築30年マンションの大規模修繕の内容と費用は?コスト見直しの具体策も

  • Update: 2024-12-12
築30年マンションの大規模修繕の内容と費用は?コスト見直しの具体策も

この記事はマンション管理士/一級建築士などの専門家が監修しています

築30年頃のマンションは、2回目または3回目の大規模修繕を迎えるタイミングになります。

築30年頃は金額の大きい工事が多いうえ、これまでの大規模修繕で資金が枯渇しているマンションも多いのが現状です。

「大規模修繕でどこまでやればいい?」「修繕積立金が足りない…」など、疑問や悩みを抱えているマンションも少なくありません。築30年頃になるとマンションの経年劣化が進み、大規模修繕の内容が今後のマンション管理に大きく影響してきます。

そこで本記事では、築30年マンションの大規模修繕の内容と費用について解説します。コストを削減できる計画の見直し方法も紹介するため、ぜひ参考にしてください。

築30年のマンションは安全で快適な生活を守るために大規模修繕が必要

過去に何度か大規模修繕をおこなっていたとしても、築30年を迎える頃には、経年劣化が進み、マンション自体の安全性や快適性が損なわれます。

躯体の腐食が進んでマンションの耐久性が低くなったり、外壁タイルの剥落による危険性が高まったりすると、居住者だけでなく近隣住民まで危険が及びます。防水や給排水管の劣化による漏水が発生すれば、快適な生活を送れません。

こうした経年劣化による安全性や快適性を回復させるために、大規模修繕が不可欠です。

さらに、時代の変化とともに居住者のニーズや価値観も変化します。大規模修繕で設備や機能をアップデートさせれば、資産価値の維持または向上につながるのです。

築30年前後のマンションの大規模修繕の項目と内容

築30年前後のマンションで実施する、おもな大規模修繕は以下の表のとおりです。修繕時期の目安や修繕周期から、自分のマンションの大規模修繕でどのような工事が必要になのか、参考にしてください。

おもな修繕項目と内容 修繕時期 修繕周期
屋上防水の撤去と新設 24~30年 24~30年(12~15年で補修)
バルコニー床防水の修繕 24~30年 12~15年
躯体コンクリートの補修 24~30年 12~15年
タイル張りの補修 24~30年 12~15年
シーリングの打ち替え 24~30年 12~15年
外壁塗装の除去と再塗装 24~30年 24~30年(12~15年で補修)
鉄部の塗装 30~32年 5~7年
貯水槽の交換 26~30年 12~16年
配電盤類の取替え 28~32年 28~32年
電話・ネット設備の取替え 28~32年 28~32年
エレベーターのリニューアル 26~30年 26~30年(12~15年で補修)
自走式立体駐車場の更新 28~32年

※機械式18~22年

28~32年(8~12年で補修)

※機械式18~22年(5年で補修)

給水管・排水管の更新 30~40年 30~40年(19~23年で更生)

参照:国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」

築30年前後にはじめて実施する工事で金額が大きいのが、エレベーターのリニューアル・立体駐車場の更新・給排水管の更新です。

ただし、メーカーの保全計画で更新のタイミングが決められているエレベーターや機械式駐車場、および、給排水管の更新などの足場が不要な工事は、大規模修繕に合わせて行わないケースもあります。

そのほかの修繕項目はこれまでの大規模修繕と大きく変わりませんが、修繕内容が補修から交換・取替えになり、工事費が高額になる傾向です。

築30年前後のマンションの大規模修繕費用

国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」を基に作成

築30年前後のマンションは2回目または3回目の大規模修繕を迎えることになります。

大規模修繕の回数によって費用相場の傾向は若干異なりますが、1回目は「~6,000万円」の割合がもっとも多いのに対して、2回目以降は「~8,000万円」および「~15,000万円」が多い傾向です。

ただし3回目以降は「2,000万円以上」の割合も1、2回目に比べて増えていることから、これまでの修繕履歴などによって、大きく相場が異なることがわかります。

マンションの大規模修繕の費用については、下記記事で詳しく解説しているので参考にしてください。

マンション大規模修繕の費用と工事内容を解説!払えないときの対処法とは

築30年マンションの大規模修繕は計画の見直しでコストを削減

築30年前後は修繕にかかる費用が大きい項目が多く、多額の資金が必要になりますが、これまでの大規模修繕で資金が枯渇しているマンションも少なくありません。

修繕資金が足りないときは、工事項目をより具体的に長期修繕計画に落とし込んでいくことが大切です。「いつ」「いくらで」「どのように」修繕するのか、管理組合の方針も取り入れ、長期修繕計画をアップデートしていきましょう。

