安心安全なマンション運営には、定期的な設備点検が不可欠です。
しかし「どんな点検にいくらかかるのか?」「どれくらいの頻度で依頼すればよいのか?」など、あまり知られていないことが多い気がします。
本記事では、マンション設備点検におけるポイントや相場・頻度について、専門的な立場から説明していきます。
目次
マンションの設備点検は2種類ある
マンションの定期点検である設備点検には、建築基準法・消防法・水道法などの法律で義務付けられている「法定点検」と、自主的におこなう「任意点検」の2種類があります。
法定点検は義務ですから、怠ったり虚偽の報告をすると罰則があるため、必ず決められた時期におこないましょう。
一方で、任意点検に決まった周期はありません。必要に応じて管理組合で話し合い、適時依頼することになります。
設備点検は、管理会社に委託して下請けの点検業者に依頼するケースが多いですが、管理組合が直接見積り比較するなどして点検業者に依頼するパターンもあります。
【一覧表】マンションの法定点検の種類
名称 | 点検場所 | 点検周期 | 点検資格者等 | 留意点 |
特殊建築物定期調査 | 敷地・地盤、建築物の外部、屋上・屋根、建築物の内部、避難施設 | 3年に1回 | 一級建築士、二級建築士、特殊建築物等調査資格者 | 所在地の特定行政庁によって詳細なルールが異なるため要確認。 |
建築設備定期検査 | 排気設備、排煙設備、非常用照明、給水・排水設備 | 1年に1回 | 一級建築士、二級建築士、建築設備検査資格者 | 所在地の特定行政庁によって詳細なルールが異なるため要確認。 |
エレベーター定期検査 | エレベーターの機能全般 | 1年に1回 | 一級建築士、二級建築士、昇降機等検査員 | 点検時間帯は、エレベーターが使えなくなる可能性が高い。 |
消防設備点検 | 機器点検:共用部分の消火器、火災報知器
総合点検:専有部の消防設備 |
機器点検:半年に1回
総合点検:1年に1回 |
消防設備士、消防設備点検資格者 | 総合点検は居住者の立会い必須。不在の場合、管理者立会いのもとスペアキーでの入室も可能。後のトラブルを防ぐため、事前通知が必要。 |
簡易専用水道管理状況調査 | 容量が10㎥を超える受水槽、高置水槽及びその周辺、給水栓の水質 | 1年以内に1回 | 厚生労働大臣の登録を受けた簡易専用水道検査機関 | 水槽清掃の記録等を見る書類検査もあり |
専用水道定期水質検査 | 1日の最大給水量20m³を超える水道、または水槽容量100m³を超える水道、または口径25mm以上の導管の全長が1,500mを超える水道 | 残留塩素検査:毎日
水質検査:1月に1回 受水槽清掃:1年1回 |
厚生労働大臣の登録を受けた水質検査機関 | 水質検査結果は、検査日から5年間保存しなければいけない。 |
自家用電気工作物定期点検 | 600V以上で受電する設備 | 月次点検:1月に1回
年次点検:1年に1回 |
電気主任技術者(一種~三種)、電気保安法人 | 年次点検の時間帯は、停電する可能性が高い。 |
表の補足として、自家用電気工作物定期点検は、基本的に電力会社の責任のもとおこないますが、高圧受電設備があるマンションは管理組合の責任で点検することが電気事業法で定められています。
マンションの消防設備点検は立会いが必要
消防設備点検は、半年に1回の機器点検と、年に1回おこなわれる総合点検の2種類があります。
機器点検は、共用部分の消火器・火災報知器の点検をおこなうもので立会い不要です。
一方、総合点検は専有部の火災報知器やバルコニーの避難用はしごなどを点検するため、居住者の立会いが大原則となります。
消防設備点検で不在時はどうする?
