多くのマンションでは、長期修繕計画で35~40年の間に排水管の更新工事が予定されており、近年、排水管の劣化診断について興味を持つ方が増えています。
築35~40年は3回目の大規模修繕の時期でもあり、予算に余裕がないマンションが多いのが現状です。
そこで本記事では排水管の劣化診断の費用と調査方法を解説します。業者の選び方や劣化診断の活用事例も紹介するため、排水管更新工事の時期が近づいている方はぜひ参考にしてください。
目次
排水管(配管)劣化診断の費用相場と調査方法
排水管の劣化診断の方法は複数あり、それぞれ20万円程度~が目安です。
マンションの大きさや排水管の本数などにより100万円を超えるケースもありますが、劣化診断により工事方法や工事時期、工事範囲などを精査できればその分工事コストを下げられるため、積極的に活用することをおすすめします。
おもな劣化診断の調査方法は以下4つです。
・排水管内部にカメラを挿入する内視鏡調査
・残存肉厚を排水管の外側から測る超音波調査
・排水管内部を透過するX線調査
・排水管の一部を切り出すサンプリング調査
順に詳しく解説します。
排水管内部にカメラを挿入する内視鏡調査
内視鏡調査はカメラ調査と呼ばれ、ファイバースコープなどの小型カメラを排水管に挿入して、モニターで汚れ・劣化・腐食などを確認します。
床や壁を壊すことなく、肉眼では見ることが難しい排水管内部の状況をを調べられるのが特徴です。内視鏡検査のモニター映像は写真撮影できるため、記録としても残せます。
残存肉厚を排水管の外側から測る超音波調査
超音波調査は、排水管の側面から超音波を送り、信号が戻ってくるまでの時間から残存肉厚を調査する方法です。
測定点を輪切りにした断面図などを確認し、排水管が薄くなっていれば、劣化や腐食によりもろくなってきていると判断できます。
超音波調査に向いていない材質の排水管もあるため、希望する場合は事前に確認しておきましょう。
排水管内部を透過するX線調査
X線調査は排水管を透過撮影して調べます。レントゲン検査やCT検査と同様の仕組みです。透過撮影したフィルム上に映し出された排水管の濃淡から、残存肉厚やサビなどの付着物の有無を判断します。
X線調査では、劣化の可能性が高い部分を見極めて撮影場所を決定しなければいけません。おもに腐蝕しやすいネジ部分を中心に撮影されることが多い傾向があります。
排水管の一部を切り出すサンプリング調査
サンプリング調査は、排水管の一部をサンプルとして切り出して劣化状況を調べます。排水管の現物を見て触って確認したり、測定器を使って肉厚を調べたりとより詳細な解析が可能です。
ただし、樹脂製の排水管はサンプリング調査に向いていません。
また、排水管を切り出すため、調査中は排水できないなど大がかりな調査になります。
排水管(配管)劣化診断の手順
排水管劣化診断は以下の手順で実施されます。
(1)目視・聞き取り・データで状況を確認する(一次調査)
(2)非破壊検査で排水管内部を調査する(二次調査)
(3)サンプル管でより詳しく劣化状態を調べる(三次調査)
(4)劣化状況の報告し工事の提案をする
順に詳細を解説します。
(1)目視・聞き取り・データで状況を確認する(一次調査)
まず一次調査として、排水の状況について居住者などに聞き取り調査したり現地で目視確認したりします。排水管の図面や修繕履歴なども活用して、現状を把握する簡易的な調査です。
一次調査である程度排水管の状況がわかることも。より詳しく調べる必要があるときは、一次調査の結果を踏まえ今後の調査方法を決定します。
(2)非破壊検査で排水管内部を調査する(二次調査)
一次調査のつぎは二次調査に進みます。二次調査とは非破壊検査と呼ばれる排水管を壊すことなくできる内視鏡調査・超音波肉厚測定調査・X線調査のことです。
会社によっては、抜管して調査するサンプリング調査も二次調査に含まれているケースもあります。
(3)サンプル管でより詳しく劣化状態を調べる(三次調査)
二次調査だけでは情報が不十分なときは、三次調査としてサンプリング調査でより詳しく劣化状態を調べます。
