「管理会社の対応がいまいち…」「管理委託費の値上げを要求された…」など、管理会社に対して不満や不信感が募ると、管理会社の変更を検討し始める管理組合もあるでしょう。
しかし、管理会社はこれまでマンションの管理を二人三脚でおこなってきた大切なパートナー。色々と勝手がわかっている管理会社の変更は、慎重に検討したいところです。
そこで本記事では、管理会社を変更するメリットとデメリット、変更を検討するケースや変更手順を解説します。
分譲時から管理会社を変更しているマンションは全体の約21%
国土交通省「平成30年度マンション総合調査」によると、分譲時に分譲会社から提示された管理会社に業務委託しているマンションは73.1%、分譲時から業務委託していた管理会社から変更したマンションは20.9%、といった結果がでています。
管理会社を変更していないマンションのほうが多いですが、5組合のうち1組合以上が管理会社を変更しているため、管理会社の変更はそうめずらしいことではないようです。
しかし、管理会社変更にはデメリットもあります。メリットとデメリットをよく理解して、管理会社変更がマンションにとって本当に最適な判断なのか、慎重に検討しましょう。
参照:国土交通省「平成30年度マンション総合調査 管理組合向け調査結果」
管理会社変更のメリット
まず管理会社変更により得られるメリットについて解説します。おもなメリットは以下4つです。
・管理委託費を見直せる
・管理業務の質を向上できる
・新たな提案をしてもらえる
・区分所有者がマンション管理に向き合える
順にみていきましょう。
(1)管理委託費を見直せる
管理会社を変更することで、管理委託費を見直せるのは大きなメリットといえるでしょう。毎月の固定費である管理委託費を減額できれば、大幅なコストダウンが可能です。
管理会社を変更する際は、新しい管理会社を決定するため、相見積もりをとります。相見積もりにより、価格競争が生じるため、自然とコストダウンに繋がりやすくなるのです。
各社の見積もりから相場観もわかるので、現状が相場と比べて適正価格なのかも判断できるでしょう。
しかし、ここ数年は人手不足などの影響により、管理会社が優位に立つ売り手市場であるため、管理会社の変更をちらつかせ強気で管理委託費の削減を主張すると、「管理しません」と管理会社に去られてしまうおそれもあるため、管理会社変更に向けた作業は慎重に進めましょう。
(2)管理業務の質を向上できる
管理会社変更により、前の管理会社の管理業務に問題点が発覚するケースもあります。
たとえば「不要な日常修繕を恒常的に行っていた」や「管理組合で共用部の保険に入るはずが入っていなかった」など、管理会社を変更しなければわからなかった問題が生じていることも少なくありません。
管理会社の変更にともない、発覚したそういう問題を通して、管理業務に対する管理組合の目も厳しくなるため、マンションの管理を受託した新しい管理会社は「この管理組合は意識が高いので、不手際があれば管理委託契約を解約されるかも」といった心理が働きます。その結果、緊張感をもって業務にあたってもらえるようになるため、管理会社の管理業務能力を存分に発揮してもらえるでしょう。
(3)新たな提案をしてもらえる
提案力が高い管理会社に委託できれば、これまで解決できなかったマンションの課題を解決できるかもしれません。また気がついていなかった新たな課題を見つけられるチャンスにもなります。
一例ですが、昨今は車離れが進み、駐車場の空きが目立つマンションも少なくありません。積極的に改善策を提案してもらえる管理会社であれば、駐車料金の見直しや外部貸しの検討など、空き駐車場を活用できる方法を提案してもらえるでしょう。
新しい管理会社を選定するときは、管理のプロとして頼りになる管理会社かどうか見極めることも大切になります。
(4)区分所有者がマンション管理に向き合える
管理会社の変更を検討することで、区分所有者のマンション管理に対する関心が高まります。
マンションの将来に関する事項には、なかなか自分事になれない区分所有者も、身近な存在である管理人や管理会社のこととなると、当事者意識をもちやすい傾向があります。月々負担している管理費に直結するとなるとなおさらです。
管理会社変更の検討を機に、マンション管理に向き合い考えることで区分所有者の管理に対する姿勢が変わります。総会への出席率が上がる要因にもなるでしょう。
管理会社変更のデメリット
ここでは管理会社変更のデメリットについて解説します。管理会社変更におけるデメリットは次の3つです。
・管理業務の引継ぎが上手くいかないケースがある
・頼りにしていたスタッフも変わってしまう
・管理会社変更がベストな選択肢とは限らない
以下で詳しく解説します。
(1)管理業務の引継ぎが上手くいかないケースがある
管理業務の引き継ぎがうまくいかず、後々トラブルになるケースがあります。すべての必要事項が書類やデータで管理されていればよいですが、必ずしもそうとは限りません。
管理人の記憶頼りになっていたり、単に記録が抜けていたりすることもあるため、内部事情に詳しい理事などが引継ぎに立ち会うとよいでしょう。
また建設から10年程度以内の場合、多くのマンションでアフターサービス期間が残っています。管理会社がアターサービスの窓口になっていることもあるため、よく確認しておきましょう。
マンションのアフターサービスについては下記記事で詳しく解説しています。
マンション築9年目までに必ずチェックすべきアフターサービスとは?
