マンションの修繕積立金とは?相場や値上げの要因を徹底解説

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マンションの修繕積立金とは?相場や値上げの要因を徹底解説

この記事はマンション管理士/一級建築士などの専門家が監修しています

マンションを所有している場合、避けては通れないのが修繕積立金の支払いです。

「マンションの決まりだから」と、深く考えずに支払っている方も多いのではないでしょうか。マンションを所有している限り払い続ける修繕積立金は、長期的に見ると多額の出費になります。用途はもちろん、相場や値上げの可能性についてもしっかり理解しておきたいところです。

本記事では、マンションの修繕積立金の概要、相場や値上げの要因について解説します。納得して修繕積立金を支払うためにも正しい知識を身に付けましょう。

分譲マンションの修繕積立金とは?

修繕積立金は、マンションの安全性と機能性を維持するために使われます。おもな用途は、十数年に1度実施される大規模修繕工事です。

大規模修繕工事にかかる費用は数千万~億単位。到底、短期間で用意できる金額ではありません。そのため、区分所有者から毎月徴収する修繕積立金を将来の大規模修繕工事に備えて積み立てるのです。

そのほか、自然災害などが原因の予期せぬ修繕にも修繕積立金が使われます。ただし修繕積立金が使われるのは、共用部のみです。専有部は、区分所有者が各自で資金を用意して修繕する必要があります。

修繕積立金は管理費と使用用途が違う

修繕積立金と同じく、毎月支払う費用として「管理費」があります。よく混同されますが、修繕積立金は大規模修繕工事などに備えて積み立てていく「修繕費」であるのに対し、管理費は日常的な管理のために都度使われる「維持費」です。

管理費は、おもに共用部分の水道光熱費や管理会社への委託費用、設備点検などの費用に充てられます。

修繕積立金と管理費は、それぞれ用途は違うものの、どちらもマンションの状態を良好に保つために欠かせない費用です。

修繕積立金と管理費の用途については、下記記事で詳しく紹介しています。

管理費・修繕積立金の用途は?支払義務や計算方法、滞納時の対応を解説

修繕積立金は修繕積立基金で補える

修繕積立金を補う修繕積立基金というお金もあります。修繕積立基金は、新築マンション購入時に支払う一時金のことです。

修繕積立基金を修繕積立金の一部にすることで、月々の費用負担を軽減したり、修繕資金に余力を持たせたりする効果があります。

建設からわずか数年しか経っておらず、修繕積立金が少ないマンションの突発的な修繕費用としても役立ちます。

マンション修繕積立金の相場

国土交通省の令和5年度マンション総合調査によると、1戸当たりの修繕積立金の月額平均は13,054円(駐車場等の収入を除く)という結果がでています。

しかし、修繕積立金はマンションの規模や立地などによって負担額が大きく異なるため、ひとくくりにこの平均値を参考にするのは少し危険です。

そこで、本調査をもとに完成年次・総戸数規模・地域ごとにこまかく分けて、修繕積立金の平均額をみていきましょう。

完成年次別の費用相場

まず、完成年次別の修繕積立金の平均額について以下のグラフをご覧ください。

国土交通省「令和5年度 マンション総合調査〔データ編〕,管理組合向け調査の結果」をもとに作成

完成年次が平成17年以降のマンションは、新しいほど修繕積立金が安くなっている傾向です。これは、新築分譲時に修繕積立金が安く設定されていることが原因といえるでしょう。

修繕費用がそれほどかからない新築・築浅マンションは、修繕積立金の徴収額が少なくても困らないため、将来必要な値上げが先延ばしになりがちです。

しかし築年数が経過すると、修繕箇所が増え内容も大がかりなものになり、多額の修繕費用がかかります。資金不足に直面してようやく修繕積立金の増額を検討し始めるケースが多いです。

築年数がまだ浅いマンションの場合は、今後値上げの可能性が十分あることを視野に入れておきましょう。

総戸数規模別の費用相場

つぎに、総戸数規模別の修繕積立金の平均額をみていきましょう。

 国土交通省「令和5年度 マンション総合調査〔データ編〕,管理組合向け調査の結果」をもとに作成

規模別に見ると、51戸~500戸までのマンションはあまり大きな違いがありません。一方、50戸以下と501戸以上のマンションは、修繕積立金が高額な傾向です。

修繕積立金は将来必要とされる修繕費用を全区分所有者で分担して負担するため、戸数が少ないと1戸当たりの負担額が割高になります。

とはいえ、規模が大きすぎるマンションには、高機能な設備や豪華な施設があり、修繕方法も特殊です。維持管理に膨大な費用がかかるため、総戸数が多くても1戸あたりの負担額が大きくなります。

