マンションの寿命を大きく左右する長期修繕計画。マンションは日常的なメンテナンスだけでは、経年劣化に対応しきれません。長期的に良好な状態を維持するためには、マンションに適した長期修繕計画をたてることが大切です。
本記事では、長期修繕計画とはなにかわかりやすく解説します。長期修繕計画の見方や計画されている修繕項目の例、見直しが必要な理由など、管理組合の一員として知っておくべきことを紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
長期修繕計画とは?
長期修繕計画とは、長期的な未来を見据えて、マンションの大規模修繕の時期や費用について計画をたてたものです。細かな内容はマンションによって異なりますが、修繕時期・修繕項目・費用などが記載されており、長期修繕計画に則り大規模修繕工事が実施されます。
長期修繕計画の期間に決まりはありませんが、国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインでは「30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上」と定義されおり、30年前後で計画をたてるマンションが多いです。
下記記事では長期修繕計画の作成方法を解説しています。長期修繕計画がないマンションは参考にしてください。
長期修繕計画の作成費用と手順を解説!エクセルで作成する方法も紹介
長期修繕計画作成ガイドラインってなに?
長期修繕計画の作成や見直し時に使える標準的な様式「長期修繕計画標準様式」と様式を使う時の留意点を示した「長期修繕計画作成ガイドライン及び同コメント」のことです。
平成20年、国土交通省が「快適な居住環境の確保や資産価値の維持向上」を目的として、策定しました。令和2年にはマンション管理計画認定制度が創設されるなど、一層マンション管理が注目されるようになり、令和6年により充実した内容へと改訂されています。
参照:国土交通省「長期修繕計画標準様式 長期修繕計画作成ガイドライン 長期修繕計画作成ガイドラインコメント」
長期修繕計画が必要な理由
長期修繕計画が必要な理由は以下の4つです。
- 将来の修繕工事や点検費用に備えるため
- 修繕積立金の金額設定の根拠とするため
- 円滑に修繕工事を実施するため
- 資産価値の向上につながるため
長期修繕計画は、将来必要な修繕や点検の費用に備えるために必要です。大規模修繕工事の資金は修繕積立金のため、毎月の徴収額は長期修繕計画をもとに算出されています。長期修繕計画を修繕積立金の根拠として示すことで、区分所有者に納得してもらいやすくなるのです。
また大規模修繕は、工事業者の決定や見積精査など多くの工程を踏まなければいけません。長期修繕計画で工事内容が予めわかっていれば、スムーズに準備を進められます。
長期修繕計画は、売却時にも提出を求められるため、資産価値の向上にも効果的です。
管理力を可視化できる管理計画認定制度などでは、長期修繕計画の項目があります。計画がないと「管理面で心配なマンション」と認識され、住宅ローンも組めません。また、長期修繕計画は、あればいいというものではなく、定期的に見直され精度の高い計画があることが、市場で有利に評価されるポイントとなります。
長期修繕計画の見方
出典:国土交通省「長期修繕計画標準様式 長期修繕計画作成ガイドライン 長期修繕計画作成ガイドラインコメント」
上記は国土交通省の長期修繕計画標準様式の「長期修繕計画総括表」です。縦軸には修繕項目・工事費支出・修繕積立金の残高や収入、横軸には経年や暦年が記載されています。
長期修繕計画総括表で確認したいのが、修繕積立金の収支状況です。大規模修繕の実施後、赤字が続いていたり赤字幅が大きくなったりしている場合は、マンションのお金が足りていないと判断できます。
そのほか、工事区分(取替や補修など)や修繕周期までこまかく記載されている長期修繕計画表、工事項目ごとの単価や数量などがわかる推定修繕工事費内訳書、収支計画が一目で把握できる収支計画グラフなども、長期修繕計画のひとつです。
