昨今、修繕積立金の大幅な増額が問題視されており、2024年2月には、国土交通省が、新築マンションの修繕積立金の下限額や増額幅を提示しました。
修繕積立金を増額せずに、必要な修繕を計画通り進められるのがベストですが、国土交通省の調査によると、実際は3割以上のマンションで、実際の残高が長期修繕計画上の残高を下回っているのが現状です。
修繕積立金が足りない場合は、早い段階で適正に増額しないと値上げ幅が大きくなり、合意形成をとりにくかったり支払いが困難な所有者がでてきたりすることが考えられます。
そこで本記事では、修繕積立金をトラブルなく増額するための適正金額の設定方法や決議のポイントを解説します。
目次
修繕積立金を計画通りに増額できていないマンションは約4割
国土交通省の「令和5年度マンション総合調査」によると、段階的に徴収額が引き上げられる段階増額積立方式の場合であっても、計画通りに増額できたのは59.4%、不明を除く残り37.8%が計画通りの額まで増やせなかったり、まったく増額できなかったりしているのです。
「修繕積立金に関するガイドライン」では、階数や平米数により違いはあるものの、修繕積立金の平均値※は252~338円/㎡と示されています。
さくら事務所で、過去に不動産取引があった東京都内23区でも、200円/㎡前後と低く設定されているマンションも少なくありません。さらに高経年マンションと築浅マンションでもそれほど金額が変わっていないことから、築年数が経過するほど増額が難しくなっていることがわかります。
※ガイドラインに沿って作成された長期修繕計画の事例から算出された必要な修繕工事費を確保できる金額
参照:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
修繕積立金をトラブルなく適正に増額する方法
修繕積立金をトラブルなく適正に増額するためには、以下4つが重要になります。
(1)管理費・修繕積立金の支出や修繕計画から見直す
(2)竣工後60年の超長期で計画を立てる
(3)高経年マンションは段階増額方式や借り入れも検討する
(4)ほかのマンションをリサーチする
順に詳しく解説します。
(1)管理費・修繕積立金の支出や修繕計画から見直す
「計画に対して修繕積立金が足りていないから増額する」ではなく、まずは支出や計画の見直しから始めましょう。
たとえば管理費の場合、管理会社に支払う管理委託料が過剰になっていないでしょうか。清掃の頻度や管理人の滞在時間を見直すことで、管理委託料を抑えられるケースがあります。
修繕積立金は計画の見直しが非常に重要です。修繕積立金の根拠となる長期修繕計画に無駄がないか、工事の時期・項目・工法が適切なものになっているのか、改めてチェックすると無駄なコストが発生していることも多いです。
管理委託料の項目ごとの相場や修繕計画などに精通している第三者に、アドバイスをもらいながら進めていきましょう。
(2)竣工後60年の超長期で計画を立てる
国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」では、長期修繕計画の期間について「30年以上で大規模修繕工事が2回含まれる期間以上」となっており、実際に25~30年前後で計画を立てているマンションが大半です。
しかし、給排水管の更新や玄関ドア・窓サッシの交換などは築30年までの計画に含まれていないケースもあります。また、玄関ドアや窓サッシは一般的には共用部ですが、限られた区分所有者が使用する専用使用部分に該当するため、そもそも修繕計画から漏れていることも。
長期修繕計画は30年ではなく、60年程度の超長期で必要になる修繕費用をすべて洗い出し、修繕積立金の根拠とするのが理想です。
このような話をすると、60年の超長期修繕計画なんて作成している管理組合はあるの?と疑問を抱かれる方もいらっしゃいますが、30年計画では見据えることが難しい将来の出費をつまびらかにする為に60年の超長期修繕計画の作成に取り組まれる管理組合はここ2~3年で増加しています。
(3)高経年マンションは段階増額方式や借り入れも検討する
国土交通省で推奨されているのは、一定期間、修繕積立金の徴収額が変更しない「均等積立方式」です。
しかし、高経年マンションで均等積立方式にすると、修繕積立金が現状の3~4倍の増額になることが多々あり、合意形成がとりにくくなるため、段階増額方式のほうがよいケースもあります。