地域ごとの費用相場

最後に、地域ごとの修繕積立金の平均額について、以下の表をご覧ください。

地域 修繕積立金の平均額
北海道 15,921円
東北 13,657円
関東 13,737円
北陸・中部 11,834円
近畿 12,809円
中国・四国 12,565円
九州・沖縄 12,523円

修繕積立金は地域によってもばらつきが見られます。もっとも高額なのが北海道の15,921円で、次いで関東、東北です。ちなみに東京圏だけでみても13,622円と北海道よりも低額になっています。一方もっとも低額なのは、北陸・中部の11,834円です。

自身のマンションの修繕積立金の負担額に疑問をもっている場合は、完成年次・総戸数規模・地域ごとの平均値を参考にしつつ、維持管理費がかさむ要素がないかなど、複合的に捉えることが大切になります。

参照:国土交通省「令和5年度マンション総合調査

ガイドラインが提示する修繕積立金の適正単価

国土交通省が平成23年に公表した「マンションの修繕積立金に関するガイドライン(令和3年9月改訂、令和5年4月追補版)」では、機械式駐車場を除く修繕積立金の平均額の目安について、以下のように提示しています。

地上階数 建築延床面積 平均値

(㎡・月)

事例の3分の2が包含される幅

(㎡・月)

20階未満 5,000㎡未満 335円 235~430円
5,000~10,000㎡未満 252円 170~320円
10,000~20,000㎡未満 271円 200~330円
20,000㎡以上 255円 190~325円
20階以上 面積の指定なし 338円 240~410円

国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」をもとに作成

 

「事例の3分の2が包含される幅」とは、事例の大部分が当てはまっている金額のことです。

機械式駐車場がある場合は、上記の目安値に「1台当たりの月額の機械式駐車場修繕工事費×台数÷マンション総専有床面積(㎡)」も加算されます。

「1台当たりの月額の機械式駐車場修繕工事費」は下記の表のとおりです。機械式駐車場は多様なタイプがあるため、あくまでもひとつの目安として参考にしてください。

機械式駐車場の種類 1台当たりの修繕工事費(月額)
2段(ピット1段)昇降式 6,450円
3段(ピット2段)昇降式 5,840円
3段(ピット1段)昇降横行式 7,210円
4段(ピット2段)昇降横行式 6,235円
エレベーター方式(垂直循環方式) 4,645円
その他 5,235円

修繕積立金の額はどうやって決まる?

修繕積立金の平均額やガイドラインが提示する適正額が必ずしもご自宅のマンションに当てはまるわけではありません。

修繕積立金は長期修繕計画をもとに金額設定されているケースがほとんどです。

通常、長期修繕計画は25~30年で考えられており、その間に必要であろう工事内容や費用が記載されています。計画をもとに、工事のタイミングまでに修繕費用を貯められるように修繕積立金が設定されているのです。

修繕積立金は均等積立方式と段階増額積立方式の2種類あります。金額設定の考え方が異なるため、以下で見ていきましょう。

均等積立方式の場合

均等積立方式とは、計画期間中に月々の負担額が変わらない積立方法です。計画通りに資金を積み立てやすく「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」でも推奨されています。

均等積立方式の修繕積立金の算出方法は以下のとおりです。

  1. 長期修繕計画で「いつまで(月数)」に「いくら(金額)」必要なのか確認する
  2. 必要な金額を月数で割り、月額の修繕積立金合計額を算出する
  3. 専有面積を考慮し1戸あたりの月額修繕積立金を決定する

修繕積立金は、同じマンション内でも一律ではありません。基本的には、専有面積が大きいほど積立金額は高額になります。

段階増額積立方式の場合

段階増額積立方式は、計画期間のうち初期は負担額を抑え、段階的に増額する方法です。

臨機応変に金額を変えられる利点がありますが、値上げの合意形成がとれずに計画通り増額できなかったり、居住者の高齢化により支払いが難しくなったりする懸念点があります。

段階増額方式で修繕積立金を算出する際も、まずは均等積立方式と同様に、長期修繕計画で「いつまで(月数)」に「いくら(金額)」必要なのか確認しなければいけません。

大きな工事が不要な築浅のうちは、低額に設定し、段階を踏んで工事のタイミングに間に合うように、増額の計画を立てます。増額幅や増額の時期は、マンションによってさまざまです。

修繕積立金が値上がりする理由

段階増額積立方式が採用されている場合、修繕積立金が値上がりします。むしろ値上がりしなければ必要な修繕費用を確保できません。しかし、均等積立方式の場合であっても、修繕費用が足りなければ、修繕積立金は値上げされます。

長期修繕計画が作成された当初と現在では、必要な修繕内容や工事単価は少なからず変わっています。消費税や人件費、資材などの高騰により、当初の計画よりも修繕にかかる費用がかさむことは珍しくありません。

長年、長期修繕計画を見直していない場合は、修繕積立金が妥当な金額になっていない可能性が大いにあります。大幅な値上げを避けるために、定期的に計画を見直すことが重要です。

修繕積立金はいつどこまで値上げされる?

