長期修繕計画の見方を解説!問題ないか見極めるためのチェックポイントも

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長期修繕計画の見方を解説!問題ないか見極めるためのチェックポイントも

この記事はマンション管理士/一級建築士などの専門家が監修しています

マンションの長期修繕計画、見たことがありますか?普段マンションで生活する上で、長期修繕計画を見る機会はあまりないかもしれません。しかし、長期修繕計画はマンションの将来を大きく左右するものです。

 

大切な資産であるマンションを長きに渡り守っていくためにも、自分のマンションの長期修繕計画を一度しっかり確認しておきましょう。

 

本記事では長期修繕計画の見方を解説します。マンションの長期修繕計画に問題がないか見極めるためのポイントも紹介するため、ぜひ照らし合わせながらチェックしてください。

マンションの長期修繕計画の見方

長期修繕計画の書式や内容はマンションによってさまざまです。ここではわかりやすいように国土交通省の「長期修繕計画標準様式」をもとに「長期修繕計画で何がわかるのか」と「どのように見るのか」を解説していきます。

 

長期修繕計画は複数の項目で構成されているのが一般的です。

 

(1)どのような工事が必要かわかる「推定修繕工事項目、修繕周期等の設定内容」

(2)年度ごとの収支がわかる「長期修繕計画総括表」

(3)年度・工事項目ごとに費用内訳がわかる「長期修繕計画表」

(4)工費項目ごとの費用内訳がわかる「推定修繕工事費内訳書」

(5)修繕積立金と工事費の推移がわかる「収支計画グラフ」

(6)修繕積立金の算出方法がわかる「修繕積立金の額の設定」

 

とくに重要な上記6つの項目について、順番にみていきましょう。

(1)どのような工事が必要かわかる「推定修繕工事項目、修繕周期等の設定内容」

 

出典:国土交通省「長期修繕計画標準様式 長期修繕計画作成ガイドライン 長期修繕計画作成ガイドラインコメント」から抜粋

 

推定修繕工事項目、修繕周期等の設定内容を見ると、マンションに必要な工事がわかります。

 

工事項目は仮設・建物・設備・外構・その他などに分けられており、工事ごとに区分(補修か新設かなど)や修繕周期、具体的な修繕方法が記載されているのが特徴です。

(2)年度ごとの収支がわかる「長期修繕計画総括表」

出典:国土交通省「長期修繕計画標準様式 長期修繕計画作成ガイドライン 長期修繕計画作成ガイドラインコメント」

 

長期修繕計画総括表では、年度ごとに行う工事と工事費用、その年度の収入(修繕積立金など)を把握できます。

 

オレンジ色の横軸に記載されているのが経年と暦年です。黄色背景には「工事と工事費用」、水色背景には「工事費支出合計額」「修繕積立金などの収入額」「年間収支」が記載されています。

 

年間収支が「-」になっている年は赤字、「+」になっている年は黒字です。

(3)年度・工事項目ごとに費用内訳がわかる「長期修繕計画表」

出典:国土交通省「長期修繕計画標準様式 長期修繕計画作成ガイドライン 長期修繕計画作成ガイドラインコメント」から抜粋

 

長期修繕計画表は、長期修繕計画総括表の推定修繕工事項目よりも、詳しく費用の内訳がわかる表です。

 

たとえば「外壁塗装等」の欄を見ると、①躯体コンクリート補修②外壁塗装(雨掛かり部分)③外壁塗装(非雨掛かり部分)などに分かれ、さらに工事区分も細分化され、実施予定の年に工事費が記載されています。

 

上記の表にはありませんが、表の最後の行には、推定工事費の年度合計と累計額も載っています。

(4)工費項目ごとの費用内訳がわかる「推定修繕工事費内訳書」

出典:国土交通省「長期修繕計画標準様式 長期修繕計画作成ガイドライン 長期修繕計画作成ガイドラインコメント」から抜粋

 

推定修繕工事費内訳書は工事内容に焦点があてられているものです。工事項目ごとの工事費内訳について、対象部分・工事の仕様・数量・単価・金額までこまかく記載されています。

 

