マンション大規模修繕工事のコンサルタントは、建物の劣化状況を調べて工事の範囲や時期を助言し、施工会社の選定を支援する専門家です。理事会や修繕委員会だけでは判断しにくい技術的な内容を補い、工事を円滑に進めるうえで重要な役割を担っています。
一方で、2026年9月28日、公正取引委員会は関東地区のマンション大規模修繕工事をめぐる談合について、設計コンサルタント2社と施工会社40社の独占禁止法違反を認定しました。管理組合の側に立つはずのコンサルタントが受注調整の中心にいたことが、行政処分という形で明らかになっています。
この記事では、大規模修繕工事におけるコンサルタントの役割を整理したうえで、公取委の処分で分かった談合の手口と管理組合がコンサルタントを選ぶ際に確認したい6つのポイントを解説します。
大規模修繕工事におけるコンサルタントの役割とは?
大規模修繕工事は、通常の審議事項を抱える理事会だけで検討するには負担が大きく、多くのマンションでは諮問機関として修繕委員会を設け、外部のコンサルタントを起用して進めます。国土交通省が令和3年度に行ったマンション大規模修繕工事に関する実態調査によれば、設計事務所などに調査診断から工事監理までを委託する「設計監理方式」の採用割合は80.1%にのぼり、コンサルタントが関与する工事が大半を占めています。

出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
大規模修繕工事におけるコンサルタントの業務は、大きく次の3つです。
劣化診断(建物診断)
最初の業務は、建物の劣化状況を調べる劣化診断(建物診断)です。外壁や屋上防水、鉄部などを調査し、どこがどの程度傷んでいるのかを把握したうえで、工事の範囲と実施時期を検討します。
この段階で大切なのは、長期修繕計画に書かれた時期が来たから工事をするのではなく、建物の状態から工事の要否を判断することです。築12年前後になると管理会社から工事の案内が届くのが一般的ですが、診断の結果によっては、工事の先送りや部分的な補修で済ませる選択肢もあります。
劣化診断は管理会社が無料で行う場合もあれば、設計監理方式を勧める設計事務所系のコンサルタントがコンクリートの中性化試験など高額で詳細な調査を提案する場合もあります。
施工会社選定
2つ目は、施工会社選定の支援です。施工会社の選定方式には「責任施工方式」「設計監理方式」「プロポーザル方式」などがありますが、工事仕様や見積の単価が適正かどうかを一般の区分所有者が判断するのは容易ではありません。
コンサルタントは、公募の条件設定や応募各社の実績確認、見積内容の比較などを通じて、管理組合が納得して施工会社を決められるよう支援します。後述する談合事件は、まさにこの業務の過程で起きたものです。選定の支援を「丸投げ」にしないことが、コンサルタント選びの大きな視点になります。
▶大規模修繕工事の3つの発注方式を比較。設計監理方式・責任施工方式・プロポーザル方式の違いとは
設計や工事内容のチェック
3つ目は、工事内容や仕様を定める設計と、設計どおりに工事が行われているかを確認する工事監理です。工事中の品質を区分所有者が自ら確認するのは難しいため、第三者であるコンサルタントがチェックしてくれる安心感は大きいといえます。
一方で、設計者と監理者を同じコンサルタントが兼ねる場合、施工会社との関係次第では、施工状況を客観的に厳しく指摘できるのかという疑問が残ります。この点は、6つのポイントの中で改めて取り上げます。
コンサル選びなど、大規模修繕で失敗しないための進め方について、3ステップに分け、56ページの資料でわかりやすく解説しています。ぜひご活用ください。
談合問題の発覚と処分で明らかになった「設計コンサルタント」のリスク
コンサルタントの選び方を考えるうえで避けて通れないのが、2026年9月28日に公正取引委員会が出した排除措置命令と課徴金納付命令です。公正取引委員会は、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県・栃木県・群馬県の1都6県にあるマンションの大規模修繕工事について、設計コンサルタント2社と施工会社40社の計42社が独占禁止法に違反する受注調整を行っていたと認定しました。排除措置命令は38社に、課徴金納付命令は施工会社37社に出され、課徴金の総額は16億3,788万円にのぼります。マンションの大規模修繕工事をめぐる談合に公正取引委員会が行政処分を出したのは、今回が初めてです。