修繕積立金が値上がりするタイミングや金額に、業界的な統一ルールは存在しません。

なぜならマンションの修繕箇所や期間、費用などはマンションごとに異なり、必要な修繕積立金もマンションごとに異なるからです。

段階増額積立方式の場合、値上げのタイミングや値上げ幅はある程度確認できますが、マンションの劣化状況によっても変わるため、確実なものではないでしょう。

修繕積立金の値上がりを負担に感じる方は多いですが、徴収金額が見直されることは、決して悪いことではありません。

適切な修繕計画に基づいて積立金を設定し、適切な修繕工事を行うことは、マンションの資産価値と居住快適性を維持するために欠かせません。

修繕積立金を値上げしなかったがために、修繕費用が払えなくなってしまうと、急遽住民から多額の一時金を追加負担してもらうことになります。

急な出費に慌てるよりも、あらかじめ余裕を持って修繕積立金を準備しておく方が、安心できます。

この機会に、修繕積立金の徴収方法や積立状況について、確認しておきましょう。

修繕積立金が払えないとどうなる?

マンションの区分所有者は、マンションを手放すまで毎月修繕積立金を払い続けなければいけません。

今後、修繕積立金が値上がりして、万が一払えないという事態に陥ると、訴訟に発展したり売却時に不利になったりすることが考えられます。

以下で詳しくみていきましょう。

訴訟に発展することがある

修繕積立金を滞納すると、訴訟に発展することがあるため、未払いには気を付けましょう。

修繕積立金を払えなくなると、まず、管理組合や管理会社から督促されます。一般的には、まず電話で督促されますが、電話がつながらない場合は、直接訪問されることも。

電話や訪問の督促にも応じなければ督促状の投函、督促状でも支払われない場合は、内容証明が送付されます。

内容証明は、書類の受取日時や内容が記録に残る書類です。訴訟に発展した際には、証拠としても効力を発揮します。

管理組合は簡易裁判所で少額訴訟ができるため、督促には早急に対応しましょう。

売却時に不利になる

修繕積立金を払えていないと、マンション売却時に不利になる可能性があります。

売却する際には、マンションの資産はすべて買主に引き継がれるのが原則です。修繕積立金の滞納は負の資産として、買主に受け継がれます。不動産仲介会社は、買主に、修繕積立金の滞納があることを説明しなければいけません。

実際は、売主が滞納分を精算してから売却するケースが多いようですが、支払えない額の修繕積立金を滞納している場合は、売却も難航するでしょう。

マンションの修繕積立金について理解を深めよう

マンションの修繕積立金を負担に感じる居住者も多いかもしれません。しかしながら、劣化した箇所を修繕できないと、マンションの住み心地は少しずつ悪くなり、やがて住むことが苦痛になることが考えられますし、いつか売却を考えていても、コンディションの悪いマンションでは買い手を見つけることが困難でしょう。

マンションの財務状況によって積立金額や増額の有無に違いはありますが、修繕積立金は、居心地よく住むためにも、いずれ売却をするにも必要ですので、そのための資金を積み立てることはマンション所有者に課せられた重要な使命です。修繕積立金の理解を深め、当事者意識を持ち向き合っていきましょう。

前述したとおり、新築時に渡される長期修繕計画を、一度も見直していない場合、一度目の大規模修繕工事はどうにか対処できたとしても、二度目の大規模修繕工事から、修繕積立金が不足して、必要な工事ができず、借り入れを検討することになる管理組合が多いです。

一度も見直していない、また、見直したのが5年以上前である場合は、今すぐ見直しを行いましょう。

さくら事務所では、一級建築士やマンション管理士など、国家資格を持つマンション管理のプロが、長期修繕計画の妥当性をチェックするサービスをおこなっています。売主や管理会社などの影響を受けない、第三者としてのプロへ依頼することで、管理組合が適切な修繕積立金の見直しを図ることができるようになるでしょう。

さくら事務所は管理組合のミカタです。よりよいマンション運営に向けてサポートいたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

マンション長期修繕計画 無料簡易チェックサービス

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超基本!管理費と修繕積立金ってなに?段階積立方式と均等積立方式の違いなど

 

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山中 行雄
監修者

山中 行雄

マンション管理会社で約20年勤務。東京、千葉、広島、沖縄など、様々な地域で管理組合運営業務に携わる。

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