タワーマンションの大規模修繕工事とは?難しいと言われる理由や費用・実例・周期を解説

  • Update: 2022-11-10
タワーマンションの大規模修繕工事とは?難しいと言われる理由や費用・実例・周期を解説

この記事はマンション管理士/一級建築士などの専門家が監修しています

マンションの住み心地、また資産価値をキープするうえで、避けては通れない大規模修繕工事。工事内容や工事費用の精査などクリアすべき課題が多く、不安に感じる方も多いでしょう。ただでさえ多大な労力と時間を費やす大規模修繕工事ですが、タワーマンションの場合はとくに難しいと言われているため、事前の備えが大切です。

この記事では、タワーマンションの大規模修繕工事が難しい理由や実例、費用や周期について解説します。ぜひ参考にしてください。

大規模修繕で失敗しないための3ステップ

タワーマンションの大規模修繕工事とは

タワーマンションの大規模修繕工事の主な目的は、経年劣化による建物の不具合を修繕し、安全な暮らしを維持することです。

計画的に修繕工事をせず、後回しにしていると、余計に費用がかかったり、手遅れになるなど、金銭的、精神的な負担は大きなものになってしまいます。

事前に決められた長期修繕計画に基づき、適切な修繕をおこなうことで、長期に渡って快適に住めるマンションと資産価値を維持することが可能になるのです。

タワーマンションの具体的な工事内容と費用相場について以下で紹介します。

主な工事内容

タワーマンションの大規模修繕工事の内容は以下3つです。

  • 防水
  • 塗装
  • 外壁

さらに、築30年以降は給排水管などの設備交換も検討しなければなりません。

防水工事は、おもに屋上・外壁・開口部でおこなわれます。屋上防水の施工方法は「塗膜防水」「シート防水」「アスファルト防水」のいずれかです。外壁は塗装のやり直し、窓などの開口部はシーリングを補修することで防水します。

屋上・エントランス・外構の鉄部塗装も大規模修繕工事でおこなうのが一般的です。とくにエントランスや外構は、多くの人から見られるため、塗装剥がれがあるとマンションのイメージダウンにも繋がります。

外壁が吹き付けタイルの場合、塗装のやり直しおよびパネルのつなぎ目にシーリング材を充填します。タイル材の場合は、タイルの浮きや剥がれが生じていれば張替えが必要です。また、躯体にクラックがあれば、補修材の注入や被覆、充填などの方法により補修します。

タワーマンションでは、上記の工事内容をただ単にこなすだけでなく、超高層および個別性の高いデザインなどを考慮しながら進められる高い技術が必要です。

費用相場

マンションの大型修繕工事の費用については、国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」により調査が行われています。

令和3年度の調査結果によると、大規模修繕工事にかかった平均値は以下の表のとおりです。

大規模修繕工事回数 戸当たりの平均値 床面積(m2)当たりの平均値
1回目 151万6千円 1万3千円
2回目 112万4千円 1万5千円
3回目 106万1千円 1万9千円

タワーマンションに限定すると、調査結果よりも工事費用は100万円程高くなると言われているため、それぞれの平均値も高くなると予想できます。

タワーマンションの大規模修繕工事は難しい

大規模修繕工事が難しいと言われている理由は、次の3点です。

  • 合意形成を取るのが難しい為
  • 階層によって設備の重要性が変わる為
  • 工事費用が割高になる為

以下で順に詳細を説明します。

合意形成を取るのが難しい為

タワーマンションは区分所有者が多いため、様々な意見があり集約が困難です。また、自己居住のために購入した区分所有者と投資目的で購入した区分所有者とでは、修繕に対する意識が異なることも、合意形成を取るのをより困難にしています。

また、大規模修繕工事中は、足場によりタワーマンションの最大の魅力ともいえる景観の良さを感じられません。足場計画により一部の住戸のみ眺望が制限されることがないように配慮しなければならないことも、タワーマンションだからこその難しさです。

階層によって設備の重要性が変わる為

タワーマンションの場合、階層によって設備の重要性は大きく異なります。

たとえば、高層階用のエレベーターが故障した際、生活に支障がでるのは高層階の居住者です。低層階の居住者にとっては高層階用のエレベーターの故障は重要ではないため、修繕費用の捻出をしぶるケースもでてきます。

