マンション建て替えは難しい!現実的なケースや費用負担、代替案を解説

マンションの老朽化が進むと、必要な工事が増え、修繕コストはかさむ一方です。建設当時は快適に暮らせていたマンションも、居住者の高齢化によるニーズの変化に伴い、不満の声が寄せられることも。

そこで選択肢のひとつになるのが「マンションの建て替え」です。しかしマンションの建て替えを実現するには、多くの課題をクリアしなければいけません。

本記事では、マンションの建て替えが難しい理由や、現実的なケース、建て替えの代替え案など、事例を交えて解説します。

マンション建て替えの年数

マンションの建て替えを検討する最大の要因は老朽化です。しかし、マンション建て替えは一定年数を超えたからといって、簡単に実現できるわけではありません。築年数で決められるものではないのです。

マンションの寿命は100年を超えるといわれていますが、快適に住み続けられるのは、40~50年程度といわれています。
一般的には、竣工40~50年を経過する頃から、マンションの老朽化が進み設備や間取りなど居住者のニーズにも合わなくなってきます。そのため建て替えを検討するタイミングが竣工後40~50年頃になるのですが、実際に建て替えしているマンションは少ないのが現状です。

マンションの耐用年数についてより詳しく知りたい方は、下記の記事を参考にしてください。
マンションの耐用年数は何年?寿命との違いや年数を過ぎたらどうなるか徹底解説

マンションの寿命と法定耐用年数は違う

耐用年数というと、法定耐用年数を思い浮かべる方もいるかもしれません。法定耐用年数は、マンションを減価償却できる会計上の年数で、建物の構造により決まります。鉄骨鉄筋コンクリート造の法定耐用年数は47年です。

図らずとも、快適に住み続けられる年数と一致していますが、マンションの寿命という観点から考えると、法定耐用年数は建て替えを検討する基準の年数にはなりません。

マンション建て替えが難しい3つの理由

国土交通省が公表している「マンション建替え等の実施状況」によると建て替えしたマンションは、2023年3月時点で累計282件、2022年は274件。直近1年間で建て替えたマンションは8件のみです。

参照:国土交通省「マンション立替え等の実施状況」

ここまで件数が少ないのは、以下3つの理由が考えられます。
・区分所有者の費用負担が大きい
・建て替え決議までのハードルが高い
・現行の建築基準法に適合していない

詳しくみていきましょう。

(1)区分所有者の費用負担が大きい

マンション建て替え時にかかる費用は、戸当たり1,000~3,000万円といわれています。費用に大きな差があるのは、マンションの規模やグレードにより異なるためです。

費用の内訳は、解体費・調査費・設計費・建設費・各種手続きに関する費用・仮住まい費など多岐にわたります。

とくに老朽化しているマンションは居住者の高齢化も進んでいる傾向です。1,000万円単位のまとまった一時金を負担するのは難しいでしょう。

マンション建て替えに修繕積立金は使えない

国土交通省「マンション標準管理規約」によると、修繕積立金が使えるのは、マンションの建て替えに関する調査費用のみです。建て替えのための解体費や建設費には使えません。

マンションの建て替えが決定すれば、修繕積立金の残高は各区分所有者に返還されます。しかし、修繕積立金に余裕のあるマンションは少なく、建て替えの費用を補えるほどの金額は残っていません。

とくに建て替えを検討するほど老朽化が進んだマンションでは、これまでの大規模修繕で修繕積立金が底をついているケースもあり、まとまった金額の修繕積立金を返還してもらうことは期待できないでしょう。

(2)建て替え決議までのハードルが高い

マンションの建て替えは総会で決定されます。現状、建て替え決議では、区分所有者及び議決権の5分の4以上の賛成が必要です。

修繕・改修との比較や、任意建て替え、法定建て替え、マンション敷地売却制度による建て替えなど、建て替え手法の検討、また、建て替えることになった場合の負担金の検討や建て替えに伴う引っ越し、仮住まいのことなど、多くの課題があり一つ一つが合意形成の高いハードルとなります。専門知識が必要なのはもちろんのこと、根気強く課題をクリアし、区分所有者間の合意形成のために、根回しできる人材も欠かせません。

建て替え決議の要件が緩和されるかも

マンション建て替えの決議要件については、現在緩和する方向で審議されています。具体的には、議決数を4分の3(耐震性不足などの条件下では3分の2)、所在不明の所有者はそもそも多数決の母体から外すことなどが検討されているのです。

現在の議決数は5分の4以上、さらに所在不明などで欠席した所有者も多数決の母体に含まれ「反対派」に属します。2024年1月に関連法案が提出され可決されれば、今よりもマンション建て替えのハードルは下がることになるでしょう。

参照:時事ドットコムニュース「マンション再建、賛成「3分の2」で 要件緩和へ試案―法制審部会」

(3)現行の建築基準法に適合していない

建築基準法が理由で、そもそも建て替えが不可能なケースもあります。建築基準法は改正を繰り返しているため、建築当時は建築基準法に適合していても、現在の内容には不適合になっていることがあるのです。

たとえば、建築当時の建築基準法よりも現行の容積率が低く設定されている場合、容積率の上限で建設されているマンションは、一部屋を狭くしたり住戸数を減らしたりすることで、容積率を守らなければいけません。

マンションの規模が小さくなるため、マンションを建て替えることで住めなくなる人がでてくることが考えられます。建て替え費用を負担する人数も減少するため、世帯当たりの金銭的負担も増大するでしょう。

建て替えが現実的なマンションとは?

