大規模修繕における公募を解説!メリットとデメリット・流れ・注意点とは

  • Update: 2025-02-06
大規模修繕における公募を解説!メリットとデメリット・流れ・注意点とは

この記事はマンション管理士/一級建築士などの専門家が監修しています

大規模修繕では、公募で施工会社を募るケースも多いです。公募すると普段接点のない会社と繋がりをもてて選択肢が広がるため、自分たちのマンションにとってベストな施工会社選定が可能になります。

しかし、正しい公募のやり方を知らないと、談合などのトラブルに巻き込まれたり、信頼できる会社を見極められなかったりと、公正な判断ができなくなることも。

そこで本記事では、大規模修繕の公募のメリット・デメリットや流れから、ヒアリング会の質問内容まで詳しく解説します。談合を防ぐ方法についても触れますので、公募による施工会社選定を検討している方は参考にしてください。

大規模修繕での公募は2種類ある

そもそも公募とは、会社規模などの条件を提示したうえで、大規模修繕の施工会社を広く募集し、提案された見積もりを比較して発注先を決定することです。

大規模修繕における公募は、大きく分けて以下2つの方法があります。

・作成済みの仕様に基づき提案してもらう

・工事仕様も含めて提案してもらう

順に解説します。

作成済みの仕様に基づき提案してもらう

一つ目はすでに作成されている工事仕様書に基づいて、各工事会社に提案してもらう方法です。おもに、コンサルティング会社や管理会社などが工事の仕様を設計し監理する「設計監理方式」で採用されます。

公募により仕様書に基づき提案してもらう場合のメリットとデメリットは以下のとおりです。

メリット

メリットは見積もりを比較しやすいことです。すでに仕様が決まっており単純に金額だけを比べるため、工事に詳しくなくてもかんたんに比較検討できます。

事前に見積書の書式を作成し、金額だけ入力してもらうようにしておくと、より差がわかりやすいでしょう。

また、各工事会社が仕様を決める必要がないため、負担が少なく、多くの会社から応募が集まりやすいのもメリットです。

デメリット

デメリットは、価格ありきの見積もりになり施工品質が二の次になってしまうことです。単純な金額比較になると談合が起きやすくなる懸念点もあります。

公募前に、管理会社やコンサルティング会社へ工事仕様を作成するための設計費用が発生するのもデメリットです。さらに仕様書を作成しても、その内容が100%マンションにとって適切とは限りません。仕様自体の妥当性のチェックが働きにくいのも注意点です。

工事仕様も含めて提案してもらう

二つ目は工事仕様も含めて提案してもらう方法です。

設計と施工を管理会社や分譲会社などの一社にまとめてお任せする責任施工方式を採用しているマンションも多いですが、公募する場合は、応募してきた会社の中から責任施工でお任せする一社を決定(プロポーザル方式)します。

工事仕様も含めて提案してもらう場合のメリットとデメリットは以下のとおりです。

メリット

メリットは、公募により競争原理が働くことで、価格だけでなく趣向を凝らした工事仕様と見積もりを提案してもらいやすいことです。

各工事会社は仕様を決定するために、それぞれの視点でマンションを徹底的に調査することから、複数の観点から修繕の必要性をみてもらえます。

単純な金額比較ではなく、工事会社の提案力も比較できるため、談合などのトラブルが起きにくいのもメリットといえるでしょう。また、公募の前に仕様を決定する必要が無いため、設計費用がかかりません。

デメリット

デメリットは見積もりの比較検討が難しいことです。

修繕箇所や工法の提案も各社さまざまなため、見積もり内容に対するコストの妥当性を判断し、各社を比較しなければいけません。工事に対する知識がなければ管理組合だけで、良し悪しを決めるのは難しいでしょう。

また工事会社が工事仕様も提案するため、現地調査が必要となり、手間や費用がかかります。採用されるかわからないなか、時間と費用をかけて準備するため、工事会社の負担が大きく応募数が少なくなりやすいのもデメリットです。