サンプリング調査前には水抜きが必要で、調査中は切り出した排水管の系統にあるトイレやシンクには水を流せません。居住者に事前に周知しておきましょう。
(4)劣化状況の報告し工事の提案をする
一次調査・二次調査・三次調査の結果をもとに、排水管の劣化状況の報告を受けます。調査で得た画像や写真などが掲載された報告書をもらえるのが一般的です。
劣化診断により工事が必要だと判断されれば、工事の提案をしてもらいます。診断結果をもとに、工事のタイミングや工事方法などを決定し、修繕計画を立てましょう。
排水管(配管)の劣化診断の活用用法
本来、劣化診断は、排水管の劣化状況を知る為に行われます。排水管の劣化診断で劣化状況を把握できたら、以下2つに活用しましょう。
・漏水や排水不良などのトラブルを未然に防ぐ
・修繕積立金の無駄遣いを防ぐ
順に解説します。
(1)漏水や排水不良などのトラブルを未然に防げる
排水管の劣化診断をすると、工事のタイミングを逃さず、漏水や排水不良などのトラブルを未然に防げます。排水管には耐用年数がありますが、あくまでも目安です。
排水管の種類 | 耐用年数(寿命)の目安 |
銅管 | 20~25年 |
硬質塩化ビニル管 | 20~25年 |
鋳鉄管 | 30年 |
硬質塩化ビニルライニング鋼管 | 30年 |
排水管の素材や設置されている場所によっては、耐用年数よりも長く使用できたり、逆に早く更新が必要だったりすることがあります。
一般社団法人全国管洗浄協会では「集合住宅等における排水立て管の縦割れ破損の事故事例」を以下のように報告しています。
出典:一般社団法人全国管洗浄協会「集合住宅等における排水立て管の縦割れ破損の事故事例」
排水管の縦割れ破損を発見した築年数は、4割近くの22事例が41~45年でしたが、耐用年数に達していない築10~19年でも7事例あったのです。
ちなみに、縦割れしていた管の91%が鋳鉄管で、そのほかは配管用炭素鋼管でした。
耐用年数に達していないからといって安心できるわけではありません。排水トラブルを防ぐためには、劣化診断で現状を把握しておくことが大切です。
(2)修繕積立金の無駄遣いを防ぐ
排水管の劣化診断をすると、時期尚早な工事を避けられたり、適切な工事方法を見極められたりすることで修繕積立金不足の改善に繋げられます。
排水管の工事時期は耐用年数に基づいて設定されるケースが多いです。
しかし、竣工時から一度も修繕計画を見直していなかったり、排水管に詳しい専門家がチェックしていなかったりすると、材質による耐用年数の違いが反映されずに、交換時期が早めに設定されているケースがあります。
また、排水管は設置場所や使われ方によっても劣化する速さが変わるため、マンション個別の劣化状況に応じて、工事時期や工事方法(更生工事・更新工事・部分修繕など)を見直していくことが理想です。
工事の必要性から検討される劣化診断ができれば、適切な修繕計画を立てられ、工事費用の無駄遣いを防ぐことに繋がるのです。
排水管(配管)劣化診断の業者選びのポイント
排水管の劣化診断ができる業者はたくさんありますが「劣化状況がわかって終わり」では意味がありません。「劣化診断を活かしてマンションにとって最善な修繕計画を立てること」を目指す必要があります。
調査費用が安い、付き合いがあり頼みやすいなど、安直な考えで業者を選ぶのではなく、以下2つのポイントを意識しましょう。
・設備工事だけでなく管理組合の運営に長けた業者を選ぶ
・管理会社や施工会社でない第三者機関に依頼する
詳しく説明します。
設備工事だけでなく管理組合の運営に長けた業者を選ぶ
排水管の劣化診断を依頼するときは、排水管や設備工事の知識があるだけでなく、管理組合の運営・合意形成・保険・管理規約まで精通しているコンサルティング会社を選びましょう。
たとえば、交換工事ではなく延命工事にとどめたり工事時期を遅らせたりする場合、保険の知識があれば漏水被害がでたときを想定でき、より現実的な提案が可能です。