年度ごとに計画されている修繕がわかるため、理事に任命された方がどのように活動していくのか決めるためにも、長期修繕計画が役立ちます。
長期修繕計画の主な修繕箇所と周期
長期修繕計画の基盤となるのは、各修繕箇所における修繕周期の目安です。ここでは長期修繕計画に組み込まれている主な修繕箇所と実施する周期の目安を紹介します。
修繕工事項目 | 周期例 |
屋上防水 | 12~15年(補修・修繕)
24~30年(撤去・新設) |
バルコニー床防水 | 12~15年(修繕) |
躯体コンクリート補修 | 12~15年(補修) |
外壁塗装 | 12~15年(塗装)
24~30年(除去・塗装) |
タイル補修 | 12~15年(補修) |
シーリング | 12~15年(打替) |
鉄部塗装 | 5~7年(塗替) |
給排水管 | 19~23年(更生)
30~40年(取替) |
インターホン設備等 | 15~20年(取替) |
自動火災報知設備 | 18~22年(取替) |
エレベーター | 12~15年(補修)
26~30年(取替) |
機械式駐車場 | 5年(補修)
18~22年(取替) |
参照:国土交通省「長期修繕計画標準様式 長期修繕計画作成ガイドライン 長期修繕計画作成ガイドラインコメント」
上記の表はあくまでも目安です。こまめにメンテナンスしたり耐用年数の高い製品を使ったりすることで、工事周期を延ばせます。
的確な長期修繕計画をたて、計画に見合った修繕積立金を設定するためにも、修繕箇所と周期を把握しておきましょう。
長期修繕計画は5年ごとに見直そう
長期修繕計画がマンションの実態と合っていないと、必要な修繕が実施できなかったり過剰な修繕で修理コストの無駄遣いをしてしまったりと、適切なマンション運営ができません。そのため長期修繕計画は、5年を目安に定期的に見直すことが大切です。
長期修繕計画を見直す際は以下4つがポイントになります。
・修繕項目の抜けや漏れがないか確認する
・実勢単価に合わせる
・劣化状況に応じて修繕方法や周期を変更する
・管理の方向性を反映させる
順に解説します。
修繕項目の抜けや漏れがないか確認する
分譲当初から長期修繕計画を一度も見直していない場合は、修繕項目や数量が間違っていることがあります。なぜなら分譲時の長期修繕計画は、マンションが竣工する前に作られているためです。
たとえば「設計時点では駐車場のゲートがあったものの、実際はゲートが取付けられていなかった」といったことがあります。工事の途中で設計や仕様の変更があると、必要な修繕費用が大幅に変わるため、長期修繕計画が修繕積立金の根拠になりません。
実勢単価に合わせる
昨今、物価や人件費は右肩上がりです。物価高騰の影響をうけ、工事単価も値上がりしています。長年、計画を見直していない場合、長期修繕計画の工事項目に抜けや漏れがなかったとしても、単価が上がっている分、工事費が大幅に高くなります。
計画的に積み立てていたはずの修繕積立金が実際は全然足りておらず、3倍4倍の値上げが必要になることもあるのです。5年のスパンで計画を見直して、都度、実勢単価に合わせていければ急激な値上げを避けられます。
劣化状況に応じて修繕方法や周期を変更する
マンションの劣化状況に応じて修繕方法や周期を変更していくことも大切です。計画をたてた当初、〇年までに修理が必要と考えられていた項目も、劣化が進んでいなければ、工事のタイミングを遅らせられるかもしれません。
逆に、劣化の進行が速かったり、想定外に修理が必要な事態が生じていたりすることも考えられます。修繕項目やタイミングは計画通りで問題ないか、延期できる可能性はないか、劣化診断で現状把握して計画に反映させましょう。
管理の方向性を反映させる
多くのマンションでは、管理会社が長期修繕計画を作成しています。管理会社はマンションの管理を任されている立場上、保全的で過剰な内容の計画になりやすいです。
