大規模修繕工事の成否を分けるのは、工事の内容そのものだけではありません。誰に何を頼み、どのような手順で施工会社を選ぶのかという「発注方式」が、工事の透明性や費用、そして管理組合の納得度を左右します。
2026年6月には、関東のマンション大規模修繕工事をめぐる談合について、公正取引委員会が施工会社と設計コンサルタント計約40社の独占禁止法違反を認定し、排除措置命令を出す方針を固めたと報じられました。対象となったのは、いずれも設計監理方式を採用したマンションの工事だったものと見られます。長年「業界の常識」とされてきた発注方式の死角が、行政処分という形で表面化した出来事でした。
この記事では、従来から広く使われてきた責任施工方式と設計監理方式に加え、さくら事務所が推奨するプロポーザル方式を横並びで比較し、それぞれの仕組みと注意点を整理します。
目次
3つの発注方式を比較
3つの方式の違いは「誰が工事仕様を決めるのか」「何を基準に施工会社を選ぶのか」「工事中に誰がチェックするのか」という3点に集約されます。
3つの方式の大まかな特徴は、以下のとおりです。

続いて、それぞれの方式について詳しく見ていきます。
1.設計監理方式

設計監理方式は、大規模修繕工事の設計と施工を分離して発注する方式です。管理組合は設計事務所やコンサルタントと設計監理契約を結び、工事会社とは別途、工事請負契約を結びます。管理組合としての契約は2件に分かれることになります。
設計事務所は、建物の劣化状況を判定したうえで工事仕様書を作成します。入札用の数量内訳書には金額が入っておらず、各施工会社がそこに金額を入れて見積もりを提出する仕組みです。仕様が統一されているため見積もりの比較がしやすく、最終的には最も安い金額を提示した会社を選ぶのが主流となっています。工事が始まったあとは、設計事務所が工事監理を担い、管理組合と施工会社の間に入って工事を円滑に進める役割を果たします。
透明性の高い方式として広く普及してきた一方で、価格中心の競争になる構造ゆえに、談合や不正な価格操作が行われやすいという課題があります。
2.責任施工方式

責任施工方式は、大規模修繕工事の計画と施工を一括で発注する方式です。管理会社に一括で発注するケースもあれば、管理組合の入札を通じて施工会社を選ぶ場合もあります。
この方式では、工事を請け負う側が見積書と仕様書を作成します。管理組合はそれを確認して契約する流れになるため、手続きの面では最も負担が軽い方式といえます。
一方で、管理会社に発注した場合、管理会社自身に工事部門がなければ、実際の施工は別の工事会社に下請け発注されます。管理組合が直接工事会社に発注する場合と比べ、間に管理会社が入る分だけ費用が割高になりやすい構造があります。
また、依頼先に多くを委ねる形になるため、工事内容や金額の妥当性が見えにくく、透明性の面で総会の合意が得られにくいケースもあります。
3.プロポーザル方式

プロポーザル方式は、さくら事務所が推奨する発注方式です。
費用面では管理組合が施工会社と直接契約する形が最も望ましいものの、管理組合だけで施工会社を探し、比較するのは現実的に難しいというのが現状です。そこでさくら事務所が、管理組合とコンサルティング契約を結び、施工会社の選定を支援します。
ただし、弊社は設計業務を請け負いません。これは設計を担う施工会社との間に利害関係が生じるためで、さくら事務所は「設計しないコンサルタント」という立場です。
プロポーザル方式の最大の特徴は、工事仕様を統一しない点にあります。さくら事務所が見積条件の大枠を定めたうえで、修繕計画や仕様、使用する材料、仮設計画などを各施工会社が自社の知見で自由に提案します。管理組合は、各社の提案書と金額をコンサルタントが作成した比較分析表で確認し、総合的に判断して施工会社を選びます。
工事中の関わり方も設計監理方式とは異なります。さくら事務所は「工事監理」ではなく「施工チェック」という形で、管理組合の代理として工事の進捗状況を確認し、必要な情報を管理組合に報告します。第三者の目が入ることで、施工会社に対する一定の抑止力を保ちながら工事を進めることができます。
このように、プロポーザル方式は、施工会社が独自の知見・技術力を活かして提案できる責任施工方式の柔軟性と、第三者が中立的な立場で工事をチェックする設計監理方式の透明性を兼ね備えた、いわば「責任施工方式と設計監理方式の良いとこ取り」ともいえる発注方式です。
▶プロポーザル方式による大規模修繕工事の進め方。施工会社選定の流れとメリット・デメリットを解説
8割が設計監理方式。発注方式の現状と課題