マンションの建て替えは容易にできるものではありません。しかし、建て替えを成功させているマンションがあるのも事実です。

ここでは建て替えが現実的なマンションには、以下3つの特徴があります。
・容積率に余裕があるマンション
・耐震性が不足しているマンション
・震災被害に遭ったマンション

順番に解説します。

容積率に余裕があるマンション

現状、容積率に余裕をもって建設されているマンションは、少ない費用負担で建て替えできるかもしれません。

容積率に余裕があれば、建て替え後は現状よりも分譲床を増やせます。増やした分を売却し、その利益を建て替え資金に充てるのです。

増やせる戸数、売却益によっては、区分所有者の負担なしで、建て替えられることも。建て替えに成功している多くのマンションで採用されている方法です。

耐震性が不足しているマンション

「マンション建替円滑化法(改正マンション建替え法)」により容積率を緩和できる可能性があります。耐震性が不足しているマンションで許可基準をクリアしていれば、特定行政庁の許可により、容積率の緩和が可能です。各都道府県別の特定行政庁の許可基準はこちらでご確認ください。

容積率が緩和されれば、現行の建築基準法に適合していないマンションや、適合しているけれど容積率の上限で建設されているマンションでも、費用負担を軽減して建て替えられるかもしれません。

参照:国土交通省「容積率の緩和特例について(マンションの建替え等の円滑化に関する法律第105条第1項関係)」

震災被害に遭ったマンション

マンションが震災被害に遭い、修繕では到底復旧できないときは、建て替えまたは解体するしかありません。居住者の生活のことを考えるとできるだけ早く、生活環境を整える必要があるため、判断が急がれます。

自治体によっては、震災したマンションの建て替えに適用される、震災復興型の総合設計制度があるなど、補修するよりも手厚い支援を受けられるケースも多いため、状況に応じて建て替えが現実的になるでしょう。

マンション建て替えに関する補助金

マンション建て替えに関する補助金はいくつかありますが、代表的なものが下記2つです。

・優良建築物等整備事業(マンション建替タイプ)
・都心共同住宅供給事業者(マンション建て替えタイプ)

優良建築物等整備事業(マンション建替タイプ)は、市街地環境の整備改善や、良好な居住環境の確保のために、老朽化マンションの再生を推進する事業です。

都心共同住宅供給事業者(マンション建て替えタイプ)は、東京23区や大阪などの大都市における良質な中高層住宅の建設に対して、国や地方公共団体が必要な助成をおこなっています。

どちらも補助の対象は、調査設計計画費・土地整備費・共同施設整備費など建て替えに関する費用の一部です。対象地域や適用条件、補助額の詳細は細かく定められています。

上記の補助金以外にも、自治体によりさまざまな制度があるため、ホームページなどで自分のマンションが該当するものがないか確認してみましょう。

参照:国土交通省「マンション建替え実務マニュアル(資料2)」

マンション建て替えまでの流れ

マンション建て替えの流れは以下のとおりです。
(1)建て替えを検討するための準備<
(2)建て替えの計画

(3)建て替え決議の総会

(4)計画の実施

順に詳しくみていきましょう。

(1)建て替えを検討するための準備

マンションの建て替えは、建て替えを検討する前の準備期間が必要です。まずは、管理組合で建て替え検討チームを立ち上げ、マンション管理士やゼネコンなどに依頼して、勉強会を開催します。

マンション建て替えに関する知識が無ければ、建て替えを検討することもできません。ある程度、見通しがたち、マンション建て替えの可能性があれば、詳細をつめて具体的な計画を立てていきましょう。

(2)建て替えの計画

マンション建て替えについて、理事会に報告し、審議をかさねます。住民アンケートなどを用いて、居住者ひとりひとりのマンション建て替えに対する意識を高めていきましょう。

必須ではありませんが、建て替え決議でスムーズに合意形成を進めていくために「建て替え推進決議」を実施します。

建て替え推進決議は「建て替えをするかしないか」ではなく「建て替えを計画することに合意するかしないか」を確認するための手続きです。一般的に、4分の3以上の議決が理想といわれています。

(3)建て替え決議の総会

マンション全体で建て替えの方向性がみえてきたら、ゼネコンやディベロッパーを決定し、建て替え計画をより具体化させましょう。

建て替えにかかる収支まで明らかにして、建て替え計画の大枠が決まった段階で、総会で建て替え決議を実施します。マンションの建て替え決議は区分所有者及び議決権の5分の4以上。議決されるには、早い段階から区分所有者の意識改革や根回しが必要です。
また、建て替え決議の開催日の1か月前までには説明会を開催しなければなりません。