長期修繕計画を見直す際のポイントは以下の5つです。

・足場が不要な工事は延期できる可能性がある

・機械式駐車場の更新内容を検討する

・給排水管は材質が考慮された修繕計画か確認する

・玄関ドアや窓サッシ交換も含めた計画にする

・第三者の専門家にアドバイスをもらう

順に詳しく解説します。

(1)足場が不要な工事は延期できる可能性がある

劣化状況にもよりますが、足場がなくてもできる工事は、必ずしも大規模修繕でおこなう必要はありません。大規模修繕のタイミングに工事をまとめてしまうと修繕費用が膨れ上がってしまいます。

また、マンション内に出入りする作業員の人数も増えて現場が混乱したり、大規模修繕に間に合わせるためにきちんとした調査ができなかったりすることもあるでしょう。

工事の時期を延期できれば、その間少しでも修繕積立金を徴収する期間を長くできます。項目ごとにマンションにとって最適な工事時期を見極めましょう。

(2)機械式駐車場の更新内容を検討する

メーカーの保全計画では、機械式駐車場を更新する際、既存のものと同等のものへ入れ替えることが前提です。

しかし駐車場の空き区画が増えている場合、既存と同等のものではなく、よりコストの安いものに変更したり一部を平面化したりして、維持管理費を下げる方法もあります。

駐車場のニーズについて、居住者アンケートなどで調査して方針を決めておきましょう。

また、駐車場の使用料が修繕積立金ではなく管理費収入として計上されているケースがあります。その場合、使用料収入から駐車場の更新費用を捻出できず、修繕積立金の会計に大きな影響を与えるため、会計区分の見直しも大切です。

(3)給排水管は材質が考慮された修繕計画か確認する

築30年代後半の昭和に建設されたマンションは、耐久性の低い鉄管が使われていることが多く、漏水などのトラブルが生じやすくなっています。

しかし平成元年以降は、より耐用年数の長い樹脂管や塩ビ管が採用されるようになりました。樹脂管や塩ビ管なら30~40年以上長持ちする可能性があります。

長期修繕計画は、鉄管の耐用年数がベースとなり更新時期を設定されているケースが多いため、給排水管の材質を確認するとともに「今工事が必要か」劣化診断するのがおすすめです。

またマンションの造りによっては配管スペースが狭く、更新に伴い露出配管になることも。どのような工事になるかまで把握したうえで、更新時期を検討しましょう。

(4)玄関ドアや窓サッシ交換も含めた計画にする

築36年前後には玄関ドアや窓サッシの交換が必要とされているケースが大半です。鉄管が使われているようなマンションの場合は、気密性が低いため交換することで居住性が上がります。

しかし、最近のマンションは、玄関ドアや窓サッシの性能が上がっているため、交換ではなく修繕で改善できることも。

たとえば、窓サッシの戸車やクレセントの交換、玄関ドアの建付け調整などで、不具合を改善することも検討しましょう。

更新や交換ありきで考えず、常にどのようにしたらリスクを回避しつつコストを抑えられるか、という意識をもつことが重要です。

(5)第三者の専門家にアドバイスをもらう

長期修繕計画を見直す際は、第三者の専門家にアドバイスをもらいましょう。管理会社に依頼するケースも多いですが、保全的にならざるを得ない立場上、過剰な修繕内容の提案になりがちです。

築30年前後は修繕費用がかさむ時期のため、提案されるがままに工事計画を立てると、資金ショートの原因になります。中立的な立場でアドバイスしてもらえる専門家に介入してもらうことで、適正な修繕計画に見直せるのです。