またマンション内を張り巡っている排水管は、専有部と共用部の線引きが曖昧になっていることが多く、排水管工事にあたって規約で明確にしておかなければいけません。
設備工事の知識や技術があり的確な劣化診断ができても、管理組合の事情まで総合的に考えられないと、問題がクリアにならずマンションにとって最適な修繕計画が立てられないのです。
管理会社や施工会社でない第三者機関に依頼する
排水管の劣化診断は管理会社や施工会社ではない第三者機関に依頼するのがおすすめです。
管理会社や施工会社はマンションのことをよくわかっています。付き合いも長いため頼みやすい一面もありますが、工事しなかったことで問題が起きたときの責任を考えると、立場上どうしても時期尚早な工事時期や過剰な工事内容になりやすいです。
また長期修繕計画は大半のマンションで管理会社が作成しています。計画していたものをあえて先延ばしにするなど、多少なりともリスクが高まる提案はしないでしょう。
管理会社や施工会社は、保守的にならざるを得ない立場だからこそ、第三者機関にアドバイスをもらうことが大切です。
【事例紹介】さくら事務所の「配管寿命診断」なら資金不足を解決できる
さくら事務所では、工事時期や工事方法をアドバイスできる「配管寿命診断」を行っています。
管理組合の運営にも精通しているため、保険契約や管理規約の変更など、排水管工事の見識しか持たない業者とは違い、トータルでサポートが可能です。
さくら事務所の配管寿命診断で、修繕方法を見直してコスト削減に成功した事例を2つ紹介します。
事例1:一斉更新から部分修繕に変更できた
東京都内にあるタワーマンションでは、長期修繕計画で排水管の一斉更新が計画されていました。しかし、マンションの築年数と配管の材質を考慮して診断したところ「一斉更新は過剰である」と判断できました。
結果、一斉更新から部分修繕に変更となり、約5億円と大幅なコストカットに成功したのです。長期修繕計画で配管の一斉更新が計画されている場合は、その必要性を今一度確認することをおすすめします。
事例2:更新ではなく更生工事で対応できる劣化状況だった
東京都内の築35年マンションでは、施工会社に配管の劣化診断を依頼した結果、排水管に劣化が見られたため、更新工事が必要と提案されました。
そこでさくら事務所にセカンドオピニオンのご依頼をいただき、調査したところ「更生工事で対応できる程度の劣化であること」がわかりました。更新工事から更生工事に変更したことで、約3,700万円コストを削減できました。
本事例のように、第三者の公正な立場である専門家が診断することで、調査費用以上の効果を得られることはめずらしくありません。
劣化診断で排水管(配管)の状況に合った工事計画を立てよう
排水管の劣化診断は、ただ単に劣化状況を確認するためのものではありません。漏水や排水不良などのトラブルを未然に防いだり、劣化診断結果に基づき適切な修繕計画を立てることで修繕積立金不足を改善したりする効果があります。
「排水管工事の時期が来たけれどどうしよう…」とお困りの方は、まずは排水管の劣化診断で、いつ工事をするかといったところから方向性を検討しましょう。排水管の工事には保険や規約といったさまざまな問題が絡んでいるため、業者を選ぶときは「劣化診断ができる」というだけでは不十分です。
長期修繕計画どおり工事ありきの劣化診断では「工事が必要そうだけれど修繕積立金が足りない」「まだ使える排水管も取り換えてしまい修繕積立金を無駄遣いをすることになる」など もったいない状況になっていることがあります。
さくら事務所なら、管理会社や施工会社との利害関係は一切なく、中立の立場でマンションにとって最善の方法を提案可能です。排水管の工事計画を見直したことで、実際に数千万~数億円のコスト削減を実現した事例もあります。
無料相談も受け付けていますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
また以下の動画では給排水管の更新工事の進め方について、プロが詳しく解説しています。気になる方は是非ご覧ください。