点検当日、居住者に予定があり立会い不可な場合は、管理会社立会いのもとスペアキーで入室し点検できます。その際、後のトラブルを回避するためにあらかじめ規約などで本人不在時でも入室・点検することを通知し、居住者に同意を得ておきましょう。
また、立会いは必ずしも居住者本人である必要はなく、親族などの代理人でも問題ありません。しかし「物がなくなる」「部屋が汚れた」などの懸念があります。代理人とのトラブルは自己責任となるため、可能な限り本人による立会いがおすすめです。
拒否すると火災時に賠償責任が発生することも
消防設備点検は法定点検なので管理組合には実施の義務がある一方、居住者は点検を拒んでも法的に罰せられることはありません。しかし、管理規約に違反する可能性は高いです。
「部屋に入られたくない」などの私的な理由で拒み続けていると、消火設備による不備が原因で火災が発生する危険性があり、被害がほかの住戸にも及ぶ場合には損害賠償に発展してしまうなど深刻なトラブルも想定されます。可能な限り都合をつけて、消火設備点検には応じるようにしましょう。
マンション設備の法定点検の費用相場
ここからは、各法定点検の費用相場について説明します。
・特殊建築物定期調査
・建築設備定期検査
・エレベーター定期検査
・消防設備点検
・簡易専用水道管理状況調査
・専用水道定期水質検査
・自家用電気工作物定期点検
金額は全て税抜き表記です。目安として参考にしてください。
特殊建築物定期調査
特殊建築物等定期調査は建築基準法第12条第1項に規定されており、多くの人が居住・利用するビルやマンションの安全性を点検します。
延床面積の費用相場は、以下の通りです。
延床面積 | 費用相場 |
〜1,000㎡ | 35,000~55,000円 |
1,000〜2,000㎡ | 45,000~70,000円 |
2,000〜3,000㎡ | 55,000~80,000円 |
3,000〜4,000㎡ | 65,000~90,000円 |
4,000〜5,000㎡ | 70,000~100,000円 |
建築設備定期検査
建築設備定期検査も建築基準法第12条第1項に基づいたもので、建築設備が安全に機能するかどうかをチェックします。
延床面積の費用相場は、以下の通りです。
延床面積 | 費用相場 |
〜1,000㎡ | 30,000〜35,000円 |
1,000〜2,000㎡ | 35,000〜40,000円 |
2,000〜3,000㎡ | 40,000〜45,000円 |
3,000㎡〜 | 50,000円~ |
エレベーター定期検査
エレベーター定期点検は、メーカーと非メーカーどちらに依頼するかによって費用相場も大きく変動します。また、フルメンテナンス契約かPOG契約かによっても違うので事前に確認してください。
・フルメンテナンス契約:エレベーター装置・部品の全体的な点検に加えて、故障した部品の交換・修理費用も月々の料金に含まれている。
・POG契約:全体的な点検のみおこない、別途で故障修理や部品の交換費用が発生する。毎月の料金を抑えられる一方で、故障や部品交換があった場合には追加費用が高額になる可能性も。
エレベーター1基あたりの費用相場は、下のようになります。
契約形態 | メーカー費用(月額) | 非メーカー費用(月額) |
フルメンテナンス契約 | 40,000~60,000円 | 30,000~40,000円 |
POG契約 | 30,000~50,000円 | 20,000~30,000円 |
消防設備点検
消防設備点検の費用はマンションのタイプや規模によって変わりますが、一般的に「人数×時間+経費」で計算されます。面積が広く点検する消防設備が多いほど高額です。また、土日祝日や深夜点検を依頼した場合には費用が割増しになる可能性があります。
上記を踏まえておおよその費用相場は、1回あたり30,000~60,000円とイメージしてください。
簡易専用水道管理状況調査
検査機関によって変動はありますが、簡易専用水道管理状況調査は1回あたり15,000~20,000円くらいが相場です。
専用水道定期水質検査
水質検査の費用は、1回あたり3,000~10,000円です。
受水槽清掃の容量別費用の相場は、以下の通りになります。
容量 | 費用相場 |
~5t | 20,000~40,000円 |
5t~10t | 30,000~50,000円 |
10t~15t | 40,000~60,000円 |
15t~20t | 50,000~70,000円 |
自家用電気工作物定期点検
中規模以上のマンションでは、キュービクルという高圧受電設備が設置されています。自家用電気工作物定期点検は、この設備の安全性を図るため点検をおこなうのです。
費用相場は、1回あたり20,000~30,000円。大規模なマンションの場合は、50,000円くらいになります。
