マンションの大規模修繕の積算とは?工事見積もりの理解を深めよう

数千万から億単位で工事費用がかかるマンションの大規模修繕。マンションの規模や劣化状況によって費用の内訳は異なりますが、金額が大きいからこそひとつひとつの項目に着目して、納得したうえで工事を発注したいところです。

マンションの大規模修繕では見積もりをするために積算します。。積算について詳しく知ることで、ただ提出された見積額のみ確認するだけではなく「どうしてその金額になるのか」意識できるようになり、工事見積もりへの理解を深められるでしょう。

ここでは、大規模修繕工事の積算について解説します。大規模修繕の工事金額の目安も紹介するので、相場感を知りたい方や見積額に疑問をもたれている方も、ぜひ参考にしてください。

大規模修繕の積算とは?

大規模修繕の「積算」とは、工事に必要な材料や数量を予測し「数量×単価」で、工事にかかる費用を算出することです。数量の予測は、マンションの設計図書や竣工図、仕様書などを用います。明確な材料費・人件費・工事単価によって見積額が算出されます。

ただし、積算したものが、そのまま提出される見積額に反映されるわけではありません。積算されたものに業者の利益が上乗せされた金額が、見積額になります。

マンションの大規模修繕の積算方法は2種類ある

積算の方法は「実数精算方式」と「責任数量方式」の2種類あります。工事を発注する前に2つの違いを理解しておかないと、思いがけない支払額にとまどうことになりかねません。以下で詳しく解説します。

実数精算方式

実数精算方式は、工事前に仮の積算で見積額を算出し、工事後に実際の工事内容を反映させた正確な数量で再度積算し、相違があれば見積額が変更される方法です。契約時の見積もりはあくまでも目安であり、変更となる可能性があるのです。

マンションの大規模修繕では、外壁タイルの補修など、足場を組まなければ数量を確定できない工事も少なくありません。見積もり段階では、予測による積算を余儀なくされることもあり、大規模修繕工事の約8割程度で実数精算方式が採用されているのが現状です。

実数精算方式は、正確な積算に基づき工事に見合った金額を請求されます。しかし、想定外の工事があれば、契約時の見積もりよりも高額になる可能性があることを覚えておきましょう。

責任数量方式

責任数量方式は、工事前の見積もり段階で、請求額が確定する積算方法です。工事開始の前後で積算にずれが生じていても、見積額が変更されません。約時の見積もりから料金が加算されることがないため予算を組みやすいのがメリットです。

ただし、見積もりを予測する段階で、余裕をもたせて高額な見積もりになっていたり、想定よりも工事が少なく済んだ場合にも減額されなかったりするデメリットがあります。

大規模修繕で積算を構成する項目

大規模修繕では単純に工事費や人件費だけが積算されるわけではありません。工事にかかる光熱費や業者の福利厚生費などの間接的な項目も含まれます。

ここでは積算を構成する項目について、以下3つに分けてみていきましょう。

・直接工事費

・間接工事費

・一般管理費

順に解説します。

直接工事費

直接工事費とはその名のとおり、工事に直接関係する以下3つの項目です。

・材料費

・労務費

・直接経費

材料費とは工事でつかわれる材料のほか、足場や足場に付随する飛散防止シートも対象です。労務費は作業員の人件費、直接経費は水道光熱費の使用量分(基本料金は間接工事費に含まれるため除外)、工事で使う機械のメンテナンス費用などが含まれます。

間接工事費

間接工事費は、以下2つに分けられます。

・共通仮設費

・現場管理費

共通仮設費は、工事の現場事務所や仮設トイレ、資材用倉庫などの工事完了後に残らないけれど工事に必要な仮設物のための費用です。

現場管理費は、工事現場を管理するための事務用品費や通信交通費、労務管理費などがあります。ここでいう労務管理費は、現場で働く従業員の人件費ではなく、現場の作業員を管理する従業員に対するものです。