「客観的な意見を聞いて判断しました」と言えれば説得力があり、理事会や修繕委員の説明責任を果たせるメリットもあります。

マンションの大規模修繕で使える補助金

マンションの大規模修繕では工事内容によっては補助金を使える可能性があります。ここでは以下4つの支援制度について紹介します。

・マンションストック長寿命化等モデル事業

・長期優良住宅化リフォーム推進事業

・既存住宅の断熱リフォーム支援事業

・先進的窓リノベ

上記のほかにも、自治体独自の補助制度を設けているケースがあるため、ホームページなどで調べておきましょう。

マンションストック長寿命化等モデル事業

「マンションストック長寿命化等モデル事業」はマンションのストック数の増加に伴い、国が改修や建替え費用などの一部を補助し、老朽化マンションの再生を促進する政策です。

長寿命化に向けた改修工事(新築当初の水準に回復させる工事は対象外)や、管理水準を向上させる大規模修繕を実現させる調査や準備段階における、長期修繕計画や修繕積立金の見直しなどが適用されます。

さまざまな条件が設けられていますが「マンション管理適正化推進計画」が策定されている地方公共団体に所在するマンションが対象です。

参照:国土交通省「令和6年度マンションストック長寿命化等モデル事業 募集要領等」

長期優良住宅化リフォーム推進事業

「長期優良住宅化リフォーム推進事業」は、住宅の性能を向上する工事や子育てしやすい住宅への改修工事にかかる費用を補助する制度です。断熱サッシへの交換などの省エネルギー化や壁の補強といった耐震化などが対象となります。

補助金を受けるための条件は、インスペクションを実施すること、リフォーム後に一定の性能基準を満たすこと、リフォーム履歴と維持保全計画を作成することです。

補助率は補助対象となるリフォーム工事の合計3分の1で、リフォーム後の住宅性能によって、限度額が異なります。

参照:国立研究開発法人建築研究所「長期優良住宅化リフォーム推進事業」

既存住宅の断熱リフォーム支援事業

「既存住宅の断熱リフォーム支援事業」は、高性能建材を用いた断熱改修を支援する事業です。窓の改修により居間をメインに断熱する「居間だけ断熱」と窓・断熱材・ガラスを組み合わせる「トータル断熱」があります。

補助額は、対象工事の3分の1です。上限額は工事の内容により異なりますが、マンションの場合、ガラス・窓・断熱材で戸当たり15万円、玄関ドアも改修する際は、戸当たり20万円が上限になります。

参照:公益財団法人北海道環境財団「既存住宅の断熱リフォーム支援事業」

先進的窓リノベ

「先進的窓リノベ」は、断熱窓への改修などにより住宅の省エネおよび省CO2を加速させるための支援事業です。

ガラス交換・内窓設置・外窓交換・ドア交換(ほかの窓工事と同一の契約であることが条件)が対象になります。ただし工事後に工事前よりも性能が下がる場合は申請できません。

補助額は窓の大きさや設置方法により異なり、戸当たり低額5~200万円までです。

参照:環境省「先進的窓リノベ2024事業」

築30年マンションの大規模修繕は綿密な修繕計画が成功のカギ

築30年のマンションの大規模修繕は、エレベーター・立体駐車場・給排水管などの設備の更新もあり、これまでよりもコストがかかるケースが多いです。

資金不足に陥りやすいからこそ、優先順位を見極め「いつ」「いくらで」「どのように」修繕するのか、コスト削減を念頭に置き、綿密な修繕計画に見直しましょう。

計画を見直す際は、第三者の専門家にアドバイスを求めるのがおすすめです。

さくら事務所では長期修繕計画の見直しをおこなっています。修繕積立金不足に悩んでいる方はぜひご相談ください。

また、「今、本当に工事が必要か?」という視点から建物を診断する「劣化診断」「劣化診断ツアー」というサービスもご提供しています。管理会社や施工会社と違い、工事することを前提とした劣化診断ではなく、「いつ工事をするべきか?工事の周期を伸長できるものはないか?」といった視点で診断を行い、管理組合の皆様にご報告いたします。

建築的なことだけでなく、管理組合運営についても長けているため、住民への説明や分かりやすい説明資料の作成などもお任せいただけます。

資金繰りに苦労しやすい築30年の大規模修繕だからこそ、対応実績900件のさくら事務所にご相談ください。

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三木 幸一郎
監修者

三木 幸一郎

明治大学政治経済学部卒業後、ゼネコン→不動産仲介業・建築業経営を経て→鉄鋼系エンジニアリング会社→マンション管理会社フロント(管理部次長)→さくら事務所