経年によりマンションが老朽化し、補修でしのぐか、建て替えか?売却をするのか?その場合の手続きは?といったマンションの老朽化問題は、たびたびメディアでも取り上げられ、その深刻さに目を向ける方が増えてきました。とはいえ、まだまだ充分に対策できているマンションが多いとはいえません。
どのようなマンションも、築年数の経過とともに確実に老朽化は進みます。他人事ではなく自分のマンションでも起こり得る問題なのです。
老朽化は止められませんが、進行を遅らせたり、対策を考えておいたりすることで、悲惨な末路を迎えなくて済みます。マンションの将来と自分自身のために、老朽化の問題点について理解し、備えておきましょう。
本記事では、マンションの老朽化が引き起こす問題点や老朽化が進んだマンションの選択肢、老朽化に備えるための対策を解説します。
目次
老朽化マンションは今後さらに急増する
出典:国土交通省「築40年以上の分譲マンション数の推移(2023(令和5)年末現在)」
上記は、国土交通省で推測されている築40年以上のマンション数の推移を表すグラフです。
2013年末時点の築40年以上のマンションは41.5万戸でしたが、2023年末時点では約137万戸に増加しています。
さらに10年後には約2倍、20年後には約3.4倍に増加する見込みです。増加の加速率も上昇傾向にあり、今後より一層、マンションの老朽化問題が深刻になることが予想されています。
ちなみに、老朽化マンションに築年数による決まりはありませんが、国土交通省の資料によると、築40年以上の高経年マンションは、外壁剥落・鉄筋の腐食・漏水など、安全性や資産価値に影響する問題が多く生じていることがわかっています。以上のことから本記事においても、築40年以上のマンションを老朽化マンションとします。
マンション老朽化を促進する要因は「修繕費を払えない」
マンションの老朽化を促進する大きな要因は、経年に伴い膨らむ修繕費を払えなくなっていくこと。そもそも、竣工時から修繕積立金を徴収していなかったり、徴収していても修繕積立金額が適正でなかったりすると、修繕費不足により必要な工事ができずに老朽化を促進してしまいます。
また、修繕積立金が不足しているにもかかわらず対策を先送りにしていると、所有者の高齢化が進み修繕積立金の増額や一時金の徴収がより困難になるでしょう。
計画的に修繕費を積み立ててメンテナンスできていれば、マンションは100年もつといわれています。都度、修理していくことで老朽化により生じる問題を最小限に抑えられるのです。
修繕の積み重ねにより寿命を延ばせられれば、マンションの最期に向けて、方向性を決定したり金銭的に備えたりする時間を確保できるようになり、窮地に立たされることは避けられるでしょう。
マンションの寿命については下記記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
マンションの耐用年数は何年?寿命との違いや年数を過ぎたらどうなるか徹底解説
老朽化したマンションが抱える問題
老朽化したマンションが抱える問題は以下7つです。
(1)ニーズが合わなくなる
(2)居住者の生活レベルが下がる
(3)居住者・近隣住民の安全性を確保できない
(4)管理委託契約を更新できないこともある
(5)売却したくても買い手がつきにくい
(6)高齢化により管理組合が機能していない
(7)【悲惨な末路】マンションのスラム化が進行する
順に解説していきます。
(1)ニーズに合わなくなる
新築時には最新の設備を備えたマンションだったとしても、時代に合った設備を設置するなどの対策を行ってこなかったマンションは、経年とともに設備が陳腐化し、居住者のニーズに合わなくなります。たとえばインターネット回線が古い、インターフォンにモニタがついていない、また宅配ボックスがない、バリアフリーに対応していないなど現代のライフスタイルから乖離していたり居住者の年代を考慮していなかったりするマンションは、毎日の生活で老朽化を感じることになり、居住者の不満が募るでしょう。売却時にも競合物件と比較し選ばれなくなります。
(2)居住者の生活レベルが下がる
マンションの老朽化は、居住者の生活レベルを下げることにもなりかねません。修繕できればよいですが、放置していると屋上防水の劣化による雨漏りや、給排水管の腐食による排水不良・悪臭・漏水などが生じます。
大規模修繕工事や日常修繕で適切な修繕を行っていないと、生活に直結する不具合が頻繁におこってしまうのです。日々、漏水に怯えなければならないマンションは、居住者が快適に暮らせるマンションとはいえません。
(3)居住者・近隣住民の安全性を確保できない
さらに老朽化が進むと、居住者や近隣住民の安全性も危ぶまれます。外部階段の手すりが劣化して破損したり、外壁タイルが剥落したりする可能性もでてくるのです。
また、1981年6月以前に確認申請を受けたマンションは旧耐震基準のため、震度5強レベルの揺れまでしか想定されておらず、震度6弱以上の地震に耐えるための耐震性能は想定されていません。