建て替え反対者への対応

建て替えが決定した場合、建て替え反対者は、建て替えに合意するかマンションを出ていくかの2択です。

反対意見が変わらない場合は、売渡請求がおこなわれます。売渡請求とは、マンション建て替えに反対している人の住居の持分を確定し、時価でその持分を売り渡すようにと請求すること。売渡請求により、マンションを手放すことになります。

(4)計画の実施

建て替えが議決されたら、計画の実施にうつります。新たに発足した「マンション建替組合」が主体となり計画をすすめていきます。

マンション建替組合の業務は、工事の進行だけでなく、反対者への売渡請求や建て替え後のマンションにおける区分所有者への権利配分(権利変換計画)などさまざまです。建て替え時には、従来の管理組合は廃止され、竣工後に新たな管理組合を設立します。

マンションの建て替え事例

ここでは、マンション建て替え事例として、福岡県福岡市にあるマンション「下高宮住宅(旧名)」をみていきましょう。

マンションの概要は以下のとおりです。

建替前 建替後
竣工時期 1970年9月 2008年3月
敷地面積 3,836.71㎡ 3,843.14㎡
延床面積 2,436.18㎡ 10,062.01㎡
総戸数 40戸 90戸
専有面積 52.99~54.6㎡ 82.38㎡ ※平均値

本マンションは建て替えにより、分譲床を50戸増やすことに成功しています。建て替える前は、階段室型の形状をしているマンションで、容積率に余裕がありました。また、立地がよく増やした分譲床のスムーズな売却も見込めたことも、建て替えを実現できたポイントです。

本マンションの建替決議は2005年12月、建替組合の認可が2006年4月、竣工が2008年3月というスケジュール感で、建替決議から竣工までは約2年3ヵ月かかっています。短く感じるかもしれませんが、建替決議に至るまでには、建て替えの検討や計画などに、それ以上に長い月日を経ています。ひとつずつ問題をクリアして、竣工までたどり着いたのです。

参考:福岡市住宅都市局「福岡市におけるマンション再生について」

マンション建て替えの代替案

建て替えを検討しても実際に建て替えを行うことができるマンションはごくわずかです。ここではマンションの建て替えが難しいときの代替え案を紹介します。

大規模修繕でマンションを延命する

マンションの建て替えができない、居住者の今の生活を守りたい、という場合は、定期的な大規模修繕でマンションを延命させる方法があります。

大規模修繕であればこれまで同様に、修繕積立金でカバーでき、工事期間中以外は生活環境をかえずに暮らせるため、居住者の負担もありません。さらにバリアフリー工事や新しい設備の導入などは、過半数の賛成で議決されるため、ハードルも低いです。

ただし、修繕積立金の不足に悩んでいるマンションも少なくありません。まずは収支を確認し、積立状況を把握しておきましょう。

敷地売却制度を利用する

建て替えはおろか、大規模修繕も難しい場合は、敷地売却制度を利用する方法もあります。

敷地売却制度とは、耐震性が不足しているなどのマンションにおいて、区分所有者、議決権および敷地利用権の持分の価格の各5分の4以上の賛成を得られれば、マンションと敷地を売却できる制度です。区分所有者は分配金を受け取れます。

敷地売却制度を利用すると、買受人が再建したマンションを購入すれば、住所を変更することなく住み続けることが可能です。再入居しない場合は、分配金をほかの住宅への住み替え資金にできます。

国土交通省「マンション建替え等の実施状況」によると、マンション建替円滑法による敷地売却の実績は累計10件と、あまり多くはありません。

参照:国土交通省「マンション立替え等の実施状況」

計画的な大規模修繕でマンションを長持ちさせよう

マンション建て替えは、費用負担が大きい、決議までのハードルが高い、建築基準法に適合していない、などの理由から、限られたマンションでしか実現できていないのが現状です。

容積率の問題をクリアできれば、金銭的負担を減らせますが、国土交通省の調査結果による建て替え件数が1年で8件と少ないことからも、実際は難しいことがわかるでしょう。

さくら事務所では、大規模修繕工事に向けた建物劣化診断を実施しています。第三者の立場で客観的に、今本当に必要な工事はなにか、今やらない工事はいつやるとよいか、など工事することを前提としない公平な診断が可能です。

現状で過剰な工事を避けられコストを削減できるため、グレードアップを目的とした改修工事に予算をまわせます。

長期修繕計画がない、5年以上見直していない、というときには、長期修繕計画の見直し・作成サービスをご利用ください。これまで650組合のマンションをみてきた専門家が、あなたのマンションの将来を正しく予見し、マンション延命に向けてアドバイスいたします。

さくら事務所とともに、マンションの老朽化に向き合い、現状維持または居住者の快適性・満足度の向上にむけて、対策していきましょう。

[建物劣化診断]マンション大規模修繕工事に向けた第三者調査

長期修繕計画の見直し・作成

お役立ちコラム 関連記事