(2)頼りにしていたスタッフも変わってしまう
「管理会社には不満があるけれど管理人さんはよくやってくれている」などといった声があがることもあるでしょう。管理会社を変更すると、基本的には管理人さんともお別れです。
ただし管理人さんと話し合い、新しい管理会社のもとで引き続き業務にあたってもらえる可能性もあります。マンション内部のことを知り尽くしている信頼できるスタッフがいることは、マンションにとってプラスになるはずです。
各管理会社に事情を説明して、その管理人さんに引き続きお願いできないか相談してみましょう。
(3)管理会社変更がベストな選択肢とは限らない
管理会社変更により、必ずしもマンション管理がよい方向へ向かうとは言い切れません。たとえば、成功報酬型のコンサルティング会社により不要な管理会社変更を促されたり、無理な管理費削減で管理の質が低下したりすることが考えられます。
また、管理会社の人手不足により、新しい管理会社が見つからない可能性もゼロではないのです。現状の管理内容と同等以上で、コストパフォーマンスのよい管理会社を選ぶことが、将来のマンションを見越したベストな選択といえるでしょう。
管理会社変更のリスクについては、下記記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
コロナ禍で上がるマンション管理会社変更(リプレイス)の声とそのリスク
管理会社変更を検討するケース
メリットだけでなくデメリットやリスクもある管理会社の変更ですが、以下のケースの場合は管理会社の変更を前向きに検討してもよいでしょう。
・納得できない理由で管理費委託費の値上げを要求された
・管理会社の日々の対応に不満が募っている
・管理会社に不信感を抱いている
順にみていきましょう。
納得できない理由で管理委託費の値上げを要求された
管理人の人件費の高騰などにより、管理委託費を値上げせざるを得ないケースもあります。
頭ごなしに値上げを要求するのではなく、納得できる形できちんと説明してもらえるなど、誠意のある姿勢がみられればよいですが、そうでない場合は、管理会社変更を視野に入れてもよいかもしれません。
管理会社の日々の対応に不満が募っている
管理会社の対応が遅い、親身さが感じられない、ミスが多いなど、日々の対応に不満がある場合も、管理会社変更を検討するマンションが多いようです。
ただし、担当者の変更で解決できるケースもあります。管理会社変更にはデメリットもあるため、不満の内容によっては、担当者を変更できないか、管理会社に相談してみるのもありです。
管理会社に不信感を抱いている
管理費など管理組合の財産を、管理会社が管理しているのはよくあることです。しかし「管理会社に任せておけば安心」という訳ではありません。実は、管理会社が管理組合の財産を着服したり横領したりする事件は毎年のように起きているのです。
国土交通省では「マンション管理業者の違反行為に対する監督処分の基準」を設け、マンションの管理適正化の推進に関する法律に規定されている、指示処分・業務停止処分・登録取消処分する際の基準を定め、監督しています。
管理会社に不信感を抱いた場合は、疑いの目を持つことが大切です。過去に行政処分を受けた管理会社は、国土交通省の「ネガティブ情報等検索サイト」で調べられるので、気になる方は確認してみましょう。
参考:国土交通省「マンション管理業者の違反行為に対する監督処分の基準」
過半数の賛成で成立!管理会社変更の手順
管理会社の変更は、区分所有者の過半数以上の賛成で可決されるため、そこまでハードルは高くありません。ここでは、管理会社を変更する際の手順を解説します。
【管理会社変更の手順】
(1)管理会社の問題点を把握する
(2)複数の管理会社に見積りを依頼する
(3)見積り内容を比較検討し2~3社に絞り込む
(4)プレゼンテーションで1社に決定する
(5)総会または臨時総会を開催する
(6)管理会社との管理委託契約を解約する
(7)新しい管理会社と管理委託契約を締結する
(8)旧管理会社が新管理会社に業務内容を引き継ぐ
順に詳細を解説します。
(1)管理会社の問題点を把握する
過去に役員を務めた方への聞き込みや、区分所有者へのアンケートなどで、管理会社の問題点を洗い出し整理しましょう。
