修繕積立金と管理費は、マンション購入後、毎月徴収される費用です。マンションによって金額が異なるため、高額に感じたり用途に疑問をもったりする方も多いのではないでしょうか。
修繕積立金と管理費の支払いは、マンションを手放すまで続きます。納得して支払い続けるためにも、修繕積立金と管理費について理解を深めておきましょう。
本記事では、修繕積立金と管理費の用途や相場を解説します。値上がりの可能性や滞納時の対応についても紹介するので、金額に疑問を持っている方や支払いを負担に感じている方はぜひ参考にしてください。
目次
マンションの管理費と修繕積立金の用途とは
マンションの管理費と修繕積立金は、どちらもマンションを管理するために使われる費用ですが、それぞれ用途が異なります。ここでは管理費と修繕積立金の用途についてみていきましょう。
管理費の用途
管理費は日常的なマンション管理にかかる費用です。区分所有者から集められた管理費は、居住者が日々快適に暮らすための維持費として、都度支払いに充てられています。
管理費の使い道の大半を占めているのが、マンションの清掃業務や管理人業務など、管理を委託している管理会社に支払う管理委託料です。そのほか、共用部分の光熱費や保険料、電球などの消耗品の購入も管理費から賄われています。
ちなみに、国土交通省が定める規約によると、管理費の用途は以下のとおりです。
1 、管理員人件費
2 、公租公課
3 、共用設備の保守維持費及び運転費
4 、備品費、通信費その他の事務費
5 、共用部分等に係る火災保険料、地震保険料その他の損害保険料
6 、経常的な補修費
7 、清掃費、消毒費及びごみ処理費
8 、委託業務費
9 、専門的知識を有する者の活用に要する費用
10、管理組合の運営に要する費用
11、その他第32条に定める業務に要する費用(次条に規定する経費を除く)
修繕積立金の用途
一方、修繕積立金は、将来かかるであろう修繕費用に備えて毎月積み立てておくものです。大部分はマンションの外壁・屋上防水工事・設備交換などの大規模修繕工事につかわれます。
大規模修繕工事の費用は、数千万~億単位でかかることも。それほどの金額をすぐに用意するのは現実的ではないため、あらかじめ長期修繕計画でいくら必要になるか予測し、毎月計画的に積み立てておくのです。
修繕積立金は大規模修繕のほかに、地震や台風などの災害で予期せぬ修繕が必要になったときやマンションの建替え・敷地売却などの調査費用にも充てられます。
国土交通省の規定されている用途は以下のとおりです。
1、一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
2、不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
3、敷地及び共用部分等の変更
4、建物の建替え及びマンション敷地売却に係る合意形成に必要となる事項の調査
5、その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理
管理費と修繕積立金の平均値からみる相場
国土交通省「令和5年度マンション総合調査」の結果を基に、管理費と修繕積立金の平均値から、それぞれの相場について紹介します。ただし、マンションによって必要な維持費や修繕費は異なるため、相場との差があったからといって、問題があるわけではありません。
管理費の相場は約11,503円
令和5年度のマンション総合調査によると、ひと月当たりの戸当たり管理費(※駐車料などからの充当額を除く)の平均は11,503円です。
ただし管理費は完成年次や建物の形態、地域により金額に差があります。とくに総戸数規模別にみると、その差は大きいです。
国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果 管理組合向け調査の結果」を基に作成
調査結果によると、もっとも管理費が低額なのが151~200戸、高額なのが20戸以下のマンションです。
戸数が少ないほど管理費を負担する世帯数が減るため、1戸当たりの負担額が多くなる傾向があります。
とはいえ、戸数が多く規模が大きいマンションは、延床面積が広いうえ設備が充実しているなど、維持費がかさむケースが多いです。管理費を負担する世帯数が多くても、それ以上に維持管理に費用がかかることから、501戸以上の大規模マンションは管理費が高額になっています。
修繕積立金の相場は約13,000円
令和5年度マンション総合調査によると、ひと月当たりの戸当たり修繕積立金の平均額は13,054円です。修繕積立金は、とくに完成年次による違いが大きくなっています。
国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果 管理組合向け調査の結果」を基に作成
修繕積立金がもっとも低額なのは令和2年以降です。令和2年以降の築浅マンションの修繕積立金が低額な理由として、段階増額積立方式での徴収方法と経年劣化による修繕コストの増額が考えられます。
