3回目の大規模修繕になると、大まかな流れやスケジュール感を把握できていたり、過去に修繕委員としてかかわった方も増えていたりと、マンション全体の経験値が上がっています。
1回目、2回目の大規模修繕よりも、スムーズに進行できるように感じられますが、築年数の経過に伴い、マンションの劣化が進んでいることから、これまでの修繕と異なります。また、窓サッシや玄関ドア、給排水管の交換など、費用負担の大きい箇所の修繕も検討するタイミングであることから、「どこまで修繕するか」や「優先順位はどうするか」など工事内容をしっかり見極めなければ、修繕費用が膨れ上がる一方です。
そこで本記事ではマンションの大規模修繕3回目にかかる費用の目安と3回目だからこそ重要になってくる老朽化対策について解説します。
目次
マンションの3回目の大規模修繕の重要性
大規模修繕は回数に問わず、マンションの居住性や安全性を維持していくために不可欠です。とくに3回目の大規模修繕を迎えるマンションは、各所で不具合が生じているケースが多く、適切に修繕しなければ、近い将来大きな問題となり現れてきます。
3回目の大規模修繕では、おもに以下3つの目的を果たすことが重要です。
・マンションの寿命を延ばす
・価値観をアップデートする
・資産価値を上げる
順に解説します。
マンションの寿命を延ばす
3回目の大規模修繕はマンションの寿命を延ばすために必要です。
3回目の大規模修繕を迎えるころには、建物の設備や構造の劣化も進んでいます。対策しなければ居住快適性や安全性が低下し続け、老朽化マンションとして扱われていくことになるでしょう。
大規模修繕で設備や構造などの劣化を回復させ、寿命を延ばせられれば、長く安全に居住できるマンションとして機能します。
価値観をアップデートする
3回目の大規模修繕は価値観をアップデートさせることも大切です。時代の移り変わりや居住者の高齢化に伴い、建設当初と世間や居住者のニーズが変わってきています。
マンションの寿命を延ばすためだけの大規模修繕にすると、最低限の暮らしはできますが、快適性や満足感を得るには不十分です。バリアフリー化や防犯面の強化など、安心して快適に暮らせるための工事を取り入れましょう。
資産価値を上げる
3回目の大規模修繕はマンションの資産価値を向上させることも考えましょう。今は、建設当初よりも高性能な設備や革新的な技術が開発されています。さらに、昨今は環境へ配慮されたエコや省エネ対策も重要視される時代です。
そういった新しいものを取り入れていくことで、ほかの築古マンションと差別化でき、資産価値の向上に繋げられます。
マンションの大規模修繕3回目の費用
マンションの大規模修繕は回数によって、工事金額に若干の差があります。国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、回数ごとの工事金額は下記グラフの通りです。
国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」を基に作成
3回目以上の大規模修繕では「~8,000万円」と「~15,000万円」がもっとも多い割合を占めています。1回目は「~6,000万円」2回目は「~8,000万円」が多いため、3回目以上は1回目および2回目よりも高額な傾向です。
ただし、3回目以上は「2,000万円以下」の割合も1、2回目よりも多くなっています。3回目以上の大規模修繕では、これまでの修繕履歴が大きく影響するため、マンションによってばらつきが大きいのが特徴です。
大規模修繕の工事項目ごとの費用相場や工事費を払えないときの対処法は下記記事で詳しく解説しているので、参考にしてください。
マンション大規模修繕の費用と工事内容を解説!払えないときの対処法とは
マンションの大規模修繕3回目の時期は慎重に判断しよう
大規模修繕は、長期修繕計画で予定されている時期に実施しているマンションが大半です。しかし3回目の大規模修繕は、工事費が高額になりやすく資金不足に陥りやすいため、実施時期を慎重に判断しましょう。
一般的には築40年以上で実施されている
国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると3回目の大規模修繕は、築41年以上のマンションが46.5%、次いで築36~40年が25.5%という結果でした。
