マンションの寿命と資金繰りを左右する長期修繕計画。マンションは日常的なメンテナンスだけでは、経年劣化に対応できません。長期的にマンションを良好な状態に維持するためには、マンションに適した長期修繕計画をたてることが大切です。
本記事では、長期修繕計画の概要や修繕箇所ごとの工事周期、見直しのタイミングについて解説します。具体的な長期修繕計画の作成方法や大規模修繕の資金についても紹介しますので、資金不足にお悩みの方もぜひ参考にしてください。
長期修繕計画とは?
長期修繕計画とは、30年程度の長期的な未来を見据えて、マンションの大規模修繕の時期や費用について計画をたてたものです。細かな内容はマンションによって異なりますが、修繕時期・修繕項目・費用などが記載されており、長期修繕計画に則り大規模修繕工事が実施されます。
長期修繕計画の期間に決まりはありませんが、国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインでは、計画期間を「30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上」と定義されています。
長期修繕計画に組み込む主な修繕箇所と周期
長期修繕計画の基盤となるのは、各修繕箇所における修繕周期の目安です。ここでは長期修繕計画で考えられる修繕箇所と実施する周期の目安を紹介します。
上記の表はあくまでも目安です。こまめにメンテナンスしたり耐用年数の高い製品を使ったりすることで、工事周期を延ばせます。
的確な長期修繕計画をたて、計画に見合った修繕積立金を設定するためにも、修繕箇所と周期を把握しておきましょう。
長期修繕計画が必要な理由
長期修繕計画が必要な理由は以下の3つです。
- 将来の修繕工事や点検費用に備えるため
- 修繕積立金の金額設定の根拠とするため
- 円滑に修繕工事を実施するため
長期修繕計画があると、将来必要な修繕や点検の費用に備えられます。大規模修繕工事の資金は修繕積立金のため、修繕積立金は長期修繕計画から算出されるのが一般的です。長期修繕計画を修繕積立金の金額設定の根拠として示すことで、区分所有者間のスムーズな合意形成につなげられます。
また、大規模修繕工事は、工事業者の決定・見積精査・居住者への説明など多くの工程が必要です。長期修繕計画で工事内容がわかっていれば、工事に向けてスムーズに段取りでき居住者の理解も得られやすいでしょう。
長期修繕計画の資金「修繕積立金」「修繕積立基金」とは
長期修繕計画をたてていても、資金がなければ計画を実行できません。そこで、ここでは長期修繕計画通りに大規模修繕をおこなっていくための「修繕積立金」と「修繕積立基金」について解説します。
修繕積立金
修繕積立金は、長期修繕計画で予定されている大規模修繕に備えて、マンション所有者から毎月徴収する費用です。
ちなみに、国土交通省の平成30年度のマンション総合調査によると、修繕積立金の月当たりの平均収入は115.7万円。全体の約35%が計画に比べて不足しているのが実態です。実際に長期修繕計画の見直し時に修繕積立金も見直され、金額が値上がりするケースも多くあります。
修繕積立金についてより詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
マンションの修繕積立金とは?相場や値上げの要因を徹底解説
修繕積立基金
修繕積立基金は、マンション購入時に一時金として徴収する費用です。大規模修繕の費用は修繕積立金から賄いますが、地震や台風などの万が一の修理や予想以上に修理代がかさんだ場合は、修繕積立基金から補填します。
修繕積立基金があれば、修繕積立金が充分に確保できていないときでも、資金を用意できるため、一時金とはいえ大切な資金です。
長期修繕計画を見直すタイミング
長期修繕計画がマンションの実態と合っていないと、必要な修繕が実施できなかったり過剰な修繕で修理コストの無駄遣いをしてしまったりと、適切なマンション運営ができません。そこで長期修繕計画は、定期的に見直す必要があります。
長期修繕計画を見直すタイミングは、ガイドラインが推奨している5年、または大規模修繕工事の完了後がおすすめです。それぞれ以下で詳しくみていきましょう。
