2026年9月28日、公正取引委員会(公取委)は、関東地区のマンション大規模修繕工事をめぐる談合について、設計コンサルタント2社と施工会社40社の計42社に独占禁止法違反を認定し、排除措置命令と課徴金納付命令を出しました。2025年3月の立ち入り検査から約1年半を経ての処分で、談合が認定された工事は171件にのぼります。
大規模修繕工事における談合は、長年指摘されてきた問題です。2017年1月には、国土交通省が悪質コンサルタントによる談合について、相談窓口の周知とともに異例の警鐘を鳴らしていました。今回の処分は、その構図が行政処分という形でついに裏づけられたものといえます。
公取委の認定では、工事を受注した施工会社が契約価格の5%を目安とする金額を設計コンサルタントに支払っていたとされていますが、競争のない状態で決まる工事費そのものが割高になるため、工事の規模によっては談合による管理組合の損失は受注金額の15~20%に達するともいわれています。
大規模修繕工事の悪質コンサルによる談合はその構造上、被害に遭っていても管理組合は気づきにくく、長年貯めてきた修繕積立金を知らないうちに数千万円や数億円も無駄にしてしまうおそれがあります。被害に遭わないためにも、まずはその構造や手口を把握しておきましょう。
この記事では、マンション大規模修繕工事の談合のカラクリや疑わしい状況、対策について解説します。
「設計監理方式」は談合が起きやすい

今回、公取委が談合を認定した171件の工事は、いずれも管理組合が設計コンサルタントに業務を委託したうえで発注する設計監理方式の工事でした。本来、設計監理方式には客観的な第三者として管理組合をサポートすることが期待されていますが、施工会社と手を組んでバックマージンを受け取る悪質なコンサルティング会社が実際に存在していたことが、公的に裏づけられた形です。
国土交通省の実態調査でも、2021(令和3)年度に大規模修繕工事を行ったマンションの8割以上がこの方式を採用しています。

出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
設計監理方式では、コンサルティング会社が建物の劣化診断などを行い、工事の設計や仕様を決定します。施工会社の選定時には、その設計・仕様をもとに相見積もりを取るため、工事内容ではなく単純な金額の比較になりがちです。さらに、施工会社は決められた工事項目と数量に自社の単価を入れていけば見積もりが完成するため、参加にかかる手間はごくわずかです。参加が手軽であるほど、業者間で受注を譲り合う余地も生まれます。
▶大規模修繕工事の3つの発注方式を比較。設計監理方式・責任施工方式・プロポーザル方式の違いとは
悪質コンサルによるマンション大規模修繕工事の談合の手口

談合は基本的に以下の手口でおこなわれます。
1.破格の安さの委託料でコンサルティングを受託する
2.あらかじめ決まっている施工会社が選ばれるように操作する
3.施工会社が相場以上の工事費用を管理組合に請求しコンサルティング会社にバックマージンを支払う
詳しく見ていきましょう。
1.破格の安さの委託料でコンサルティングを受託する
悪質なコンサルティング会社はまず、競合するほかのコンサルタントに負けないよう、常識外に安い費用で設計監理業務を管理組合から受託します。たとえば他社が400~500万円程度の見積もりを出しているにもかかわらず、その会社だけ「劣化診断から施工監理まで180万円程度で引き受けます」と提案してくるといった具合です。
提示金額が安ければ、当然、管理組合から受注できる可能性は高くなります。しかし通常、大規模修繕工事のコンサルティングには1年半から2年ほどかかるため、本来はこれでは会社として成り立たないはずの金額です。
2.あらかじめ決まっている施工会社が選ばるように操作する
管理組合は、コンサルティング会社のサポートを受けながら施工会社を公募し、各社の見積もりを比較して決定します。この施工会社の選定こそが、談合が行われるタイミングです。
公取委が認定した事案では、設計コンサルタントから発注情報を得た施工会社がコンサルタントに受注希望を伝え、工事ごとに「受注予定者」が決められていました。見積もり合わせに参加するほかの施工会社が管理組合に提示する金額は受注予定者が決め、ほかの会社は指定された金額で見積もりを出すか、そもそも参加しないことで受注予定者に協力していました。「今回のマンションはA社、次はB社」というように、始めから工事を引き受ける会社が決まっている構図です。
管理組合は公正な競争だと思っているため、相見積もりのなかで金額の低い会社や対応の丁寧な会社に発注することになります。しかし実際には、競争原理の働いていない割高な工事費用で発注しています。
