【特別対談】名物理事がマンション理事のリアルを語る!

年末年始特別コラムとして、長嶋修最新刊「100年マンション」発売記念に10月に行った「イニシア千住曙町」の名物理事 應田治彦氏とさくら事務所マンション管理コンサルタント土屋輝之の対談の模様をご紹介します。

さくら事務所では、お問い合わせの際に皆さまからさまざまなお悩みを伺いますが、実際に長きに渡り積極的にマンション管理に携わっていらした應田氏のお話は、多くの方の参考になるかと思います。

理事長は「オタクだから続いてる」?

土屋:おそらく應田さん、今、日本で一番有名なマンションの理事さんだと思うんですが、実際のところ「自他ともに認めるマンションオタク」になったきっかけってそもそも何だったんでしょうか?

應田:もともとマンションを沢山見て回るほうのオタクだったんですよ。

今の家を決めるのに100件くらい見て相当詳しくなりました。

そうこうするうちに同じようにモデルルームを沢山見て回る「マンションオタク」のお友達がたくさんできて、彼ら曰く「理事長をやってみないとマンションオタクを極めたとは言えない」と。

じゃあマンション買ってみたら、理事長やってみようかってなって感じで思ってました。

だから「住民の方のために何とか皆を幸せにしてあげないといけない」とかそういう動機でやっているわけではなくて。

はっきり言えば趣味でやってます。

だから義務感みたいなものがないんだと思うんですよ。

「どこのマンションもやったこともないことをウチやった!」とか「じゃ、ホームぺージでこう載せるか」とか、そういう「楽しいことやっている」という感じです。

「オタクだから続いている」というのは実際あると思いますよ。「皆さんのために頑張る」という意識だけだと、たぶん燃え尽きちゃうと思うんですよね。

理事って2通りあって、みんなのために頑張るというノリの人もいると思うんですけど、私は全く逆。

ダメな理事会ができてそれにうちの家族が迷惑被るなら、もう自分でやっちゃおうと。そういう考え方をしてます。

長期修繕計画を何度も見直したそのワケ

今まさにさくら事務所で長期修繕計画の見直しを行っている、イニシア千住曙町ですが、実はこれまでにも複数回に渡って長期修繕計画の見直しを行っていました。

土屋:過去3度、長期修繕計画の見直しをされたと伺っています。

なぜそんなに頻繁に長期修繕計画の見直しをされているのでしょうか?

應田:うちのマンションって特徴があって500戸に対して建物の面積が6万6000平米。一戸あたり130平米とめちゃくちゃ広いんですよ。

でもそういうの一切なしに、「500戸で一戸平均4万円くらいだから2000万」言う感じで雑な数字がずらーっと入ってたんです。

一期目に理事長になったとき管理会社に「本当にこれでできるんですか?」って確認したら、「ごめんなさい計算します」ということになって。

面積を測ったりしたら、「思ったより全然マンション大きかったです。ごめんなさい、4億円アップです」とか言われました。

また、「タワーマンションなのでそういう設備系のところは大丈夫ですか?」と確認したら、また毎年チョロチョロチョロチョロ忘れてました・・と言われてしまって。

そういった事情で結局3回くらい作り直す羽目になりましたが、やはりプロに一度ちゃんと見てもらおう、ということになりました。

土屋:そうすると、今のものと当初のものって、金額で言うと何億くらい開きがあるものなんでしょうか?

應田:もともと30期までだったので、3度目の大規模修繕工事が入ってなかったんです。

そういうのを含めないで30年まで28億円だったのが、いま36期までで45億円です。ただもともと三度目の大規模修繕工事が見えてなかっただけなので、実際に増えたのは4・5億円てとこですね。

タワマンの修繕はみなまだまだ実績不足

土屋:長期修繕計画が想定とどんどん違ってくると管理会社と組合の間で、信頼関係が失われて亀裂が生まれたりっていうことが珍しくありません。

ですが、イニシア千住曙町では管理会社さんと組合員の皆さんが非常に円滑な関係を築かれているという印象がとても強いんです。

そのあたり何か特別なことがあるんでしょうか?

