国土交通省「平成30年度マンション総合調査」によると、当初の計画に比べて修繕積立金が不足しているマンションの割合は34.%、余剰があるのは33.8%、不明という回答は31.4%でした。
つまり、資金状況を明確に把握しているマンションだけではなく、修繕積立金が不足しているかわからないマンションも30%を超えているということになります。大規模修繕直前になってはじめて、修繕積立金不足の深刻さに気づくマンションも少なくないようです。
本記事では、ギリギリになって「修繕積立金が足りない!」という事態に陥らないために、今からできる対処法をご紹介します!
目次
修繕積立金が足りないときの6つの対処法
大規模修繕前に修繕積立金不足が発覚した場合、着工までにできる対処法は下の6つです。
(1)工事内容を一から見直す!「施工会社の変更」
(2)今、最優先の工事だけ行う!
(3)とりあえず集める!「一時金の徴収」
(4)金融機関に借りよう!「借り入れによる資金調達」
(5)貯まるまで待つ!「延期して積立金を貯める」
(6)根本的な解決策!「修繕積立金の値上げ」
(1)工事内容を一から見直す!「施工会社の変更」
多くの管理組合では、大規模修繕を行う施工会社を管理会社に手配してもらい発注することが多いようですが、管理組合が主体となり複数の見積もりを取って比較するなどして、会社選定をやり直すことで工事金額を削減できる場合があります。
また、さくら事務所による【大規模修繕工事の施工会社選定方法「プロポーザル方式」】の利用者の中には、施工会社を見直すことで適切な修繕工事費に抑えられた事例もあります。
「初めての大規模修繕工事なのに修繕積立金が足りない!」からの逆転成功事例
工事内容と見積りの妥当性を客観的にチェックするために、設計事務所にコンサルティングを依頼する設計監理方式という方式もありますが、談合など発生するおそれがあることから、2017年には国土交通省から注意喚起の通知が出ており、注意が必要です。
(2)今、最優先の工事だけ行う!
一度にまとめて工事せずに、「今回は外壁だけ」や「(足場がいらない)階段や共用廊下などを中心に」といった、今、直さなければならない箇所の工事だけを先行して行いさせて、その他の不要不急な工事は数年後に先送りするという考え方もあります。
建物の劣化は全体的に均一に起こるものではありません。
部位ごとにその進行が異なるケースも多いため、必ずしもまとめて工事を行う必要もないのです。
管理組合が適切に劣化状況を判断することで、建物の状態や予算に合わせて適切なタイミングで工事ができれば一度に多額の資金を用意しなくても、限られた予算で必要な工事を実施し、満足度の高い結果を得ることができます。
とはいえ、まとめて発注するよりも総工事費が高くなってしまう可能性や、騒音や振動など工事により生活環境への負担が長期化する可能性もデメリットとして挙げられます。
(3)とりあえず集める!「一時金の徴収」
足りないなら、それを補えるだけのお金を皆さんから集めましょう!というのが一時金徴収。
とはいえ、お子さんの受験を控えている・・・リタイアして年金暮らし・・・等々、さまざまなライフステージにある各世帯で、数十万から百万円の一時金をポンと払っていただくのは容易ではありませんし、総戸数が大きくなればなるほどさらに難しくなります。
一時金が設定されている長期修繕計画は、言い換えれば単なる数字合わせで実態の伴うものではないと申し上げても差し支えありません。
この合意形成を乗り越えるハードルは相当高いと考えておいたほうがいいでしょう。
(4)金融機関に借りよう!「借り入れによる資金調達」
不足分を金融機関からの借り入れにより大規模修繕工事を実施する管理組合も少なくありません。
管理会社から「足りないなら、金融機関から借りましょう。他のマンションもそうしてますよ」と最初の大規模修繕工事でアドバイスされて驚いた、という管理組合の声も伺います。
一時金と異なり、今すぐの大きな負担は避けられますが、返済に向けて、以降の修繕積立金の金額もさらなる見直しが必要になるでしょう。
足りない分、その場をしのぐために借りただけですので、「返済」という負担を先送りにしたに過ぎません。
しかし、中古マンションの購入を検討している方々にとっては、大規模修繕工事の費用を借入れている物件は購入後に借入れの返済が続くということから敬遠される傾向があるのも事実です。
借入は資産価値を下げてしまうことにもなり兼ねません。
(5)貯まるまで待つ!「延期して積立金を貯める」
計画している大規模修繕工事の費用について積立金が貯まるまで、大規模修繕工事の実施自体を先送りにするケースです。
一見すると、金銭的な負担が生じないので、賛同は得やすいでしょう。