震度5強程度の地震においても、倒壊は免れますが損傷を受ける可能性があります。
一方新耐震基準は、震度5強程度の地震では軽微な損傷、震度6強から7に達する程度の地震でも倒壊・崩壊は免れるため、地震が起きたときの安全性は比較的高いです。
(4)管理委託契約を更新できないこともある
修理したくても修繕費がない、高齢化が進み管理組合が機能していないといった管理上の負担が大きい老朽化マンションは、管理会社も離れていきます。
管理会社の業務はマンション管理の実務を担い、管理組合をサポートすることです。管理会社はマンションの状況を把握していますが、マンションのために管理費の値上げや修理の提案をしても、受け入れてもらえない、改善しようとする姿勢すらみえないとなると、管理しきれません。
管理会社にも見放されてしまうほど悪い管理状況になると、改善がより一層難しくなります。
(5)売却したくても買い手がつきにくい
老朽化が進んだマンションは、手放したくても買い手がつきにくく、売却できないケースもあります。本来マンションは、戸建てに比べて売りやすいといわれています。
しかし老朽化マンションは見た目の悪さや、使いにくい設備、安全性への不安から住み続けることも売却することも難しくなってしまいます。自分に万が一のことがあったときには、相続の際資産ではなく負債として子や孫など相続人に重くのしかかってしまうのです。
(6)高齢化により管理組合が機能していない
出典:国土交通省「マンションを巡る現状と最近のマンション政策等の動向」
国土交通省のマンション総合調査では、上記のグラフのように、老朽化が進むほど高齢な世帯主の住戸が増えていることがわかっています。
居住者の高齢化は管理組合役員のなり手不足の原因のひとつです。先陣を切って管理に携わろうとする方がいないと、次第に管理組合は機能しなくなります。
また高齢の居住者は「とりあえず住めればよい」という思考になりやすく、苦労して状況を改善する気力・体力もなく、マンション全体が管理に消極的になりやすいです。
管理組合が機能しないことで、老朽化による問題をさらに加速させていきます。
(7)【悲惨な末路】マンションのスラム化が進行する
管理体制が崩壊した老朽化マンションに好んで住む人はいないでしょう。しかし、マンションを解体するにしてもお金がかかります。
マンションが建っているだけで居住者や通行人に危害を加える恐れがあるなど、危険な状態であるにもかかわらず、解体できず管理会社にも見放され、所有者は高齢者ばかり。深刻な問題が起きていても成す術がありません。
ただでさえ修繕費が不足している状況で、空室の増加により修繕費の払い手が減るなど、マンションはスラム化の一途をたどるのです。
老朽化したマンションの選択肢は3つ
老朽化したマンションには以下3つの選択肢があります。
・資金を工面して修繕する
・建て替える
・敷地売却する
ひとつずつみていきましょう。
(1)資金を工面して修繕する
老朽化マンションの選択肢として現実的なのが、なんとか資金を工面して修繕することです。所有者から修繕のための一時金を徴収するのが難しければ、金融機関から借り入れる方法もあります。
借り入れは支払いを先送りにしているにすぎませんが、まとまった資金を捻出できないなか、居住者や近隣住民の命に係わる重大な損傷や不具合がある場合は検討するしかありません。
まずは、劣化診断などを通して、緊急度に応じた工事の優先順位を把握することから始めましょう。
(2)建て替える
修繕をかさねてもマンションの機能や安全性が不十分な時は、建て替えを検討しましょう。マンション建て替えの懸念点は、多額の費用がかかること。さらに、総会の建て替え決議は5分の4以上の議決が必要で合意形成のハードルも高いです。
国土交通省の「マンション建替え等の実施状況」によると、建て替えたマンションは、2024年4月1日時点で累計297件、2023年は285件だったため1年間でわずか12件しかありません。
建て替えにより容積率の特例を受けられるなど、建て替え後に分譲床を増やし売却した利益を建て替え資金に充てられるのであれば、建て替え案も前向きに検討できます。しかし、そうでない場合は、現実的な選択肢とはいえないでしょう。
建て替えについての詳細は、下記記事でも紹介していますので、参考にしてください。
マンション建て替えは難しい!現実的なケースや費用負担、代替案を解説
(3)敷地売却する
マンションを解体して敷地を売却する選択肢もあります。立地がよければ、土地が高値で売れ、解体費用に充てられるかもしれません。
ただし立地がよくないなど、希望通りの金額で売却できなければ、解体費用を捻出できません。また、敷地売却決議にも、5分の4以上の議決が必要です。
マンションを解体すると、居住者は新しい住まいを探さなければいけません。高齢化が進むと、引越し費用や部屋探し、環境の変化などの負担も大きくなります。敷地売却も建て替えと同様に、そう簡単にはできないのです。
マンション老朽化は早めの対策が有効