應田:もともとうちの管理会社さんは売主の系列だから新築時のデータとかいっぱい持ってるんです。

作り直した時にも、一生懸命測ってくれました。それらを全部捨てて一から第三者にやってもらうのはお金の無駄じゃないですか。

あとうちの管理会社は、毎年修繕計画を更新してくれるんです。そういうまじめなところがありますから、特別問題とは思っていません。

ただ、タワーマンションって特殊なので、最近ではタワーの修繕実績とかもありますけど、過去に修繕の実績がほとんどない。

だから10年前には誰も想定できなかったようなことも次々と出てくるわけですよね。

それを「間違ってるからダメだろう」とケンカしても仕方ないと思います。

土屋:管理会社さんと亀裂が生じてどんどん関係が悪くなっていってしまう管理組合さんを沢山お見受けする中で、そこが非常にうまくいっている秘訣なんですね。

そのあたり、人間性もあるのかもしれませんけれども、ずっと應田さんが理事として関わり続けていることが一つ、大きな要因にもなっているのかなっていう風に思います。

「均等積立」はマンションの良好な管理のスタートライン

土屋:私たちもいくつかの管理組合さんで均等積立方式への移行のサポートさせていただいているんですけども、イニシア千住曙町でもかなり早い時期に修繕積立金を段階増額方式から均等積立方式に移行されてるんですよね。

ほぼ組合の皆さんの力だけで均等積立に移行されたと伺っていますが、実際どうだったんでしょう?

應田:その時は管理士事務所とか入れていましたけど、積立金の増額というのは理事会だけで4期目にやりました。

土屋:今私たちがお手伝いさせていただいている管理組合さんで3期目で均等積立に移行したっていう大規模マンションがありますけども、4期での達成というのは当時は前例がないでしょう。

修繕積立金の均等積立への移行って、マンションの良好な管理のスタートラインというか、管理良好なマンションの前提条件と考えているんです。

これができてないとそもそも財務体質が不透明だよねってお話しています。

均等積立に移行されたとき、一番苦労したところ、印象に残っていることがあれば教えてください。

應田:理事会で均等積立にしようと提案したときは、住民が一人も知らない状況でしたが、2か月で90%以上の賛成を得て通っているんです。

とにかく状況を正確に伝えればわかってもらえると考えて無数に説明会などはしましたが、反対意見の人に苦しめられるような苦労はなかったんです。

「まず管理費を削って均等積立金にしたらいいじゃないか」という意見もありますが、日々の生活に使う管理費とお財布に貯金していく修繕積立金、一緒に考えるのはおかしいでしょう。だって全然違うものなんだから。

また、「今我々は月1万円しか払っていませんが、これからどんどん増額していって、年金生活者になった頃に3万円払えますか?厳しくないですか?」と説明して「そうだよね、無理だよね」って。

そういう意味では苦労したっていう印象はないんですよ。

土屋:イニシア千住曙町は一年目から非常に積極的に管理コストの削減に取り組まれていますね。

管理費の削減と積立金の増額を表裏セットにして進めるっていうケースが多いんですけれど、その辺はあまり意識してやっていらっしゃらなかったということですよね?

應田:積立金額って値上げするのにいい時期って5年目前後しかありえないんですよ。

10年目近くになると、「1回目の大規模修繕工事が済んでからその結果を参考にして値上げしよう」という人が必ず出てくる。

1年目2年目だとまだ管理組合に対する信用がないから難しい。

たいてい5年経過したところで一回目の値上げをすることになっているので、その時に一気に均等積立に移行しました。

管理費の削減もまだ途中でしたが、「管理費側はこれからもやりますけども、まず積立金の不足の問題を解決しましょう」という形にしたんです。

土屋:いつも組合の方にお話しをさせていただくときに、マンションにお住まいの方にとって管理費と積立金って税金みたいな感覚ですよねってお話しています。

積立金の増額ってまさしく増税に相当するものだと思うんですが、増税するときって今納めている税金ちゃんと使っているのか?っていう禊をしろみたいな話がついて回ると思うんですよね。

イニシア千住曙町では、まずは積立金の増額をさせてもらって、引き続き管理費についてはコスト削減の努力を鋭意続けますと、そういう流れということですかね?

