エレベーターはマンション設備のなかでも、修繕やメンテナンスにコストがかかります。問題なく支払っていけるのか、不安を感じている管理組合も多いのではないでしょうか。
長期修繕計画の年数によっては、エレベーターのリニューアル工事の費用が計上されていないケースも少なくありません。エレベーターの修繕計画があったとしても、実態に即していない場合は使い物にならないのです。
そこで本記事では、エレベーターの交換時期や費用など、修繕計画を立てるときまたは見直すときのポイントを紹介します。
エレベーターの修繕について不安がある方は、ぜひ参考にしてください。
目次
マンションのエレベーターの修繕計画で抑えておきたい基礎知識
まず、エレベーターの修繕計画に関して、以下の基礎知識を抑えておきましょう。
・エレベーターの修繕時期
・修繕(リニューアル)方法と費用
・エレベーターのメンテナンス
以下で順に解説します。
エレベーターの修繕時期
エレベーターの修繕は、エレベーターを交換するリニューアル工事と補修工事があります。リニューアル工事は、25~30年で実施するのが一般的です。
国土交通省の長期修繕計画ガイドラインでは、リニューアル工事は26~30年、補修工事(カゴ内の内装・扉・三方枠など)は12~15年と記されています。
また、メーカーが設定しているエレベーターの耐用年数は、多くが20~25年頃です。
しかし定期点検で異常が見つかったり使用中に不具合が発生したりした場合は、耐用年数に到達していなくても修繕が必要です。
部品の供給が終了するタイミングで修繕するケースもあります。部品の供給が終了していると、万が一エレベーターが故障したときに修理できないためです。
部品の生産が終了するのは25年前後が目安になります。
参照:国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント 別添 長期修繕計画標準様式の記載例」
修繕(リニューアル)方法と費用
エレベーターをリニューアルする方法はおもに3種類です。
・制御リニューアル
・準撤去リニューアル
・全撤去新設リニューアル
それぞれ費用も異なるため、詳しく解説します。
制御リニューアル
制御リニューアルとは、エレベーターの電気系統を司る制御盤や電動機といった制御システムを中心に交換する工事です。10日間ほどで工事は完了します。
エレベーターの見た目はあまり変わらないため、美観向上が目的の場合は制御リニューアル方式は向いていません。
また、既存不適格(現在の法令に適合していない)も解消されないケースがほとんどです。
制御リニューアルは、1基あたり約500~700万円が相場になります。
準撤去リニューアル
準撤去リニューアルは、エレベーターの大半を変える修繕方法で、工期は20日前後です。
各階の廊下に付いている三方枠(エレベーターの乗り口の枠)やガイドレール(かごが移動するレール)などの一部分はそのまま使い、制御盤・かご一式・かごを上下に動かす巻上機などを交換します。
場合によってはエレベーターのメーカーも変更可能です。費用は1基あたり700~1,000万円が目安になります。
全撤去リニューアル
全撤去新設リニューアルは、エレベーターをすべて変える方法です。エレベーターメーカーも変えられ、見た目も中身も一新できます。
費用相場は1,200~1,500万円です。大規模な工事になることから工期が長く1ヶ月程度かかります。居住者への特段の配慮が必要です。
エレベーターの点検・メンテナンス
エレベーターは年に1回の法定点検と1~3ヶ月程度に1回の保守点検が必要です。
以下で詳しく紹介します。
法定点検
法定点検は、建築基準法12条3項で決められている「昇降機等定期検査」のことです。国土交通大臣が定めている基準を満たしているか検査します。
法定点検は、おおむね 6か月~1年ごとに実施し、特定行政庁へ結果を報告しなければいけません。
また点検の結果、要是正の判定が下されたときは、修理や部品交換など必要な措置を速やかに行う必要があります。
昇降機等定期検査の判定基準については以下の図を参考にしてください。
出典:国土交通省「第3編 長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント
修繕が必要か否かは、検査結果次第です。修繕計画にはあらかじめ含まれていないため、予想外の出費が発生する可能性があることを覚えておきましょう。
保守点検
保守点検は法的な義務はありませんが、建築基準法第8条※に基づいて、エレベーターの安全性を定期的に確かめるために行われます。
※建築基準法第8条~建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない。