ガイドラインが推奨する「5年」
国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」では、長期修繕計画の5年程度ごとの見直しが推奨されています。前述した修繕箇所の周期をみると、給排水ポンプや機械式駐車場の補修の目安は5年です。こまめに計画を見直すことで計画と実態のズレを最小限におさえられます。
大規模修繕工事の完了後
大規模修繕工事が完了後に、長期修繕計画の見直しが必要になるケースもあります。大規模修繕工事は、すべて計画通りに進むとは限りません。追加工事の発生などで工事項目や工事代金が変わると、次回以降の大規模修繕工事にも影響がでます。
直前で資金不足に悩むことがないように、今後の大規模修繕工事の内容を精査し、長期修繕計画を最新の内容にアップグレードしておきましょう。
長期修繕計画の作成方法
長期修繕計画はマンションの将来を担う重要なものです。計画に抜けや漏れがあると、必要な修理ができなかったり、修繕積立金の設定ミスにより資金不足に陥ったりすることもあるでしょう。
そこで、ここでは、適切な長期修繕計画を作成する方法として「ガイドラインに沿って作成する方法」と「マンション管理士などの専門家に相談する方法」を紹介します。
ガイドラインに沿って作成するべき
長期修繕計画を作成する際は、国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」を活用しましょう。
国土交通省「長期修繕計画標準様式 長期修繕計画作成ガイドライン 長期修繕計画作成ガイドラインコメント」
ガイドラインでは「推定修繕工事項目」が細かく設定されています。足りない項目もありますが「ガイドラインに示される推定修繕工事項目」をベースに計画すると漏れが少ないでしょう
ガイドラインの長期修繕計画の構成には、作成方法や修繕積立金の設定の考え方も示されています。マンション所有者の、工事や修繕積立金に対する理解が深まるため、合意形成を進めやすいでしょう。
工事費の値上がりや予期せぬ修繕があると計画通りに資金繰りできないこともあります。深刻な資金不足に陥らないためにも、ガイドラインは5年ごとに軌道修正していくことが大切です。
マンション管理士など専門家に相談する方法もある
マンション管理士などの専門家に相談して、長期修繕計画を作成・見直ししてもよいでしょう。長期修繕計画の作成・見直しは、管理会社に委託しているケースがほとんど。マンションの実態調査をしっかりせずに、ひな形通りに作成されていることが多いのも事実です。
マンションの修繕に精通した「マンション管理士」に依頼すると、マニュアル化した内容ではなく、そのマンションにとって最適な長期修繕計画を作成できます。
マンション管理士への依頼費用は、新規作成で約60万円〜、見直しで約25万円~。高額に感じるかもしれませんが、マンション管理士に依頼することで不要な工費を削減でき、相対的にはコストダウンに繋がる可能性もあります。前向きに検討してもよいでしょう。また、専門家に依頼することで管理組合や管理会社など利害関係者の目だけでなく、第三者の目も加わることで、長期修繕計画の妥当性が高まる効果も得られるでしょう。
長期修繕計画の見直し・作成なら「さくら事務所」
長期修繕計画はマンションを良好な状態で維持していくために不可欠です。修繕積立金の金額を設定する根拠にもなるため、マンションに適した計画をたてましょう。
長期修繕計画は、マンションの所有者で作成・見直しすることもできますが、建築・設備に精通したマンション管理士などの専門家に相談するのもおすすめです。
実態に合っていない修繕計画で、資金不足に悩む管理組合も多くあります。マンションの状況に適した長期修繕計画を作成できれば、資金不足や修繕積立金の増額を最小限に抑えられるかもしれません。
さくら事務所では、経験豊富なマンションの専門家が、第三者目線で長期修繕計画の見直し・作成をサポートします。実際よりも工事周期が短く設定されていたことが判明し、コスト削減につながったケースも多いです。
管理組合の方針に沿った新計画への対応や予算に合わせたご提案など、柔軟に対応いたします。管理組合の皆様の相談役としてぜひご活用ください。