3.施工会社が相場以上の工事費用を管理組合に請求しコンサルティング会社にバックマージンを支払う
悪質なコンサルティング会社は、思惑どおり施工会社が決まると、その見返りとして施工会社からバックマージンを受け取ります。今回の事案では、受注した施工会社が工事請負契約の契約価格の5%を目安とする金額を設計コンサルタントに支払っていたことが確認されました。コンサルティング会社はここで大きな利益を見込めるため、コンサルティング業務を破格で受注できたわけです。
バックマージンというと他人事のように聞こえるかもしれませんが、その原資はマンションの居住者が何年にもわたって貯めてきた修繕積立金です。一見、複数社から相見積もりを取り、競争により適切な施工会社を選べたように見えるかもしれません。しかし始めから相場とかけ離れた見積もりで比較しているため、「安い」と思った1社を選んでもバックマージンが上乗せされた、相場より高い費用を払うことになります。
見積もり調整だけでない施工会社選定の不正
談合の手口はコンサルティング会社による見積もり調整だけではなく、次のような形で施工会社が関与することもあります。
受注予定の施工会社が劣化診断も改修設計もおこなっている
国土交通省は、受注が決まっている施工会社が、コンサルティング会社に代わって劣化診断や改修設計も行っていたという例を、通達とあわせて紹介しています。
コンサルティング会社が劣化診断や改修設計を行わなければ人件費などを削減でき、管理組合に安いコンサルティング費用を提示できます。また施工会社からバックマージンを受け取っているため、施工に関して指摘をしにくい心理も働きます。
つまりこの構図では、コンサルティング会社は本来の役割である設計と監理、すなわち正しく施工できているかのチェックを適切に行わないまま、管理組合の大切な修繕積立金を受け取っていることになります。
受注予定の施工会社が他社の分の見積もりまで作成している
受注があらかじめ決まっている施工会社が「かたちだけ見積もりに参加する他社」の見積もりまであわせて作成していたというケースもあります。
今回受注できない施工会社も、持ち回りでいずれどこかのマンションで受注できることがわかっているため、作成をお任せして「後からはんこを押すだけ」という状態になります。
談合を知らずに相見積もりに参加した施工会社を辞退させる
コンサルティング会社や結託している複数の施工会社が、管理組合が独自に動いて相見積もりに参加してもらった施工会社を排除するために辞退させるケースもあります。
ほかのマンションの工事を引き合いに出して圧力をかけ、今回の大規模修繕の相見積もりから辞退させるというものです。当然、管理組合はコンサルティング会社らによる裏側の動きを知る由もありません。
こんなときは注意!大規模修繕で談合が疑わしい状況
管理組合がコンサルティング会社らによる談合を暴くのは難しいですが、次のような状況のときは少し慎重になった方がよいかもしれません。
- ・コンサルティング費用が低額で工事費用が相場より高い
- ・コンサルティング会社が声がけした工事会社以外の応募が無い
- ・見積り額と修繕積立金残額のバランスが絶妙である
- ・1社以外工事を受注したいという熱量を感じない
順に詳しく解説します。
コンサルティング費用が低額で工事費用が相場より高い
ほかのコンサルティング会社と比べてあきらかに低額なコンサル料を提示する会社は、ほかに収入源があるなど、低額にできる理由があるはずです。施工会社から請求される工事費用に、コンサルティング会社へ渡るバックマージンが上乗せされているかもしれません。
コンサルティング費用が割安で、相場よりも高い工事費用を請求されている場合は談合が疑われます。
コンサルティング会社が声がけした工事会社以外の応募がない
施工会社を公募する際、「コンサルティング会社が声をかけた施工会社以外の応募がない」「管理組合が声をかけても断られる」といった場合も注意が必要です。結託しているコンサルティング会社らが圧力をかけていたり、業界内でそのコンサルティング会社の談合の実態が知られていて参入を避けられていたりする可能性があります。
応募条件そのものが不自然に厳しい場合も同じです。「資本金1億円以上」「直近5年間の実績件数」といった要件で参加できる会社を最初から絞り込んでしまえば、実質的には業者を指名しているのと変わりません。条件を厳しくすれば公正な比較になるとは限らず、むしろ参入する会社が多いほど談合は成立しにくくなります。
見積り額と修繕積立金残額のバランスが絶妙である
コンサルティング会社が管理組合の修繕積立金の残高を工事会社に教え、その残高に合った「ちょうどいい金額」を提案して受注するというケースもあります。お財布の中身を知られたうえで、建物の状態から工事が必要だといわれれば、管理組合としても支払わざるを得ないでしょう。
