理事(役員)は、すべての区分所有者が一度は経験しなくてはいけない役割です。人によって仕事や家庭の状況は異なり、誰もが「全力投球」というわけにはいかないでしょう。
また、年(期)によっては、手間がかかる責任ある業務を担当しなくてはいけないこともあります。
前もってマンション管理の基本を知って「理事力」を高めておけば、自分たちの活動に加え、コンサルティング会社や管理会社をうまく活用するなど、スムーズに管理組合運営ができるはず!
今の「理事力」レベルをチェックしてみましょう
それぞれのチェックポイントを知っていると、どういったことに役立つのかを見ていきましょう。
理事力チェック解説
チェック1 【理事会議事録】
自分たちが扱っている案件が、過去の理事会でも取り上げられていたかもしれません。管理会社の担当者が異動していると、過去の理事会運営の情報源は理事会議事録だけとなりますから、一度は目を通しておきたい書類です。
チェック2 【アフターサービス規準】
新築マンションの売買契約書に添付される「アフターサービス規準」には、売主が無償で補修を行う項目と事象などが書かれています。項目により保証期間が異なり、多くのものが2年目で期限を迎えます。
専有部分は売主から個別に定期補修の案内が届くため、2年経過前に不具合を申告する人が多いですが、共用部分はアフターサービス保証を活用すること自体、思いつかなかったという管理組合もあるようです。
保証期間を過ぎてしまったために管理組合の出費で不具合を直すことがないよう、早めの点検を行う管理組合が増えています。
チェック3 【10年保証】
所有者の中には「アフターサービスは10年間受けられる」と誤解している人がいるようですが、10年保証の対象は以下の項目です。
- 構造耐力上主要な部分の基礎・柱・梁等のコンクリート躯体の亀裂・破損
- 屋上・屋根・ルーフバルコニーの雨漏り(屋内への雨水の浸入)
たしかに“構造耐力上主要な柱”に発生した大きなひび割れなどは10年保証の対象です。ですが、ほとんどの建物はタイルや塗装材などで覆われており、柱や梁などに問題があるひび割れが発生していても、気付けないことがほとんど。
ただし、「地下ピット」はコンクリートが剥き出しのため、コンクリートの状況を正確に把握することができます。そのため、地下ピットの点検を実施する管理組合も少なくありません。
雨漏りの10年保証については、「屋内への雨水の侵入」があるときのみとなります。雨漏りが発生していなければ、防水仕上げにひどい不具合があったとしても、保証は2年で切れてしまうので注意が必要です。
チェック4 【管理規約】
理事・役員の定義をはじめ、区分所有のマンションに住むために必要な「ルール」が記載されています。
詳しいことは理解しづらくても、どんなことが書かれているかひととおり見ておくだけで、必要な状況になったときに管理規約に書かれていたことを思い出し、参照することができます。
チェック5 【管理費と修繕積立金】
管理費は「外部に支払う支出」に使われ、修繕積立金は「建物修繕のための貯蓄」となります。これらを把握していないと、不要な費用の支出や、積み立てておくべき費用の不足に気付けないこともあります。
総会議案書に添付された決算書を一通り見ておきましょう。
チェック6 【管理委託費】
各所有者が支払う管理費の中から、管理会社に管理委託費を支払っています。管理委託費には、管理員などの人件費をはじめ、各設備の点検費用、管理会社の利益(管理報酬)などが含まれます。
管理報酬に加えて各設備の点検費用にも管理会社の利益が含まれていることが多いため、管理会社に委託費の減額請求する管理組合が増えています。
チェック7 【管理委託契約書】
支払い規定などのほかに、管理会社が行うべき業務が記載されています。たまに、管理会社に業務委託できる事務作業などを理事会役員が行っていることがありますので、費用を支払っている業務については、積極的に管理会社を活用し、役員の負担を減らしましょう。
なお、管理委託契約は1年ごとに締結するものです。「何となく再委託」というのではなく、昨年度の実績をもとに、契約内容や委託費が妥当かどうかを検証することも大事です。
皆さんのマンションの管理委託契約書に足りないところがないか、以下の契約書に一度照らし合わせて確認してみましょう。
チェック8 【修繕積立金の値上げ】
大規模修繕は予想以上にお金がかかります。新築時に売主、管理会社から提案された修繕積立金額のままでは、将来管理組合の貯蓄は確実に赤字になってしまいます。
赤字になると、一時金の徴収や、修繕箇所の削減、金融機関からの借り入れなどを選択することとなり、マンションの資産価値に影響します。
修繕積立金の値上げは管理会社が勝手に動いてくれるものではありませんから、管理組合がしっかりと将来像を把握しておくことが重要です。
チェック9 【30年後に必要な修繕積立金】
建物の部材・機械には、5年程度のサイクルで修繕するものもあれば、30年程度で初めて部品交換するものなど、様々なものがあります。
同じ大規模修繕でも、1回目、2回目、3回目では、修繕する項目も金額も異なり、特に3回目の大規模修繕は、出費が高額で組合の収支が赤字に陥りやすくなります。
修繕積立金の値上げ計画を検討するときは、30年程度先を考慮して、余裕がある計画を立てましょう。
チェック10 【長期修繕計画表】
長期修繕計画表は、管理組合が自ら見直していかないと、何年たっても新築時に売主に提案されたもののままです。建物の傷み方はマンションごとに異なり、工事にかかる材料・施工単価も時代によって変わりますから、見直し作業は必須です。
国土交通省のガイドラインでは、5年程度に1度、長期修繕計画表を見直すのが望ましいとされています。
チェック11 【大規模修繕】
多くの管理組合で、大規模修繕工事の企画開始から工事終了まで、2~3年程度の期間がかかっています。
理事や修繕委員経験者からは、『実際の工事期間中もさることながら、準備に大幅に時間と手間がかかったのは予想外だった』という感想が多く寄せられています。
チェック12 【決議】
管理組合運営のトラブルで多いのは、何もかも理事会で決定、実行してしまうというものです。
理事会の主な権限は、総会にかける議案の決定と、管理規約で決まっていることや総会で決議されたことを執行することです。
ただし、中には、総会決議を必要とするかどうか迷う案件もあります。総会で決議を取るべきかどうか迷う場合は、理事会が考えた案に基づき運用して不利益を被る人がいないか、組合員から進め方の透明性について疑問を持たれないかを議論しておくといいでしょう。
管理会社やマンション管理の専門家などに、客観的な意見を求めることもお忘れなく。
いかがでしたか?
理事(役員)は、マンション管理の専門家である必要はありません。理事が知っておきたいことは、理事以外のすべての所有者(居住者)も知っておくべきこと。
各種専門会社をうまく活用し、理事の業務が仕事や家庭生活の負担にならないよう工夫してみましょう。