設計コンサルタントが「受注予定者」を決め、見積価格まで調整していた
公取委の命令書によれば、施工会社は工事ごとに設計コンサルタントから発注情報を得て受注の希望を伝え、コンサルタントと協力関係を築いた1社が受注予定者になっていました。受注予定者は、見積り合わせに参加する他の施工会社が管理組合に提示する見積価格まで決め、他社は連絡された価格で見積を出すか、見積り合わせに参加しないという形で協力していました。
設計コンサルタント側は、業務の過程で把握した管理組合の発注予定金額(設計予算)などの情報を受注予定者に提供し、受注予定者の意向を踏まえて設計業務を進めていたと認定されています。管理組合は複数社の見積を比べて最も安い会社を選んだつもりでも、その金額は最初から受注予定者が決めたものだったことになります。
こうした受注調整は遅くとも2021年9月、11月から、公正取引委員会が立入検査に入った2025年3月4日まで続いていました。命令書の別表には、談合の対象として受注された171件の工事が、マンション名と契約日、受注した施工会社とともに実名で掲載されています。
▶マンション大規模修繕工事の談合に注意! 手口や疑わしい状況、対策とは
工事代金の「5%」が施工会社から設計コンサルタントに支払われていた
公正取引委員会は、コンサルタントの協力を得て工事を受注した施工会社が、原則として管理組合との工事請負契約における契約価格の5%を目安とする金額をコンサルタントに支払っていた事実も認定しています。1億円の工事であれば500万円が、管理組合の知らないところで施工会社からコンサルタントへ渡っていた計算になります。
この5%分が工事費に織り込まれていたとすれば、設計監理費用が安く見えても、管理組合が支払う金額は相応に割高になっていたものと考えられます。公正取引委員会は、こうした手数料の支払いが施工会社間の自由な競争をゆがめるおそれがあるとして、全国マンション改修設計コンサルタント協会、マンション計画修繕施工協会、日本塗装工業会の3団体に対し、会員への周知を申し入れました。
大規模修繕工事のコンサルタントを選ぶ6つのポイント【チェックリスト】
では、実際にコンサルタントを選ぶ際には、どこを見ればよいのでしょうか。国土交通省の検討会資料では、コンサルタントの選定方法として、推薦や公募で集めた複数の候補から見積を取って比較する「見積合わせ方式」と、特定の1社から見積を取る「特命随意契約方式」が挙げられています。どちらの方法で選ぶにしても、契約前に次の6つのポイントを確認しておきましょう。
| ✓ | 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| ☐ | 1.管理組合のスタンス | 主導したいのか任せたいのか。任せきりのリスクを理解しているか |
| ☐ | 2.維持管理の方針 | 機能維持かベストコンディション維持か。方針を汲んだ提案があるか |
| ☐ | 3.類似の実績 | 規模・構造・築年数が近いマンションでの実績があるか |
| ☐ | 4.管理組合運営の知識 | 理事会・総会の進め方や合意形成の実務を理解しているか |
| ☐ | 5.劣化診断の姿勢 | 工事ありきではなく、先送りや部分補修も選択肢として示すか |
| ☐ | 6.中立性 | 施工会社との利害関係がなく、手数料などを受け取らない立場か |
1.管理組合のスタンスと合っているか
コンサルタントに依頼する前に、管理組合としてどのような関わり方をしたいのかを整理しておく必要があります。「管理組合が主導したいが、専門知識がないので金額や工事内容の妥当性を助言してほしい」という組合もあれば、「時間がないので、一式お任せしたい」という組合もあるでしょう。
注意したいのは後者です。「お任せいただければ何でもやります」と請け負うコンサルタントの中には、見えないところで施工会社と結び付き、見積り合わせを形だけのものにする事業者がいることが、今回の処分で改めて示されました。国土交通省の検討会でも、管理組合の発注者としてのノウハウ不足と「設計コンサル・工事業者任せ」が談合を招く背景として挙げられています。任せきりには一定のリスクが伴うことを前提に、どこまでを自分たちで判断するのかを決めておくことが、コンサルタント選びの第一歩になります。
2.管理組合の方針を理解してくれるか
管理組合がマンションをどう維持していくのかという方針も、コンサルタント選びの軸になります。建物の機能が維持できればよいと考えるのか、常にベストコンディションを保ちたいと考えるのかによって、工事の範囲も仕様も変わります。
