マンションの修繕積立金とは?相場や値上げの要因を徹底解説

マンション住まいの場合、避けては通れない修繕積立金。どのような用途で使われるのかご存じでしょうか。

修繕積立金は、マンションを所有している限り支払い続けなければなりません。長期的に見ると多額の出費になるため、用途はもちろん、相場や値上げの可能性についても理解しておきたいところです。

この記事では、マンションの修繕積立金の概要、相場や値上げの要因について解説します。納得して修繕積立金を支払うためにも正しい知識を身に付けましょう。

分譲マンションの修繕積立金とは?

修繕積立金は、マンションの安全性と機能性を維持するための貴重な修繕費用です。おもに管理組合が定めた長期修繕計画に則り、十数年に1度実施される大規模修繕工事の費用に充てられます。そのほか、自然災害などが原因の予期せぬ修繕も対象です。

大規模修繕工事にかかる費用は数千万~億単位。決して短期間で用意できる金額ではありません。そのため、区分所有者が毎月少しずつ修繕積立金を支払い積み立てることで、計画的に修繕費用を確保します。

賃貸の場合は、建物の専有部および共用部はマンションオーナーの費用負担で修理するため、賃借人は修繕積立金を徴収されることはありません。しかし、分譲マンションの場合、専有部は各区分所有者、共用部は区分所有者全員で協力し、修理費用を確保する必要があります。

国土交通省が発表した資料によるとマンションの平均寿命は、68年と推定した研究結果があります。適切なメンテナンスをすれば、100年以上の寿命を超えるマンションになる可能性もあるでしょう。どんなに頑丈なマンションでも、外壁や屋根、給排水設備など、築年数の経過に伴う劣化は避けられません。安心して快適に住み続けられるマンションを維持するためにも、区分所有者全員が当事者意識をもって、修繕積立金の重要性を理解し、大規模修繕に備えることが大切です。

修繕積立金と混同されやすい費用に「管理費」があります。修繕積立金は大規模修繕工事などの「修繕費」ですが、管理費は日常的な管理に要する「維持費」です。共用部分の水道光熱費や管理会社への委託費用、設備点検などの費用に充てられます。

修繕積立金と管理費は、それぞれ用途は違うもののどちらも健全なマンション運営には欠かせない費用なのです。

マンション修繕積立金の相場

国土交通省の調査によると、平成30年度のマンションの修繕積立金の1戸当たりの月額平均は11,243円という結果がでています。しかし、マンションの規模や立地などによって修繕積立金の負担額は大きく異なるため、ひとくくりにこの平均値を参考にするのは少し危険です。

そこでここでは、マンションの特色ごとに掘り下げて修繕積立金の相場を解説します。適正金額についても紹介するので参考にしてください。

 

相場金額

マンションの修繕積立金は、完成年次・総戸数規模・地域などにより大きな差があります。国土交通省が発表している「平成30年度マンション総合調査」の修繕積立金の平均額を参考に、順に詳しくみていきましょう。

なお、多くの管理組合で、駐車場使用料なども管理費や修繕積立金に充当していますが、ここでは、修繕積立金として区分所有者から徴収している金額の相場を解説するため、駐車場使用料などからの充当額は含まないこととします。

まず、完成年次別の修繕積立金の平均額について以下のグラフをご覧ください。

国土交通省「平成30年度 マンション総合調査〔データ編〕,管理組合向け調査の結果」をもとに作成

 

完成年次により多少の増減はありますが、平成21年以降は、徐々に修繕積立金の平均額が安くなっています。これは、修繕積立金の値上がりがひとつの原因といえるでしょう。

築年数が経過し、必要な修繕が増え資金不足が懸念されれば、修繕積立金の増額が考えられます。新築時は金額が安く設定されていても、金額が改定され値上がりする可能性があるのです。

