近年、ニュースなどで取り上げられることも多い「ステルス値上げ」をご存じでしょうか。
商品の価格はそのままに据え置き、内容やサイズを縮小させることで実質的な値上げを行うことをステルス値上げといいます。
語源は、相手方のレーダーに映らない戦闘機「ステルス」です。「消費者が気づきにくい形」で「こっそり」と値下げが行われているため、そう呼ばれるようになりました。具体的には、1袋200円で売られていた5個入りのパンが、いつの間にか4個入りになっていた…といった類いのものです。主に食料品の分野でよく見られますね。
消費者としては憎らしくてたまらないこのステルス値上げ、実はマンション管理の業界にも起こりつつあるのです。
金額はそのままで資材の質、工事サービスの質を下げる
「大規模修繕工事のステルス値上げ」
マンション管理において一番大きなお金が動くと言っても過言ではない、「大規模修繕工事」。「工事がステルス値上げ?」とびっくりしてしまいますが、実はこの工事において、ステルス値上げが起こりつつあります。
いま、大規模修繕工事を取り巻く環境では、「3つの不足」が問題として取り沙汰されています。工事を受け持つ施工会社の責任者である「現場代理人」の不足、費用が高騰していることによる資材の不足、そして、職人の不足です。
資材が高騰しているため、従来通りの金額で修繕工事を行うならば、どうしても質の低いランクの材料を使わざるを得ません。金額は変えずに質を低く……まさにステルス値上げです。さらに、ただでさえ職人が不足している状況の中で現場代理人が不足しているため、現場がうまく回りません。現場代理人が巡回する回数を減らすなどして、どうにか、現場を回している状況です。巡回の回数を減らす、つまりサービスの質を下げているわけですから、これもステルス値上げに該当します。
金額はそのままで管理の質を下げる
「マンション管理のステルス値上げ」
加えて、マンションの日常管理そのものに関しても、同じことが言えます。人件費が高騰しているため、管理委託費を上げなくては管理会社が利益を得にくい構造になっているのです。
管理会社としては「管理委託費を上げさせてください」と言いたいところなのですが、実際には対応できる人員も不足しているため、管理委託費は据え置きにして管理の質を下げざるを得ないということがしばしば起きているのですね。
人員が不足している中、どうしても経験の浅い社員にフロント担当を任せるケースが多く、理事会と適切なコミュニケーションが図れずに意思疎通ができないケースが多いと聞きます。理事会で議論されている内容の論点さえ把握できていない、担当マンションの長期修繕計画を理解できていない……そういったフロント担当者が見られるようです。
管理員・清掃員や各種設備の保守点検作業員などの人件費も高騰しており、管理会社が適正な利益が取れないマンションの場合には管理会社の撤退がこれから先、増えていくのではないかと見られています。
「第三者管理方式」に潜む闇
そうした状況を打破するものとして期待されているのが、「第三者管理方式」です。マンションの管理組合は一般的に、区分所有者が数年ごとに順番で役員を担う輪番制で成り立っているところが多いのですが、区分所有者ではない第三者、つまり専門家に管理者(理事長)を担ってもらうという方法です。
ここに潜む問題が、この「第三者」を管理会社が務めるケースです。管理会社が管理者となることで、管理組合との複雑な意思疎通を省くことができ、管理業務の効率は上がります。こうした点に関しては一定の効果がもちろんありますが、ちょっと見方を変えると、管理会社が組合運営を主導することでステルス値上げが行われやすい(気付きづらい)状況でもあるわけです。仮にご自身のマンション管理が第三者管理方式になっていたとしても、総会や理事会には積極的に参加し、管理者の活動を注視することは必要です。
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