一般管理費

一般管理費は、業者が運営を続けていくための費用です。工事を請負う工事業者が会社の経営を維持するために必要な費用として、積算されます。おもな内容は工事業者の役員報酬や、工事に関係していない従業員の給与や本社や支店でつかう事務用品費などです。

大規模修繕の工事金額内訳

ここからは、国土交通省が公表している「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」の結果に基づき、大規模修繕の工事金額内訳の目安を解説します。下記のグラフをご覧ください。

出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」

全体の内訳をみると、建築系工事や仮設工事などの直接工事費がもっとも多く、約85%を占めています。ちなみに、グラフ内の諸経費➀は現場管理費・一般管理費・法定福利費など、諸経費②は大規模修繕瑕疵保険の保険料です。

建築系工事の内訳について、さらに詳しくみていきましょう。

出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」

建築系工事の内訳をみると、もっとも多いのが外壁塗装、次いで床防水です。外壁塗装は回数を重ねるごとに割合が増えていますが、外壁タイルは1回目がもっとも多い割合で、徐々に少なくなっている特徴があります。

マンションの劣化の程度により比率は異なりますが、見積もりを確認するときの目安として参考にしてください。

戸数別の大規模修繕工事金額

マンションの規模が大きいほど、工事で使う材料などの数量が多くなるため、積算の結果も増額します。1回目の大規模修繕の工事金額の相場について、以下のグラフをご覧ください。

国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査≪4≫ マンションの戸数規模・大規模修繕工事回数別の集計」をもとに作成

50戸以下の小規模マンションでは、約85%以上のマンションが「6,000万円以内」におさまっています。100戸前後のマンションは「8,000万円超~10,000万円」「10,000万円超~15,000万円」、200戸前後のマンションは「15,000万円超~20,000万円」「20,000万円超~25,000万円」の割合が多いのが特徴です。

300戸を超える大規模マンションでは、金額にばらつきがありますが、50,000万円を超えるマンションも多い結果となっています。

大規模修繕工事は実施する回数によって工事内容が異なることから、金額の差が顕著です。2回目以降の工事金額については、下記記事で解説していますので、気になる方はご覧ください。

大規模修繕2回目は資金不足に注意!成功させる6つのポイントを解説

大規模修繕工事の見積もりチェックは念入りに

マンションの大規模修繕工事の見積もりは積算によってきまります。実数精算方式の場合は、契約時の見積もりよりも高額になるケースもあることを念頭におき、多めに予算を確保しておく必要があるでしょう。

大規模修繕の工事金額は、工事回数や規模などあらゆる要素により変動します。本記事で解説した工事項目ごとの金額内訳や戸数別の工事金額を参考にしながら、渡された見積もりを鵜呑みにするのではなく、些細な疑問点も契約前に解消しておきましょう。

マンションの劣化状況も工事内容を決める重要な要素のひとつです。見積額のチェックも大切ですが「そもそもその工事が本当に必要なのか」工事項目を精査することでコストを削減できるケースもあります。資金不足で悩んでいる場合は、専門家の力をかりて解決しましょう。

さくら事務所では、大規模修繕に向けた劣化診断や見積もりの妥当性を確かめる見積書チェックを実施中です。マンションの工事・建築に長けた専門家が、第三者の立場でアドバイスさせていただくため、過剰な工事や不当に高額な工事の発注を避けられます。

また、一級建築士などの専任のコンサルタントが施工会社選びをサポートすることも可能です。管理会社に任せきりでなく、管理組合が主体となり業者選びをすることで、工事金額をおさえられたり付加価値の高い工事を提案してもらえたりと多くのメリットがあります。

ご依頼内容は自由にカスタマイズできますので、予算に合わせた相談も可能です。大規模修繕のみならず、マンションの管理・運用についてお困りでしたら、お気軽にお問い合わせください。

また以下の動画でも詳しく解説していますので、気になる方はぜひご覧ください。

https://youtu.be/ArWVCQgFLJM

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