しかし、だからこそ応募するからには「なんとしてでも選ばれたい」と熱意のある提案を受けられます。

公募と対照的な特命随意という方法もある

大規模修繕の施工会社選定は公募だけではありません。公募と対照的な「特命随意」という方法もあります。

特命随意は、はじめから管理会社などの一社を指名し工事を進める方法です。他社と比較することなく提案された見積もり内容を検討して、契約を決定します。

日頃から付き合いがあり、日常管理によりマンションの状態をよくわかっている管理会社に依頼する場合は、すでに信頼関係が築けており安心して工事を任されられるでしょう。

前回の大規模修繕も施工してもらっていれば、反省点を活かしてより満足度の高い工事にすることもできます。

しかし、他社と相見積もりしないことで競争原理が働かず、工事費が割高になったり、型にはまった提案になったりしやすいのが難点です。

公募により大規模修繕の施工会社を決定するときの流れ

公募で大規模修繕の施工会社を決定するときの流れを紹介します。それぞれポイントも解説しているので参考にしてください。

(1)公募の手段・要綱を決定して情報を公開する

(2)応募してきた工事会社の書類審査をする

(3)見積書やヒアリング会で施工会社を決定する

(4)総会で決議する

順にみていきましょう。

(1)公募の手段・要綱を決定して情報を公開する

まず、マンション業界紙・新聞・設計コンサルティング会社のホームページなど、どのような手段で情報を公開するか決めましょう。

募集要項には工事概要・参加資格・公募期間・提出書類・公募提出先などを記載し、参加資格を提示しておきます。

参加資格は、設立年数や資本金、一級建築士事務所か、近年の赤字決算など、依頼したい会社の条件を設定してください。

ここである程度条件を提示することで、一定の水準をクリアした会社が集まります。ただし条件を厳しくしすぎると、応募数が少なくなるため注意しましょう。

(2)応募してきた工事会社の書類審査をする

応募してきた工事会社の書類審査をして、2、3社にしぼります。応募書類から過去の実績や施工能力、経営状態をチェックしましょう。

公募の場合、あらゆる経歴をもつ会社からの応募が期待できます。大手ゼネコン系、管理会社系、塗装や防災といった専門会社系など、バランスよくピックアップするのがおすすめです。

とくに工事の仕様から提案してもらう場合は、より多様な提案をもらえて、新しい発見があるでしょう。

(3)見積書やヒアリング会で施工会社を決定する

工事会社をしぼったら、見積書やヒアリング会で施工会社を決定します。仕様も含めた提案をもらうときは、図面や修繕履歴などのデータだけでなく、工事会社各社が現地調査をおこなうため、見積もり作成期間は2か月前後です。

見積金額や工事仕様に関する提案内容、ヒアリング会での応対や意気込みなどから、どの会社がマンションにとってベストな施工会社になるか、総合的に判断します。

なお、金額についてはタイル補修などの実数精算であまく見積もられていないか、各会社を比較して確認しましょう。実数精算方式については下記記事で詳しく解説しているため、参考にしてください。

大規模修繕の追加費用の発生率が4割超!理由と対策、トラブル事例を紹介

(4)総会で決議する

依頼する工事会社を決めたら、総会で決議します。

総会の決議要件は工事の程度により異なり、形状又は効用の著しい変更を伴わない軽微な修繕であれば普通決議、著しい変更を伴うような修繕であれば特別決議です。

総会では、施工会社選定のプロセスを透明化し、区分所有者の合意を得られるように説明します。工事内容についても必要性がわかるように、事前説明会を実施するとよいでしょう。

施工会社にも出席してもらえると、工事内容の詳細について説得力のある説明ができ、質問にも的確に答えられます。

公募による施工会社選定のヒアリング会での質問事項

施工会社の最終決定のカギとなるのが、ヒアリング会です。ヒアリング会は、最終選考に残っている会社にプレゼンテーションしてもらったり質問したりする場になります。

ヒアリング会は、工事会社の営業担当だけでなく現場代理人も出席するのが一般的です。大規模修繕を成功させるには、現場に常駐し管理する現場代理人の人柄や力量が非常に重要になってきます。

そのため、ヒアリング会では現場代理人に質問し返答してもらうことが大切です。具体的には以下5つを質問しましょう。

(1)公募に参加した動機

(2)自分の会社を採用するメリット

(3)同規模マンションの大規模修繕工事での苦労話と解決策

(4)職人とのコミュニケーションの方法・頻度

(5)管理組合やコンサルタントとのコミュニケーション手段・頻度

順に紹介します。

(1)公募に参加した動機

公募に参加した動機を聞きましょう。公募の動機を掘り下げて聞くことで有益な提案やその会社が考えている意図を引き出せる可能性があります。

あまり真剣に考えずなんとなく応募してきた会社は、明確な動機を答えられないケースも多いです。動機の具体性によって、マンションの大規模修繕に対する本気度をうかがえます。

(2)自分の会社を採用するメリット

自分の会社を採用したときのメリットについても聞いておきます。営業担当者は、メリットや強みなどのアピールポイントを常日頃意識しているため、必ず現場代理人に質問してください。

