責任施工のメリットデメリットは?向いているマンションや他の発注方式も

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責任施工のメリットデメリットは?向いているマンションや他の発注方式も

この記事はマンション管理士/一級建築士などの専門家が監修しています

責任施工方式は、コンサルタントが介さない分、管理組合側の判断力や依頼先との信頼関係が非常に重要です。

コンサルタント費用の削減や工期短縮といった利点がある一方で、品質管理や見積もりの妥当性の判断には注意が必要になります。

「日常管理を依頼している管理会社なら安心」と安直に責任施工を採用する前に、今一度よく検討しましょう。


本記事では、責任施工方式のメリット・デメリットを中心に、設計監理方式との違い、
よりよい形で工事をしてもらう方法を解説するため、発注方式の検討の際にお役立てください。

責任施工とは

責任施工とは、修繕工事に関わる下記の工程を施工会社1社に全て任せる方式です。おもに管理会社に依頼するケースが多く見受けられます。

下のような工程を1つの施工会社に全て任せる方式です。

・工事前の調査、劣化診断

・工事の設計(工事内容を考える)

・実際の施工業務(施工や下請け業者への発注)

工事の監理(工事が正しく行われているかチェック)

発注者は、施工会社と工事請負契約を結ぶことになり、原則、コンサルティング会社などの第三者が立ち入ることはありません。そのため、施工会社には施工の技術や品質だけでなく、工事内容の提案力や管理組合の運営に関する知識も求められます。

また、発注者と施工会社の間には強い信頼関係が不可欠です。

一方で設計監理方式とは、コンサルティング会社に建物劣化診断や工事設計・監理を委託する方式です。設計監理コンサルタントが発注者と施工会社の間に入って工事の内容や金額の妥当性を監理(設計図面の通りに施工されているかどうかを確認すること)することが期待される方式です。

責任施工のメリット

責任施工を選択することのメリットは、大きくわけて4つです。

・業務の流れを簡素化できる

・工期を短縮できる

・責任の所在が明らか

・コンサルタント料がかからない

順に紹介します。

 

(1)業務の流れを簡素化できる

責任施工の最大のメリットは、一社の施工会社としかやり取りしないので、打ち合わせや発注手続きなどの事務面をとことん簡素化できることです。困ったり疑問が生じたりした際には、依頼した施工会社に相談すればいいので、急なスケジュールの変更や突発的なトラブルがあってもやり取りしやすいでしょう。忙しい修繕委員や理事会にとって、責任施工は魅力的な方法と言えそうです。

(2)工期を短縮できる

工事の設計から施工まで全てを同じ会社が担うことで作業員の配置やスケジュール調整などがしやすくなり、複数の業者が関わるよりもスムーズに工事が進みやすくなります。結果的に、工期の短縮が期待できます。

(3)責任の所在が明らかである

竣工後に瑕疵(欠陥・不具合)が見つかった時、責任施工の場合は責任の所在が明らかなのですぐに補修をしてもらえます。

一方で、複数の業者が絡んでいた場合には、まずどこに相談し対応を求めるべきかを確認しなければいけません。その手間や時間が省略できるというのは責任施工の大きなメリットになります。

(4)コンサルタント料がかからない

設計監理方式を選択するとコンサルティング会社が介入することになるため、工事費用とは別にコンサルタント料金が発生します。しかし、責任施工なら一括発注なのでその費用がかかりません。

第三者の目が入らないという懸念はありますが、少しでも費用を削減したい場合には効果的です。

責任施工のデメリット

メリットが多い責任施工ですが、一方ではデメリットが発生するケースもあります。

よりよい選択をするため事前に知ってほしい注意点は、主に4つです。

・施工会社選びが難しい

・工事内容と費用が不透明になりやすい

・管理組合の負担が増える

・手抜き工事のリスクが高まる

以下で詳しく見ていきましょう。

 

(1)施工会社選びが難しい

管理会社以外を選択する場合は、施工会社選びに苦労します。

設計監理方式なら、コンサルティング会社と一緒に施工会社を選ぶことになるのですが、責任施工方式の場合は、修繕委員や理事会が自ら施工会社を選ばなければいけません。

選んだ施工会社には、マンション修繕に関わる全ての工程を任せることになるため「この施工会社なら大丈夫!」と信頼できる施工会社を自信を持って選び切ることは至難の業です。

 

(2)工事内容と費用が不透明になりやすい

責任施工では、第三者のチェックが入らないため、工事内容や費用の妥当性に対する客観的なアドバイスを受けられません。場合によっては、明らかに不透明な見積りを出されてしまうこともあります。