コンサルタントには、自分の得意なやり方を提案するタイプと、組合の考えを汲んで提案するタイプがいます。初回の相談で管理組合の方針を伝えたとき、その方針に沿った進め方を示してくれるかを確かめておきましょう。施工会社の選定方式について、メリットとデメリットの両面を説明してくれるかどうかも判断材料になります。
3.類似のケースのコンサルティング実績があるか
大規模修繕工事の実績は確認しておきたい項目ですが、見るべきは「これまで全部で何件か」という総数だけではありません。タワーマンションや外断熱のマンション、団地型といった建物のタイプ、あるいは次回の工事までの周期を延ばすための高耐久仕様の工事など、自分たちのマンションと条件の近い実績があるかを聞いてみましょう。
実績の中身を具体的に説明できるコンサルタントであれば、自分たちのマンションで起こりうる課題についても、見通しを持った提案が期待できます。
4.管理組合運営の知識は十分か
大規模修繕工事のコンサルティングには、建築の知識だけでなく、管理組合運営の知識も必要です。どれだけ技術に詳しくても、理事会や総会の進め方、合意形成の手順を理解していなければ、工事の検討が組合運営の中で滞ってしまいます。
実際、大規模修繕工事で難しいのは、工事の内容以上に住民の合意であることが少なくありません。建築の専門家と組合運営の専門家が連携し、それぞれの得意分野を担当する体制が理想的です。
5.「工事ありき」の劣化診断になっていないか
劣化診断を依頼する場合は、その診断が大規模修繕工事の実施を前提にした内容になっていないかも、その後のコンサルティングを任せるかどうかの判断材料になります。本来は工事の実施時期を適切に見極めるための診断ですが、長期修繕計画に沿って工事の実施を後押しするだけの内容になっている場合もあります。
診断の結果、工事を先延ばしにするという選択肢が出てくることもあります。一方で、施工会社選定や工事品質チェックといった後続の業務を受注したいコンサルタントが、工事の先送りも可能だとは教えてくれないこともあり得ます。築10年を超えたマンションの建物が劣化しているのは物理的に当然ですので、早急な工事が本当に必要か、部分的な補修で足りるのかを、第三者の立場で客観的に報告してくれるコンサルタントに依頼しましょう。
6.施工会社との利害関係がなく、中立性を保てるか
大規模修繕工事のコンサルティングを行うのは、主に設計事務所、マンション管理士事務所、建物調査会社などです。その事業者が施工会社と資本関係や継続的な取引関係を持っている場合、公平性や中立性を保つのは難しいと考えたほうがよいでしょう。
談合問題では、施工会社の選定を支援し、設計や工事監理を担う立場の設計コンサルタントが、その施工会社から契約価格の5%を目安とする手数料を受け取っていました。手数料を受け取る相手の施工状況を、客観的に厳しく指摘できるでしょうか。国土交通省も、設計監理方式を採用する場合は設計コンサルタントの中立性を確保することが重要だとしています。契約前に、施工会社から紹介料や手数料を受け取っていないかを直接確認し、書面で明示してもらうのも有効です。
談合を防ぐための3つの備え

設計監理方式は、設計事務所が作った統一の仕様書に基づいて各社が金額を提示するため、管理組合にとって比較しやすいという利点があります。一方で、仕様が同じで金額だけを比べる仕組みであるため、各社が申し合わせた金額を書くだけで談合が成立し、管理組合の目には正当な競争の結果に映ってしまいます。談合問題でも、管理組合は基本的に最も低い見積価格を提示した施工会社に発注しており、手続きそのものは適正に見えていました。
設計監理方式を採用する場合でも、管理組合側の備えによって談合のリスクを下げることはできます。国土交通省の通知や検討会資料を踏まえ、3つの備えを紹介します。
1.発注予定金額や公募条件を「コンサルタント任せ」にしない
談合問題では、設計コンサルタントが業務の過程で知った管理組合の発注予定金額を受注予定者に伝えていたことが明らかになっています。発注予定金額は見積の妥当性を判断するための管理組合側の基準であり、誰にいつ伝えるのかは理事会で決めておくのが望ましいといえます。
公募の条件や応募してきた施工会社の情報も、コンサルタントだけが掌握する状態は避けたいところです。
2.請負契約に「談合違約金特約条項」を入れる
