大規模修繕は、中古マンションにとって将来の居住性や資産価値を大きく左右する一大イベントです。足場をかけて実施する大々的な工事のため多額の費用がかかりますし、工事中は生活するうえで不便も多いです。
事前に大規模修繕について理解し、費用面や工事中の生活面での心配事を解消しておきましょう。
本記事では、大規模修繕の費用や事前に確認しておくべきこと、工事中の生活など、幅広く紹介します。大規模修繕を控えた中古マンションにお住まいの方はぜひ参考にしてください。
目次
中古マンションの大規模修繕の重要性
中古マンションの大規模修繕の目的は「居住者及び近隣住民の安全性の確保」と「マンションの資産価値の維持」です。
マンションなどの建物は、時間の経過とともに外壁のひび割れやタイルの剥落、設備の老朽化などの劣化が進みます。外壁のひび割れ部分から雨水が浸入すると、躯体のコンクリートや内部の鉄筋に悪影響をあたえ、躯体の強度を低下させてしまうことも。
万が一、外壁タイルの剥落で通行人にケガを負わせてしまうと、賠償責任を負うのはもちろん、売却時にも不利になるなど、マンションの資産価値を下げることになるでしょう。
必要な工事を怠っているマンションは、管理体制がよくないと認識されます。とくに外観の劣化は、マンションの美観を損ねるため、資産価値が下がってしまうのです。
大規模修繕は多額の費用がかかりますが、安心して長く暮らせる価値の高いマンションを守っていくために欠かせません。
中古マンションの大規模修繕工事の費用
大規模修繕工事には多額の費用がかかるため、区分所有者から毎月費用を徴収して、積み立てています。それが「修繕積立金」です。
ここでは大規模修繕工事1回にかかる費用の目安、修繕積立金の相場、そのほか大規模修繕に向けて徴収される可能性のある費用について紹介します。
1戸あたり約100~150万円
国土交通省の「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、大規模修繕工事の費用は1戸あたり約100~150万円が目安です。
何回目の大規模修繕かによって金額に差があり、1回目の平均値は約152万円、2回目は約112万円、3回目は約106万円でした。
大規模修繕にかかる費用は、マンションの規模や工事の内容次第で大きく異なりますが、100万円以上かかるケースが多いことを覚えておきましょう。
参照:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
修繕積立金の相場は月13,000円が目安
国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果 管理組合向け調査の結果」を基に作成
国土交通省「令和5年度マンション総合調査」によると、修繕積立金の平均は約13,000円です。
修繕積立金は、新築時に低めに設定されており、段階的に増額することが決まっている(段階増額積立方式)マンションもあります。そのため完成年次による違いも顕著で、昨今建築されたマンションは、築年数が浅いほど低額な傾向です。
また、修繕積立金は「大規模修繕にいくらかかる予定か」によって金額が決定されるため、修繕工事にお金がかかるマンションほど高くなります。さらに世帯数が少なすぎるマンションも、1世帯当たりの負担額が割高になりやすいです。
修繕積立金の値上げ・一時金の徴収があるかも
マンション総合調査によると、全体の約40%が計画していた修繕積立金よりも、実際の残高のほうが少なくなっており、修繕費用が足りていません。
修繕費用が足りないと、段階増額方式でなくても修繕積立金が値上げしたり、修繕積立一時金としてまとまった金額を徴収されたりすることがあります。
マンションの収支状況によっては、大規模修繕に向けて本来予定しなかった費用が発生する可能性があることも、視野に入れておきましょう。
大規模修繕を控えた中古マンションでチェックしておくこと
中古マンションの大規模修繕をおこなう予定がある場合,以下5つを確認しておきましょう。
・長期修繕計画の有無と見直し時期
・大規模修繕を「今」やる必要性
・大規模修繕の実施状況
・修繕積立金の収支
・一時金徴収の予定
順に詳しくみていきましょう。
(1)長期修繕計画の有無と見直し時期
長期修繕計画とは、大規模修繕の時期や工事項目、金額が記されているものです。一般的には30年程度のスパンで計画されています。長期修繕計画がないと、マンションの将来を見越した適切な修繕ができない上、資金となる修繕積立金の徴収額を適正に設定できません。
国土交通省の調査によると、全体の7%が長期修繕計画を作成していないと回答しています。