また、大規模修繕は12~15年前後の周期で実施するマンションが大半ですが、1回目から3回目まで回数が増えるごとに周期が短くなっている傾向もあります。
参照:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
長期修繕計画どおりのタイミングで行うべきか改めて検討する
3回目の大規模修繕は計画通りの時期に実施するのか、改めて検討することが大切です。長期修繕計画どおりに大規模修繕するのが一般的になっていますが、計画された実施時期がベストタイミングとは限りません。
「計画されているから修理する」のではなく、劣化状況や部材の耐用年数などから総合的に考えて「今修繕する必要があるのか」見極めましょう。延期できる工事があれば、その間、修繕積立金を積み立てられ、資金を貯められます。
修理すること前提ではなく、修繕時期を検討するために劣化診断を活用するのがおすすめです。
3回目のマンション大規模修繕のおもな内容
3回目の大規模修繕のおもな内容について紹介します。大規模修繕の基本的な工事項目と、築30~40年頃に必要になる工事項目に分けてみていきましょう。
大規模修繕の基本的な工事項目
大規模修繕の基本的な工事項目は大きく分けて以下4つです。
・躯体コンクリート、タイル補修
・外壁塗装、鉄部塗装
・シーリング
・屋根、屋上防水
上記は大規模修繕の回数に関係なく必要になる項目です。ただしこれまで実施してきた修繕方法によっては、内容が変わる項目もあります。
たとえば、屋上防水や外壁塗装など、1回目または2回目で既存のものの上から重ねたり部分的な補修対応で済ませたりしている場合、3回目は既存のものをすべて撤去・除去してから新しいものにします。
このように、3回目は1、2回目より大がかりな工事になることも、工事金額が高くなる要因のひとつです。
築30~40年頃に必要な工事項目
築30~40年頃には、以下のような設備交換工事が必要になります。3回目の大規模修繕のタイミングで実施するマンションも珍しくありません。
・エレベーターリニューアル
・機械式駐車場更新
・給排水管更新
・玄関ドア、窓サッシ交換
基本的な大規模修繕に加え、金額の大きい工事が必要になるため、綿密に修繕時期・方法の計画を立てないと、うまく資金繰りできません。
エレベーターや機械式駐車場はメーカーが保全計画を立てているため、明確に工事時期が決まっています。
しかし、給排水管の更新や玄関ドア・窓サッシの交換は、劣化状況や使用されている部材などを判断材料に、修繕方法や工事時期を検討しなおしましょう。
3回目の大規模修繕を迎えるマンションの老朽化対策5つ
3回目の大規模修繕を迎えるマンションは、老朽化対策が課題です。マンションの経年劣化で修繕費用がかさむうえ、区分所有者の高齢化により修繕積立金の値上げや修繕積立一時金の徴収が難しくなり、修繕資金の確保にますます苦労します。
修繕資金が枯渇すると、必要な修繕ができず居住性が低下し、空室が増え、修繕積立金が集まらない、といった悪循環が生じてしまうのです。悪循環によりマンションのスラム化を防ぐための老朽化対策を以下5つ紹介します。
(1)役員要件を緩和して若い世代の考えを取り入れる
(2)所在不明住戸をなくす</h3>
(3)日常的な管理にかかる費用を見直す</h3>
(4)建て替えや敷地売却も視野に入れて計画を立てる
(5)外部専門家にアドバイスを受ける
順に解説します。
(1)役員要件を緩和して若い世代の考えを取り入れる
区分所有者の高齢化による問題を解消するためには、役員になれる要件を緩和して若い世代の考えを取り入れることが大切です。
区分所有者の高齢化が進むと、役員のなり手が不足したり、高齢の方の意見ばかりが取り入れられ、若い世代の入居を促進できなかったりする問題が生じます。
たとえば役員要件を、世帯主だけでなく、マンションに住んでいない世帯主の子どもまで緩和し、理事会にはオンライン参加もできるようにするなど、工夫しましょう。
なかには「死ぬまで安全に住めればいい」と変化を望まない高齢者もいますが、新しい前向きな意見や若い世代の意見が取り入れられやすいことは、自分の子どもに相続するときにもプラスになります。