国土交通省は2025年6月、マンション修繕工事の請負契約に「談合違約金特約条項」を設けられることを関係団体に周知しました。談合が認められて課徴金納付命令や排除措置命令が確定した場合に、受注者が請負代金額の一定割合を違約金として支払う義務を、契約時に明文化しておく条項です。国の直轄工事では請負代金額の10分の1と定められており、管理組合の契約でも同様の条項を設定できます。
この条項があれば、談合が発覚した際の損害回復の手がかりになるほか、施工会社に対する牽制にもなります。ただし、条項を設けても支払いをめぐって訴訟になるリスクは残るため、国土交通省も弁護士などの専門家に相談したうえで設定することを勧めています。
3.仕様書を固定しない「プロポーザル方式」も選択肢に

統一仕様書に基づく金額比較そのものが談合を可能にしているのであれば、仕様書を固定せず、施工会社に工事の仕様と金額を自由に提案させるプロポーザル方式で見積を取るのもひとつの方法です。この方式では、各社の提案内容が異なるため金額の単純比較ができず、事前に金額を申し合わせること自体が難しくなります。
プロポーザル方式でも各社が似通った内容で提案すれば口裏を合わせる余地は残るため、談合を100%防げる方式というわけではありません。それでも、管理組合が各社の提案を比べて自分たちで選ぶ過程を踏むことで、どこか1社に選定を丸投げすることは回避できます。
▶プロポーザル方式による大規模修繕工事の進め方。施工会社選定の流れとメリット・デメリットを解説
大規模修繕のコンサルタントに関するよくある質問
コンサルタント選びで迷いやすい点を、質問と回答の形で整理します。
管理会社から紹介されたコンサルタントに依頼しても問題ありませんか?
管理会社からの紹介は、コンサルタントを探す現実的な方法のひとつです。国土交通省の検討会資料でも、推薦に当たっては管理会社などからの紹介による場合があると整理されています。
ただし、紹介されたからといって中立性が担保されるわけではありません。紹介の経緯や管理会社との関係を確認し、できれば紹介先以外の候補からも話を聞いたうえで、6つのポイントに照らして比較することをおすすめします。
談合が疑われるとき、どこに相談すればよいですか?
国土交通省が案内している相談窓口として、住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「住まいるダイヤル」と、マンション管理センターの建物・設備の維持管理に関する相談窓口があります。住まいるダイヤルでは、契約前の見積書の数量や単価をチェックする無料の見積チェックサービスも行っています。
自治体によっては、マンション管理士や建築士などの専門家を派遣する制度を設けている場合もあります。さくら事務所では、大規模修繕工事のセカンドオピニオンのご依頼も承っております。
コンサルタントは必ず依頼しなければなりませんか?
法律上の義務はなく、管理会社のサポートだけで大規模修繕工事を進める管理組合もあります。一方で、規模の大きなマンションほど検討事項が多く工事費も高額になるため、外部の専門家を起用するのが一般的です。
大切なのは、依頼するかどうかよりも、依頼するなら誰に何を任せ、何を自分たちで判断するのかをはっきりさせることです。その線引きがあいまいなまま任せきりにすることが、今回の談合事件が示した最大のリスクといえます。
まとめ
コンサルタント選びで最も留意したいのは、施工会社との利害関係がなく、管理組合の側に立てる中立性があるかどうかです。公取委の処分で明らかになった手口は、発注予定金額の漏えいや手数料の還流といった管理組合からは見えない部分で進んでいました。契約前に手数料の有無を確認し、情報をコンサルタントだけに集中させない運用を決めておきましょう。
維持管理の方針や自分たちに合ったコンサルタントを決められないという管理組合は、進め方のの異なる複数のコンサルタントに話を聞いてみることをおすすめします。その過程で得た知識は、今後のマンション管理の土台になります。
さくら事務所は、設計をしないコンサルタントです。大規模修繕工事の設計監理業務は請け負わず、施工会社や管理会社から手数料を受け取らない立場で、劣化診断、プロポーザル方式による施工会社選定サポート、工事の品質チェック、セカンドオピニオンを提供しています。コンサルタント選びに迷ったときは、お気軽にご相談ください。
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