大規模修繕工事にはさまざまな発注方式があります。「どのような会社に何をどこまで発注するのか」によって大規模修繕工事の進め方が変わってくるため、手間・時間・費用に与える影響も大きいです。
発注方式を選ぶ際には「管理組合がどのような大規模修繕にしたいのか」がポイントになります。費用を抑えたい、手間を省きたい、コスパよく工事したいなど、さまざまな考え方があるはずです。
大規模修繕の発注方式の違いやメリット・デメリットを把握し、管理組合にとってベストな方法を見極められれば、満足のいく大規模修繕工事ができるでしょう。
本記事では、大規模修繕の発注方式について、図解を用いながらわかりやすく解説します。発注方式別に向いているマンションも紹介するため、大規模修繕工事を控えている方はぜひ参考にしてください。
目次
大規模修繕工事の発注方式は大きく分けて2つ+1つ

大規模修繕工事の発注方式で代表的なのは「責任施工方式」と「設計監理方式」の2つです。
ここでは責任施工方式・設計監理方式に加えて、さくら事務所考案の「プロポーザル方式」を含めた3つの発注方式について解説します。
責任施工方式
責任施工方式は、管理組合と施工会社の1対1で工事を進めていく、もっともシンプルな発注方式です。施工会社が自らどのような大規模修繕工事を行うのか決めて(設計)、管理組合の許可を得て施工します。
責任施工方式で多いのが、管理組合と管理会社で工事請負契約を結ぶパターンです。日常的に管理を委託している管理会社に大規模修繕工事を発注します。
ただし、管理会社はマンション管理がおもな仕事であり、施工は専門外です。そのため管理会社に発注する際は、管理会社が下請けの業者に工事を依頼することになります。
【責任施工方式の進め方】
(1)管理組合と施工会社(管理会社)で請負契約を結ぶ
(2)施工会社(管理会社)が劣化診断する
(3)管理組合が工事の要望を施工会社(管理会社)に伝える
(4)施工会社(管理会社)が修繕の計画(設計)を立てて見積書を提出する
(4)施工会社(管理会社の下請け業者)が施工する
設計監理方式
設計監理方式は、管理組合と施工会社のほかに設計事務所(コンサルタント会社)が加わった発注方式です。管理組合は施工会社と工事請負契約、設計事務所と設計管理契約を結びます。
設計事務所の役割は、設計(工事内容を決める)と監理(設計通りに工事できているかチェックする)です。
管理会社が設計事務所としての立ち位置で、設計監理を行うケースもあります。
設計監理方式で施工会社を選ぶ際は、基本的に相見積もりです。設計事務所が作成した工事仕様書を基に各社に見積もりを依頼し、金額を比較して発注先を決定します。
【設計監理方式の進め方】
(1)管理組合が設計事務所と設計監理契約を結ぶ
(2)設計事務所が劣化診断する
(3)管理組合が工事の要望を設計事務所に伝える
(4)設計事務所が設計・見積もり要綱・仕様書を作成する
(5)複数の施工会社から仕様書を基にした見積もりの提出を受け1社に決定する
(6)施工会社が施工し、設計事務所が監理する
【さくら事務所考案】プロポーザル方式
プロポーザル方式は責任施工方式のひとつです。責任施工方式と同様に、設計と施工を同じ会社に発注します。
責任施工方式との違いは、公募で施工会社(管理会社も参加してもらうのもあり)を募り、マンションの現状を見てもらい工事の仕様から自由に提案してもらうことです。
さくら事務所がコンサルタントとしてサポートしながら、各社の工事内容を比較し1社を決定します。コンサルタントは必要に応じて工事のチェック(監理)も行うため、設計監理方式における設計事務所の役割も一部担っているのが特徴です。
【プロポーザル方式の進め方】
(1)管理組合がコンサルタントと委託契約を結ぶ
(2)コンサルタントが劣化状況を確認する
(3)管理組合が工事の要望を伝える
(3)コンサルタントが劣化状況を見て公募要項を作成し公募する
(4)自由提案を受けて施工会社を1社に決定する
(5)施工会社が施工しコンサルタントが施工チェックする
プロポーザル方式の流れについては下記動画でも詳しく解説しています。
マンション管理組合必見!プロポーザル方式の流れを解説!設計監理方式・責任施工方式と比較【大規模修繕工事】さくら事務所
