平成30年のマンション総合調査の結果、計画上の修繕積立金の積立額に対して現在の修繕積立金の積立額が不足しているマンションの割合が34.8%にも上ることがわかりました。
修繕積立金を算出するもととなる長期修繕計画は新築分譲時に既に作成されています。
「計画通りに積み立てているのに、なぜ不足するのか?」と考える方もいらっしゃるでしょう。
実際に将来の不足が予想され金額を改定しなればならなくなっても、お住まいの方の中には、「購入時にそんな話は聞いていない」という方もいるようです。
ここでは、新築分譲時の長期修繕計画の注意点とその背景について、マンション管理士が解説します。
目次
新築マンションの長期修繕計画がつくられるまで
修繕積立金不足を招く現状の背景には、新築分譲時の販売スケジュールも関係しています。
分譲マンションを建てるには、まず確認申請を出さなければ着工できません。「建物を建てていいですか?」という許可を得て、着工できることになります。
また、宅地建物取引業法では、この「建築確認申請」の許可が出れば、そのマンションの広告・販売をしてもOKになります。
分譲会社としては、早く購入検討者を募りたいことから、建物ができる前から早期に広告したいと考えるでしょう。この建物ができる前に販売する方法は「青田売り」とも呼ばれます。
物件価格などの詳細が決まった段階での広告を「本広告」と呼びますが、本広告では「物件の価格その他の取引条件」を優良誤認しないように明示することが求められており、その中には修繕積立金の額も含まれています。
また、販売を開始して契約を行う際は、重要事項説明を契約締結前に行わなければなりません。その説明事項のうちに、「計画修繕積立金等に関する事項」があり、「長期修繕計画」はその中で説明する必要もあります。
上記のように、販売・広告の段階で、修繕積立金、ならびにその算出根拠となる長期修繕計画は作成されていなければいけないのです。
建物ができる前から、早々に長期修繕計画は作成されることになります。
実際のマンション建設までは、どのような流れになるのでしょうか。
長期修繕計画作成後に仕様が変更されることも
マンション建設にあたっては、①確認申請のための「確認申請図」、②より詳細な「実施設計図」、③更に実際に施工するための「施工図」と大きく分けて3種類の図面が作成されます。
先ほども挙げたように、まずは建物を建てる許可を得るための「確認申請図」を作成します。この段階では、まだ概略です。法規制から大きな変更こそできないものの、その後も仕上げなどは変更になる可能性が大いにあります。
建物を建てるため、というよりも建てることを許可してもらうためのもの、という意味合いが強いでしょう。
確認申請図には細かな部分は描かれていないことが多く、より詳細な「実施設計図」が必要になります。
実施設計図が出来上がると、不動産業者は各戸の販売価格を決定します。同時に、実施設計図を基に防水やタイルの面積、鉄部の量などが算出されて長期修繕計画が立てられ、その長期修繕計画を元に修繕積立金の額が決定します。
しかし、実施設計図では、実際に使う設備機器の記載もなければ、寸法も確定されてはいません。それらは施工図を描くことで補われます。
次に、実施設計図を元に複数の施工会社が見積もりを作り、それぞれの施工能力や見積金額を比較して施工会社を決定します。
決定した施工会社は、実施設計図だけでは実際の工事ができないので、実際に工事するための「施工図」と呼ばれる図面を描きます。
この施工図は大工・鉄筋業者用、タイル業者用、防水業者用など、各業者が工事するために必要な図面で、実施設計図よりも詳細に描かれています。
施工図は工事着工前から工事中のタイミングで描かれます。施工図を元に長期修繕計画の数量を算出していたら、販売に間に合わないからです。
ですが、この段階では、まだマンション建設の許可は下りたものの、実際の建設工事のための実施設計図面、もしくはゼネコンとの契約図面レベルのものしか資料がありません。
むしろ、ここから事業主はゼネコンと建築費をコストダウンするための協議を重ねて行きます。
したがって、この時点の図面と同一内容の建物ができるわけではありません。
法律による規制や予算の関係もあって、大幅な変更は難しいものの、多少の変更はある前提の図面をもとに長期修繕計画はつくられています。
屋上の防水面などは設計図と施工図で面積が異なることはほとんどないのですが、複雑な形のマンションではタイルの面積、吹き付け面の面積、鉄部の数量などが異なることが多々あります。
ある物件では、長期修繕計画上のタイルの数量と実際の数量が20%も違ったという事例もありました。
施工していく中で、実施設計図に描かれていない部分にタイルを貼ることを決めたので、面積がどんどん増えていったようです。
このように、長期修繕計画はマンション販売前の計画ですので、完成後とは異なることが多くあります。
管理費は安くできないので、修繕積立金を抑える
新築マンションを購入する際、販売価格やそれに伴う諸費用はもちろんのこと、「住宅ローン利用の場合は毎月返済額」「管理費」「修繕積立金」の説明を受けます。
用途・支払先は違えど、月々の家計から出ていくこれらの費用は少ないい越したことはありません。
住宅ローンについては、低金利の金融機関やローン商品を選択するでしょう。
ですが、管理費や修繕積立金についてはあらかじめ決められており、あらかじめ分譲会社に提示された金額を支払うことになります。
分譲会社とすれば、管理費は極力高めに設定したいと考えます。多くの新築マンションでは、あらかじめ分譲会社の系列の管理会社がセッティングされています。
つまり、管理費は引き渡し後もグループ会社に毎月入ってくることが予想される売り上げです。
一方、修繕積立金は、マンション購入者で引き渡し後に構成される管理組合の貯金になります。分譲会社には関係のないお金とも言えます。
修繕積立金を極力抑えることで、月々の負担総額をなるべく下げることができるのです。
分譲する側とすれば、購入へのハードルを下げることでより売りやすくなります。
なるべく早い段階での長期修繕計画の見直しがおすすめ
まず、新築時の修繕積立金はあくまで参考とし、いずれ金額は改定が必要になるものと考えておきましょう。
大手の分譲会社のマンションを購入された方ほど、「大手だから大丈夫なはず」と妄信してしまうケースが見られますが、大手だから大丈夫、というものでもありません。
ここ何年、建築工事費も高騰しています。
国土交通省も5年ごとの見直しを推奨していますが、一度、外部専門家を交えるなど一気に長期修繕計画の見直し・修繕積立金の改定ができればいいでしょう。
さくら事務所の長期修繕計画の見直しでは、管理会社と協同しての見直しをお勧めしています。
外部の設計事務所に依頼すると、正確な数量や面積算出のために高額な費用がかかるケースがありますが、管理会社が保有している竣工時の建物のデータを活用することで費用を抑えることができます。
どのタイミングで修繕積立金の額を見直しても、将来的にマンションの修繕に必要になるトータルコストに変わりはありません。
老後の自分たちに負担を先送りすることのないよう、長期修繕計画・修繕積立金は早めの見直しが重要です。
長期修繕計画、まずはその問題点を洗い出そう
まずは長期修繕計画見直しをご利用いただき、その結果をもって管理会社さんに見直しについて相談されてみてはいかがでしょうか?
①修繕周期は適切か? ②修繕項目の設定は妥当か? ③工事費用の算出根拠は? ④今後、修繕積立金はこのままでいいのか? といった長期修繕計画の基本となる4つのポイントを確認し、その結果を報告、今後に向けたアドバイスを行います。