目次
はじめに
分譲から10年を迎えると、マンションのアフターサービスを分譲会社から受けることができなくなります。
10年間の保証の対象になっている部分は、多くのマンションが、住宅の品質の確保に関する法律に基づき、「構造耐力上主要な部分」や「雨水の侵入を防止する部分」となっています。
つまり、10年保証の対象になっている不具合を調査し、発見された不具合がアフターサービスの範囲内であれば、無償で補修ができるということです。
また、アフターサービスを活用することによって、第一回目の大規模修繕工事の費用を大きく削減することにも繋がります。
築9年目までにアフターサービスを受けることが大切な背景
なぜ築9年目までにアフターサービスを受けることが大切なのでしょうか。
不動産を取り巻く時代背景や、法的な制約の観点から見ていきましょう。
不動産価格の高騰と修繕積立金の増額傾向
まず、マンションを含めた不動産価格と、管理費や修繕積立金といった、マンション購入後のランニングコストが上昇していることが挙げられます。
不動産価格が特に高騰している都市部では、地域によっては分譲時よりも中古売却時の方が価格が高くなっていることも多くあります。
さらに、建設部材や人件費の高騰により、将来の工事に備えて積み立てるべき修繕積立金も上昇傾向にあります。
特に、中古でマンションを購入される方にとっては、マンションの価格高騰に加えて、購入後に修繕積立金の値上げが行われることも視野に入れておかなければなりません。
しかしながら、分譲会社へ無償で対応してもらえるアフターサービスを最大限有効活用することで、不動産価格の高騰は抑えられないものの、将来の不要な修繕積立金の上昇は回避できる可能性はあります。
アフターサービスは、既に住んでいる区分所有者だけでなく、今後新たに購入される方にとっても、重要な論点になります。
修繕積立金の支出を抑える可能性
アフターサービスを保証期間内に受けることにより、大規模修繕工事の実施周期を伸ばすことができる可能性があります。
大規模修繕工事の周期を伸ばすことで、長い目で見た際には大規模修繕工事の実施回数を減らし、修繕積立金の支出を抑えることにも繋がります。
例えば、12年周期での大規模修繕計画の場合には、築60年目で5回目の大規模修繕となりますが、15年周期へ変更することで、築60年目には4回目の大規模修繕工事となり、1回分の大規模修繕工事を削減することができます。
さらに、実態に合った長期修繕計画へ見直すことにより、将来の修繕計画もより現実的なものとなり、修繕積立金を積み立てる根拠も明確になることから、今後新たに購入される方にとっても、安心して住めると感じてもらえる一要素となるでしょう。
築10年目を過ぎるとアフターサービスは受けられない
アフターサービスは最長でマンション分譲後10年間が保証期限となるため、分譲会社による無償補修を受けられるのはこの時期までとなります。
それ以降は、管理組合が自ら修繕積立金を取り崩して修繕することとなります。
従って、その前年である9年目が、分譲会社による無償補修を受けるための調査実施のラストチャンスであると言えるでしょう。
修繕費が4倍に!?~修繕費増額の事例紹介~
実際にさくら事務所が築10年目以降のマンションで、第1回目の大規模修繕工事の際に関わった事例を紹介します。
2000年代中盤から2010年代前半にかけて建設されたマンションにおいて、タイルの浮きが要因となった修繕費増額の例です。
2004年築のマンション(東京都世田谷区)
こちらは約170世帯の比較的大規模なマンションですが、大規模修繕工事前に管理会社が実施した一部分の打診による劣化診断では、タイル補修のための概算見積りは約1,700万円でした。
しかしながら、第一回目の大規模修繕工事の際に足場を組んで外壁タイルの全面打診を実施した結果、出てきた見積りは約5,200万円と3倍超まで膨らみました。
2008年築のマンション(東京都杉並区)
世田谷区のマンションに比べて小規模の40世帯程のマンションですが、同じくタイル補修の概算見積りを取ったところ、約500万円でした。
同様に、第一回目の大規模修繕工事の際に全面打診を実施した結果、約2,000万円とこちらは4倍に膨らみました。
幸いにも上記2つのマンションについては、さくら事務所のサポートを受けた管理組合と分譲会社間での交渉により、分譲会社が一部責任を認め、当初より補修費用が増額した分は、分譲会社負担で工事を行うことができましたが、第三者のアドバイスがなければ、全て管理組合の費用負担で補修することになっていたため、修繕積立金の値上げを検討しなければならなくなっていたことでしょう。
分譲会社が築10年以上を経過した後に責任を認めてくれるとは限らないため、9年目までに調査を行うことの重要性はご理解いただけるかと思います。
アフターサービスを受ける際の要チェックポイント
最後に、アフターサービスを受けるにあたって管理組合として注意しておく必要がある点を紹介します。
申し入れは管理組合側から行う必要がある
一般的に分譲後2年目までは、アフターサービスの期日が分譲会社より通知されます。
しかしながら、それ以降は管理組合側で期日管理をする必要があり、10年目のアフターサービスの期日を前に分譲会社から通知されることはありません。
分譲後10年目のアフターサービスは、期日前に管理組合側から申し入れをする必要があります。そのためにも分譲会社へのアフターサービス申し入れの期日を事前に確認しておくことが重要です。
分譲後10年目の期日から逆算して準備が必要である
分譲後10年目の申し入れ期日までに、アフターサービスを受ける箇所を特定することを考えると、9年目には調査を行う必要があり、そのためには、8年目の管理組合総会では調査業務の実施決議を行わなければなりません。
8年目の管理組合総会は、8年目が終了してから2~3か月以内に実施されるものであるため、既に9年目に入っている時期です。
この時期までに必ず決議を行い、アフターサービスを受ける箇所の特定を調査依頼し、分譲会社に不具合を伝えていくことになるでしょう。
調査箇所としては、構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分となります。
構造耐力上主要な部分として、基礎、基礎ぐい、壁、床板、屋根板がマンションの対象箇所となります。
また、雨水の侵入を防止する部分としては、屋根、外壁、開口部(窓ガラスや窓サッシ)、雨水排水管が該当します。
瑕疵があっても必ず受け入れられるものではない
調査依頼をした結果、仮に瑕疵と考えられる箇所が見つかった場合であっても、必ずしも分譲会社側から瑕疵と認定される訳ではありません。
また、不具合が発見されたとしても分譲段階からの瑕疵なのか、それとも経年劣化によるものなのか判定しづらい場合も考えられます。
そのため、調査会社を選ぶ際には、分譲会社との交渉スタンスや、これまでの経験値を確認することがとても重要になります。
まとめ
築9年目までのアフターサービスが大切な背景や注意すべき点を、具体的な事例と共に紹介しました。
分譲会社によるアフターサービスが10年という期日がある以上、それまでの間に不具合があれば速やかに対応することが重要です。
対応次第では、今後の大規模修繕工事の時期や、確保すべき修繕積立金の額、そして将来的な長期修繕計画も大きく変わってくることとなりますので、必ず確認しておきたいですね。
アフターサービスを確実に活用し、将来的な修繕工事費を削減したいという管理組合さまは、さくら事務所の「マンション共用部9年目チェック」をぜひご利用ください。