また、長期修繕計画は定期的に見直されていなければ使い物になりません。想定外の工事が発生していたり、人件費や建築資材高騰などで工事価格が値上がりしていたりと、少なからず計画とズレが生じているためです。
長期修繕計画があるからといって安心するのは危険です。最後にいつ見直されたのか確認しましょう。
参照:国土交通省「令和5年度マンション総合調査 管理組合向け調査の結果」
(2)大規模修繕を「今」やる必要性
そもそも大規模修繕を「今」やる必要があるのか、検討し直すことが大切です。大半のマンションは長期修繕計画で予定されている時期がきたら、疑うことなく大規模修繕を実施しています。
しかし、劣化状況や使用されている材質によっては、工事を先延ばしできる可能性があるのです。少しでも時期を遅らせてトータルの工事回数を減らせられれば、大きなコストカットにつながります。
大規模修繕する前提ではなく、時期を遅らせられないかといった視線で劣化診断するのが重要です。
管理会社ではなく、第三者の専門業者に劣化診断を依頼することで保守的になりすぎない、実態に即した提案を受けられます。
(3)大規模修繕の実施状況
2回目以降の大規模修繕を控えた中古マンションは、前回いつ大規模修繕がおこなわれたのか、当時の修繕履歴が残っているのか、把握しておきましょう。前回の記録があれば、つぎの大規模修繕で工事すべき項目やタイミングを判断するのに役立ちます。
資金不足や当時の劣化状況などから延期している工事があるかもしれません。直すべきところを直せるよう大規模修繕の修繕履歴は、必ず確認しておきましょう。
(4)修繕積立金の収支
修繕積立金の収支も把握しておく必要があります。長期修繕計画と照らし合わせて、修繕積立金が充分に確保できる金額設定になっているか調べておきましょう。
計画では資金を確保できることになっていたとしても、修繕積立金を滞納している区分所有者がいたりすると計画通りに資金を積み立てられていない可能性もあります。
大規模修繕の直前で、修繕積立金の無理な値上げにならないか事前に収支状況をチェックしておきましょう。
(5)一時金徴収の予定
大規模修繕では、修繕積立金で工事費用を賄えない場合、一時金を徴収することがあります。一時金の徴収は、基本的に総会の普通決議により過半数以上の議決で決定されるため、そこまでハードルは高くありません。
しかし、一時金の徴収が決定したとしても、数十万~数百万円のまとまった金額を、全戸からもれなく徴収するのは難しいのが現状です。事前に一時金を徴収しないといけないことがわかっていれば、あらかじめ修繕積立金を増額するなど対策をとったほうが、一度にまとまった金額が必要な一時金を徴収するよりも、区分所有者の負担を減らせるでしょう。
一時金のリスクについては下記記事でも紹介していますので参考にしてください。
マンション大規模修繕工事における一時金のリスクとは?費用不足などの対処法を解説
マンションの大規模修繕の流れ
ここでは、マンションの大規模修繕がどのように進められるのか、以下の順をおって解説します。
大規模修繕の一般的な流れ
(1)修繕委員会を発足する
(2)大規模修繕工事の大枠を決定する
(3)劣化診断を実施する
(4)施工業者を選定する
(5)工事が実施される
ひとつずつみていきましょう。
(1)大規模修繕委員会を発足する
大規模なマンションでは、区分所有者のなかから修繕委員を集い、修繕委員会を発足します。小中規模のマンションでは管理組合の理事が修繕委員の役割を担うこともあります。
修繕委員会は理事会の諮問機関として工事業者の選定や工事内容の精査、居住者への説明会など、大規模修繕に関する業務を推進することになります。
(2)大規模修繕工事の大枠を決定する
次に、大規模修繕の大枠を決めていきます。一括発注方式や、設計監理方式、プロポーザル方式など、工事の進め方や、過去の修繕履歴の確認、スケジュール感すり合わせなど関係者間で打ち合わせておきましょう。
修繕積立金が足りないことが明らかな場合は、一時金の徴収などの資金確保やコスト削減についても、考えなければいけません。
(3)劣化診断を実施する
長期修繕計画があったとしても、マンションの劣化状況を知るために劣化診断を行ったほうがよいでしょう。劣化診断は、管理会社から委託を受けた業者や、外部の調査会社に委託することになろうかと思いますが、特別な劣化や不具合があるわけではない場合は、機械を使って数十万から数百万の高額な劣化診断をする必要はありません。特に1回目、2回目の大規模修繕工事を予定しているマンションであれば、目視や打診棒を使った診断で、かなりの箇所を確認することができます。予算や時間的な負担をかけずともマンションの状況を確認する方法がありますので、劣化診断の段階から、委託する業者はよく選びましょう。
