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マンション大規模修繕工事の費用相場
大規模修繕工事にかかる費用について、国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」の結果をもとに紹介します。調査によると、工事回数別のもっとも割合が多かった価格帯は以下のとおりです。
【一戸当たり】
・1回目:100~125万円
・2回目:75~100万円および100~125万円
・3回目以上:75~100万円
※共通仮設費(現場事務所や足場など)は含まない
【マンション全体】
・1回目は4,000~6,000万円
・2回目は6,000~8,000万円
・3回目以上は6,000~8,000万円および10,000~15,000万円
※共通仮設費は含まない
大規模修繕工事の費用はマンションの規模によっても異なります。50戸以下の小規模および100戸未満の中規模マンションは3,000~4,000万円、100戸以上の大規模マンションでは1億5,000万~2億円が相場です。
参照:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
工事別│大規模修繕の費用単価
大規模修繕の工事項目は「仮設工事」「外壁工事」「防水工事」「設備工事」の4種類に分けられます。
工事項目ごとの費用の目安は以下の表のとおりです。
防水工事 | 外壁工事 | 仮設工事 | 設備工事 | 合計 | |
大規模 | 3,000万円~4,000万円 | 3,500万円~5,000万円 | 3,000万円~4,000万円 | 500万~1,000万円 | 1億5,000万円~2億円 |
小~中規模 | 600万円~800万円 | 700万円~1,000万円 | 600万円~800万円 | 100万円~200万円 | 3,000万円~4,000万円 |
各項目の具体的な内容と費用相場について以下で詳しく紹介します。工事の方法によっても費用相場が異なるため、詳細をみていきましょう。
外壁工事
外壁工事は外壁の種類によって、塗装工事・張替え工事・重ね張り工事などがあります。ここでは塗装工事の費用相場をみていきましょう。
外壁塗装の費用相場は、使用する塗料の性能、おもに耐用年数により大きく異なります。
塗料 | 相場(㎡単価) | 耐用年数 |
アクリル | 1,500円前後 | 5~8年 |
ウレタン | 2,500円前後 | 7~10年 |
シリコン | 3,000円前後 | 10~13年 |
ラジカル | 3,500円前後 | 12~15年 |
フッ素 | 4,500円前後 | 13~15年 |
防水工事
防水工事には下記の表のとおり、4つの方法があります。それぞれの費用相場と特徴をおさえて、施工方法を選ぶ際の参考にしてください。
種類 | 相場(㎡単価) | 特徴 |
シート防水 | 4,000~7,000円 | 広い面積を一度に施工できる |
ウレタン防水 | 5,000~6,000円 | 複雑な形状でも施工しやすい |
アスファルト防水 | 4,500~7,000円 | 防水効果が長く持続する |
FPR防水 | 5,000~7,000円 | 建物への負担が少なく防水性・耐久性が高い |
工事の種類が同じでも、工法によって、耐用年数やメンテナンスの頻度は異なります。施工業者とよく話合い、施工場所や予算に適した方法を選びましょう。
設備工事
設備工事のひとつである給排水設備の交換費用は、1棟当たり約70~200万円といわれています。パイプの太さやマンションの規模により大きく異なるため、概算を見積もるには調査が必要です。
給排水パイプの耐用年数は約20年ですが、大がかりな工事になるため、大規模修繕工事にあわせて交換することを推奨します。工事中は水道が使えません。トラブルを避けるためにも、工事のスケジュールが決定したら、早めに入居者へ説明しておきましょう。
マンションの大規模修繕工事の費用に関する注意点
大規模修繕工事の費用で注意すべき点を2つ紹介します。
・1回目より2、3回目の方が高額になりやすい
・追加費用を請求されることがある
以下で詳しく見ていきましょう。
1回目より2、3回目の方が高額になりやすい
マンションの大規模修繕工事は、回数を重ねるごとに費用が高額になる傾向があります。
1回目は塗装・補修・部品交換など比較的容易な内容が多いですが、2回目は、基本的に補修や部品交換では対応できず、交換工事が必要です。3回目には給排水管・エレベーター・機械式駐車場など、規模の大きい設備のリニューアルも検討しなければいけません。
また1回目は修繕積立金に加え、分譲時に徴収した修繕積立基金があるため資金に余裕があります。しかし2回目以降は修繕積立金のみのため資金不足に陥りやすくなるのです。
さらに3回目の時期には区分所有者の高齢化が進み、修繕積立金の値上げや修繕積立一時金を徴収など、資金の工面がより難しくなります。
下記記事では大規模修繕の回数ごとの工事金額について詳しく紹介していますので参考にしてください。
大規模修繕2回目は資金不足に注意!効果的な対処法と成功のコツを解説
追加費用を請求されることがある