段階増額積立方式は段階的に修繕積立金を値上げする方法です。分譲時の修繕積立金をおさえられるため、昨今多く採用されています。築浅マンションは値上げ前の金額設定になっているため、低額になっているのです。
ただし均等積立方式の場合も、物価の高騰などの理由により値上げされる可能性があります。築年数の経過により修繕箇所が増え資金が足りなくなれば、修繕積立金を値上げするしかないのです。
修繕積立金の値上げに関しては下記記事でまとめていますので、参考にしてください。
修繕積立金はどこまで上がる?深刻な実態と今後の動向、注意点を解説
修繕積立金の平均額は大幅な上昇傾向
修繕積立金の平均額は実際に上昇しています。2021年にマンションの修繕積立金に関するガイドラインが10年ぶりに改定され、修繕積立金の平均額が大幅に上昇しました。
ひと月当たりの修繕積立金の改定前と改定後の上昇率について、以下の表をご覧ください。
階数
※()内は2011年 |
建築延床面積
※()内は2011年 |
2011年
平均値 |
2021年
平均値 |
上昇率 |
20階未満
(15階未満) |
5,000㎡未満 | 218円/㎡ | 335円/㎡ | 54% |
5,000~10,000㎡未満
(5,000~10,000㎡) |
202円/㎡ | 252円/㎡ | 25% | |
10,000~20,000㎡未満
(10,000㎡以上) |
178円/㎡ | 271円/㎡ | 52% | |
20,000㎡以上
(記載なし) |
– | 255円/㎡ | ‐ | |
20階以上 | ‐ | 206円/㎡ | 338円/㎡ | 64% |
国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドラインの概要」および「マンションの修繕積立金に関するガイドライン令和6年6月改訂」を基に作成
2011年と2021年では、階数や延床面積の区分に若干の違いはありますが、すべてにおいて上昇していることがわかります。さらに「20階(15階)未満」の「建築延床面積5,000~10,000㎡未満」以外は、5割を超える著しい上昇率です。
大幅上昇の背景(理由)
修繕積立金の平均が大幅に上昇した理由は以下の3つが考えられます。
・改定前はサンプル数が少なかった
・マンション管理計画認定制度に策定された
・物価高で修繕費用が上昇した
ガイドラインの改定にあたり、サンプリングされたマンションの長期修繕計画は84事例から366事例に増加しました。改定前よりもより実態に近づいたことで、高額な平均値が算出されたと考えられます。
また、ガイドライン改定の翌年2022年には、マンション管理計画認定制度がスタート。マンション管理の重要性が認識されはじめ、修繕積立金を適正額に引き上げるマンションが増えました。
物価高による修繕コストの増額も修繕積立金が大幅に上昇した大きな原因です。建築資材だけでなく、人件費や光熱費なども上昇しており、修繕積立金の値上げを余儀なくされるマンションが多く見受けられます。
修繕積立金が安いマンションは注意
修繕積立金が安いと毎月の負担が少なくすみます。しかし、修繕積立金の徴収額が少なすぎると、大規模修繕を迎えたときに資金が足りなくなることも。その結果、高額な修繕積立一時金を徴収されたり、金融機関から借入し利息の返済により組合の財政状況が悪化したりと、さまざまな問題が発生します。
修繕積立金は、マンションを適切に管理し資産価値を維持するために必要不可欠のため、将来への備えとして適正金額が設定されていることが重要です。
修繕積立金の値上げや一時金の徴収予定を調べる方法
修繕積立金の値上げや一時金の徴収予定は事前に調べられます。すでに管理組合の総会で承認を得ている値上げや一時金の徴収は、管理会社が発行する「重要事項に係る調査報告書」に記載されているため、確認してみましょう。
総会で承認される前に値上げや一時金徴収の可能性を調べたいときは、調査報告書に記載されている修繕積立金の残高や借入金と、長期修繕計画で予定されている今後必要になる修繕費用を照らし合わせます。
借入金があったり修繕積立金の残高が不足していたりする場合は、将来的に値上げや一時金を徴収される可能性が高いでしょう。
管理費と修繕積立金の支払いは義務
建物の区分所有等に関する法律(以下、区分所有法)によって、分譲マンションの所有者には管理組合の加入が義務付けられ、管理組合には区分所有法を基にした独自のルール(管理規約)があります。
管理規約には、管理費や修繕積立金を支払うことや、所有者が個人で負担する金額が定められており、区分所有者は管理規約を守る義務があるのです。
つまり、管理費・修繕積立金はマンションの管理規約に基づき、部屋を手放さない限り、一生払い続けなければいけないことを意味します。
管理費と修繕積立金を払えないとどうなる?