できれば、管理会社や施工会社と関係のない第三者性の調査会社に委託すると良いでしょう。工事の受注を前提とした診断ではなく、技術的に中立かつ客観的な診断を依頼することが可能です。
(4)施工業者を選定する
劣化診断を終え、大規模修繕工事をするタイミングや、工事する箇所を洗い出した後、施工会社が決まっていない場合は、施工会社を選定します。
例えばプロポーザル方式は、金額ではなく、提案内容で施工会社を選定する方法ですが、公募する場合は業界新聞にて施工会社を公募します。マンションのエリアによりますが、一般的には、おおよそ5~10社から応募がありますので、まずは書類で選考し、その後、面談とプレゼンを通して総会で1社に決議します。
総会で決議する前には、区分所有者を対象に説明会を開き、総会までに十分な検討ができるよう、判断するための情報を共有しておくことが重要です。
大規模修繕工事は、普通決議(総会出席者および議決権の過半数)で決議されることが多いですが、共用部に重大な変更がある場合は、特別決議(区分所有者及び議決権の4分の3)で決議します。
(5)工事が実施される
施工会社が決定したら、いよいよ大規模修繕工事が始まります。修繕委員は、着工後も施工会社と打ち合わせをし予定通りに工事が進んでいるか把握します。
工事中は居住者の負担も大きくなります。修繕委員が窓口となり、居住者の声に耳を傾けることで、トラブルなくスムーズに工事を進められる体制を整えられるでしょう。
マンションの大規模修繕工事中の過ごし方
工事期間中は足場を組むこともあり、以下のように普段の生活が制限されます。
・ベランダに洗濯物を干せない
・窓を開けられない
・日当たりが悪く部屋が暗くなる
・工事の音がうるさい
・塗料などが臭い
・足場で作業する作業員の視線が気になる
大規模修繕工事は居住者の協力が不可欠です。工事の内容によって該当するものが異なるため、工事のスケジュールとともに居住者にとって「いつ何ができなくなるのか」「いつ騒音や臭いが生じるのか」など、あらかじめ周知し、理解を得ておきましょう。
マンションの大規模修繕工事のトラブルについては、下記記事でまとめていますので参考にしてください。
マンション大規模修繕工事でよくあるトラブル!原因・対策と問題発生時の対処法を解説
中古マンション大規模修繕は長期修繕計画の見直しから始めよう
中古マンションの大規模修繕の周期は約12〜15年で、長期修繕計画に基づき進められます。しかし、新築分譲時から長期修繕計画が見直されていなかったり、見直していても時期が古かったりして、修繕積立金がそもそも足りない計画になっていたりすることも少なくありません。
そして、修繕積立金が足りていないにもかかわらず、「大手ディベロッパーのマンションだから大丈夫」「管理会社がしっかりしてるから」などのイメージのみで安心し、何も行動しないマンションも多いです。
必要な工事ができないという事態を避けるためにも、まずは長期修繕計画を見直し、計画に見合う資金を確保できているのか確認しておきましょう。
さくら事務所では、長期修繕計画の見直しや作成を承っております。これまで900件の多種多様なマンションをみてきた専門家だからこそ、あなたのマンションの未来を正しく予見し「いつどのような工事が必要か」提案可能です。
大規模修繕に向けた建物劣化診断もできますので、マンションの現状を把握し、工事時期を見極めたり工事の優先順位を決めたりするのにご活用ください。
さらに大規模修繕の進め方がわからない、知識のある人がいなくて判断できないなど、お悩みの場合は施工会社の選定から請負契約、着工後の工事品質チェックなど大規模修繕全般のコンサルティングも実施しています。工事に対する技術的な知識を提供するだけでなく、総会決議を得るために必要なサポートなど管理組合の運営にまで踏み込んだ対応が可能です。
管理会社や施工会社とは違い利害関係のない第三者だからこそ管理組合に寄り添ったアドバイスが可能です。大規模修繕にお困りの方はぜひお気軽にお問い合わせください。
以下の動画でも詳しく解説していますので、ぜひご覧になってください。
この動画では、マンションの長期修繕計画の見直しについて解説しています。
質問:長期修繕計画の見直しはいつ行うべき?
回答:新築時や大規模修繕工事の前後など、定期的な見直しが必要です。
質問:修繕積立金が不足した場合の対策は?
回答:早期の積立増額や計画の見直しで、将来的な負担を軽減できます。
質問:専門家への相談は必要?
回答:管理会社だけでなく、第三者の専門家の意見を取り入れることで、より適切な計画が立てられます。