して、専門家が診断した個所以外にも、日常生活で感じた問題点も確認します。

鉄部塗装

鉄部とその塗装の劣化状況を診断します。建物の鉄部は、さびや剥がれが起きやすく劣化が進みやすい部分です。耐用年数は3~6年と言われています。

マンションの鉄部塗装は、おもに以下のような場所にあります。

・鉄骨の外階段、手すり

・非常階段の扉、手すり

・エレベーターの扉、枠

メーターボックス

・駐輪場、駐車場

・給水管

鉄部塗装はさまざまな個所で用いられており、各所の不具合を放置していると劣化が拡大し、大規模な工事や交換作業が必要になることも。建物の安全性にも関わってくる重要な部分ですから、劣化診断による正確な調査はマンション管理においてとても重要です。

給排水管設備

給排水管設備は、居住者や管理者への聞き取り調査、図面や修繕履歴などで現状を確認してから実施されます。

とくに給水管は居住者が使う水が流れるため、劣化を見逃すわけにはいきません。いつどのように工事すべきか、調査後の修繕計画も重要です。

給排水管は、内視鏡やX線など非破壊装置を使って調査します。必要に応じてサンプリング調査することも。給排水管の調査方法については下記記事で詳しく紹介しているので参考にしてください。

https://www.s-mankan.com/information/9686/

建物(劣化)診断の費用相場

建物劣化診断の費用相場は、建物の規模によっておおよそ以下の通りです。あくまでも目安なので、実際にいくらかかるかは業者に見積り依頼して確認してください。

建物の規模 費用相場
小規模 20~40万円
中規模 30~80万円
大規模 50~100万円

目視や打診のみにとどまる簡易的な方法の場合など無料で診断している業者もいます。しかしながら、無料や安い費用で診断している業者は、その後の工事で稼ぐビジネスモデルになっていることも多いため、注意が必要です。

できれば、工事会社と癒着が無く、適切な料金体系で診断している業者を選ぶと良いでしょう。

また、築年数によっては専門機器を使った精密検査が不要なケースもあるため、診断方法まで提案してくれる業者を選ぶことをおすすめします。

たとえば「コンクリートの中性化試験」や「タイルの引張力試験」は1回目の大規模修繕工事を迎える築年数のマンションではほぼ不要な調査です。

建物劣化診断の結果を活用できていないマンションが多い理由

そもそも建物劣化診断は、大規模修繕工事で工事する項目を確認するのはもちろん、全体的に劣化の度合いが低いのであれば、2~3年先送りするなど、大規模修繕工事をするタイミングを検討するためにも行うものです。

しかしながら、診断業者は、大規模修繕工事ありきで建物劣化診断を行うため、劣化の状況を客観的に診断するのではなく、「工事できる箇所はないか?」といった視点で診断しています。管理組合も、長期修繕計画で計画されているから、この時期に大規模修繕工事を行わなければならないのだ、という先入観をもったまま建物劣化診断を進めるため、「そもそも今工事すべきか?」という重要な視点を忘れ、診断結果を最大限活用できていないケースが多く見受けられます。

計画通りの時期に大規模修繕工事することを前提とした建物劣化診断は、劣化の進行を見つけ工事項目に組み込むためには有効ですが、劣化が進んでいない場所があったとしても、工事項目から削除されにくいのが現状です。

大規模修繕は足場が必要なため「この機会に直せる部分は直しましょう」といった考え方のベースがあります。診断の結果、今すぐ工事が不要な場所がわかったところで、結局すべて工事することになるのです。

多少の工事をカットしたからといって、工事費を抑えられても、大きなコスト削減は見込めないため、診断の結果にかかわらず、結局、初期の計画通りに工事を行う管理組合も少なくないのです。これでは、建物劣化診断に資金を投じた意味がありません。

建物劣化診断を有効活用して工事費を削減する方法

建物劣化診断の結果を有効活用するためには以下の2つがポイントです。

・大規模修繕の時期を見極めるために建物劣化診断を活用する

・建物劣化診断は築9~10年のタイミングで実施する

詳しく解説します。

大規模修繕の時期を見極めるために建物劣化診断を活用する

建物劣化診断は「大規模修繕するから実施する」という発想ではなく「いつ大規模修繕するのか判定するために実施する」のが重要です。

多くのマンションでは長期修繕計画において、12年目に大規模修繕が予定されていますが「本当に12年目でおこなう必要があるのか」を建物劣化診断で調べましょう。

そもそも大規模修繕の周期は、12年と決まっているわけではありません。実際、市役所や学校などの公共建築物、賃貸マンションなどは、同じ鉄筋コンクリート造にもかかわらず、12年周期で大規模修繕工事を実施していません。

