大規模修繕の追加費用の発生率が4割超!理由と対策、トラブル事例を紹介

  • Update: 2024-12-26
大規模修繕の追加費用の発生率が4割超!理由と対策、トラブル事例を紹介

この記事はマンション管理士/一級建築士などの専門家が監修しています

大規模修繕で追加費用が発生することは珍しくありません。追加費用に備えて予算に余裕をもって計画することが大切です。しかし、なかには想定を大幅に超える追加費用が発生するケースもあります。

追加費用が発生する理由はさまざまです。費用が追加されるケースを事前に理解し対策しておくと、修繕費用を払えないなどのトラブルを防止できるでしょう。

本記事では、大規模修繕で追加費用が発生する理由と対策を解説します。施工時の不具合による追加費用やトラブル事例も紹介するので、今まさに追加費用で困っている方も参考にしてください。

大規模修繕で追加費用が発生する理由

大規模修繕で追加費用を発生する理由は以下4つです。

(1)想定よりも広い範囲の修理が必要になった

(2)建物内部の劣化が見つかった

(3)足場仮設の難易度が高かった

(4)自然災害で修繕箇所が増えた

順に詳しく解説します。

(1)想定よりも広い範囲の修理が必要になった

追加費用が生じる理由としてもっとも多いのが、見積もり段階で想定していたよりも、修繕すべき外壁タイルの枚数が多かったりコンクリート下地の補修範囲が広かったりすることです。

上記のように足場仮設前に正確な数量がわからない項目については、大半のマンションで、暫定数量で見積もり額を設定しておき、工事完了後に実際の数量で精算する「実数精算方式」が採用されています。

実際の数量が想定よりも少なかった場合は減額になりますが、多かった場合はその分が追加費用となってしまうのです。

(2)建物内部の劣化が見つかった

工事を進めていく過程で、目視ではわからなかった建物内部の劣化が見つかったり、劣化が進んでいることがわかったりすることもあります。たとえばコンクリート内部の鉄筋のサビや給排水管の劣化などは、見積もり段階での調査では正確に診断できません。

見積もりにはなかった工事項目の増加やより大がかりな工法への変更により、追加費用が発生するのです。

(3)足場仮設の難易度が高かった

マンションの大規模修繕は、工事を始める前に足場を仮設するのが一般的です。実際に足場を組むときに、スペースが狭いなど設置条件が悪く想定していたよりも手間や時間がかかると、費用が追加されます。

なかには部分的に足場を仮設できない場所があることも。足場を使わない方法で工事することになった場合も、内容によっては追加費用がかかります。

足場仮設における追加費用を避けるために、事前にしっかり現地調査してもらいましょう。

(4)自然災害で修繕箇所が増えた

大規模修繕工事中に台風や地震などの災害が発生し、マンションに破損が生じると、修繕項目が増え費用が追加されます。

大規模修繕でちょうど足場を仮設しているタイミングの工事であれば、別途足場代がかかることはありませんが、修繕費用は大きな出費になるでしょう。

ただし、災害による修繕費用は保険が適用されるケースもあるため工事業者や保険会社に確認してください。

実数精算方式で追加費用が発生しているマンションは4割超

大規模修繕の実数精算方式で追加費用が発生しているマンションの割合は4割を超えています。

東洋大学理工学部建築学科秋山研究室と公益財団法人マンション管理センターの「マンションの大規模修繕工事における工事中の変動要素の取り扱いに関する調査結果」によると、実数精算方式の工事項目で、契約金額から追加精算になることが多いと回答した割合は43.8%でした。

工事契約金額とほぼ同額および減額したケースは、それぞれ25%だったことから、予定通りの金額で納まったケースの方が若干多いですが、追加費用の発生は十分あり得ることを覚えておきましょう。

参照:東洋大学理工学部建築学科秋山研究室 公益財団法人マンション管理センター「マンションの大規模修繕工事における工事中の変動要素の取り扱いに関する調査結果」

大規模修繕の費用負担は実数精算方式でないほうがよい?