マンションの老朽化は、進行すればするほど対策が困難です。早めに対処することで老朽化を遅らせられ、マンションの最期に向けて準備できます。
ここでは老朽化対策として大事な以下5点についてみていきましょう。
・居住者(区分所有者)の意識改革をする
・削減できる管理コストがないか検討する
・計画的に改修工事をおこなう
・若い世代の入居を促進する
・築60年を目途に管理の方向性を決める
下記動画ではマンションの終活について詳しく紹介しているため、参考にしてください。
居住者(区分所有者)の意識改革をする
築年数が浅いうちからマンションのを老朽化対策を考えておくことが大切です。区分所有者一人一人が、マンションの老朽化に危機感をもち、自分事として考えられるように、意識改革していきましょう。
「管理会社がやってくれているから大丈夫」と考えている方がいるかもしれませんが、それは間違いです。管理の主体はあくまでも管理組合であり、管理会社はそのサポート役に過ぎません。
区分所有者間のコミュニケーションを増やし、総会への出席率を上げるなど、マンションの将来について話し合える関係性を築いておくことも大切です。
削減できる管理コストがないか検討する
日常の管理内容に見直しの余地がないか検証しましょう。
たとえば、清掃や設備点検の回数、管理人の滞在時間などが分譲当初から変わっていない場合は、どこかに無駄がある可能性が高いです。
ベストな管理内容は、マンションの仕様や居住者のニーズによって異なります。どこまでの管理が必要なのか把握するためには、アンケート調査などで聞き取りするのがおすすめです。
管理内容の見直しにより、コストカットできた分を維持管理費や修繕費にまわしましょう。
計画的に改修工事をおこなう
居住者の高齢化を考慮し、適切な計画のもと改修(修繕+改良)工事をして老朽化を遅らせましょう。
そのためには、長期修繕計画や修繕積立金の現状把握と見直しが不可欠です。
修繕積立金の値上げは後回しにするほど、負担が大きくなります。長く安全に暮らせるマンションを維持するためにも、定期的に見直しましょう。
早期に方針を決定しておけば、将来的に解体する選択肢を選んだ場合も、解体積立金として資金を準備しておけます。
若い世代の入居を促進する
居住者の高齢者対策として、若い世代の入居促進を目指しましょう。若い世代の入居を促進するために有効なのが、理事要件の緩和です。
「マンションに住んでいる区分所有者しか役員になれない」のがスタンダードですが、子世帯まで理事になれるように規定を設け、オンラインでも理事会に参加できる仕組みを作ります。
若い世代の意見も取り入れることで、若い方からも選ばれるマンションになり、資産価値を高めることに繋がるのです。
価値の高い状態で相続できることは、管理に消極的な高齢居住者にとってもメリットになります。
築60年を目途に管理の方向性を決める
マンションの状態にもよりますが、目安としては、分譲から60年目までは維持管理の計画を立てます。法令やトレンドの変化を取り入れ、管理の方向性も探りながら、5年ごとに計画を見直しましょう。
築60年を目途に、解体に向けた計画にするのか、100年を目指して適切に維持管理を続ける計画にするのかなど、終活を見据えた方向性に舵を切ります。
解体した場合のコストから逆算して「維持管理または解体した場合の損益分岐点はどこになるのか」などより深い議論を重ねていきましょう。
下記動画ではマンションの終活について詳しく紹介しているため、参考にしてください。
老朽化マンションになる前に管理状況を見直そう!
今後、老朽化マンションの問題は、今後より一層、深刻化することが予想されます。「修理費用がなく安全に暮らせない、管理組合は崩壊し、管理会社から見放される、手放したくても売れない」そのようなマンションになる前に、管理状況を見直しておきましょう。
さくら事務所では、長期修繕計画の見直しを実施しています。長期修繕計画がない、というマンションは少ないですが、新築当初から見直していない、というマンションは意外に多いのが現状です。
資材価格や人件費が変動することから、長期修繕計画は5年程度に1度の見直しが推奨されています。実態にあっていない計画は使い物になりません。マンションの実態に合った生きた長期修繕計画を用意することで、はじめて適正な修繕積立金額も検討できるようになるのです。
その他に、大規模修繕工事にむけたマンションの劣化診断もご提供しています。さくら事務所の劣化診断は、工事をすることを前提として劣化診断を行う管理会社や施工会社とは異なり、利害関係のない第三者として、工事ありきではない診断ができるのが特徴です。さくら事務所の劣化診断後、大規模修繕工事の実施時期を、長期修繕計画で予定されていた時期よりも、2年延期し修繕積立金の倹約に成功したマンションも続出しています。
修繕積立金が不足しているマンションでも、工事の計画から不要な工事を排除するなど、工事の優先順位を考えたベストな提案ができますので、ぜひお気軽にご相談ください。