また管理会社は施工会社ではないため、下請けに発注する際のマージンが課題になって総会で決議がうまくいかないことも。

コンサルタント料がかからないとはいえ、工事費を安くおさえられるとは限らないのです。

対策としては、修繕委員が自ら確認する必要があるのですが、難しい場合は第三者機関へ工事内容や費用のチェックを依頼してもいいでしょう。

(3)管理組合の負担が増える

監理を専門家に任せていない以上、依頼、修繕箇所のチェック、見積りの妥当性の確認などは全て修繕委員(管理組合)の仕事になります。「業務の流れを簡素化できる」というメリットがあるとは言え、工事の前後に管理組合の負担が増えることは間違いありません。

また、工事内容のチェックに関しては専門家しかわかりません。必要に応じてスポットで外部に依頼するという手間や費用が発生する可能性もあります。

(4)手抜き工事のリスクが高まる

工事の品質をチェックする第三者がいないということで、施工会社によるチェックが甘くなるケースも起こり得ます。アフターサービス保証があるといえど、工事完了後に不具合が頻発するようでは、生活がままなりません。

施工会社とのトラブルを防ぐためにも、発注者である管理組合は施工会社と密に連携を取り工事の途中であっても気になる部分は気軽に相談するなど早めの対策を心掛けなければならないのです。

責任施工方式が向いているマンション

責任施工のメリット・デメリットを理解しても、「結局、うちのマンションは責任施工を検討していいの?」と迷うケースもあると思います。

以下の2つが該当する場合は責任施工方式を検討してもよいでしょう。

・施工会社(管理会社)と信頼関係が構築されている

・手間や時間をかけたくない

順に詳しく解説します。

施工会社(管理会社)と信頼関係が構築されている

責任施工はどうしても客観性に欠ける部分があるため、懸念材料のある施工会社に任せてしまうと後々大きなトラブルが発生するケースもあります。

責任施工で最高のパフォーマンスを発揮するためには、何よりも発注者と施工会社の信頼関係がしっかり構築できており、円滑なコミュニケーションが取れることが大切です!

先述したメリットは全て施工会社との信頼関係があるからこそ生まれるものであり、デメリットが生じても早期解決に繋がるのです。

手間や時間をかけたくない

「工事を出来るだけ時短で完了させたい」「施工会社の選定やスケジュール変更・トラブル時に極力手間を掛けたくない」という場合にも、責任施工はニーズに合う発注方法であると言えます。

管理組合が人材不足であったり修繕委員の業務短縮が必要なマンションによっては、一定の効果がある選択となるでしょう。

責任施工と比較される設計監理方式とは

設計監理方式とは、工事の設計と監理をコンサルティング会社(設計事務所)に、施工は別の会社に委託する方法です。

コンサルティング会社はおもに以下の業務を行います。

・劣化診断

・修繕の設計

・仕様書作成

・施工会社選定

・工事中の監理

設計監理方式の場合は、施工会社の前にコンサルティング会社を決めて、どのような工事を行うのか大まかな仕様を決定します。

その後、仕様書に基づいて工事をしてもらう施工会社を決めます。施工会社は複数の会社から相見積もりをとって、価格が安い会社に決定するのが一般的です。

設計監理方式のメリット

設計監理方式のメリットは、施工にあたり第三者が介在するため、品質や価格に客観性を持たせやすいことです。また相見積もりによりコストダウンを図れる可能性もあります。

責任施工方式の場合、金額の妥当性の判断や工事が滞りなく進められているかのチェックは、管理組合で行わなければいけません。

しかし設計監理方式の場合は、工事に知見のあるプロが代わりにやってくれるため、管理組合の負担が少ない点もメリットといえるでしょう。

設計監理方式のデメリット

設計監理方式のデメリットは、談合などの不正が行われる危険性があることです。

設計監理方式は、予め決めた仕様書に基づいて、各社に工事見積もりを提出してもらいます。仕様が決定していることで、価格を中心としたコンペになるため、悪質なコンサルタントによる見積もり操作がしやすくなるのです。

たとえば、コンサルティング会社が工事会社と結託し、見積もりを操作するなどして、特定の1社が選ばれるように仕向けます。その1社が選ばれると、相場よりも高い費用で工事を請け負い、コンサルティング会社へバッグマージンを支払う、といった手口です。