大規模修繕工事では追加費用が発生することが少なくありません。追加費用が生じるのは以下のようなケースです。
- 補修・交換するタイルの枚数が想定よりも多くなった
- 足場の設置が困難だった
とくに足場をかけるまで正確な数量がわからないタイルの補修や交換は、追加費用が発生する可能性が高いです。タイルのように足場がないと正確に見積もれない項目は、実数精算方式が用いられます。
実数精算方式とは、「全体の〇%」などと仮の数量で見積もって契約しておき、工事完了後に実際に補修・交換したタイルの枚数を基に清算する方法です。大規模修繕工事では追加費用が生じるものと考え、総工事費用の5~10%の予備費を用意しておくことをおすすめします。
また、業者によっては仮の数量を少なくして見積もりを安く見せているケースもあるため、実数精算方式の仕組みを理解したうえで他社と見積もりを比較することも大切です。
下記記事では追加費用のほかにも、工事期間中の過ごし方など大規模修繕工事でよくあるトラブルを紹介しています。
マンション大規模修繕工事でよくあるトラブル!原因・対策と問題発生時の対処法を解説
大規模修繕工事の費用を抑える方法
以下では、大規模修繕工事の費用を安く抑える4つの方法を挙げています。
- アフターサービスを活用する
- 助成金・補助金を利用する
- 複数の業者から見積もりをする
- 管理会社任せにしない
アフターサービスや助成金・補助金については期限があります。大規模修繕直前でなく、事前の対策としてご検討ください。
アフターサービスを活用する
築10年目までのマンションであれば、アフターサービスチェックを実施することをお勧めします。アフターサービスは一般的には新築から2年、5年、10年までの期限付で利用できる保証サービスになり、そのほとんどは、2年で終了してしまいます。しかし、10年目のマンションでも住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)に対応し、構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分としてコンクリート躯体の亀裂や損傷、屋上、外壁、開口部などの雨漏れについて保証しています。
保証期限が切れる前に点検し、もし不具合が確認された場合は無償で補修してもらえるかもしれません。
助成金・補助金を利用する
大規模修繕工事の内容によっては、助成金・補助金を活用できるかもしれません。
例えば、バリアフリー化や防音工事をする場合、長期優良住宅化リフォームとして支援を受けられます。ただし、助成金や補助金の内容は自治体によって異なり、同じ支援を受けられるわけではありません。
事前にマンションがある都道府県もしくは市町村に連絡を入れ、助成金と補助金の有無や内容についてを確認しておきましょう。
複数の業者から見積もりをする
大規模修繕工事をする前には、複数の業者から見積もりを出してもらうのも参考になるでしょう。複数の会社に見積もりを依頼すること(※相見積もり)でおおよその相場がわかることがあるからです。
相見積もりをすれば、工事にかかる各項目の費用を比べられるでしょう。しかし、過信は禁物です。業者間でつながっており、各社協議したうえで、相場とかけ離れた費用を提示されたり、ある一社だけがお得に見えるような見積を提出される可能性もあるからです。
大規模修繕工事をするマンションで相見積もりをする場合は、扱いに気を付けましょう。
管理会社任せにしない
管理会社を通して大規模修繕工事をお願いすれば、手間がかからず、楽かもしれません。しかし、管理組合が自主性をもって施工会社を吟味しないことで工事コストが高くなったり、管理会社への紹介料が発生したりするなど、費用が高額になるケースがあります。
管理会社から提出される予算書や見積書を見て、妥当性を判断できる場合はよいですが、そうでない場合は、第三者の専門家にアドバイスをもらいながら管理組合主導で、大規模修繕を進めていきましょう。
大規模修繕工事の費用を払えないときの対処法
大規模修繕工事の見積額が修繕積立金の残額を上回っている場合は「何とかして費用を確保する」または「今工事をしない」のどちらかしかありません。
具体的には以下の対応が必要になります。
- 優先順位を見極めて工事内容を精査する
- 区分所有者から一時金を徴収する
- 金融機関から借り入れる
- 工事を延期して修繕積立金を貯める
順に詳しく解説します。
優先順位を見極めて工事内容を精査する
工事の優先順位を理解しておくと、見積もり依頼時に「ここは見積もりに入れないでほしい」「こう考えているのでここは節約したい」と管理組合の考えをしっかり業者に伝えられます。
優先順位は以下を参考にしてください。
優先順位1:危険性の高い工事
外壁タイルの欠けや浮き、漏水工事です。外壁タイルの欠けや浮きは剥落に繋がり大事故になることも。漏水についても対処が遅れると被害が拡大します。
優先順位2:足場が必要な工事
足場がないとできない工事です。タイルの浮き調査やタイル目地・外壁下地の補修が該当します。
優先順位3:足場が不要な工事
足場が不要な工事です。屋上防水は足場がなくてもできるケースが多いため、劣化状況によっては時期を遅らせられます。
優先順位4:足場が不要で危険性が低い工事