(2)所在不明住戸をなくす
所在不明住戸をなくすことも老朽化対策の1つです。老朽化マンションでは所在不明住戸の増加も問題視されています。
所在不明住戸は、総会の議案書を送っても返答がない、管理費・修繕積立金の未払いがあっても督促できないなど、マンションを管理していくうえで不都合が多いです。
所在不明住戸がある場合は、管理会社や弁護士に協力してもらい所在を明確にしておきましょう。また、今後新しく相続や売買があるときは、必ず管理会社を通すことなどを規定し、居住者および区分所有者の詳細を管理できるようにしておくことが大切です。
(3)日常的な管理にかかる費用を見直す
日常的な管理にかかる費用を見直すことでコスト削減でき、マンションの寿命を延ばすための修繕費用に充てられます。
日常管理にかかる費用で大きな割合を占めているのが、管理会社に支払う管理委託費です。管理委託費は分譲時から同じ内容及び金額で契約しているマンションが多く見受けられます。
「清掃や設備点検の頻度は多すぎないか」「管理人の常駐時間は長すぎないか」など、区分所有者に現状の管理についてアンケート調査を実施し、ベストな内容にすることで、管理委託費を削減できるかもしれません。
(4)建て替えや敷地売却も視野に入れて計画を立てる
建替えや敷地売却も視野に入れて、今後の計画を立てましょう。現状、建て替えや敷地売却などの決議要件は緩和されている傾向がありますが、実際はまだ難しいのが現状です。
とはいえ、高経年マンションが増えているのは事実のため、今後、さらなる要件の緩和が期待できます。将来の選択肢のひとつとして、建て替えや敷地売却も視野に入れて、定期的に計画を見直していきましょう。
できる範囲で修繕しながら住める期間を延ばしていくのか、解体するのかによって、計画は全く異なります。マンションの方向性について管理組合で話し合っておきましょう。
(5)外部専門家にアドバイスを受ける
外部専門家にアドバイスを受けて、修繕計画を立てていくことをおすすめします。「管理会社から修理提案を受けているが資金が足りない」「本当に全部やる必要がある?」といった悩みを抱えているマンションは少なくありません。
管理会社は立場上保全的になる必要があり、つねに修繕する個所がどこにもない完璧な状態になるように提案する傾向があります。しかし限りがある予算で管理会社から提案されるがままに修繕すると、いずれ資金ショートするのは明らかです。
第三者の外部専門家なら管理会社や分譲会社とは違い、中立な立場で過剰な修繕と必要な修繕をアドバイスできます。
外部専門家に依頼するときは、マンションの建築工事と管理組合の運営、どちらにも長けているコンサルティング会社がおすすめです。工事に関することだけでなく区分所有者の合意形成など、幅広い視点からサポートを受けられます。
3回目の大規模修繕費用はマンションの将来を見越して使い道を検討しよう
3回目の大規模修繕は、大きな設備工事を控えていることもあり、これまでよりも多額の費用がかかる傾向があります。工事資金を確保するためにも「3回目の大規模修繕を本当に今やる必要があるのか」から見直しましょう。
3回目の大規模修繕を迎えるマンションは、老朽化問題にも真剣に向き合わなければいけません。役員要件を緩和し、若い世代の意見も取り入れられるようにしたり、所在不明者をなくしたりすることで、管理組合をしっかり機能させ、コスト削減方法や将来の方向性を話し合う環境を整えましょう。
さくら事務所では大規模修繕に向けた建物劣化診断を実施しています。工事ありきの診断ではなく、今工事すべきか判断するためにご活用ください。第三者の中立な立場で、客観的に工事の適正時期をアドバイスいたします。
そのほか、大規模修繕に関わる管理組合のトラブル防止やリスク回避のために、建築及び管理組合の運営に長けたさくら事務所の専門家が修繕委員のメンバーの一員となり、サポートする「外部修繕委員」もあります。マンションの将来に直結する3回目の大規模修繕だからこそ、ぜひご利用ください。
外部修繕委員(中大規模マンション向け大規模修繕コンサルティング)
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