應田:それまでに1500万くらい管理コストのダウンに成功していたからそれなりの信用があったと思うんです。

実際に修繕積立金って12年目まで鉄部塗装するくらいで最初はほとんど使わないんですよね。

だから、実際に使ってみるとか、安く済ましたところを見せるとか無理なんです。

かといって、「じゃあ大規模修繕工事やってから足りない額を増額」なんてやったら出遅れてしまう、それは避けたかった。

土屋:やっぱりそこで1500万の管理コストの削減の実績があったということが理事会への信頼を勝ち得た大きな理由だったってことですかね。

應田:積立金を上げるためにまず管理費を削減してその金額だけ積立金に回したうえで、足りない分を上げるっていうと結果として管理費の一般会計って収入と支出が同じになっちゃうんですよ。

私は黒字を残したかったです。今毎年1500万くらい黒字になるんですが、それがないと植栽がだめになったりしたときとか、グレードアップの工事とかできなくなってしまうんです。

積立金の均等割移行の後で管理コストを削減した分は組合の黒字になるようにしています。

今まさに、長期修繕計画見直し中

土屋:今まさに、長期修繕計画の見直しさせていただいているんですけども、さくら事務所の長期修繕計画の見直しってちょっと特徴的で、「管理会社と管理組合とコンサル会社が席を交えて修繕積立金について協議をしながら、一つずつ項目の洗い出しをおこなって精査して、最後の成果物はコンサル会社が作成するのではなく従来通り管理会社さんから出てくる」というかたちなんです。

長期修繕計画って管理会社さんから切り離したらいけないものだ、という認識のもとにこの形態を考えたんですけど、最初はご理解をいただくのが難しかったです。

最近はありがたいことにこの方式の見直しにご注目いただいてるんですが、わたくし共が選ばれた理由、ちょっと照れくさいんですけども…何が良かったのかを教えてください。

應田:さくらさんが選ばれた理由は管理会社とあんまりケンカしないというか管理会社と今仲が良いという、うちのマンションにとてもフィットしていると思いました。

これまでにも、面積とかも積算して一応データは持っているんですよ。でも大丈夫かなっていう不安もある。

だからプロに見直してもらって3者でサッてやりましょうっていう提案がとても斬新だったんです。

あと管理会社を追い出してゼロから作りますっていう方がずっと高くついちゃう。コストパフォーマンスがいいっていうのも理由でした。

もう一つはうちの管理会社は毎年長期修繕計画を更新してくれるんです。さくらさんにあずけておいて毎年更新しろといったらお金かかりますよね。

管理会社さんにお金払ってるわけですから、その分ちゃんと働いてもらおうという考えもあります。

土屋:私たちがサービスを組み立てた動機がそのまま受け入れられたということで非常にうれしいですね。

組合と管理会社を引き離したがるコンサル会社

土屋:2年目とか10年目のアフター等の建物点検をコンサル会社にお願いしたり、長期修繕計画の見直しをお願いしたら、いつの間にか管理会社が変わってたというようなケースがありますよね。

それで組合の中がギクシャクしてしまうっていう。

業務を委託するときには全く予想していなかった、いつの間にか本来お願いしていたところではないところに着陸をさせられてしまったというようなそんな組合のお話をよく伺います。

管理コンサルタントってどうしても組合と管理会社を引き離したがある傾向があるんですよね。

私たちはそれはおかしいと、そこは曲げられない理念の部分でやっています。

この長期修繕計画の見直し方法が受け入れられたのは、その理念の部分を受け入れてもらった、ということかもしれませんね。

應田:長嶋さんの本(「100年マンション 資産になる住まいの育てかた」)にも提言の一番最初に「むやみに管理会社をリプレスしない」と書いてあって、リプレイスでいくらでも安くなるっていう本はこれまでにたくさん読みましたけど、ものすごく革新的だなと思いました。

土屋:できれば変えないほうがいいっていうのは、管理会社を変えなくて済むなら絶対に変える必要はないという意味なんです。

「変えずに改善できることと」「変えなければ改善できないこと」を切り分けましょうっていうことをいつもお話ししているんですけども。

管理力が資産価値に反映される時代はくるのか?