ヒアリング会ではプレゼンテーション用の資料を配られるケースが多いです。資料の内容と現場代理人の返答が同じかどうか確認します。

会社ができること・やりたいことが現場代理人に浸透していないと、どんなに魅力的な会社であっても、現場レベルで実行できず会社の強みを十分に活かせません。

(3)同規模マンションの大規模修繕工事での苦労話と解決策

プレゼンテーションなどのアピールする場では、会社の実績や成功体験を聞くことが多く、苦労話や失敗談はあまり話されません。

そこであえて、同規模マンションでどのような苦労や失敗をして、どうリカバリーしたのか聞くことで、自分たちのマンションにどのように活かしてくれるのかわかります。

トラブルが生じたときの問題解決力や柔軟性、現場代理人の経験値も判断できるでしょう。

(4)職人とのコミュケーションの方法・頻度

現場代理人が職人とどのくらいの頻度でコミュニケーションをとっているのか、確認しましょう。

大規模修繕では、朝礼時に全員で顔を合わせるケースが大半です。しかし、朝礼以外では職人と会話する機会がなく、塗装や防水などのリーダー任せになっていて、コミュニケーション不足になっていることも。

実際に作業する職人が言いたいことをいえる風通しのよさは、施工品質にもプラスに働きます。

現場代理人が1日1回は現場を巡回して、職人と現状のコンディションや体調などさまざまな会話をしている、など積極的にコミュニケーションをとっているほうが、安心して任せられるでしょう。

(5)管理組合やコンサルタントとのコミュニケーション手段・頻度

大規模修繕中は、月に1回程度の頻度で工事定例会が実施され、進捗状況などが報告されます。しかし、定例会のタイミングでの報告では不十分です。

大規模修繕では計画通りに工事が進まないケースは多々あります。また日常的にイレギュラーや突発事案が発生するため、どの程度の頻度で報告してもらえるのか確認しておきましょう。

報告の手段には電話・メール・LINEなどがあります。電話だと特定の方にしか情報が伝わらない、メールやLINEだと履歴に残せるなど、手段によってメリットとデメリットがあるため、合わせて確認しておきましょう。

【注意】大規模修繕は公募でも談合の危険性がある

大規模修繕における悪質コンサルタントの談合が問題視されています。公募による施工会社選定の場合、心配ないように感じますが、巧妙な手口により談合が成立してしまうのです。

談合を防ぐには、設計監理方式でも管理会社やコンサルタントに任せきりにせず、管理組合が主体となり施工会社選定に関わっていくことが大切になります。

たとえば、公募の応募書類の提出先を管理組合にしたり、書類審査に積極的に関わったりと、談合の隙を与えないようにしましょう。また、公募に参加している会社の情報を外部に漏らさないことも重要です。

大規模修繕の談合の手口については下記記事でまとめていますので、参考にしてください。

マンション大規模修繕工事の談合に注意!手口や疑わしい状況、対策とは

大規模修繕の公募は仕様から提案してもらうプロポーザル方式がおすすめ

大規模修繕における公募は、作成済みの仕様に基づき提案してもらう方法と工事仕様から提案してもらう方法の2種類あります。

仕様に基づき提案してもらう場合は、単純な金額比較になるため検討しやすいですが、施工品質は重要視されません。談合が起きやすいのも懸念点です。

仕様から提案してもらう場合は、複数の視点でマンションをチェックしてもらえ、趣向を凝らした見積もりを提案してもらえます。比較検討は難しいですが、談合が起きにくいのがメリットです。

さくら事務所では、仕様から提案してもらうプロポーザル方式での施工会社選びをサポートしています。建築的な知識と不動産の知識を合わせ持った視点で、比較検討の難しい提案に対して、コストや品質面でのメリットデメリットをわかりやすいように精査します。

管理組合主体の施工会社選びができるため、談合の心配がなく、より納得感の高い大規模修繕が可能です。

また、設計監理方式などで進めている場合でも、見積もりの妥当性や工事仕様、進め方で不安があるときに、客観的な第三者として相談にのれるセカンドオピニオンサービスも実施しています。

さくら事務所ではこれまで900件を超える管理組合様向けサービスの実績があります。ベテランコンサルタントが対応いたしますので、お気軽にご相談ください。

専門家がサポートする大規模修繕工事の施工会社選び「修繕★参謀」

大規模修繕セカンドオピニオンサービス

また以下の動画では、大規模修繕工事の施工会社の選定のポイントを詳しく解説しています。ぜひご覧ください。

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原 恭介
監修者

原 恭介

大手ゼネコンにて鉄骨造や鉄筋コンクリート造のマンション、ホテル、オフィス、商業施設等の新築現場管理の他、複合施設内の機械式駐車場、プール、大浴場の改修工事管理も従事。
築古のマンション、戸建て管理業務に従事中。