マンション大規模修繕工事の最適な周期は?12年周期はもう古い?

  • Update: 2022-02-13
マンション大規模修繕工事の最適な周期は?12年周期はもう古い?

この記事はプロのホームインスペクターが監修しています

皆さんがお住まいのマンション。建築当時は綺麗でなんのトラブルもなかったかと思いますが、建物や設備に「経年劣化」はつきものです。そのため、マンションでの生活を長く快適に保ち、資産価値を維持するためには建物や設備のメンテナンスが必須で、特に足場を設置して行う大規模修繕はとても重要です。

長期修繕計画は、12年周期で大規模修繕工事を行うことが一般的な目安といわれています。しかし、最近ではより長い周期への見直しの提案を行う管理会社も出てきました。

今回は、12年周期が一般的となっている理由や背景と、これらの事情を踏まえた最適な長期修繕の周期についての、さくら事務所の考えをご紹介いたします。

大規模修繕で失敗しないための3ステップ

なぜ、大規模修繕は12年周期が一般的なのか?

なぜ、大規模修繕は12年周期が一般的なのか?

そもそも、大規模修繕において12年のサイクルが一般的だと考えられているのには3つの理由があります。

①国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」の影響

国土交通省が公開している「長期修繕計画作成ガイドライン」はマンションの大規模修繕をどのように進めていくのかのガイドラインです。この第3章 長期修繕計画の作成の方法の中に「5.計画期間の設定」という項目があり、現在は「計画期間は、30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とします。」と記載されています。

しかし、このガイドラインが公開された平成20年には、「外壁の塗装や屋上防水などを行う大規模修繕工事の周期が12年程度です。」と定められていると説明するような管理会社や設計事務所、大規模修繕工事の施工会社がありましたが、実際にはこのガイドラインで掲げられた修繕周期は、「中高層単棟型のマンションの一般的な仕様や工法を想定し、関係する既存文献を参考にしておおよその目安として設定したものです。マンションの仕様、立地条件等に応じて修正します。」と記載されているだけで、12年周期での大規模修繕の実施を定めていたり推奨していたりするということはありません。

②特定建築物定期調査の全面打診調査の義務化

平成20年4月1日に改正された建築基準法によって、竣工・外壁改修後10年を経た建築物は、10年を超えた最初の調査の際に全面打診等による調査を行うことが義務化されました。全面打診調査とは外壁タイルやモルタルの表面を打診棒やテストハンマーなどの検査器具を用いて、タイルやモルタルの浮きの有無を調べる方法のことです。

3年以内に確実に外壁改修が行われる見込である場合には全面打診調査の実施の猶予を受けることができます。

また、打診による調査のほか赤外線による外壁調査によることもできるのですが、全面打診調査を行うには足場が必要になるため大規模修繕を実施した方が費用が割安になるという理由で、12年目に大規模修繕を実施することを強く進めている管理会社などがあります。

③塗膜などの劣化を考慮している

マンションに使われる塗料の寿命はおよそ8年程度、長持ちして12年程度と言われています。

12年以上経過した塗料は浮き、ひび割れ、結露、欠損などが進行し、コンクリート躯体を十分に保護することができない状態になります。同じマンションを12年で大規模修繕する場合と15年で大規模修繕する場合では、15年周期で行う場合の方が次の修繕までの間隔が長くなってしまうため、劣化が進んでいる可能性が高く、結果的に修繕費用が高額になってしまう可能性があるという考え方があります。

大規模修繕工事の周期延長が広まらない3つのワケ

①12年ごとに受注できるビジネスモデルは壊せない

マンションの大規模修繕工事は、これまで12年周期が当たり前とされてきました。(ちょっと前までは10年周期というところもありました。)

このかたちは、管理会社や施工会社からすれば、12年ごとに大きな工事が行われることが前提となることで、先々の経営計画も立てやすくなります。いわば、マンション修繕業界の中でしっかりとビジネスモデルとして出来上がっているのです。
※このような状況を「長期修繕計画は管理会社の長期収益計画」だと揶揄する管理組合さんもあります。

そんな中、あえて大規模修繕工事の周期延長を提案するのは、管理会社も施工会社自らも工事受注のチャンスを失う可能性すら含んでいるため。黙っていても慣習的に12年周期で注文してくれるであろう工事について、そもそも周期延長の提案はなかなかしにくいものです。

現時点では特定の管理会社や施工会社については大規模修繕工事の周期延長の提案を受けることは難しいと考えた方がいいでしょう。

②そもそも十分な実績に基く提案ができる施工会社がない

大規模修繕工事の周期を延長するには、通常の12年周期の大規模修繕工事に比べて、防水工事や外壁塗装工事などは高耐久の部材・工法による耐久性の高い修繕工事を行う必要があります。

次回、足場を掛けるまでその品質が保証されるよう、多少割高になりますが、耐久性の高い仕様で工事を行う必要があるのです。ところが今はまだ、この耐久性の高い修繕工事について、積極的に提案を行う施工会社は少数派であるというのが実情です。

建通新聞などの業界紙による公募などで大規模修繕工事の施工会社を募集した際、応募してくる会社の中で十分な実績に基づき高耐久性工事の提案が行える施工会社は2~3割といったところでしょう。

また、周期延長に欠くことのできない「高耐久な修繕工事」に積極的に取組んでいないことや、実際に修繕周期の延長を実施した結果の実績がほとんどないということも大規模修繕工事の周期延長を難しくしている原因の1つです。

