【完全版】マンションの長寿命化に関する基本知識を解説!必要とされる背景から税制優遇まで

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【完全版】マンションの長寿命化に関する基本知識を解説!必要とされる背景から税制優遇まで

この記事はマンション管理士/一級建築士などの専門家が監修しています

「マンションの長寿命化ってどういう意味だろう?」

「マンション購入時に長寿命化について理解しておくべき?」

このようなお悩みや疑問を抱えている方は多いでしょう。

マンション長寿命化とは、マンションを適切に管理して長期間にわたって資産価値の維持・向上を図る取り組みです。長寿命化をおこなうとより良い住環境を整えられるうえ、固定資産税を減税できます。

しかし、マンション長寿命化によるメリットを受けるためには、一定の条件を満たさなければいけません。事前に確認しておくとマンション長寿命化の恩恵を受けながら、快適な住まいを手に入れられるでしょう。

本記事では、マンション長寿化の概要やメリット・デメリットを紹介します。マンション長寿命化を実施すると活用できるマンション長寿命化促進税制についても解説しているので、併せて参考にしてください。

マンション長寿命化の基本知識

マンション長寿命化とは築年数の経過によって生じた不具合を解消し、長く住み続けられる環境を整えることです。近年はマンション長寿命化が重要視されており、どのような工事なのか気になっている方も多いでしょう。

まずは、マンション長寿命化の概要や重要性を解説します。

マンション長寿命化とは

マンション長寿命化とは、老朽化した建物の不具合を解消して耐久性を高める改修工事です。建て替えよりも工事費を大幅に削減できるうえ、長く住み続けられるようになります。さらに、改修工事によって建物の機能や性能が回復すると、経年劣化とともに下がる資産価値を維持しやすくなるメリットがあります。

マンション長寿命化は適切なタイミングで大規模修繕工事を実施したり、工事費を賄えるような資金計画を立てたりすることが基本です。つまり、マンション長寿命化は短期的な計画ではなく、長い期間をかけて取り組まなければなりません。

マンション長寿命化の重要性

 

マンション長寿命化が重要視される理由は、おもに以下の通りです。

  • 老朽化したマンションの増加
  • 周辺環境への影響

日本における民間マンションは1960~1970年代に大量供給されました。当時建設された建物の多くが寿命を迎えつつあり、老朽化が目立っているケースも少なくありません。

そこでマンション長寿命化によって不具合を解消し、機能面が向上すると今後も住み続けられる環境を維持できます。マンション長寿命化は既存の建築物を活かしながら工事を進めるため、建て替えよりも廃棄物が少なく周辺への影響を抑えられるでしょう。SDGsが注目される現代においては、マンション長寿命化は今後も広がっていく取り組みと考えられます。

マンション長寿命化のための具体的な対策

マンション長寿命化のための具体的な対策は、以下の通りです。

  • 大規模修繕工事の実施
  • 修繕費の積立と管理
  • 修繕工事のスケジュール作成と定期的な見直し

マンション長寿命化をおこなうためには、長期的な視野を持って取り組む必要があります。ここでは、具体的な対策を解説します。

大規模修繕工事の実施

 

マンション長寿命化には、大規模修繕工事が必須です。大規模修繕工事は雨漏りを防止する部分をはじめとした建物の主要部位の修繕工事を12~15年を目安として行います。

なお、大規模修繕工事をおこなう際は、マンションの現状を考慮したうえで工事内容を決定します。詳細はマンションによって異なるものの、目安となる工事内容は以下の通りです。

築年数 おもな工事内容
築12~15年 ・屋根防水の修繕

・外壁の補修や塗り替え

・建具の点検

築24~30年 ・屋根防水の修繕または撤去や新設

・外壁の補修や塗り替え

・傷んだ金物の交換

・耐用年数を超えた設備の交換

築36~45年 上記の工事に加えて、以下の工事を施行

・屋根防水の撤去や新設

・建具の張り替え

・給排水管の取り替え

参考:大規模修繕の手引き

どのタイミングでどのような工事が実施されるかをあらかじめ把握しておきましょう。

修繕積立金の積立と管理

 

マンション長寿命化をおこなうためには、修繕積立金の確保が大切です。修繕積立金を適切に積み立てられなければ、必要な時期に適切なメンテナンスを実施できません。

また、修繕積立金は築年数に見合った金額が積み立てられているかもチェックが必要です。見直した結果、修繕費を確保できていない場合、一時金の徴収といった対応策が必要となるからです。修繕工事をおこなう際に慌てることのないように、修繕積立金の積み立てと管理を徹底しましょう。

修繕工事のスケジュールの作成と定期的な見直し

 

