過去に、大手分譲会社によるマンションの構造スリットにおける施工不良が発覚するというニュースがありました。検査により、タイルが構造スリットをまたいで張られている不具合が判明。更に、再検査で構造スリットがそもそも入っていないことが分かりました。
当時は特定の分譲会社の不祥事として取り上げられましたが、このような例はマンション一棟全体の調査を行う側からすれば、枚挙にいとまがありません。
当社ではマンションへの瑕疵調査を長年行っていますが、構造スリットの不具合は、残念ながら多くのマンションで見られます。
ここでは、構造スリットの役割やよくある不具合、保証や対処法について解説します。
目次
【概念図あり】そもそも構造スリット(耐震スリット)とは?

構造スリットとは、柱・梁・壁の間に意図的に設ける「隙間」または「隙間用部品」のことです。建物の耐震性を向上させ倒壊リスクを軽減することから「耐震スリット」とも呼ばれています。

上記は構造スリットの概念図で、マンションの共用廊下側の壁をイメージしています。
柱と梁に囲まれている部分が壁で、壁のうち白色部分が玄関ドアと共用廊下側の窓(腰壁の上)が入る部分を表しており、赤線が構造スリットです。
柱と壁の間を垂直スリット、梁と壁の間を水平スリットと呼びます。
のれんがぶら下がってるように、柱・梁・壁を構造的に分離することで、地震の揺れが柱に直接伝わるのを防いだり、壊れた壁で柱が折れてしまうことを防いだりします。
構造スリットは、建物が大きく損傷することを防ぐ建物構造上重要な役割を担っているのです。
【事例】構造(耐震)スリットの施工不良
新耐震基準のマンションだから地震に強い!と手放しで安心はできません。なぜなら、設計図書どおりに構造スリットが設置されていない事例が散見されているためです。構造スリットには以下のような施工不良があります。
・構造スリットが設置されていない
・構造スリットが湾曲している
・構造スリットをまたいでタイルが張られている
構造スリットが設置されていない
本来あるべきものとして構造計算されているので、構造スリットがないと想定外の壊れ方をするなど、建物への被害が大きくなります。
図面に書かれた構造スリットがそのとおりの位置に設置されていれば、そのスリットのおかげで柱が持ちこたえるよう設計されているわけですから、構造スリットの不設置は耐震性に大きく影響する可能性がある深刻な不具合と言えます。
構造スリットが湾曲している

上の図は構造スリットが曲がっているイメージ図です。右側は垂直に施工されていますが、左側は途中が少し湾曲して設置されています。
構造スリットが曲がっていることにより、場合によっては柱が基準の寸法を満たしていない、断面欠損の懸念がでる可能性があり、耐震性能の低下に繋がります。
構造スリットをまたいでタイルが張られている

過去に問題にもなっている「スリットをまたいで張られたタイル」ですが、これらのタイルは「隙間」の上に貼られた状態です。
そのため地震の揺れで割れたり、剥落する危険があります。
タイルの剥落はマンション居住者のみならず近隣にも危険・被害を及ぼすかもしれません。
また、地震の揺れでその部分のタイルが浮いてしまい、そこから浮きが拡散して、広範囲なタイルの浮きの原因にもなります。
構造(耐震)スリットの施工不良は保証してもらえる?
万が一、構造スリットが未設置などの施工不良が発覚した場合、保証してもらえるのでしょうか。ここでは構造スリットの施工不良が発覚したタイミング別に紹介します。
・10年以内に発覚した場合
・20年以内に発覚した場合
順に見ていきましょう。
10年以内に発覚した場合
新築分譲マンションは、品質確保の促進等に関する法律(品確法)や分譲会社独自のアフターサービスによって、引き渡しから10年間は「構造耐力上主要な部分の不具合」「雨漏り」の不具合に関しては売主により保証されます。構造スリットは構造耐力上主要な部分に該当するため、10年以内であれば保証を受けられるということです。10年以内に構造スリットの施工不良の可能性があることがわかった場合は、分譲会社・施工会社に原則として全箇所を対象にした調査を要請しましょう。
20年以内に発覚した場合
10年を過ぎていても、20年間は民法上の不法行為責任により、分譲会社ではなく施工会社や設計監理者に責任を追及できる余地があります。
しかし、不法行為責任による責任追及するためには、施工上の過失に起因するものであることを管理組合側で立証しなければいけません。
つまり専門家がその工事で、法令の違反や明らかな施工上の過失などがないか調査をした結果、施工上の過失などが確認された場合に限り、不法行為責任を追及できる可能性がある、ということです。
構造(耐震)スリットの調査から補修工事までの流れ
構造スリットの調査から補修工事までの流れは以下の通りです。
(1)詳細調査
(2)調査結果の検証
(3)報告
(4)分譲会社・施工会社へ補修要請
(5)補修の承諾
(6)費用負担の交渉
(7)補修方法の検討
(8)着工
(9)工事完了
発覚した事象によっては、学識経験者などの判断を仰ぐ必要が生じることもあります。
構造スリットの未設置に関しては経年劣化は無関係のため、100%費用負担を求めてもよいでしょう。
分譲会社や施工会社が補修を否認した場合は、訴訟(調停の選択肢もある)を検討することになります。訴訟開始から解決までの期間はおおよそ1年半から2年ほどです。
訴訟の結果、補修要請が難しいと判断された場合には、管理組合の費用負担で工事して地震災害に備えることになります。
構造(耐震)スリットの施工不良は「早期発見」が重要