出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
国土交通省が令和3年度に実施した「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、発注方式は設計監理方式が80.1%と圧倒的に多く、責任施工方式が12.6%となっています。工事回数が1回目でも3回目以上でも、この傾向はほぼ変わりません。
小規模であるほど責任施工方式が多い

出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
規模別に見ると、戸数が少ないマンションほど責任施工方式の割合が高くなります。20戸以下では設計監理方式が48.0%、責任施工方式が44.0%とほぼ拮抗する一方、301戸以上では設計監理方式が85.9%、責任施工方式が6.4%です。小規模マンションでは、コンサルタント費用の負担感や理事会の体制から、一括発注を選ぶ組合が多いことがうかがえます。
施工会社の選定では「金額を比べる」のが主流

出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
注目したいのは、施工会社をどのように選んでいるかです。同調査によれば、発注者があらかじめ仕様や数量を提示する「見積合わせ方式(条件提示型)」が61.6%と最も多く、価格以外の要素も評価する「競争入札方式(総合評価型)」が17.6%で続きます。施工会社の側に提案の自由度を持たせる「見積合わせ方式(提案型)」は3.8%にとどまります。

出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
選定方法を採用した理由は「工事金額を重視したかったため」の44.3%が最多で、施工業者を決定した際の評価事項でも「工事金額」が63.1%で最も多く挙げられています。統一仕様のもとで金額を比べて決めるというのが、今の大規模修繕工事の主流の流れといえます。
「金額競争」の裏に潜む不正のリスク
この流れの最大の問題は、談合が起きやすい構造になっていることです。統一仕様書のもとでは、各社の見積書は工事項目も数量も同じで、違いは金額だけになります。施工会社同士が事前に「今回はどの会社がいくらで取るか」を決めておけば、あとは各社が申し合わせた金額を書くだけで、管理組合の目には正当な競争の結果に映ります。しかも、入札を取り仕切る設計コンサルタントがその調整に加われば、参加会社の顔ぶれから落札者まで裏で決めることができてしまいます。
金額だけで比べる方式が主流であり続けたこと、そして多くの管理組合がその仕組みを設計事務所と施工会社に任せきりにしてきたことが、2026年に明るみに出た大規模な談合事件の土壌となりました。価格競争によって透明性を確保するはずの仕組みが、実際には不正を隠す仕組みとして機能していたわけです。
さらに、統一仕様書は設計事務所が想定した工法や材料で組まれているため、施工会社に「この建物ならこうしたほうがよい」という知見があっても、それを提案する場がないという問題もあります。金額の安さだけで選んだ結果が、工事中の追加費用や仕上がりの差として管理組合に跳ね返ってくる場合もあります。
▶マンション大規模修繕の談合、約40社に排除措置命令へ。管理組合が今すべきこととは
どの方式でも「丸投げ」は禁物
3つの方式には、それぞれに向き不向きがあります。手続きの負担を最小限にしたいのであれば責任施工方式、統一仕様で価格を比較したいのであれば設計監理方式、提案内容まで吟味して納得して選びたいのであればプロポーザル方式が候補となります。
設計監理方式が悪いというわけではなく、どの方式を選ぶにしても、管理組合が工事に関心を持たず、依頼先に丸投げしてしまうことが最も大きなリスクです。見た目には順調に進んでいるようでも、水面下で金額や仕様が調整されてしまう事態は、方式を問わず起こりえます。
大規模修繕工事の発注方式に迷われている管理組合、劣化診断を終えてこの先の進め方を検討されている管理組合は、まずはお気軽にさくら事務所にご相談ください。プロポーザル方式を採用するかどうかにかかわらず、それぞれの方式のメリットとデメリットを把握したうえで、後悔のない選択をしていただくためのサポートをいたします。