この段階で、どの程度の区分所有者が管理会社に対して不満があるのかも把握できます。また、アンケートを実施により事前に管理会社の問題点を考える機会ができるため、スムーズな合意形成に繋がりやすくもなるでしょう。
(2)複数の管理会社に見積りを依頼する
管理会社の問題点を把握し、変更の意思が固まってきたら、3~5社程度の会社に見積もりを依頼しましょう。見積依頼時は、比較が容易になるように、現在の管理委託契約書や重要事項説明書、直近の総会資料などを提出します。
公正に見積もってもらうために、提出する内容や期限など、各社同じ条件のもと見積もってもらいます。管理会社が見積もりを作成する際には、現地調査もおこなうのが一般的です。各社とのスケジュール調整も必要になります。
(3)見積り内容を比較検討し2~3社に絞り込む
各社から見積もりが提出されたら、一度に1社を決定するのではなく、まずは理事会で2~3社に絞り込みます。
見積り金額だけでなく、提案書や見積提出までのやり取りのスムーズさなど、総合的に判断し、絞り込みましょう。「管理会社変更の目的を達成できるか」が管理会社選定のポイントです。
(4)プレゼンテーションで1社に決定する
管理会社を2〜3社に絞り込んだ後は、プレゼンテーションで各社にアピールしてもらい、1社に決定します。プレゼンテーションは理事会だけでも管理組合全員が参加してもかまいません。
また、このタイミングで、管理会社の担当者となる方と面識をもっておくと、実働後のイメージをもちやすいでしょう。1社に決定したあとは、総会に向けて、組合員を対象にした事前説明会を実施するのも有効です。
(5)総会または臨時総会を開催する
総会のタイミングを待ってもよいですが、早く新管理会社に移行したい場合は、臨時総会を開く方法もあります。総会で使用する議案書の作成は、新しい管理会社に相談してもよいでしょう。
管理会社変更は、管理規約で特段の定めがなければ、普通決議です。区分所有者の過半数の賛成を得られれば成立となります。
(6)管理会社と管理委託契約を解約する
総会または臨時総会で、管理会社の変更が決定したら、現在の管理会社との管理委託契約を解約します。
解約を希望する3ヵ月前までに管理会社に解約通知書を送付するのが原則です。解約を通知して、即時解約できるわけではないので注意しましょう。
(7)新しい管理会社と管理委託契約を締結する
解約が決まったら、新しい管理会社と管理委託契約を締結します。契約書の内容に不備がないか、これまでの見積りやプレゼンテーションの内容と相違がないか、こまかな内容までしっかり確認しましょう。
後々「認識が違っていた」ということがないように、少しでも疑問点があればこの段階で確認しておいてください。
(8)旧管理会社が新管理会社に業務内容を引き継ぐ
最後に、旧管理会社から新管理会社に業務内容を引き継いだら、変更手続きは完了です。これまでの履歴やデータのほか、印鑑や通帳、共用部の鍵などの備品もすべて引き継ぎます。
引き継ぎは、一般的に管理会社間でおこなわれますが、理事が立ち会ったり、理事会でそれぞれの管理会社から、引き継ぎの進捗状況の報告を受けたりしておくと、スムーズに移行できるでしょう。
管理会社変更は慎重に!現状を把握して管理力アップを目指そう
管理会社変更は普通決議のため区分所有者の過半数の賛成で成立します。実際に約20%の管理組合が管理会社を変更している経験があり、そこまでハードルが高いわけではありません。
管理会社変更することで、管理委託費を見直せたり管理業務の質を向上できたりするメリットがありますが、契約内容によってはデメリットが大きくなってしまうことも。
管理会社を変更すべきなのか、上手く引継ぎができるのかなどのご心配がある場合は、さくら事務所の「管理費見直し・管理会社変更アドバイス」をご活用ください。
本記事ではコンサルタント会社によるリスクについて触れましたが、さくら事務所は管理会社変更を積極的に進めるのではなく、最終手段として考えています。
管理会社を変更する前にできることがないのか、マンションの管理状況についてアドバイスさせていただきます。管理費全般についても見直しのアドバイスが可能ですので、お気軽にご相談ください。