土屋:管理にしっかり取り組んで「うちは他のマンションとは違うよ」っていう自負が出てくると、当然それによって資産価値が下がらないとか、むしろ上がるとかいうところに結果が現れてほしいと期待するんですけど、残念ながら今のところそうは思えない状況なんですね。

今後、素晴らしい管理を継続していくうえでマンションの資産価値が管理によって変わるっていうようなことにならないと、マンションの管理をしっかりやっていこうという風潮にはならないんじゃないか、と思うんですね。

スーパー理事長として「管理がもっとしっかりしたら、こういう風に変わってほしい」とか制度や税制も含め、思い浮かぶことはありますか?

應田:「管理の善し悪しっていうのは意外に値段に反映されていないな」っていうのがよく頑張っておられる理事長の印象だと思うんですね。

っていうのは例えば家を買うとき「修繕積立金と管理費とローン返済が合計で月々いくらまで買える」っていう考え方をしてしまうと、修繕積立金が安いマンションのほうがより選ばれるマンションということになる。

中古でも同じことがあって、うちのマンション「他のマンションより修繕積立金が高いんですけど」ってよく言われるんですよ。

だからそれが売り出し価格に織り込まれてしまうと、必ず何百万と修繕積立金の低い方が評価されることになる。

本当は「組合の銀行口座には9億円くらい持ってます。このマンションは一戸当たりで180万円もっているお金持ちのマンションです」と言ったら、それが数字で見える形で評価されなければならない。

「管理費や積立金の毎月の徴収額がいくらか?」って言うのも大事なんですけど、その辺を国の施策として「管理組合の資産状況が中古売買市場で必ず見ることができる」そんな感じのシステムに移行してほしいな、というか、長嶋さんあたりに提言してほしいな、と。

でなければ、うちは積立金徴収が高いだけのマンションとして価値がより低くなってしまうという危惧を感じています。

土屋:マンションの価値の評価っていうのは、評価軸が相当しっかりしていないといけないですよね。

『マンション買うなら管理を買え』って、私が不動産の仕事をする前からその言葉は知っていましたけど、じゃあ買うべき管理って何?って聞かれると答えられる人はほぼいないでしょう。

さくら事務所としては、今後はオリジナルの評価軸みたいなものをしっかりつくって管理が良好なマンションが正当に評価される仕組みを考えたいなと思っています。

議案書が年に6000回ダウンロードされるHP

土屋:管理組合がホームページをオリジナルで作成して総会の議案書だとか修繕計画だとか会計の内訳まで情報を開示する組合さんが最近増えていると思うんですが、イニシア千住曙町は間違いなくその草分け的な存在ですよね。

情報開示することに対して、組合の内部で反対意見やハードルのようなものはなかったですか?

應田:一番最初にホームページに挙げるときはそういう議論もありました。

一方でなかなか仲介の人とかも総会の議案書とかを取り寄せてくれないんですね。見てないのに管理がいいも悪いもないじゃないですか。

だったらうちは自分で公式ホームページを作って載せてやろうぜと。

もともと私管理オタクですから、議案書とかある意味作品なんですよ。だから他の人にも鑑賞してほしいなと。

google で総会+議案書で検索するとうちのホームページがトップにヒットするので、年に6千回くらい議案書を置いてあるページにアクセスがあります。

土屋:今後、さらにホームページで公開したいのは?

應田:今は、マンション管理オタクのための展示スペースみたいになってますけど、今後はもっと一般の人から見たときに「なんか住んだら楽しそうだな」思ってもらえるような楽しげな行事などコミュニティ活動の報告といった面を充実させたいなと思います。

土屋:今後管理組合として取り組んでいきたい、野望みたいなものをお聞かせいただいたらと。

應田:住んでいる人がハッピーになってもらいたいというのがあるので。

もっとみんなハッピーに「住んでよかったな」と思ってもらえるようなところになってから辞めたいなあと思います。

土屋:組合の皆さんの幸せな顔をみることが野望ということですね。

應田:そういうことにしておきます。

(以上)

マンション管理のプロがアドバイス! おすすめのサービスはこちら

関西圏 長期修繕計画見直し(検証・提案)

お役立ちコラム 関連記事