周期を延ばすことでトータルの大規模修繕工事の回数を減らせれば、それだけ大きなコスト削減が可能です。

建物劣化診断は築9~10年のタイミングで実施する

建物劣化診断は築9~10年で実施することをおすすめします。なぜなら、築10年を超えると品確法の瑕疵担保責任の対象外になるためです。

品確法では「構造耐力上必要な部分」および「雨水の浸入を防止する部分」の不具合について、不動産の引き渡しから10年間、分譲会社に損害賠償請求できます。

建物劣化診断で品確法に該当する不具合が見つかれば、管理組合はその部分について工事費用を負担しなくてよいのです。

また、大規模修繕の準備には少し早い築9~10年のタイミングで建物劣化診断すると、1回目の大規模修繕の実施時期を見直すにも十分時間があります。

建物劣化診断は第三者の専門機関に依頼する

建物劣化診断を施工会社や管理会社に任せきりにすると、不要な工事の追加はあっても、削減はされにくくなります。結果として、建物劣化診断を有効活用できないことも…。

施工業者や管理会社は立場上、保守的になる必要があり、あえて工事を先延ばしにする選択はできないのです。第三者機関に建物劣化診断を依頼すれば、損得勘定なしで公平に診断してもらえます。

また、業者選びを管理会社任せにせず、修繕委員が積極的に関わることで、過剰な工事を延期できるなど、建物劣化診断の有効活用が可能です。

建物劣化診断は、出来るだけ第三者の専門機関に依頼しましょう!

建物劣化診断を有効活用して大規模修繕を成功させよう

建物劣化診断は、マンションの今の劣化状況を知ることで大規模修繕のコスト削減、災害への備え、収益性の確保などに役立てる有効なサービスです。

一方で、多くのマンションでは大規模修繕を実施する前提で行われていますが、そもそも建物劣化診断とは「今、大規模修繕が必要か?」をチェックすることが一番大切ということをぜひ知ってください!

さくら事務所では、工事を受注・斡旋しないため、利害関係のない第三者として劣化診断し、大規模修繕ありきではなく、本当に工事を実施すべきタイミングをアドバイス可能です。

詳細報告書付きの劣化診断のほかに、診断費用を抑えられる住民参加型の劣化診断ツアーもご用意しております。

不要な調査・提案をせず無駄な費用をかけない、公正な立場のサービスを提供できるのが、さくら事務所の劣化診断です。

セカンドオピニオンとしてもご活用いただけるため、ぜひお気軽にご相談ください。

[建物劣化診断]マンション大規模修繕工事に向けた第三者調査

また以下の動画でも劣化診断について詳しく解説しています。

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    関西テレビ「newsランナー(16:45~)」に土屋輝之がコメント提供しています。

    2025年1月22日

    1月22日(水) 【103万戸のマンションが今も『旧耐震基準』億単位の費用に進まない耐震化「倒壊の危険増している」】 マンション管理のミカタ:https://www.s-mankan.com/

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    AERA dot.

    2024年12月11日

    AERA dot.(12/11公開)にて、さくら事務所・マンション管理コンサルタントの土屋輝之が取材協力した記事が掲載されました。 ●タワマン修繕積立金不足で「廃虚化」の信憑性 60年110億円の維持費をどう確保するか

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    中古住宅のミカタ(11/29公開)にて、さくら事務所・副代表 マンション管理コンサルタントの山本直彌が取材協力した記事が掲載されました。 ●中古マンションの修繕積立金が3.1%引き上げで負担増。今後上がりそうなマンション ...

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    2024年11月23日

    日本経済新聞(11/23発行)にて、さくら事務所・マンション管理コンサルタントの土屋輝之が取材協力した記事が掲載されました。 ※電子版は会員限定記事 ●マンション、修繕金の誤算 「段階増額」、合意にハードル