またマンションでは、エレベーターや機械式駐車場の更新、3回目の大規模修繕のタイミングなど、ある程度大きなお金が必要になる時期が決まっています。
その時期を過ぎたら大きな工事が減って、余裕が出てくることも考えられるため、段階増額方式や借り入れなども視野に入れて、バランスよく資金確保できるように計画を立てましょう。
(4)ほかのマンションをリサーチする
修繕積立金がいくら必要になるかは、マンションによって異なるため「ほかのマンションがこうだから」といった理由で金額を設定するのは危険です。しかし、購入者目線を意識するためにほかのマンションの修繕積立金のリサーチは行った方が良いでしょう。
まだまだ、長期修繕計画の見直しを行わないマンションも少なくない中、適正な長期修繕計画に基づき、修繕積立金を増額した結果、購入時に比較対象となるような他のマンションと修繕積立金の金額差が大きくなり、修繕積立金を高いか安いかだけで判断する購入者には選ばれにくくなる可能性があります。自分たちのマンションが他のマンションと比較してどれくらい徴収しているのか意識をすることで、場合によっては購入者に補足説明をするなど、理解を促し誤解を防ぐことができるので、不本意にマンションの資産価値落とすようなことがなくなるでしょう。
修繕積立金を増額する決議のポイント
修繕積立金の増額がマンションにとって必要だったとしても、区分所有者全員に理解してもらうのは難しいです。ここでは修繕積立金の増額をスムーズに決議するポイントを3つ紹介します。
・修繕積立金の増額は普通決議になる
・段階増額方式の場合はまとめて決議する
・住民の考えを把握しておく
順にみていきましょう。
修繕積立金の増額は普通決議になる
修繕積立金の増額は、マンション標準管理規約の「管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法」に該当するため普通決議になります。
普通決議は、成立委任状や議決権行使書を含めた総会出席者の2分の1以上の賛成で可決されるため、そこまで厳しい要件ではありません。
ただし、管理規約に修繕積立金の金額が記載されている場合は、規約の変更にあたり特別決議となり、4分の3以上の賛成が必要になります。
段階増額方式の場合はまとめて決議する
段階増額方式を採用しているマンションで増額する場合は、直近の分だけでなく、5年後や10年後に予定されている増額もまとめて決議しておくのがおすすめです。
まとめて決議しておくことで、都度総会を開いて意思決定する必要がなくなり、計画通りに増額しやすくなります。
住民の考えを把握しておく
修繕積立金を増額するときは、住民の考えを把握しておくことも大切です。必要だからといって、理事会の考えを押しつけるのではなく、アンケートなどをとおして住民の意向や増額における懸念点を理解しておきましょう。
また増額するにしても、頻度や値上げ幅など、なるべく負担が少ない方法にしないと、合意形成がとれなかったりとれたとしても支払いが困難になったりします。
増額の必要性を理解してもらえるように、事前説明会などの時間を設け、可能な限り寄り添って、合意形成に向けて丁寧に対応していきましょう。
修繕積立金は支出を見直して適正に増額しよう
管理組合にとって修繕積立金の増額は、設定額や進め方など課題が多いです。段階増額積立方式を採用しているマンションでも計画通りに増額できなかったり、増額幅が大きすぎて合意形成がとれなかったりすると、健全なマンション運営ができません。
まずは支出や長期修繕計画を見直し、区分所有者にとって可能な限り負担の少ない方法で増額できないか、検討しましょう。修繕計画を見直す際は、60年程度の超長期にすることで、将来かかる修繕費用を漏れなく把握でき、より実効性の高い計画を立てられます。
しかし支出や長期修繕計画の見直しは、専門知識が必要です。管理組合だけで検討するのは難しいため、専門家のアドバイスをもらいましょう。
さくら事務所では、長期修繕計画の見直しを実施中です。長期修繕計画を見直した結果、修繕周期を延ばせたり工法を変更できたりすれば、大幅に修繕費用を削減でき、修繕積立金の増額を最小限に抑えられます。
900件以上の多種多様なマンションへの対応実績があるさくら事務所だからこそ、マンションの将来像を予見した適切なアドバイスが可能です。
第三者の公正な立場でサポートさせていただきますので、修繕積立金が不足している場合は、増額する前にさくら事務所までお気軽にご相談ください。
以下の動画でも管理費と修繕積立金の適正価格について詳しく解説しています。