公取委の認定でも、設計コンサルタントが業務の過程で把握した管理組合の発注予定金額を受注予定の施工会社に伝えていたことが明らかになっています。公取委は、発注予定金額や選定基準、見積もりに参加する会社名、ほかの会社の見積価格といった情報が施工会社に渡れば競争をゆがめるおそれがあると、業界団体にも注意を促しました。管理組合側から見れば、こうした情報を誰がどこまで知っているのかを意識しておくことが、談合を疑う手がかりになります。
1社以外工事を受注したいという熱量を感じない
見積もりの内容や現地視察、プレゼンテーションなどの際に、1社以外に工事受注への熱量を感じない場合は、出来レースになっている可能性があります。
あらかじめ決まっている工事会社が選ばれるように、あえてほかの会社が悪い印象をもたれるような対応をしていることがあるためです。「圧倒的に好印象な1社」がある場合も慎重に検討しましょう。
大規模修繕における談合などのトラブル防止策
大規模修繕を進めるなかで談合などのトラブルを防ぐためには、以下7つが重要になります。
- ・成果報酬型や無料サービスに注意する
- ・金額だけでコンサルティング会社を選ばない
- ・管理組合主導の施工会社選びをする
- ・管理組合内に協力者を増やす
- ・第三者の専門家にセカンドオピニオンを依頼する
- ・スケジュールにこだわりすぎない
- ・コンサルティング契約にペナルティ条項を入れる
詳しくみていきましょう。
成果報酬型や無料サービスに注意する
コンサル料が安すぎる会社も危険ですが、成果報酬型や無料のサービスが充実している会社にも注意が必要です。
成果報酬型は一見良心的に思えるかもしれませんが、営利企業であることに変わりはありません。成果報酬を確保するために「この金額でなんとかやってくれ」と施工会社に持ちかけるなど、談合が生じて安かろう悪かろうの工事になる危険性があります。
また、コンサルティングを依頼すると、劣化診断や長期修繕計画の見直しを無料で実施している会社も少なくありません。しかし、人件費などのコストは確実にかかっているため、大規模修繕のトータルコストにその分が上乗せされていることが考えられます。
金額だけでコンサルティング会社を選ばない
コンサルティング会社を金額だけで選ぶと、談合に巻き込まれる危険性が高まります。コンサルティング費用の相場は、大規模修繕工事にかかる総額のわずか5%程度というのが実態です。
とはいえ「金額が安い」ことには、総会で決議する際に説得しやすいというメリットもあります。金額以外の判断材料が不足しがちなのも事実です。そのため、金額以外で説得できる工夫が必要になります。
たとえば、選考に残っているコンサルティング会社3社に、それぞれ区分所有者向けの勉強会を実施してもらい、コストや提案内容を含めてどこがよいか事前に区分所有者にアンケートをとっておくと、その結果が立派な判断材料になるでしょう。
管理組合主導の施工会社選びをする
管理組合主導で施工会社選びをすれば、談合を避けやすくなります。コンサルティング会社は、施工会社選定においてあくまでもサポートする立場です。相見積もりを取る際の候補となる工事会社選びや各社への声かけは、管理組合が自らおこないましょう。
管理組合が積極的に施工会社選びに関わっていれば、コンサルティング会社が怪しい動きをしているときに、どこかで違和感を覚えるはずです。現場と図面をきちんと確認し、時間をかけて積算してくれる施工会社かどうかも、選ぶ際の目安になります。手間をかけて作った見積もりを、他社に「譲ってくれ」といわれて差し出す会社はまずありません。
管理組合の無関心は談合しやすい環境を作ります。私生活では出費にシビアな方でも、一度自分の手を離れた修繕積立金には無関心になりがちです。「自分たちのマンションの修繕積立金は自分たちで守る」という意識を持ち、談合する隙を与えないために施工会社選びをコンサルティング会社の委託業務から外すのもよいでしょう。
管理組合内に協力者を増やす
大規模修繕工事に真剣に向き合う修繕委員などの協力者を増やすことができると、談合に巻き込まれにくくなります。管理組合内に協力者がいないと、コンサルティング会社が悪質だったとしてもその人に頼るしかなく、意見が偏ってしまうためです。
修繕委員を増やせば、反対意見が出てくることもあります。しかし、反対意見も含めてさまざまな意見が出るからこそ、組合内で協議して考える機会が増え、談合の抑止力につながります。
修繕委員を増やし、老若男女、さまざまな立場の方の意見をもらうためには、緩やかな関わり方を認めていくことが大切です。たとえば、話し合いの場に毎回参加しなくても、できるときだけ顔を出して意見してもらえるような環境を作りましょう。
