多くのマンションで長期修繕計画が作成されていますが、なかには計画自体がないマンションやあっても活用できていないマンションも少なくありません。
長期修繕計画は、計画的に修繕積立金を徴収して適切にマンションを修繕していくために不可欠です。長期修繕計画がないと、将来マンションが必要になる修繕や修繕費用の見通しが立ちません。マンションの寿命を短くしてしまうことも。管理面での不安が大きいため購入検討者からも選ばれにくいのが現状です。
本記事では長期修繕計画がないマンションの危険性と対処法を解説します。長期修繕計画があるマンションのチェックポイントについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
長期修繕計画がないマンションが危険な理由
長期修繕計画がなくても、建設からあまり年数が経過していなければ、とくに問題を感じることはないかもしれません。しかしつぎの4つの理由から、将来、居住価値や資産価値が低下することが予想できます。
・場当たり的な修繕になりやすい
・資金不足で高額な修繕に対応できない
・住宅ローンを組めないため購入者が見つかりにくい
・住環境が悪化する
順に詳しくみていきましょう。
場当たり的な修繕になりやすい
長期修繕計画がないと場当たり的な修繕になりやすい傾向があります。将来かかる修繕費用の見通しが立たないことから、修繕積立金をつかうことに消極的になるためです。
コストを抑えた場当たり的な修繕をするとその場は節約になるかもしれませんが、最終的に劣化が進みより高額な修繕費用がかかることも。繰り返しおこなったその場しのぎの修繕費用が無駄になってしまうのです。
長期的な目線で修繕計画を立てていれば、お金をかけるタイミングを把握でき、修繕積立金を適切に使えます。
資金不足で高額な修繕に対応できない
場当たり的な修繕で無計画に修繕積立金を使っていると、大規模修繕が必要になったときに資金不足に悩まされます。大規模修繕の費用はマンション規模にもよりますが、数千万から億単位です。
修繕積立金が足りないときは、高額な修繕積立一時金の徴収や修繕積立金の大幅な金額アップを余儀なくされます。本来必要な修繕を先延ばしにしたり諦めたりすることもあるでしょう。
長期修繕計画があると「いつまでにいくら必要か」がわかるので、計画的に修繕費用を確保できます。
住宅ローンを組めないため購入者が見つかりにくい
長期修繕計画がないマンションは、住宅ローンを組みにくいデメリットがあります。
金融機関は当該物件を担保にするため、ローン返済期間中にマンションの資産価値が下がってしまう要因があると、お金を貸したがりません。
長期修繕計画がないマンションは、資産価値を維持できるか不透明と判断されます。
住宅ローンを組めないことだけが問題ではありませんが、買い手が付きにくい理由のひとつになるといえるでしょう。
住環境が悪化する
適切に修繕されずに場当たり的な修繕ばかりだと、マンションの住環境は悪くなります。マンションを手放す人が増えても購入者が見つからないため、空き部屋が増える一方です。
空き部屋が増えると管理状態が悪く不法侵入などの犯罪が起きる可能性も高まります。こうした負のループに陥る前に早めに対策することが大切です。
長期修繕計画がないマンションは全体の7%
国土交通省「平成30年度マンション総合調査」によると、全体のうち7%のマンションが長期修繕計画を作成していませんでした。
完成年次別の調査では、築年数が経過しているマンションほど長期修繕計画を作成していないマンションの割合が多いことがわかっています。とくに、顕著なのか昭和59年以前に完成したもので、平均約20%のマンションで長期修繕計画がないという結果でした。
築年数が経過しているマンションは、劣化も進んでいるはずです。修繕積立金不足で適切な修繕ができない問題に直面しているマンションは多いでしょう。
参照:国土交通省「平成30年度マンション総合調査 管理組合向け調査の結果」
長期修繕計画がないマンションの対処法
長期修繕計画がないマンションは、管理組合が機能していないケースが多く見受けられます。まずは管理組合を機能させて長期修繕計画の作成に取りかかりましょう。
・管理組合を機能させる
・長期修繕計画を作成し修繕積立金を見直す
以下で詳しく解説します。
(1)管理組合を機能させる
管理組合を機能させる手順は以下のとおりです。
1.管理規約の有無を確認する
2.総会を開催する
3.理事や理事長を選任する
4.管理規約を作成する
まず管理規約があるか確認します。管理規約があれば規約に記載されている管理者に総会を開催してもらいましょう。管理規約がないときは、区分所有者総数の5分の1以上および総議決権数の5分の1以上の賛成があれば総会を開催できます。
総会で理事や理事長などの役員を選任し、管理規約の作成を進めましょう。管理規約がある場合も今後運用しやすいように見直す必要があります。
管理規約は、国土交通省が発表している「マンション標準管理規約」を参考にするとよいでしょう。専門知識が必要なため、マンション管理士などに相談しながら進めていくのがおすすめです。