また、タワーマンションには、キッズルームやバー、フィットネスルームなど、利用する人が限定される共用設備も多く、自分が使わない共用部の修繕費用についても議論になることが少なくありません。

工事費用が割高になる為

世帯数が多く規模が大きいタワーマンションは、工事期間も長期化します。高層階は枠組足場が組めないため、ゴンドラを用いた作業になり、仮設工事費用で工事全体の30%に上ることも。

また、エレベーターやポンプなどの設備も特注のため、設備費用だけで考えても一般的なマンションよりも割高です。

さらに、タワーマンションは、個別性の高いデザインに合わせた修繕工事をおこなうことになるため、工事費用はさらに高額になります。

【実例】タワーマンションの大規模修繕工事

ここではタワーマンションの大規模修繕工事の実例を紹介します。

以下で、詳細をみていきましょう。

ケース1

大規模修繕工事の概要は以下のとおりです。

タワーマンションの規模 約800戸・地上40階
大規模修繕工事の費用総額 約6億3千万円
工事期間 約10ヵ月

費用総額は約6億3千万円でしたが、本来の見積もりより高額になりました。高額になった理由は、着工後に判明した想定よりも多い数のタイルのひび割れ。急遽、補修工事が必要となり、1千万円以上の追加費用がかかってしまったのです。

一方、減額に成功したこともあります。バルコニー間の横移動をスムーズするために、戸境の隔て板の一部を外した結果施工業者の負担を減らし、減額に繋がりました。ただし隔て板を外したままだとプライバシーを確保できません。そこで、ジッパー付きシートを使ってプライバシーを保ちました。

ケース2

大規模修繕工事の概要は以下のとおりです。

タワーマンションの規模 約500戸・地上35階
大規模修繕工事の費用総額 約6億4千万円
工事期間 約12ヵ月

収益目的で所有し、賃貸している部屋が多いタワーマンションでした。賃貸での入居者は、どうしても大型修繕工事への興味関心は薄く、工事に対して消極的になります。工事期間中の長期にわたる生活の不都合を考えるとなおさらです。

実際、大型修繕工事への協力をいくらアナウンスしても「うちだけ工事しないでください」などと言われ、施工会社が対応に苦慮しました。

賃貸の入居者が多いタワーマンションの場合は、理解が得られないことも想定し事前に対応策を考えておきましょう。

タワーマンションにおける大規模修繕工事の周期

マンションの大規模修繕工事の周期は12年が主流ですが、近年は18年の長周期化が注目されています。「12年」は、国土交通省が定めたマンションの大規模修繕の目安となる年数です。

しかし、このガイドラインができたのは2008年。現在は、当時よりも技術力や材料品質が高いため、長周期化するマンションも増えています。実際、タワーマンションにおいても18年周期で大型修繕工事を実施しているケースもあるのです。

また、大規模修繕工事の長周期化は、コスト削減にも繋がります。長周期化する場合は、高耐久性工事や中間メンテナンスが必要です。しかし、それでも竣工後60年と長期的に見ると、長周期化し工事回数を減らしたほうが、コストを削減できます。

タワーマンションの大規模修繕工事は入念な準備が必要

タワーマンションの大規模修繕工事の内容は、塗装や防水、設備関係の交換です。構造上、ゴンドラが必要だったり設備が高額だったりと、修理費用は割高になります。費用面で不安がある場合は、大規模修繕工事の長周期化も視野に入れましょう。

また、上層階と下層階の設備の重要性や価値観の違いもあり、合意形成を取るのが難しい側面もあります。組合員および入居者への徹底した説明や配慮など、入念な準備をして、大規模修繕工事に備えましょう。

藤ノ木 健二
監修者

藤ノ木 健二

大学卒業後、ゼネコンに勤務し、マンション新築工事、マンション大規模修繕工事、学校、病院などの耐震補強工事の現場管理業務に従事。

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株式会社さくら事務所

ホームインスペクション(住宅診断)をはじめとする個人向け不動産コンサルティングや管理組合向けコンサルティングを行っている。400を超えるマンション管理組合のコンサルティング実績をもち、大規模修繕工事や長期修繕計画の見直し、瑕疵トラブルなどの管理組合サポートサービスを提供している。

【監修】さくら事務所マンション管理コンサルタント(マンション管理士)

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