大規模修繕の予算には予備費を含めておくことをおすすめします。予備費がないと、追加費用に対応できず工事が止まってしまったり、資金計画が大きくずれてしまったりするため、要注意です。
本記事では、大規模修繕で予備費が必要な理由や予備費の相場、予備で補いきれない追加費用がかかったときの対処法について解説します。
目次
大規模修繕で予備費が必要な理由
大規模修繕で予備費が必要な理由は、おもに以下2つです。
・工事の追加費用に充当するため
・スムーズに大規模修繕を進めるため
順に解説します。
工事の追加費用に充当するため
予備費は大規模修繕で追加費用がかかったときに必要です。
マンションの大規模修繕では足場をかけないと劣化状況や劣化の範囲がわかない場所があったり、工事を進めていくなかで想定外の劣化が見つかったりと工事の追加や変更がたびたび生じます。
しかし、工事請負契約を結ぶ段階で見積もりが必要になるため、足場をかけずに想定できる範囲内で工事費用を設定するのが一般的です。
見積り額はあくまでも概算のため、工事後に追加で費用がかかるケースが多く、その場合予備費がないと資金が足りなくなります。
スムーズに大規模修繕を進めるため
予備費を用意していれば追加費用があったとしても、支払いに困らないためスムーズに大規模修繕を進められます。
予備費を用意しておらず資金が足りなくなった場合、都度臨時総会を開き、資金確保や工事内容の変更などの合意を得なければいけません。
スケジュール通りに工事が進まなくなるため、大規模修繕の期間が通知していたよりも延長し、居住者から不満の声があがることもあるでしょう。
大規模修繕の予備費の相場
大規模修繕の予備費の相場は、工事費総額の5~10%が目安です。大規模修繕の総費用が高額になることが予想される場合は10%、費用を抑えられる場合は5%など、マンションの規模や築年数などによって適切な金額が異なります。
予備費が足りなくなると、追加工事が生じたときに迅速に柔軟な対応ができなくなるため、余裕をもって用意しておきましょう。
予備費を使うケースが多い実数精算方式とは
外壁タイルの浮きや剥がれ・コンクリート躯体の補修など、足場がないと正確な数量が把握できない項目においては、約8割のマンションで実数精算方式が採用されています。
実数精算方式とは、見積もり時には仮の数量(タイルの枚数や補修範囲)で算出された金額が提示され、工事後に実際に修繕した数量で精算する方法です。想定よりも数量が少なければ、減額されます。
しかし、工事を請け負うためにあえて見積り額を低めに提示する修理業者がいることもあり、追加清算になるケースが多いのが現状です。
実際に、下記の調査結果では、43.8%が追加清算になることが多いと回答しています。
出典:東洋大学理工学部建築学科秋山研究室 公益財団法人マンション管理センター「マンションの大規模修繕工事における工事中の変動要素の取り扱いに関する調査結果」
実数精算の見積もり額の妥当性を判断するのは難しいため、第三者の専門家に確認してもらうことをおすすめします。
参照:東洋大学理工学部建築学科秋山研究室 公益財団法人マンション管理センター「マンションの大規模修繕工事における工事中の変動要素の取り扱いに関する調査結果」
実費精算方式との違い
実数精算方式と似ている「実費精算方式」もあります。実費精算方式は、数量によって金額に変動があるのではなく、工事の仕様そのものが変更する場合の精算方法です。
実数精算方式の場合は、見積もり時と数量の違いがあってもそのまま工事が進められますが、実費精算方式は工事開始前に理事会の承諾が必要になる点も異なります。
責任数量方式との違い
責任数量方式は、実数精算方式と実費精算方式と違い、見積り額から請求額が変動しない精算方法です。
責任数量方式は、図面・現地調査・過去の修繕履歴などから、数量を算出し工事費用を決定します。工事後、見積もり時の内容と数量が異なっていたとしても、工事費は増減しません。
費用が追加にならないことから資金計画をたてやすいメリットがありますが、工事会社はリスク回避のため、見積もり段階から高めの金額を設定する傾向があります。
設定額によっては実際に工事にかかった費用よりも、高額の支払いになるケースもあるため、選ばれにくい方式です。
大規模修繕の追加費用が予備費で足りないときの対処法
大規模修繕で、予備費で補いきれないほどの追加費用が生じたときは、工事内容を変更してコストを削減したり、工事自体を延期して修繕費用を積み立てたりする方法があります。
コスト削減しても不十分な場合や工事を延期できない場合は、区分所有者から一時金を徴収したり金融機関から借り入れたりすることも。しかし、一時金は区分所有者の負担が大きく、借入金は今後支払いが続くことを考えると問題の先延ばしにすぎないため、慎重に検討しましょう。
国土交通省の「令和5年度マンション総合調査」によると、大規模修繕の工事費調達方法について、88.4%以上の管理組合が修繕積立金と返答しています。
どうにかやりくりして、修繕積立金で支払える範囲内に工事費用を納めているマンションが大半です。
修繕積立金の値上げも視野に入れながら、工事を延期して資金を貯める期間を確保するなど、根本的な解決策を講じましょう。
大規模修繕は予備費で追加費用に備えよう
大規模修繕では意外に多くのマンションで追加費用が発生し、予備費が使われています。とくに外壁タイルやコンクリート躯体など、実数精算方式が採用される工事は追加清算になりやすいです。
マンションの規模や築年数に応じて、総工事費の5~10%ほどの予備費を確保し対策しておきましょう。また見積もりが妥当でないと、多額の追加費用が発生する原因になるため、第三者のチェックも大切です。
予備費を用意していても修繕費用が足りないときは、工事の延期やコスト削減を検討しなければいけません。つぎの大規模修繕も視野に入れて、資金不足の根本的な解決を目指しましょう。
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・見積もりの妥当性がわからない
・予備費が足りないほどの追加費用が発生した
・コストを削減したい
上記のようなお悩みを抱えている方は、大きなトラブルになる前にぜひご相談ください。
また以下の動画でも、大規模修繕工事の費用が上振れてしまった時の対応について詳しく解説しています。