追加費用の可能性があることから、実数精算方式自体を懸念される方もいるでしょう。しかし、実際に修理にかかった費用を請求される実数精算方式は理にかなった精算方法です。実際に81%が実数精算方式を採用しているといった調査結果もあります。

追加費用への備えとしてまず大切なのが、大規模修繕の2つの精算方式「実数精算方式」「責任数量方式」について理解を深めたうえで、工事に臨むことです。

以下でそれぞれのメリットとデメリットを解説します。

参照:東洋大学理工学部建築学科秋山研究室 公益財団法人マンション管理センター「マンションの大規模修繕工事における工事中の変動要素の取り扱いに関する調査結果」

実数精算方式のメリットとデメリット

実数精算方式のメリットは、前述したように実際に工事にかかった分を支払うため適切な金額になることです。

一方、想定数量の算出があまいと、追加費用が発生しやすくなるデメリットがあります。また、工事の知識がないと想定数量の妥当性がわかりにくいのも難点です。

相見積もりで業者選定する際は、価格競争が生じます。実数精算方式の場合、選ばれるために、あえて想定数量を少なくして安い金額を提示する業者もいるため、注意しましょう。

責任数量方式のメリットとデメリット

責任数量方式のメリットは、想定よりも劣化範囲が広く修理費用がかかっても、追加費用が発生しないことです。修理費が変動しないため、コスト管理しやすく総会での承認も得られやすいでしょう。

しかし、工事会社側はリスク回避のために、実数精算方式よりも高めの見積もりをだすケースが多くなり、結果管理組合から選ばれにくい方式になっています。

デメリットは、想定よりも修理箇所が少なく安くおさまったとしても、減額されないことです。工事内容に対して高額な支払いになる可能性があります。

大規模修繕の追加費用の対策

大規模修繕の追加費用に対する具体的な対策は以下の2つです。

・5~10%の予備費を確保しておく

・第三者のコンサルティングに見積もりの妥当性をチェックしてもらう

順に解説します。

5~10%の予備費を確保しておく

大規模修繕の総工事費5〜10%程度の予備費を確保しておきましょう。予備費がない状態で追加費用が発生すると、その都度、工事を止めて総会で承認を得なければいけません。

スケジュール通りに工事を進められず、大規模修繕に要する期間が長引くため、居住者の負担も増えます。

マンションの規模が大きく修繕費用が高額になることが予想されるマンションほど、余裕を持って予備費を用意しておきましょう。

第三者のコンサルティングに見積もりの妥当性をチェックしてもらう

第三者のコンサルティング会社に、実数精算方式の想定数量の妥当性をチェックしてもらうことも大切です。

実数精算方式の項目は、想定数量の根拠が見積もりに記載されています。たとえば「1000㎡外壁タイル部分があり0.1%の浮き率の補修を見込んでいます」などです。

実際は上記の浮き率だと少ないのですが、この根拠が妥当なのか、管理組合で判断するのは難しいです。そこで第三者のコンサルティング会社にチェックしてもらえると、より実態に近い想定数量で見積つもり額を算出できるため、大幅な追加費用が発生する事態を避けられます。

1回目の大規模修繕は施工時の不具合の可能性も視野に入れる

施工時の不具合が原因で、追加費用が発生するケースもあります。とくに1回目の大規模修繕でタイルの浮きなどが想定より多く、追加費用が高額になった場合は、すぐに「予備費で修理」と考えるのではなく、まずは原因を追及しましょう。

施工時の不具合を証明できれば、分譲会社や施工会社の責任で修繕してもらえるかもしれません。予備費で支払ったあとでは、話を聞いてもらえない可能性が高いため、いったん踏みとどまってしっかり調査することをおすすめします。