大規模修繕工事の発注方式のメリットとデメリット

ここまで各発注方式について紹介してきましたが、ここからはさらに深掘りして、それぞれのメリットとデメリットを解説します。
どの発注方式もメリットとデメリットがあり、絶対にダメという発注方式はありません。ここではデメリットをカバーするための対策も合わせて紹介するので参考にしてください。
責任施工方式
管理組合と施工会社(管理会社)の1対1の契約になる責任施工方式のメリットとデメリットは以下のとおりです。
メリット
・管理組合の負担が少ない
・責任の所在が明確である
・日頃から付き合いのある管理会社だと安心感がある
責任施工方式は、施工会社や設計事務所の選定などが不要で、管理会社1社に任せられます。そのため管理組合の負担が少なく済むのが大きなメリットといえるでしょう。
責任の所在も明確で、万が一トラブルが起きた際も素早く対処できます。
また日頃の管理で馴染みのある担当者(フロント営業の方)のサポートを受けられるのも心強いです。工事中の居住者対応や工事完了後の不具合も管理会社が窓口のため安心感があります。
デメリットと対策
・工事の金額が上がりやすい
・施工品質のチェックがあまくなりやすい
デメリットは工事の金額が上がりやすいことです。管理会社が下請けの工事を依頼する場合、中間マージンが上乗せされます。さらに施工会社を決定する際に相見積もりを取らないケースが多いため、価格の競争原理も働きません。
また責任施工方式だと工事の監理者がいないため、管理組合または施工会社で施工チェックする必要があります。下請け業者に工事を丸投げする形になっていることも少なくありません。 客観的な視点でチェックする方法が難しい状況です。
【対策】
第三者のコンサルタントの起用を検討しましょう。
管理組合だけで金額の妥当性や施工チェックをするのは難しいです。客観的な視点で、工事の仕様や見積もりの妥当性、施工チェックをしてもらうと安心できるでしょう。
管理会社に発注する場合は、施工する下請け業者を管理組合が選定するのも一つの手です。管理会社の子会社やなれ合いの会社に依頼するよりも、厳しい視点でチェックしてもらえます。
設計監理方式
管理組合・設計事務所・施工会社の三者が工事に関わる、設計監理方式のメリットとデメリットを紹介します。
設計監理方式は設計事務所の良し悪しに大きく左右されるため、会社によっては本来のメリットが得られない可能性があることに注意が必要です。
メリット
・総会での同意が得られやすい
・施工会社と別視点で施工チェックしてもらえる
・設計事務所のサポートを受けられる
設計監理方式は、金額の比較で施工会社を決定するため、選定理由がわかりやすく総会で同意してもらいやすいメリットがあります。
また、設計と施工で担当の会社が分かれているため、複数の視点で施工チェックでき一定の品質が守られやすいです。
施工会社と管理組合では知識の差が大きく、うまくコミュニケーションがとれないこともありますが、設計事務所が入ることで専門的な視点でサポートしてもらえ、意思疎通しやすくなります。
デメリットと対策
・設計者の技量が問われる
・責任の所在が曖昧になりやすい
・談合の危険性がある
設計監理方式の場合、設計時にマンションの改善点を見逃すと、その状態で各社に見積もりを依頼することになり、大規模修繕工事で問題を解決できません。
またトラブルが起きた際、責任の所在が曖昧になり、解決に時間がかかってしまうこともあります。
設計監理方式は金額比較のため、もっとも談合が起きやすいです。設計事務所が設計料を安くして、裏で施工会社とコンペを組んでバックマージンを受け取るなどの問題が多発しています。
談合については下記記事で詳しくまとめているため参考にしてください。
マンション大規模修繕工事の談合に注意!手口や疑わしい状況、対策とは
【対策】
コンサルタント料がほかと比べて安すぎる設計事務所は要注意です。談合によりバッグマージンを受け取っている可能性があるため、安い理由や口コミなどを確認して納得できなければ選ばないほうがよいでしょう。
また施工会社選定を設計事務所に任せきりにしていると談合が起きやすい状況になるため、管理組合が積極的にかかわっていくことも大切です。