(2)長期修繕計画を作成し修繕積立金を見直す
管理組合が機能したら、長期修繕計画を作成します。国土交通省「長期修繕計画ガイドライン」を参考にしながら、長期修繕計画を作成します。マンションの過去の修繕履歴や建物調査をもとに修繕計画を立てていきましょう。
修繕項目や修繕周期もガイドラインが参考になりますが、長期修繕計画は個々のマンションの立地や仕様、管理状況を考慮して作成されるべきです。竣工図書と実際の建築・設備が違うことはままあります。適切な計画を作成するためにも、数量拾い、できれば、建物診断をおこない、マンションの実態を把握することから始めましょう。
長期修繕計画を作成したら、修繕積立金の徴収額を見直します。長期修繕計画で「何年後にいくら修繕費用が必要なのか」がわかるため、計画を遂行できる金額を設定しましょう。
管理組合の皆さまだけで長期修繕計画を作成するのは難しいです。管理規約の作成・見直しと同様にマンション管理士などの専門家にアドバイスをもらいましょう。
長期修繕計画があっても安心できない!3つのチェックポイント
長期修繕計画があるからといって安心できるわけではありません。長期修繕計画を活用できているか調べるためのチェックポイントはつぎの3つです。
・長期修繕計画の見直しがされているか
・長期修繕計画どおりに修繕が進んでいるか
・修繕積立金の徴収額が長期修繕計画に見合っているか
順に解説します。
(1)長期修繕計画の見直しがされているか
長期修繕計画の見直しについて、ガイドラインでは、5年程度ごとに調査を実施しその結果に基づいておおむね1年〜2年の間に見直しする旨の記載があります。
長期修繕計画の見直しが必要な理由は、築年数の経過とともに物価や人件費が高騰するなど計画と現実にズレが生じてくるためです。
定期的に見直されていないと、長期修繕計画に合わせて修繕積立金を積み立てていても実際は費用が足りずに必要な修繕ができないこともあります。
また、建設当初の計画は実はマンションが完成する前に作られたものです。多くのマンションは完成前に販売され売買契約前に重要事項説明がおこなわれます。その重要事項説明で長期修繕計画を説明しないといけません。完成時には数量や項目が変更していることもあるため、一度も計画を見直していないマンションは要注意です。
新築マンションの長期修繕計画作成の流れは下記記事で詳しく紹介しています。
新築分譲時のマンション長期修繕計画、なぜ現実離れしたものになってしまうのか?
(2)長期修繕計画どおりに修繕が進んでいるか
長期修繕計画通りに修繕がおこなわれているかも大事なチェックポイントです。
長期修繕計画通りに修繕が進んでいない場合は、計画が実行されていない理由を確かめましょう。
前回の工事履歴や建物診断により計画していたが不要と判断された、など適切な理由であればよいですが、単に修繕積立金が足りなくて修繕できていない可能性もあります。
マイナスな理由で計画通りに修繕が進んでいない場合は、計画の見直しなど状況改善の措置がとられているのかもチェックしておきたいポイントです。
(3)修繕積立金の徴収額が長期修繕計画に見合っているか
長期修繕計画があっても修繕積立金の徴収額と見合っていないケースもあります。
そもそも修繕積立金の徴収額が安く設定されていたり、段階増額積立方式(段階的に値上げすることが前提の徴収方法)なのに徴収金額が据え置きになっていたりすると、修繕費用が足りなくなるのは明らかです。
修繕積立金の徴収額が長期修繕計画に見合っていない場合、修繕積立金の値上げや修繕積立一時金の徴収が考えられます。修繕積立金の改定予定は、管理会社が発行する「重要事項に係る調査報告書」で確認しておきましょう。
修繕積立金の相場や値上げ要因については下記記事でまとめていますので参考にしてください。
高精度の長期修繕計画で将来を見越したマンション管理を
長期修繕計画がないマンションは、将来的に必要な修繕ができなかったり高額な修繕費用を徴収されたりする可能性が高まります。早い段階で改善できなければ資産価値や居住価値は下落する一方です。
しかし、長期修繕計画があるからといって「将来安泰」というわけでもありません。長期修繕計画と修繕積立金の徴収額が見合っていなかったり、資金不足で修繕が滞っていたりすると、長期修繕計画が無意味になってしまうのです。
長期修繕計画がない、あっても活用できていないマンションは、早急な作成・見直しをおすすめします。
さくら事務所では、長期修繕計画の見直し・作成サービスを実施中です。
・長期修繕計画が実態に見合った内容になっているのか
・修繕積立金の徴収額は適正なのか
・値上げや一時金徴収を回避できないのか
長期修繕計画がないマンションはもちろん、上記のようなお悩みがあるマンションの管理組合の皆さまはぜひご活用ください。
これまで多種多様なマンションをみてきた専門家が、マンションの将来像を予見し、第三者の公正な立場でアドバイスさせていただきます。