マンション設備の任意点検
管理組合によって自主的におこなわれる任意点検で代表的なのは以下の3つです。
・機械式駐車場点検
・自動ドア点検
・宅配ボックス
機械式駐車場点検
機械式駐車場点検は任意点検となっていますが、過去には死亡・重傷事故も発生しているため自主的に点検すべきところです。実際、ほとんどのマンションが定期点検をおこなっています。
国土交通省の「機械式立体駐車場の安全対策に関するガイドライン」によると、1~3ヵ月以内に1回を目安に点検することと記されています。
参照:国土交通省「機械式立体駐車場の安全対策に関するガイドライン」
また、建築基準法第8条内では、建築物の管理者や所有者などは敷地や設備を常に適切な状態で保っておくようにという記載もあります。
自動ドア点検
自動ドア点検も任意ですが、メーカー主導で年2~4回の保守点検をおこなう場合が多いようです。一方で、点検を全くおこなわず故障による修理のみで対応しているマンションも一部見受けられます。
一度故障してしまうと、入居者の出入りができない、開きっぱなしで防犯上よくない、挟まれてケガをしてしまうなどの様々なリスクやトラブルの危険性が高まります。義務ではなくても、定期的な点検がおすすめです。
宅配ボックス
宅配ボックスはそう簡単に壊れませんし、壊れた場合でも居住者の安全性に大きな被害を与える可能性は低いです。
しかし、施錠などがしっかりしていないと荷物の破損や紛失につながる恐れがあります。また、故障した際の修理費用も高額になってしまう恐れが…。
安全に直接影響する設備ではありませんが、管理組合主導で定期点検をおこなえばマンション運営にとってプラスになることは間違いありません。
マンション管理会社の下請け業者が点検するのが一般的
マンション設備点検は、管理会社から委託を受けた専門業者に依頼するのが一般的で、特に法定点検においてはそれぞれの資格保有者に依頼する必要があります。そのため、管理組合が直接依頼するのは大変で、なおかつ点検結果を理事長名で自治体や消防署に報告しなければいけません。
管理会社に委託できれば、一連の手続きを全面的にサポートしてもらえるので安心かつ簡単だと思います。
点検費用を安くしたいときは直接発注するのもあり
管理会社に依頼するのがおすすめとは言え、「手間がかかっても費用を抑えたい」という時は管理組合による直接発注も有効です。
管理会社を通さないことで、下請け業者に支払う手数料などを削減することができます。
しかし、マンション設備点検は暮らしの安全性に直接関わる点検ですから、安ければよいという訳にもいきません。直接発注する際には、迅速に対応してくれるか、不具合が見つかった時に適切な工事をしてくれるか、他社と比べて見積りの内訳が明瞭で金額も妥当かなどのポイントを厳しく見極めて選出してください。
定期的な点検と適切な修繕で無駄なコストを削減しよう
マンション管理において、定期的な設備点検は必要不可欠です。法定点検はもちろん任意点検も自主的におこなうことで、安全性の向上のみならず大規模修繕時に大がかりな修繕をしなくて済み、修繕積立金などの節約にも貢献します。
修繕積立金を節約するには、定期的な設備点検のほかに、共用部のアフター点検も重要になります。アフター点検とは、分譲・引き渡し後に発生する不具合について、売主が一定期間無償で補修するサービスを受けるための点検です。
新築マンションの場合、一般的に3ヶ月(6ヶ月)・1年目・2年目・5年目・10年目にアフターサービス期限が設けられています。1~2年目までは分譲会社が自ら点検し対応しますが、それ以降は管理組合が自主的に点検し、問題があれば分譲会社に申し入れなければアフターサービスは受けられません。
さくら事務所では、おもに2年・5年・10年のアフターサービスを活用するための「マンション共用部チェック」をおこなっています。共用部チェックで売主の保証を最大限に活用できれば、大幅なコストカットが可能です。
期限を過ぎると、管理組合の負担で補修しなければいけません。アフターサービス期限内のマンションはぜひこの機会にご検討ください。
築10年までのマンションの皆様必見!
この動画で話していること
Q1. マンションの修繕積立金を節約するために最も重要なことは? A. 分譲会社のアフターサービスを最大限に活用することです。不具合は早期に申し入れることで、無償で修理してもらえる可能性があります。 Q2. 2年目を過ぎたらもうアフターサービスは使えませんか? A. いいえ、構造部分や防水部分の不具合であれば10年目まで法律に基づき対応される可能性があります。定期的な確認が大切です。 Q3. なぜアフターサービスには申し入れが必要なのですか? A. アフターサービスは居住者からの申し入れがないと対応されない仕組みだからです。特に5年目以降は通知が来ないことが多いため、管理組合による確認が重要です。 |