マンション長寿命化をおこなうためには、修繕工事のスケジュール作成と定期的な見直しが必要です。マンションの大規模修繕や定期点検を目的とした計画のことを長期修繕計画と呼び、マンションごとに作成します。長期修繕計画は作成だけでなく、定期的な見直しを推奨しています。

見直しが必要とされる主な理由は築年数に応じて以下の点が懸念されるためです。

  • 必要な修繕が増えてくる
  • 想定外の修繕が発生するリスクが増加する

これらの修繕工事をおこなうためには相応の資金を確保しておかなければなりません。そのため新築当初の計画をそのまま進めていくだけでは、修繕費用を賄えない可能性が高まります。

よって修繕工事のスケジュール作成はもちろん、定期的な見直しも必要になるのです。

長寿命化のメリットとデメリット

マンション長寿命化はメリットだけではなく、デメリットも存在します。マンション長寿命化をおこなうまえにメリット・デメリットを把握しておくと、後悔のない改修工事を進められるでしょう。

ここでは、マンション長寿命化のメリットとデメリットを紹介します。

長寿命化のメリット

 

マンション長寿命化をおこなうメリットは、以下の通りです。

  • 資産価値の維持・向上が可能
  • 居住環境の確保
  • 固定資産税の減額

マンション長寿命化によって適切な維持管理と計画的な修繕工事を行えば、良好な状態を長期間維持でき、資産価値の下落を防げます。また適切な修繕工事により、老朽化による設備の劣化や外観の悪化を防ぎ、快適な居住環境を長期間確保できるのも魅力です。

マンション長寿命化促進税制の一定要件を満たせば、翌年度の固定資産税(建物部分)が最大2分の1に減額されます。資産価値を維持しながら固定資産税を減額したい方は、あらかじめ要件をチェックしましょう。なお、マンション長寿命化促進税制の詳細は後述します。

長寿命化のデメリット

 

マンション長寿命化をおこなうデメリットは、以下の通りです。

  • 管理計画認定の取得が必要
  • 管理組合の負担増加
  • 大規模修繕工事の費用
  • 減税効果の限界

マンション長寿命化促進税制の適用要件として、国土交通大臣からの管理計画認定を受ける必要があります。管理計画認定の取得や助言指導の受け入れなどで、管理組合の事務的・財務的な負担が増えるため、手間をかけたくない方にはデメリットに感じることも多いでしょう。また、マンション長寿命化促進税制が適用になっても、固定資産税の減額は1年間のみのため、長期的な効果はありません。

さらに、マンション長寿命化には多額の費用がかかることや、修繕積立金の増額や一時金の徴収が必要になる可能性があることなど金銭的な負担も感じやすいでしょう。

長寿命化促進税制の利用で固定資産税が減税できる

 

先ほども解説した通り、マンション長寿命化促進税制を活用すると、固定資産税を減税できます。ただし、マンション長寿命化促進税制には対象となる要件や期間、金額が定められているため、あらかじめ詳細を確認しておかなければいけません。

ここでは、マンション長寿命化促進税制の概要や得られる効果を解説します。

長寿命化促進税制とは?

 

マンション長寿命化促進税制とは、一定の条件を満たしたマンションが長寿命化の工事を実施した場合、翌年度の固定資産税を減税する制度です。

なお、マンション長寿命化促進税制の対象となる工事は、以下の3つです。

  • 外壁塗装等工事
  • 床防水工事
  • 屋根防水工事

固定資産税の減額を受けたいときは、マンション長寿命化促進税制を利用できるかどうかをチェックしましょう。

長寿命化促進税制の利用で得られる効果

 

マンション長寿命化促進税制の利用で得られる効果は、以下の通りです。

  • 固定資産税が減額される
  • マンションの価値が維持・向上できる
  • 管理組合の負担軽減につながる

マンション長寿命化促進税制の条件を満たせば固定資産税が減額されるため、税負担を減らせます。また、マンション長寿命化によってより良い住環境が保たれると資産価値を維持しやすいため、高値で売却できる可能性もあるでしょう。さらに「マンション長寿命化促進税制によって固定資産税を減税できる」というメリットの提示によって区分所有者からの合意を得やすくなれば、工事をよりスムーズに実施できる可能性が高まります。

減税対象となる要件

 

マンション長寿命化促進税制の適用を受けるためには「マンションの条件」と「管理計画の条件」をクリアする必要があります。具体的な条件は以下の通りです。

減税対象の条件 条件の詳細
マンションの条件 以下のすべての条件を満たすこと

・築20年以上経過している

・総戸数が10戸以上ある

・過去に長寿命化工事を1回以上実施している

管理計画の条件 いずれかの手段によって管理計画の認定を受けていること

・マンション管理計画認定制度を利用して自治体から認定を受けている

・自治体からの助言もしくは指導を受けたうえで長期修繕計画の見直しを行っている

なお、2度目の長期化工事の条件として、上記の条件をクリアしたうえで2023年(令和5年)4月1日~2025年(令和9年)3月31日の期間内に工事を完了する必要があります。