「外壁塗装等」の仕様等の欄を見ると「高圧水洗の上、下地処理、アクリルシリコン樹脂塗材」など、どのような修繕が行われるのか明確です。

 

実施予定の工事の内容を詳しく知りたいときに役立ちます。

(5)修繕積立金と工事費の推移がわかる「収支計画グラフ」

「何年で修繕積立金が足りなくなるのか」「どのくらい修繕積立金に余裕があるのか」が一目でわかるのが収支計画グラフです。

 

推定工事費と修繕積立金の累計額の推移が、それぞれ折れ線グラフになっており、工事費と修繕積立金の積み立て状況を比較しやすくなっています。

 

修繕積立金の値上げを検討する際にも、収支計画グラフが用いられるケースが多いです。

 

ちなみに収支計画グラフで工事費累計が急上昇している年度は、大規模修繕が行われる年と判断できます。

(6)修繕積立金の算出方法がわかる「修繕積立金の額の設定」

修繕積立金の額の設定では以下のことがわかります。

 

・修繕積立金の徴収方法(段階増額積立方式または均等積立方式)

・段階増額積立方式の場合の増額タイミングと設定額

・一時金の徴収予定

・借入金の返済有無

 

また計画期間中の支出累計(推定修繕工事費の累計額+計画期間中の借入金の償還金)と収入累計(修繕積立金の残高+専用使用料からの繰入金など)の差額もわかるため、修繕積立金の設定額の根拠も理解できます。

長期修繕計画の見方がわかったら問題ないかチェックしよう

長期修繕計画は「あるから安心」ではありません。妥当性のある長期修繕計画になっているかが重要です。

 

ここでは長期修繕計画に問題がないかチェックするための以下4つのポイントを紹介します。

 

(1)5年ごとに計画が見直されているか

(2)築40年前後が計画に含まれているか

(3)赤字を改善する計画になっているか

(4)大規模修繕の計画周期が適正か

 

順に見ていきましょう。

(1)5年ごとに計画が見直されているか

長期修繕計画は5年ごとに見直されているのが理想です。昨今の物価上昇により資材や人件費は高騰しています。長期修繕計画が何十年も見直しされていない場合、実際にかかる工事費と計画上の推定工事費が大きく相違しているはずです。

 

また、新築時から見直されていない場合は、単価が違うだけなく工事項目の抜けや漏れがあることも。必要な工事費用を正しく見積もれないことから、修繕積立金を適切に設定できずに、資金不足の原因になります。

(2)築40年前後が計画に含まれているか

築40年前後に実施される工事が計画期間に含まれているか確認しましょう。築40年前後は、3回目の大規模修繕工事やエレベーター・機械式駐車場・排水管などの更新工事があり、非常にお金がかかる時期です。

 

順調そうに見える資金計画でも、40年前後に必要になる金額の大きな工事が計画に含まれた途端に、赤字に一転することが少なくありません。

 

長期修繕計画の計画期間は30年前後が一般的ですが、60年計画で作り直すなど、超長期で将来かかる修繕費用を把握しておくことが大切です。

(3)赤字を改善する計画になっているか

一般的に長期修繕計画は管理会社が作成しているため、赤字に転じていても修繕積立金の値上げにより黒字に改善できるプランがあるケースが多くなっています。しかし赤字を改善する計画になっていないマンションも一定数あるのが現状です。

 

修繕資金が足りていないことも問題ですが、改善のための計画の見直しや修繕積立金の改定がうまくいっていないといった観点からもリスクが高いといえるでしょう。

 

2年程度の赤字はコストを削減すれば改善できる可能性が充分あります。しかし、5年以上連続して赤字の場合はコスト削減だけでは対応しきれないため、修繕積立金の値上げなどの収入改善が必要です。

(4)大規模修繕の計画周期が適正か

大規模修繕の周期にも着目しましょう。これまでは12~15年周期で大規模修繕が計画されることが多かったのですが、昨今は部材の耐久性の向上や技術の発達などにより、修繕周期を延伸できるようになってきています。

 

実際に15~18年周期に延伸してコスト削減を図っているマンションも少なくありません。60年間で考えたとき、12年から15年に周期変更すると大規模修繕を1回分減らせ、数千万~憶単位の修繕費用の削減が可能です。