③これまで通りのこまめな修繕が安心、という考え方

そもそも「これまで通りの12年周期の大規模修繕工事をしていったほうが確実で安心のはず。」と考える施工会社も多くあります。これまでやってきたことに変化を好まない、「これまで通りであれば安心」という考えはどこの世界でもあります。

施工会社や管理会社だけでなく、管理組合の中にも「これまで通り、よそもやっている通りにやったほうが問題ないんじゃない?」と思う方がいても不可思議なことではありません。

現在、多くのマンションが修繕積立金不足の問題を抱えていると言われていますが、お金に糸目を付けなければ、早目に修繕を行うことで建物や設備の維持管理はより確実なものになる、という考え方に異を唱える余地はありません。

先に挙げたように12年周期による大規模修繕工事というビジネスモデルが出来上がっている業界の事情もあり、経営計画の舵を大きく切り新しい試みにチャレンジしようという施工会社が少ないのです。

大規模修繕工事 これからの修繕周期は18年!

なぜ、大規模修繕は12年周期が一般的なのか?

ここまで申し上げた通り、マンションの大規模修繕工事について、12年周期が当たり前のようになっていますが、もともとこれはあくまで「目安」でした。これは、国土交通省が長期修繕計画ガイドラインで参考値としてだした目安「12年」が神格化して年数だけが一人歩きしたものと思われます。

そもそも、新築分譲時の長期修繕計画は、その多くが画一的に作成されたものであり、立地環境や施工品質、建物の状態によってはそのタイミングで計画通りに工事を行わなくてもいいケースも多数あります。また、最近では「大規模修繕工事は12年周期が当たり前」に疑問を持つマンション管理組合は増える一方で、「過剰・不要な修繕費用にまで修繕積立金を払いたくない」と周期の延長・見直しを検討するマンション管理組合は増加の一途を辿ることは確実です。

そんな中、大手マンション管理会社が大きく謳ったことで俄然注目を浴びるところとなったのが「大規模修繕工事の周期延長」。一般的に12年とされる大規模修繕工事ですが、高耐久化の工事を行うことによりその周期の延長(16~18年程度に延長)をはかり、トータルでの大規模修繕工事の回数を減らし長期的に大きなコストダウンが可能になるのです。

長周期化は維持管理コストの削減がおもな目的ですが、竣工後60年間程度の長期修繕計画を立案しなければ、その削減効果を推し量ることは難しく、30年程度の大規模修繕計画の期間だけではコスト削減効果を見ることはできません。

とはいえ、この考え方はなかなか広まらず、希望しても周期延長を実践することができないマンション管理組合も多くあるようです。

 

【関連コラム】【長周期化】大規模修繕工事 これからの修繕周期は18年!

公共建築物や賃貸マンションなどの大規模修繕周期は?

皆さんのお住いの市役所や近隣の賃貸マンションで、12年程度の周期で足場をかけて大規模修繕工事をしているのを見かけたことがあるでしょうか?

分譲マンションと同じ鉄筋コンクリート造の公共建築物や賃貸マンションは分譲マンションと異なり、12年程度の周期による大規模修繕工事は実施されていないのです。

長期修繕計画見直しのご相談は、業界実績No.1のさくら事務所へ

これまで一般的なマンションの大規模修繕の目安は12年に1度と言われていました。

既存のビジネスモデルを崩しづらいことや、こまめな修繕を行う方が安心だという心理的な要因もあり、なかなか12年周期のサイクルを逸脱することは難しいとされています。しかし、技術の向上や高耐久性の工事を行うことで、足場を必要としない軽微な補修を怠らなければ、特殊な立地環境や仕上げのマンションを除いては、大規模修繕工事の周期を延長することが現実的になってきています。

「大規模修繕は12年周期で行うもの」と決めつけるのではなく、都度マンションの劣化状況を把握し、その結果に応じた修繕の計画を立てるようにしてはいかがでしょうか。

さくら事務所が提供する長期修繕見直しサービスでは、現在の長期修繕計画の項目に過不足がないか、数量などに疑問点がないかなどをチェックします。書類のチェックだけでなく、管理組合の建物の維持修繕の方針をヒアリングし、長期修繕計画の妥当性を検証します。

検証結果をもとに、修繕積立金が適正な範囲であるかの確認を含め増額に関するサポートを行いますので、まずはお気軽にご相談ください。

鬼塚 竜司
監修者

鬼塚 竜司

新築工事にてマンションや複合施設の給排水および空調設備の工事管理を経験後、マンション管理会社の修繕工事部門にて、工事企画及び工事管理を14年間経験(管理職含む)。大規模修繕80棟以上、給排水管更生更新30棟以上、窓サッシ改修工事等補助金対応工事10棟以上、機械式駐車場入替、インターホン改修工事など、マンション全般の工事を経験。長期修繕計画の作成500回以上。2021年6月株式会社さくら事務所へ参画。

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ホームインスペクション(住宅診断)をはじめとする個人向け不動産コンサルティングや管理組合向けコンサルティングを行っている。400を超えるマンション管理組合のコンサルティング実績をもち、大規模修繕工事や長期修繕計画の見直し、瑕疵トラブルなどの管理組合サポートサービスを提供している。

【監修】さくら事務所マンション管理コンサルタント(マンション管理士)

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