ただし期限が定められているものの、住宅ローン減税のように一部条件を変更し、延長する可能性もゼロではありません。この期間内に長寿命化工事をこの期間に実施できない場合は、今後の動きに注目しておくと良いでしょう。

減税される期間と金額

 

マンション長寿命化促進税制における固定資産税の減額期間は、長寿命化工事が完了した翌年度の1年間のみです。長期的な減額はできない点に注意しましょう。

具体的な減額割合は各市町村の条例で定められているほか、以下の条件があります。

減額範囲 1/6~1/2
減額対象 ・建物部分の固定資産税額のみ

・100平方メートル相当分の居住用部分のみ

減額対象外 ・土地の固定資産税

・都市計画税

・店舗やオフィス

各市町村における具体的な減額割合は以下の通りです。お住まいの地域によって減額割合が異なるため、参考程度に留めてください。

エリア 減額割合 参考URL
東京都23区 1/2 https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/oshirase/2023/daikibo_syuzen.html
福岡県福岡市 1/2 https://www.jhf.go.jp/files/400368385.pdf
愛知県名古屋市 1/2 https://www.city.nagoya.jp/zaisei/page/0000164113.html
静岡県富士市 1/3 https://www.city.fuji.shizuoka.jp/kurashi/c0203/rn2ola000004juvm.html
兵庫県尼崎市 1/3 https://www.city.amagasaki.hyogo.jp/kurashi/zei/029koteisisan/1003474/1003481/1034499.html#:~:text=%E4%BB%A4%E5%92%8C5%E5%B9%B44,1%E3%81%8C%E6%B8%9B%E9%A1%8D%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

マンションの長寿命化は所有者に与える影響大!管理状況を見極めてマンションを購入しよう

マンション長寿命化は区分所有者の固定資産税を減額したり、資産価値の維持・向上が見込めたりと所有者に大きく関わります。そのため、マンションの購入を検討している方は管理状況を確認すると、長寿命化に対する考え方をある程度把握できます。購入前に管理状況をチェックし、マンション長寿命化に取り組んでいるかどうかを確かめておきましょう。

とはいえ、マンションの管理状況を自身でチェックするのは難しいと感じる方は多いでしょう。そのような場合は、プロの手を借りて管理状況をチェックするのもひとつの方法です。

さくら事務所のマンション管理インスペクションでは、建物に精通したマンション管理コンサルタントが第三者の目線で管理状況をチェックしています。専門家によるチェックをおこなうことで、管理不全のマンションを購入するリスクを軽減できます。安心して暮らせる住まいを手に入れたい方は、ぜひマンション管理インスペクションのご利用をご検討ください。

 

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よくある質問

Q. マンションの寿命は何年くらい?どんな管理をすれば延ばせるの?

A. マンションの寿命は、建物の構造やコンクリートの耐用年数(理論上は約100年)だけでなく、管理状態や住民ニーズによって大きく左右されます。特に、国土交通省が推奨する12~15年ごとの大規模修繕工事を計画的に実施することが、寿命を延ばす上で極めて重要です。さらに、修繕積立金の適切な設定と運用、長期修繕計画の策定と見直しを行うことで、居住環境を保ちながらマンションの資産価値を維持できます。

Q. マンションの修繕費が足りなくなる原因と、その対策は?

A. マンション修繕費の不足原因には、修繕積立金の金額が低すぎることや、管理費と同一口座での一括管理による資金不明瞭化があります。また、長期修繕計画が不十分または未策定であることも大きなリスクです。対策としては、30~60年スパンの修繕計画を立て、将来の修繕費用を「見える化」することが重要です。さらに、修繕積立金を定期的に見直す仕組みや、第三者のアドバイスを取り入れる管理体制を整えることが、資金不足を防ぐ鍵になります。

Q. マンションの漏水はいつ起きる?予防や点検のポイントは?

A. マンションの漏水リスクは築30年以降から高まる傾向にあります。特に旧耐震基準で建てられた物件に多く使われている鉄管は錆びやすく、30年で穴あきが起きやすいです。一方、近年の塩ビ管(VP管)などは50年以上持つケースもあります。漏水の予防には、配管の定期点検、外壁や屋上などの防水層の点検、窓まわりのシーリング劣化チェックが重要です。早期発見と計画的な改修が、マンションの資産価値と居住快適性を守ります。


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鈴木賢
監修者

鈴木賢

築35年の中古マンションを購入し、自身の設計でスケルトンリフォームして住んでいます。
建築物定期調査報告や屋上防水改修、管理会社変更検討などマンションの理事会活動も行っており、設計監理者としてだけでなく、生活者としての視点も持ち続けて活動しています。