巧妙な手口により管理組合だけで、不正を暴くのは難しく多くのマンションが被害に合っています。

コスパ重視ならプロポーザル方式がおすすめ

コスパ重視ならさくら事務所が実施しているプロポーザル方式がおすすめです。

プロポーザル方式は、施工会社を公募で募ります。修繕計画や工事仕様から自由に提案してもらい、さくら事務所とともに1社に決める方法です。

仕様書に基づいた見積もりでないからこそ、金額と内容を比較するのが難しいのですが、さくら事務所が提案内容を精査して比較検討をサポートします。

プロポーザル方式のメリットとデメリットは以下のとおりです。

プロポーザル方式のメリット

プロポーザル方式のメリットは4つあります。

・熱意を持った提案を受けられる

・「費用」「内容」ともに納得感の高い工事ができる

・談合や見積り操作、マージンが発生しない

・責任施工のデメリットである「手抜き工事」を防げる

各社の得意分野や経験を活かした自由な提案ができることから、熱意のある会社が応募してきます。あくまでもさくら事務所はサポート役で管理組合が主体のため、自分たちが納得のいく施工会社選定が可能です。

また、プロポーザル方式は自由提案により、単純な金額比較にはなりません。そのため見積もりの操作や談合が難しいのもポイントです。

責任施工だと第三者の監理者がいませんが、プロポーザル方式ではさくら事務所が「施工チェック」を行い、工事の進捗状況などを管理組合に報告するため、手抜き工事の抑止にも繋がります。

プロポーザル方式のデメリット

プロポーザル方式の唯一のデメリットは、管理組合の手間がかかる点です。

管理会社やコンサルティング会社に任せきりになりやすい、責任施工・設計監理方式と違い、プロポーザル方式は管理組合がさくら事務所とともに施工会社選定を進めていくため、どうしても手間がかかってしまいます。

プロポーザル方式では、以下のような流れで施工会社を選定していきます。

1、マンションの状況把握(アンケート・現地確認)

2、施工会社を公募

3、書類選考・面談

4、見積もり要項書作成

5、施工会社(3社程度)によるプレゼンテーション

6、修繕委員など多数決にて施工会社を決定

7、総会決議

8、工事請負契約締結(発注)

修繕委員会が主体となって施工会社への面談や質疑応答を重ねることによって、施工会社の熱意や担当者の人柄もわかり、不正を防ぎます。手間がかかるからこそ修繕工事そのものが満足度の高いものになるのです。

下記動画ではプロポーザル方式の進め方やほかの発注方式との違いを分かりやすく紹介しています。

マンション管理組合必見!プロポーザル方式の流れを解説!設計監理方式・責任施工方式と比較【大規模修繕工事】さくら事務所

責任施工にも様々なメリットがありますが、より適正で付加価値の高い修繕工事にするために、さくら事務所ではプロポーザル方式をおすすめしております。管理組合が主体となって施工会社を選定する必要がありますので、選考、面談や質疑応答など、時間的・肉体的な負担はありますが、その分管理組合に大規模修繕工事のノウハウも蓄積されます。

さくら事務所には、大規模修繕工事に精通した経験豊富なコンサルタントが、第三者としての中立的な目線で施工会社選びのお手伝いをします。プロの知見を得たいけど、どのように進めればよいか迷われている方は、是非、お気軽にご相談ください。

また、責任施工方式を採用する場合でも工事の内容や見積の妥当性を検証するセカンドオピニオンサービスや、工事品質チェックなどのサービスをご利用になる管理組合様も少なくありません。


安心なマンション住まいと将来の資産価値向上のためにお役立てください!

大規模修繕工事の施工会社選び「修繕★参謀」プロポーザル方式

大規模修繕工事品質チェック

大規模修繕セカンドオピニオン

こちらの動画では、さくら事務所マンション管理コンサルタントの山本と鬼塚が責任施工方式・設計監理方式・プロポーザル方式の発注方式の比較や流れをわかりやすく解説し好評を得ています。

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鬼塚 竜司
監修者

鬼塚 竜司

新築工事にてマンションや複合施設の給排水および空調設備の工事管理を経験後、マンション管理会社の修繕工事部門にて、工事企画及び工事管理を14年間経験(管理職含む)。大規模修繕80棟以上、給排水管更生更新30棟以上、窓サッシ改修工事等補助金対応工事10棟以上、機械式駐車場入替、インターホン改修工事など、マンション全般の工事を経験。長期修繕計画の作成500回以上。2021年6月株式会社さくら事務所へ参画。

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