保守点検は以下の2種類あります。
・POG(Parts Oil Grease)契約
・FM(フルメンテナンス)契約
POG契約は、エレベーターの点検に加え、電球・ヒューズ・オイルなどの消耗品の交換や補充が保守点検費用に含まれた契約です。壊れた部品の交換や修理は含まれていないため、別途見積もりを依頼して発注します。
一方FM契約は、点検・消耗品の交換や補充のほか、部品交換や修理も保守点検費用に含まれている契約です。
エレベーターの修繕計画を見直すポイント
エレベーターの基礎知識を踏まえたうえで、修繕計画を見直すポイントを4つ紹介します。
(1)修繕方法が適切か
(2)修繕費用が妥当か
(3)POG契約は部品交換費を見込んでいるか
(4)定期点検の結果が反映されているか
順に見ていきましょう。
(1)修繕方法が適切か
修繕方法が適切かチェックしましょう。
マンションによっては「既存不適格」といって、建築当時の建築基準法には合っていても、現行の法令規準を満たしていないことがあります。
既存不適格の解消を考えている場合、どのような工事を盛り込まないといけないのか、そのためにはどのリニューアルが必要なのか検討しなければいけません。
リニューアル方法によって費用も変わるため、計画上で適切な方法が採用されていないと、実際に工事する時に費用が足りなくなることがあります。
【そもそも既存不適格は解消しないとダメ?】
既存不適格は必ずしも解消しないといけないとはいえません。しかし、安全上に関わる内容が多いため、解消を前提に更新を検討するケースが多いです。
(2)修繕費用が妥当か
修繕費用が正しく計上されているかも確認しましょう。修繕費はリニューアル方法のほかに、物価にも大きく影響されます。計画当初より物価が上がっていれば、修繕費用は大幅に値上がりしているはずです。
また、エレベーターの台数や金額の桁を間違えているなどのケアレスミスも考えられます。
実際にさくら事務所にご相談いただいたマンションでは、本来、一基当たり2,000万円×3基で6,000万円かかるはずでしたが、桁間違いにより200万円×3基で計上されていました。
深刻な資金不足に陥り、修繕積立金を値上げせざるを得なくなったのです。
(3)POG契約は部品交換費を見込んでいるか
POG契約の場合、保守点検費は比較的安価ですが、部品交換の費用が別途かかります。15~20年経つと部品交換の見積もりがメーカーから提出されますが、その費用は100万円単位になることも。
リニューアル工事までにかかる、部品交換費用まで計画に盛り込んでおかないと、資金不足がショートします。
また30年でリニューアル工事する計画の場合、20年目で数百万円かけて部品交換する必要があるのか、など計画全体を視野に入れて検討することも大切です。
(4)定期点検の結果が反映されているか
エレベーターの修繕計画を立てる際は、ガイドラインに準じた修繕周期や部品の耐用年数だけをもとにするのではなく、保守点検の結果を反映させましょう。
保守点検で劣化が見つかり部品交換した場合、その費用が反映されているか確認してください。
また最新の保守点検で現状把握したうえで、今後どのようなコストがかかってくるのかまで想定し、必要に応じて柔軟に計画を変更しましょう。
エレベーターの修繕計画を見直して資金不足を回避しよう
エレベーターの修繕計画は時期・方法・費用を精査して、不測の資金不足を防ぐことが重要です。エレベーターは一般的に12~15年で部分修繕、25~30年でリニューアルします。
リニューアル方法によって費用は異なりますが、1基あたり500~1500万円が目安です。POG契約の場合は、リニューアル費用に加えて部品交換の費用も考えておかなければいけません。
現行の法令・物価変動・点検結果を考慮して、実態に即した計画に見直すことがポイントです。
さくら事務所では、長期修繕計画の見直し・作成のプロが無料で以下を診断しています。
・修繕周期
・項目の抜けや漏れ
・工事費の算出根拠
・修繕積立金の妥当性
・マンションの特性に応じたアドバイス
さくら事務所は、多種多様なマンションを見てきた実績があります。そのためマンションの将来を正しく予見し、第三者の立場で精度の高い計画にするためのアドバイスが可能です。
エレベーターの修繕計画に不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。
こちらのYouTube動画では、エレベーターの更新と、長期修繕計画の見直しについてお話ししています。エレベーターの更新が、長期修繕計画に適切に組み込まれておらず、想定外の出費をすることになった・・・などということがないように、思い立ったら即専門家に相談しましょう。