66.6%のマンションで外壁タイルに問題あり

実は、意外に多くのマンションで施工時の不具合が発見されています。2023年4月~2024年6月にさくら事務所が依頼を受けた管理組合の66.6%に外壁タイルに問題がありました。すべて1回目の大規模修繕で判明しています。

さくら事務所が受けた事例では、2007~2008年頃に建築されたマンションに外壁タイルの問題が多い印象です。その背景として、マンションの分譲数がピークを迎えた時期で、十分な工期を設けられなかったことが考えられます。

また、これまでに地震などの災害で、わずか数枚でもタイルが剥がれたり浮いたりしたことがあるマンションも危険です。高確率で大量のタイルの浮きが潜んでいるリスクがあるため、第三者の専門家に調査を依頼することをおすすめします。

施工時の不具合は10年または20年まで異議申し立てできる

施工時の不具合が発覚した場合、いつまで責任をとってもらえるのでしょうか。

一般的に売主保証は10年です。10年経過するまでに見つかった施工時の不具合は、分譲会社と施工会社に異議を申し立てられます。10年を過ぎると分譲会社は責任をとる義務はありません。しかし、会社によっては善意で、修繕費用の一部を負担するケースもあります。

売主保証が終わってから竣工後20年までは、過去の判例に従い、施工会社と設計会社に不法行為責任を問える期間です。経過期間が長くなるほど、協議が難航するため、早期調査が大切になります。

瑕疵・欠陥トラブル解決サポート

【トラブル事例】大規模修繕の追加費用で工事費が倍に!

大規模修繕で追加費用が発生し、工事費が倍になったトラブル事例を紹介します。

東京都内40世帯ほどのマンションで、本来5,000万円前後で大規模修繕できる予定でした。しかし打診調査だけで、全体の30%ほどのタイルの浮きが見つかり、1億円超えの修理費用がかかったのです。

予備費を確保してありましたが到底足りず、大規模修繕費用の7割ほどを金融機関から借り入れました。30%と広範囲にわたるタイルの浮きは施工時の不具合の可能性があるとして、現在訴訟中で、調停、裁判という流れになっています。

決着がつくまで工事を中断していると、タイル剥落によるリスクがあること、さらに浮くタイルが増えることから、裁判の準備を進めながらタイル工事を行いました。

広範囲にわたるタイルの浮きは、多額の追加費用がかかり管理組合を苦しめます。追加工事があった際は、単に見積額が低すぎたのか、マンション側に問題があるのかの見極めが重要です。

大規模修繕は追加費用が発生することを前提に対策しよう

大規模修繕で追加費用が発生するおもな原因は、想定外の修理が必要になることです。とくに実数精算方式が採用されている場合は、減額されるよりも追加費用が発生するケースのほうが多い傾向があります。

追加費用があることを前提として予備費を確保しておくとともに、実数精算方式の想定数量の算出方法の妥当性を第三者のコンサルティングにチェックしてもらうと、多額の追加費用を防げるでしょう。

さくら事務所では大規模修繕セカンドオピニオンサービスや大規模修繕工事見積書チェックを実施しています。

セカンドオピニオンサービスは、大規模修繕に関することならどのようなことでも相談可能です。施工会社の選び方、見積金額の妥当性のチェック、追加費用が発生したときの対処法など、気軽に話を聞ける相談相手となり、第三者の立場から客観的にアドバイスいたします。

さくら事務所では、業界経験平均20年以上、国家資格を保有しているベテランコンサルタントが担当するため、安心してご相談いただけます。大規模修繕の追加費用で深刻なトラブルになる前に、ぜひご活用ください。

大規模修繕セカンドオピニオンサービス

大規模修繕工事 見積書チェック

また以下の動画でも、大規模修繕工事発注に関する内容を詳しく解説しています。

三木 幸一郎
監修者

三木 幸一郎

明治大学政治経済学部卒業後、ゼネコン→不動産仲介業・建築業経営を経て→鉄鋼系エンジニアリング会社→マンション管理会社フロント(管理部次長)→さくら事務所