管理費と修繕積立金を滞納したらどうなるのか、滞納時の対応や売却、滞納者の統計結果についてみてきましょう。
滞納時の対応
マンション管理費と修繕積立金を滞納した場合、まずは管理会社から督促の連絡が入ります。電話、書面、訪問、内容証明などの方法で届くでしょう。すぐに滞納額を満額支払えば、その後は大きな問題になりません。
しかし、そのまま滞納額の支払いを拒んでいると管理組合が裁判所に支払いを申し立てる可能性があります。承認されてしまうと法的効力が生じて、最悪の場合、競売を申し立てられ売却完了に伴い退去しなければいけない可能性も…。督促された時には直ちに滞納額を満額支払いましょう!
滞納したままマンションを売却できる?
管理費や修繕積立金を滞納しても、マンションを売却することは可能です。しかし、売却したからと言って支払いの義務を免れるわけではありません。
また、区分所有法では、滞納額の支払い義務は新たな買主も負うことになっています。実際は売主が精算するケースがほとんどではありますが、これから中古マンションを購入される方は、滞納金の負担が無いか、あったとしたらいくら負担することになるのか、注意しましょう。
滞納者数の統計結果
国土交通省による「平成30年マンション総合調査管理組合向けの調査結果」によると、3か月以上の滞納住戸のある管理組合の割合は24.8%、6か月以上の場合は15.2%、1年以上の場合は16.4%です。
いずれも完成年次が古くなるほど滞納住戸がある管理組合の割合が高い傾向となっています。
参照:国土交通省「平成30年度マンション総合調査結果」(平成31年4月26日公表)
修繕積立金は将来への備え!金額設定と使い方が上手なマンションは価値を維持できる
マンション総合調査の結果によると「現在の修繕積立金が計画に比べて不足している」という回答が全体の36.6%、「現在の修繕積立金が計画に比べて余剰がある」が39.9%となっており、修繕積立金が不足している管理組合の方が少ない状況ではありますが、決して安心できる割合ではありません。
修繕積立金が不足すると、大規模修繕工事前の一時金徴収や修繕積立金の大幅な値上げも考えられます。
区分所有者の負担をできるだけ抑えるためにも、管理資金の不足が深刻になる前に、管理費と修繕積立金の妥当性を定期的に見直して早期対策を心掛けましょう。
さくら事務所では、管理費・修繕積立金を適正金額を検証し長期修繕計画を見直し・作成するサービスを行っています!管理委託費をもらう立場の管理会社には言いにくいファクトも、第三者の立場で客観的に申し上げることが可能です。
また、大規模修繕工事の周期を見直すために、建物劣化診断もおすすめです!
「その工事、本当に今、必要ですか?」という視点で、マンションの屋上からエントランスまで共用部分を診断し、大規模修繕工事を行うべき適正なタイミングをアドバイスいたします。
今修繕すべき箇所を明確にして不要な工事を延期できれば、修繕積立金を賢く使い、数十年後も健全で資産価値の落ちないマンションを目指しましょう!
また以下の動画でも詳しく説明をしていますので、気になる方はぜひご覧ください。
管理費修繕積立金に地域差はあるか?マンション管理士が解説!【さくら事務所】