ですが、もし既に早急な修繕を要するような箇所があった場合、緊急性の高い工事だけを先行して行う必要に迫られることや延期の間にさらなる劣化が進行するなど、結果的に想定よりも工事費が高くなってしまう、というリスクを背負うことになる可能性もあります。
また、人件費高騰の可能性も考慮しておく必要があるかもしれません。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によれば、「建設業男性全労働者」の年間賃金総支給額は、2012年の約483万円から、2017年には約554万円と約15%近くも上昇しています。
以前は、2020年のオリンピック需要がおさまれば落ち着くでしょう、と言われた建設工事費も、建設業界の慢性的な人手不足や工事費高騰の可能性を避けるために大規模修繕工事を先送りした管理組合が数多くあることから、工事発注が増加する可能性もあり今後も上がっていくのではないかという見方もあります。
数年後の工事がさらに割高となる可能性もあるのです。
(6)根本的な解決策!「修繕積立金の値上げ」
これまであげてきた5つの対処法は、あくまで場当たり的な対応策です。一時的にはこれらで乗り切れても、依然として修繕積立金の資金繰りが厳しいことに変わりありません。
そこで、区分所有者の将来的な負担を最小限にするためにも、早い段階で収支状況を見直して必要に応じて値上げを検討しましょう。値上げは、後に伸びるほどマンションの経年劣化や居住者の高齢化が進んでいき、実行するハードルが上がっていきます。できるだけ迅速に話し合い行動に移すことが、未来の負担を軽くするポイントです。
具体的な修繕積立金増額時のポイントについては、下記記事で詳しく解説しています!
長期修繕計画の見直しと修繕積立金増額の進め方
そもそも修繕積立金はなぜ足りなくなる?
修繕積立金が不足してしまう根本的な原因はどこにあるのでしょうか?
実際問題として、これからあげる2点が大きな理由と考えられています。
理由(1)長期修繕計画が実態と合っていない
新築時に作成された長期修繕計画が長年に渡って見直されていないと、現在のマンションの実態に合っておらず大きなズレが生じていることがあります。
資材の高騰や人件費の値上がり、大規模修繕のたびに追加工事をするなど、当初の予算からオーバーした工事を行っていることがあるため、長期修繕計画は定期的な見直しが不可欠です。
そもそも、分譲時の長期修繕計画は各マンション用に作成されている訳ではなく、共通するひな型をアレンジして作られていることが多いです。
そのためマンションの引き渡し以降は、管理組合の手によって各マンションの立地や仕様などに応じた精度の高い長期修繕計画に見直していく必要があるのです。
理由(2)修繕積立金の徴収額が適正でない
新築マンションの場合は、顧客の購買意欲を高めるために初期の修繕積立金を安く設定しているケースが珍しくありません。
国土交通省「マンション総合調査」によると、段階増額積立方式を採用して実際に増額しているのは全体の81.7%、採用しているにも関わらず増額したことがないマンションは16.4%だそうです。
積立金額が段階的に増額されていれば大規模修繕前に資金繰りに困る可能性は低いはずですが、長年に渡って増額されていない場合は将来的に資金不足に陥る可能性が高くなります。
参照:国土交通省「平成30年度マンション総合調査結果(管理組合向け調査の結果)」
修繕積立金が足りないときは第三者のプロが頼りになる!
マンションを所有する以上、避けて通ることはできない修繕費用の問題を乗り越えていくためには、長期修繕計画の見直しや修繕積立金不足への対策が欠かせません。しかし実際に長期修繕計画に向き合ってみても、専門知識が無いと何から手を付けていいのか判断が難しいことでしょう。もし妥当なチェックとアドバイスをしてくれる相談相手がいたら・・・そう思われましたら、迷わずさくら事務所の専門家に声をおかけください。さくら事務所は、どの管理会社や、施工会社ともつながりがありませんので、公平公正な第三者として、客観的なチェックとアドバイスが可能です。管理会社と管理組合との話し合いだけでは気付けなかった問題点や解決策をご提案いたします。
さくら事務所では、「大規模修繕はそもそも今、必要か?」という工事実施のタイミングを見計らうところから、管理組合様のご相談を承っています。また、施工会社選び、工事内容や見積りのチェック、着工後の工事品質チェックなど、大規模修繕に関わるご相談も可能です。あなたのマンションがベストな選択をできるようを一級建築士などはじめとする経験豊富なプロが丁寧にサポートいたします。
ぜひご活用ください!