当然リスクは少なく済みますが、管理組合はリスクだけでなく、予算も考えなければいけません。不具合を回避するために完璧に修繕していく計画にするのか、コストを抑えつつ実態に沿った計画にするのか、は管理組合が決めることです。
また、高経年マンションや旧耐震マンション場合は、将来的に取り壊すのか、修繕を繰り返して延命していくのか、といった観点も重要になります。
管理の方向性を決めて、計画に落とし込んでいくことが、マンションにとって実効性の高い計画に見直すポイントです。
長期修繕計画の資金「修繕積立金」「修繕積立基金」とは
長期修繕計画をたてていても、資金がなければ計画を実行できません。そこで、ここでは長期修繕計画通りに大規模修繕をおこなっていくための「修繕積立金」と「修繕積立基金」について解説します。
修繕積立金
修繕積立金は、長期修繕計画で予定されている大規模修繕に備えて、マンション所有者から毎月徴収する費用です。
ちなみに、国土交通省の令和5年度マンション総合調査によると、修繕積立金の月当たりの平均収入は125.4万円。全体の約37%が計画に比べて積立額が不足しているのが実態です。実際に長期修繕計画の見直し時に修繕積立金も見直され、金額が値上がりするケースも多くあります。
修繕積立金についてより詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
マンションの修繕積立金とは?相場や値上げの要因を徹底解説
修繕積立基金
修繕積立基金は、マンション購入時に一時金として徴収する費用です。第一回目の大規模修繕時には十分な修繕積立金が貯まっていないことが多いため、修繕積立基金が元手となることが多いです。また、大規模修繕を迎えるまでの補修費用として使われます。
修繕積立基金があれば、修繕積立金が充分に貯まっていないときに使う資金になります。まとまったお金があると、安心してつい取り崩してしまいがちですが、大切な資金ですので使う際には十分な検討が必要です。
長期修繕計画の見直し・作成なら「さくら事務所」
長期修繕計画はマンションを良好な状態で維持していくために不可欠です。修繕積立金の金額を設定する根拠にもなるため、マンションに適した計画をたてましょう。
長期修繕計画は、マンションの所有者で作成・見直しすることもできますが、建築・設備に精通したマンション管理士などの専門家に相談するのもおすすめです。
実態に合っていない修繕計画で、資金不足に悩む管理組合も多くあります。マンションの状況に適した長期修繕計画を作成できれば、資金不足や修繕積立金の増額を最小限に抑えられるかもしれません。
さくら事務所では、経験豊富なマンションの専門家が、第三者目線で長期修繕計画の見直し・作成をサポートします。実際よりも工事周期が短く設定されていたことが判明し、コスト削減につながったケースも多いです。
管理組合の方針に沿った新計画への対応や予算に合わせたご提案など、柔軟に対応いたします。管理組合の皆様の相談役としてぜひご活用ください。
【長期修繕計画の見直し】押さえておくべき4つの項目とチェックポイントを具体的に解説します【さくら事務所】
この動画では、マンションの長期修繕計画の見直しにおいて、管理組合が押さえておくべきポイントを解説しています。
長期修繕計画の見直しの方法は?
見直し方法には、管理組合による自主的な見直し、管理会社による見直し、外部専門家による見直しの3つの方法があります。
見直しの際にチェックすべき項目は?
工事項目の抜け漏れ、修繕履歴の確認、点検報告書の内容確認、見積もり内容の反映が重要なポイントです。
長期修繕計画の性質とは?
長期修繕計画はシミュレーションであり、将来の変化に対応できる柔軟な計画を作成する必要があります。また、管理組合の方針を反映することが重要です。
マンション売却時に与える影響は?
長期修繕計画があることで、売却時のアピールポイントになります。計画がしっかりしていると、資産価値の維持・向上につながります。
結論
長期修繕計画の見直しは、マンションの資産価値維持に不可欠です。管理組合が主体的に計画を策定し、適切な方法で見直しを行うことが求められます。