施工会社選びの見積もりの時点で不審に感じることがあれば、早めに第三者のセカンドオピニオンを利用しましょう。
プロポーザル方式
管理組合と施工会社、コンサルタントが管理組合のサポートとして入るプロポーザル方式のメリットとデメリットを紹介します。
メリット
・工事の質・内容が上がる
・談合が極めて起こりにくい
・価格競争で工事費を抑えやすい
プロポーザル方式は工事の仕様から提案してもらいます。予め決まっている工事項目に金額だけいれてもらう設計監理方式の相見積もりとは違って、談合が起きにくいのがメリットです。
各社の得意を活かした積極的な提案をしてもらえるため工事の質が高いうえ、あらゆる観点から管理組合にとってベストな工事内容を決定できます。
施工会社を特命する責任施工方式と違い価格競争も生じるため、工事費も抑えやすいです。
デメリットと対策
・比較検討が難しい
・施工会社選定の時間がかかる
各社まったく異なる仕様の見積もりを提出されるため、比較が難しいのがプロポーザル方式のデメリットです。
単純な金額比較で施工会社を決定しないため、選定理由をはっきり説明できないと同意を得られないこともあるでしょう。
またプロポーザル方式は施工会社を選定する際に、書類審査や面談など多数のプロセスを踏みます。
設計監理方式の場合も同程度の選定期間を要しますが、責任施工方式と比べると時間と手間がかかってしまうのもデメリットといえるでしょう。
【対策】
見積もり比較に関しては、さくら事務所が管理組合のみなさまに、各社のメリットやデメリット、金額の差などわかりやすく説明して比較しやすい状態に情報を整理するため問題ありません。
プロポーザル方式で一番時間がかかるのは、各施工会社の見積もりにかかる期間(約3カ月)です。見積もり期間を短縮するのは難しいですが、本来1回の修繕委員会を月に2回開くなどで、施工会社選定における期間を短縮できます。
【発注方式別】どんなマンションに向いている?

前述したメリットとデメリットを踏まえて、発注方式別にどのようなマンションに向いているのか紹介します。
責任施工方式
責任施工方式は、区分所有者が高齢の方や仕事で忙しい方が多いなど、とにかく管理組合の手間を省きたい場合に向いています。
また管理会社と強い信頼関係を築けている場合も、責任施工方式を検討してよいでしょう。
設計監理方式
設計監理方式は、大規模修繕工事の費用をできる限り抑えたい場合や総会での合意形成でつまずきたくない場合に向いています。
ただし悪質なコンサルティング会社にあたってしまうと、コンサル費用は安くても相場より高い工事費を請求されることも。
管理組合だけで悪質な会社を見極めるのは難しいため、第三者のセカンドオピニオンなどを入れることを強く推奨します。
プロポーザル方式
費用だけでなく工事内容にもこだわりたい、談合の被害に遭いたくない場合はプロポーザル方式がおすすめです。
プロポーザル方式なら、高耐久な部材や工法で周期を延ばして長期的なコスト削減を図るなど、趣向を凝らした提案も受けられます。
自分たちの手で納得のできる大規模修繕にしていきたいという気持ちがあれば、プロポーザル方式を検討してみてください。
大規模修繕工事は管理組合の意向に沿える発注方式を選ぼう

責任施工方式は手間が少なく責任の所在も明確ですが、費用や品質面で注意が必要です。
設計監理方式は第三者のチェックで品質を保てます。しかし談合のリスクが高いためセカンドオピニオンの活用も視野に入れましょう。
プロポーザル方式は手間と時間がかかりますが、自由提案型で工事の質と金額の透明性が大きなメリットです。
管理組合の目的や体制に合わせて、最適な発注方式を選んで満足度の高い大規模修繕工事を行いましょう。
さくら事務所では、プロポーザル方式による施工会社選定のサポートを実施しています。工事の受注や斡旋は一切行っていないため、完全なる第三者としてアドバイスが可能です。
責任施工方式や設計監理方式で、すでに大規模修繕工事を進めている場合は、セカンドオピニオンや見積もり・品質チェックも行っています。
大規模修繕工事の進め方や見積金額など少しでも不安や疑問がある方は、ぜひこの機会にご活用ください。
以下の動画でも詳しく解説しています。是非ご覧ください。