共用廊下の長尺シートや美観目的のエントランスのタイル・石の交換などです。建物の劣化を進める要因にならなかったり危険度が低かったりする工事が該当します。
区分所有者から一時金を徴収する
まず考えられるのは、区分所有者から修繕積立一時金を徴収することです。総会で決議して、月々支払う修繕積立金のほかに、一時金として、まとまった金額を徴収することを決定します。
不足額によっては数百万単位の一時金を徴収することになり、組合員にとって負担が大きい対処方法のため、合意を得るのはかんたんではありません。決定したとしても払えない区分所有者がいるなど、トラブルになることも多いでしょう。
金融機関から借入れる
修繕工事の費用が不足している場合には、金融機関から借入れる方法もあります。借入れをするケースとして、居住者からの修繕費の補填ができない時が挙げられます。金融機関から借入れをする際は、管理組合の総会決議をしなければなりません。
メリットとして、早急に費用の不足分を確保できる点が挙げられますが、デメリットは、借り入れた金額だけ利息が発生することです。
借入れ後、組合員は利息をつけて返済することになるので一時金と比較すると、一度に支払う額は小さいですが、支払総額は大きくなります。
工事を延期して修繕積立金を貯める
大規模修繕工事すべて、または一部の工事を延期して、修繕積立金を貯めるのも1つの手です。その際、修繕積立金の徴収額を現状よりも値上げすることも検討しましょう。
費用が不足した状態で修繕工事をした場合、安価な資材が使われたり、手抜き工事に繋がったりすることも。
ただし修繕工事を延期することで、修繕箇所が悪化し建物自体に影響を及ぼすリスクもあるため、現時点での工事の必要性を判断するために、第三者機関の劣化診断を実施するのがおすすめです。
マンションの修繕工事費用(修繕積立金)の目安
国土交通省は、「修繕積立金に関するガイドライン」(令和3年9月改訂)で修繕積立金の目安となる金額や平米単価の算出方法を示しています。
計画期間全体における修繕積立金の平均額の目安(機械式駐車場分を除く場合)
建築延床面積 | 平均値(m2・月) |
---|---|
5,000m2未満 | 335円 |
5,000m2~10,000m2未満 | 252円 |
10,000m2~20,000m2未満 | 271円 |
20,000m2以上 | 255円 |
20階以上 | 388円 |
参照元:マンションの修繕積立金に関するガイドライン(国土交通省)
上記の金額はあくまでも目安です。修繕積立金の適正額は、マンションによって異なるため、実態に即した長期修繕計画をもとに必要な修繕費用を算出することが重要になります。
ただし上記よりも金額が低い場合は、修繕積立金が足りていない可能性があるため、注意しましょう。
機械式駐車場の1台あたりの月額の修繕工事費
マンションに機械式駐車場がある場合は、以下の方法で加算額が算出されます。
加算額=機械式駐車場の1台あたりの修繕工事費用×台数÷マンションの総専有床面積(m2)
以下に、機種と修繕工事費用の目安をまとめています。
機械式駐車場の機種 | 機械式駐車場の修繕工事費用 (1台あたりの月額) |
---|---|
2段(ピット1段)昇降式 | 6,450円 |
3段(ピット2段)昇降式 | 5,840円 |
3段(ピット1段)昇降横行式 | 7,210円 |
4段(ピット2段)昇降横行式 | 6,235円 |
エレベーター方式(垂直循環方式) | 4,645円 |
その他 | 5,235円 |
参照元:マンションの修繕積立金に関するガイドライン(国土交通省)
機械式駐車場の修繕工事費を駐車場使用料の収入で賄う場合は、加算する必要はありません。
機械式駐車場は「屋内」・「屋外」・「地下」・「地上」などのタイプがあります。各タイプで修繕工事費用が異なることも理解しておきましょう。
大規模修繕工事の費用が妥当か調べたいときは第三者の専門家に相談を!
大規模修繕工事の費用相場は、小規模マンションで3,000万円~、大規模マンションでは1億5,000万円以上です。資金が足りないときは一時金の徴収・工事の延期・借入する方法がありますが、課題も多いため、決断する前に第三者の専門家に金額の妥当性も含めて相談しましょう。
さくら事務所では大規模修繕に向けた劣化診断を実施しています。一般的に劣化診断は、大規模修繕工事をおこなうことを前提としたものです。
しかしさくら事務所の劣化診断では「今大規模修繕する必要があるのか」を検討します。利害関係のない第三者(※工事の受注・斡旋は一切おこないません)だからこそ、客観的にベストな施工時期をアドバイスできるのです。
そのほか「追加費用が発生して資金が足りない」「相場より見積もりが高い気がする」などを相談できる、セカンドオピニオンサービスも実施しています。
一級建築士などのコンサルタントが、見積りの妥当性や費用を抑えられる工事方法がないかアドバイスできるため、結果的に大規模修繕工事のトータルコストを抑えることにつながります。
大規模修繕工事に対する不安やお悩みがある方は、深刻なトラブルになる前にお気軽にさくら事務所までご相談ください。
また以下の動画でも大規模修繕工事前の劣化診断の必要性について解説しています。
気になる方は是非ご覧ください。