 

大規模修繕の周期を伸ばして支出を抑えているマンションは「管理意識が高い」と判断することもできるでしょう。

長期修繕計画は第三者の専門家にチェックしてもらうのもあり

長期修繕計画は「赤字が続いていないか」など簡単にわかることもありますが、工事項目の抜けや漏れ、適切な修繕方法や修繕時期は、専門家でないとわかりません。

 

長期修繕計画はマンションが完成する前の設計段階で作成されているため、工事途中で設計や仕様が変更していれば、必然的に計画の抜けや漏れが起きてしまうのです。

 

実際、消防設備系の項目漏れが発見され、3,000~4,000万円の修繕費用が足りなかった事例もあります。

 

長期修繕計画には、間違いはあっても正解がありません。だからこそ複眼的にチェックするためにも第三者に見直しを依頼し、管理会社と第三者のプランでひと項目ずつ比較検討して、管理組合の方針に合った計画に見直しましょう。

長期修繕計画はマンション管理の実態把握と改善のカギ

長期修繕計画を見れば「いつどのような工事が必要になるのか」「修繕費用に対して修繕積立金が足りているのか」「値上げや一時金の徴収予定があるのか」などがわかります。

 

長期修繕計画の見直しが長年されていない場合、計画上は問題なかったとしても、実際は修繕積立金が大幅に足りていない可能性が高いです。資金不足に気がついたときには、修繕積立金を値上げしても間に合わないほどの深刻な状況に陥っているでしょう。

 

さくら事務所では長期修繕計画の無料診断(簡易)を行っています。

 

・計画期間や修繕周期は妥当か

・修繕項目に抜け漏れはないか

・工事費用の算出根拠は

・修繕積立金は適切か

 

経験豊富な専門家が上記を診断したうえで、長期修繕計画の問題点を洗い出し、マンションの特性に応じた見直しの方向性をアドバイスいたします。深刻な資金不足に陥る前に、長期修繕計画を見直す第一歩としてお気軽にご活用ください。

 

長期修繕計画無料診断(簡易)

 

下記動画では「長期修繕計画の見直し方」をテーマに、専門家に依頼し見直すメリットや具体的な見直し箇所などを詳しく紹介しています。長期修繕計画の見直しを検討している場合は参考にしてください。

 

 

この動画でお話ししていること

 

Q1. 長期修繕計画の見直しにはどんな方法がありますか?

A. 管理組合による自主見直し、管理会社への依頼、外部専門家への依頼の3つがあります。

Q2. 管理組合が自主的に見直しを行う際の難しさは?

A. 専門知識が必要で、項目の取捨選択や工法の変更など高度な判断が求められる点が難しいです。

Q3. 長期修繕計画の見直しで最も大切な考え方は何ですか?

A. 計画はあくまでシミュレーションであり、「どんなマンションにしたいか」という方針を明確にし、記録・共有しておくことが大切です。

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    朝日新聞

    2025年7月16日

    朝日新聞(7/16発行)にて、さくら事務所・マンション管理コンサルタントの土屋輝之が取材協力した記事が掲載されています。 ●(耕論)マンションの終活 斉藤広子さん、土屋輝之さん、篠原満さん ※会員限定記事

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    ダイヤモンドオンライン

    2025年7月4日

    ダイヤモンドオンライン(7/4公開)にて、さくら事務所・会長 不動産コンサルタントの長嶋修が寄稿した記事が掲載されています。 ●維持も建て替えも無理…存続困難な老朽マンション、来春の法改正で現実味増す「第3の選択」とは?

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    日経電子版

    2025年6月30日

    日本経済新聞電子版(6/30公開)にて、さくら事務所・マンション管理コンサルタントの土屋輝之が取材協力した記事が掲載されています。 ※会員限定記事 ●高齢マンション、修繕積立金を狙われる管理組合

佐藤 健斗
監修者

佐藤 健斗

新卒で電鉄系の資産管理会社にて、鉄道会社の保有資産(駅舎・高架下など)の活用や店舗開発を経験。
その後、不動産のコンサルティング会社にて、主に地主様・家主様向けに売買・賃貸管理・有効活用など多角的なコンサルティングを行う。

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