修繕委員の募集チラシに理想を詰め込むほど「そこまで時間を割けない」「知見がないからできない」など、参加へのハードルが上がってしまうため、募集方法を見直してみるのも有効です。
第三者の専門家にセカンドオピニオンを依頼する
大規模修繕を進めていくなかでコンサルティング会社や管理会社、施工会社などに不信感を持つことがあれば、早い段階で第三者の専門家にセカンドオピニオンを依頼するのがおすすめです。
一般的に管理組合はマンション大規模修繕の知識が豊富なわけではないため、不信感があっても声を上げにくかったり、説明されても完全には意味を理解できなかったりすることもあるでしょう。最悪の場合、言いなりになってしまう可能性もあります。
コンサルティング会社など各専門家と対等に話すためには、利害関係のない第三者の存在が必要です。大切な修繕積立金を使う大規模修繕だからこそ「こういうものなのか」で終わらせるのではなく、しっかり納得できる方法で進めていきましょう。
スケジュールに拘りすぎない
大規模修繕工事を進めるにあたり「もしかしたら談合されているかもしれない」と思った場合は、まず第三者に相談するのがベストです。その際に気をつけたいのが、計画中のスケジュールにこだわりすぎないことです。
もし談合されていたら、本来の大規模修繕工事費用より割高な出費をしていることになります。今回は切り抜けられても、その分が将来の修繕積立金の不足となって表れ、次回の大規模修繕工事で資金不足に陥る可能性があります。
建物の状態からどうしても工事を急がなければならない状況でないのであれば、始めからやり直す覚悟を決めましょう。
コンサルティング契約にペナルティ条項を入れる
コンサルティング会社との業務委託契約書に、談合などの不正が判明した場合の措置を定めたペナルティ条項を入れておくことも有効です。不正を行う意思がなければ、コンサルティング会社にとって条項を受け入れることに支障はないはずです。
万が一のときに管理組合が救済を受けられるかどうかは、この条項の有無で大きく変わります。契約書に条項がなければ追加を求め、応じてもらえるかどうかも含めて、契約前に確認しておきましょう。
大規模修繕で談合を防ぐなら「プロポーザル方式」がおすすめ

談合は巧みに行われているため、出てきた見積書を見るだけでは見抜けません。談合を避けるためには、発注方式から検討してみましょう。
さくら事務所がおすすめしているのが「プロポーザル方式」です。コンサルティング会社が仕様を決めるのではなく、管理組合の要望を施工会社に伝えて、その要望を実現するために各社に仕様と工事金額を提案してもらう選定方式で、決まった仕様に金額を入力するだけの設計監理方式と異なり、施工会社がそのマンションの下調べをして本当に必要な工事や資産価値を高める工事を提案するため、熱意ある施工会社しか対応できませんし、各社の仕様も異なるので談合が難しくなります。
プロポーザル方式でも談合を100%防げるわけではありません。しかし、コンサルタントが特定の施工会社を推すのではなく、各社の仕様と工事金額を見て、最も管理組合にふさわしい提案をしてきた会社を管理組合自身が選ぶ方式ですから、談合を避けるだけでなく管理組合の要望が実現しやすい方法としておすすめです。
▶プロポーザル方式による大規模修繕工事の進め方。施工会社選定の流れとメリット・デメリットを解説
大規模修繕の談合は管理組合だけでは見抜けない!第三者の専門家に相談しよう
今回の公取委の処分で、業界には警戒感が広がっています。一方で、処分の対象にならなかった会社に談合がなかったとはいえず、処分が出たからといって談合そのものがなくなるわけでもありません。大規模修繕の談合は巧妙な手口で仕組まれており、管理組合が見抜くのは難しいでしょう。
さくら事務所では、談合を避けるために有効な施工会社選び「プロポーザル方式」を採用し、管理組合の皆さまの主体的な施工会社選定をサポートしています。見積もりが高いなど不信感があるときに相談できる大規模修繕セカンドオピニオンサービスも実施中です。ベテランコンサルタントが豊富なデータベースから見積もりの妥当性をチェックしたり、予算を最小限に抑えられる方法がないかアドバイスしたりと、管理組合の皆さまの意向に沿った大規模修繕にするためにサポートいたします。
提案されるがままに工事して修繕積立金を浪費してしまうと、金融機関からの借入や一時金の徴収を余儀なくされることもあります。今後の資金計画が大きく狂うだけでなく、区分所有者とのトラブルにもなりかねません。
大規模修繕に関するお悩みは早い段階で解決しないと、問題が深刻化します。大切な修繕積立金を無駄にしないためにも、不安や疑問があれば、まずはお気軽にさくら事務所にご相談ください。