構造スリットの施工不良は、大規模修繕工事前の劣化診断や大規模修繕工事の着工後に見つかるケースが多いです。
大規模修繕のタイミングだと、予定していた工事と同時に構造スリットの工事をする必要があり、修繕計画を複雑化させます。さらに工事中は協議する時間も十分に取れません。
また大規模修繕は12年前後で実施されることが多く、10年間の保証が切れている可能性が高いです。保証が切れていて管理組合の費用で直すことになると、将来の修繕積立金不足に繋がる大きな痛手になるでしょう。
構造スリットは後から施工しても、新築時から入っていた場合と比べて、性能的に劣ることはありません。
構造スリットの施工不良がある状態で大きな地震に見舞われた際には、居住者の生命に危害の恐れがあるため、大規模修繕前の劣化診断を待たずに、専門家による建物調査を実施することをおすすめします。
建物調査は中立性が確保できる第三者に依頼しよう
建物の調査には、その中立性が確保できる第三者に依頼することをおすすめします。
マンションでは構造スリットのほかにも、以下のような施工不良が見つかるケースも少なくありません。
・コンクリート被り厚の不足
・ジャンカ(コンクリートの充填不良)
・コンクリートコア抜きによる鉄筋切断
・コンクリートのクラック(ひび割れ)
施工会社や関連会社はそのマンションの施工については当事者・関係者です。
施工時の不良があるのか?経年劣化によるものなのか?(構造スリット以外の瑕疵の場合)の調査を当事者・関係者に依頼しても、その結果があやふやだったり、依頼した管理組合としてもやはり客観性に欠けるのでその結果が信用できない、というケースがあります。
とくに10年を超えているマンションの場合は、管理組合側でしっかりと立証しなければ不法行為責任を追及できないため、マンションの構造に精通した第三者の専門家に調査してもらいましょう。
耐震性を脅かす構造スリットの施工不良は早期発見が解決のカギ
構造スリットは建物の耐震性を守るために意図的に設計されている、柱・梁・壁の隙間です。建物の倒壊リスクを軽減するための重要な役割を担っていますが、設置されていないなどの施工不良が散見されています。
新耐震基準で建てられた物件でも、構造スリットに施工不良があれば想定している耐震性が得られません。
10年以内で施工不良に気が付けば分譲会社や施工会社に保証してもらえますが、発見が遅れると管理組合の費用負担になる可能性が高まります。
そこで点検するタイミングとして、おすすめなのが竣工引き渡しから9年目です。10年で保証が切れる部分をチェックできるため、品確法やアフターサービスによる保証を最大限有効に活用できます。
さくら事務所では、売主や施工会社と利害関係を持たない客観的な第三者として9年目のチェックを実施しています。チェックだけで終わらずに、分譲会社や施工会社からの補修提案に対して技術的な側面からのアドバイスも可能です。
また、すでに施工不良が発覚しているのにもかかわらず、分譲会社や施工会社が対応してくれずに困っている方は、マンションの瑕疵・欠陥トラブルサポートをご活用ください。
さくら事務所は欠陥の調査から解決まで、全面的に管理組合のみなさんをサポートいたします。お気軽にご相談ください。
マンション共用部9年目チェック
マンションの瑕疵・欠陥トラブル解決サポート
耐震スリットの施工不良については下記動画でも詳しく解説しているのでぜひ参考にしてください。