つぎに、総戸数規模別の修繕積立金の平均額をみていきましょう。

国土交通省「平成30年度 マンション総合調査〔データ編〕,管理組合向け調査の結果」をもとに作成

 

51戸以上の中規模マンションと300戸以下の大規模マンションは、修繕積立金の負担額が比較的少ないです。逆に、総戸数が少なすぎたり多すぎたりするマンションは高額になる傾向があります。

戸数が少なすぎるマンションは、総工事費用を抑えられるかもしれませんが、区分所有者も少ないため、一人当たりの負担額が割高になるのです。

300戸を超えるマンションは、高機能な設備や豪華な施設が増え、修繕の方法も特殊なものになります。区分所有者が多いとはいえ、莫大な修繕費用がかかるため、修繕積立金の負担額は大きくなるといえるでしょう。

最後に、地域ごとの修繕積立金の平均額について、以下の表をご覧ください。

地域 修繕積立金の平均額
北海道 14,381円
東北 11,479円
関東 12,973円
北陸・中部 10,151円
近畿 10,532円
中国・四国 9,500円
九州・沖縄 10,244円

国土交通省「平成30年度 マンション総合調査〔データ編〕,管理組合向け調査の結果」をもとに作成

 

修繕積立金が高額なのは北海道と関東、低額なのは中国・四国です。表には記載していませんが、関東のなかでも東京圏の平均額は13,019円と関東の平均値を上回る金額でした。

修繕積立金の相場を調べるときは、完成年次や総戸数規模、地域など、さまざまな要素を複合的に捉え、幅広い視点で推測しましょう。

適正金額

国土交通省が平成23年に公表した「マンションの修繕積立金に関するガイドライン(令和3年9月改訂、令和5年4月追補版)」では、機械式駐車場を除く修繕積立金の平均額の目安について、以下のように提示しています。

地上階数 建築延床面積 平均値

(㎡・月)

事例の3分の2が包含される幅

(㎡・月)

20階未満 5,000㎡未満 335円 235~430円
5,000~10,000㎡未満 252円 170~320円
10,000~20,000㎡未満 271円 200~330円
20,000㎡以上 255円 190~325円
20階以上 面積の指定なし 338円 240~410円

国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」をもとに作成

 

「事例の3分の2が包含される幅」とは、事例の大部分が当てはまっている金額のことです。

機械式駐車場がある場合は、上記の目安値に「1台当たりの月額の機械式駐車場修繕工事費×台数÷マンション総専有床面積(㎡)」も加算されます。

「1台当たりの月額の機械式駐車場修繕工事費」は下記の表のとおりです。機械式駐車場は多様なタイプがあるため、あくまでもひとつの目安として参考にしてください。

機械式駐車場の種類 1台当たりの修繕工事費(月額)
2段(ピット1段)昇降式 6,450円
3段(ピット2段)昇降式 5,840円
3段(ピット1段)昇降横行式 7,210円
4段(ピット2段)昇降横行式 6,235円
エレベーター方式(垂直循環方式) 4,645円
その他 5,235円

修繕積立金の算出方法

修繕積立金の平均額が必ずしもご自宅のマンションに当てはまるわけではありません。ここでは「長期修繕計画から算出」する方法と修繕積立金に関係する「修繕積立基金」について解説します。

長期修繕計画から算出

修繕積立金は長期修繕計画から算出可能です。通常、長期修繕計画は25~30年で考えられており、その間に必要であろう工事内容や費用が記載されています。修繕積立金は、工事のタイミングまでに目標金額を達成できるよう設定しなければなりません。

具体的には以下の手順で算出します。

  1. 長期修繕計画で「いつまで(月数)」に「いくら(金額)」必要なのか確認する
  2. 必要な金額を月数で割り、月額の修繕積立金合計額を算出する
  3. 専有面積を考慮し1戸あたりの月額修繕積立金を決定する

修繕積立金は、同じマンション内でも一律ではありません。基本的には、専有面積が大きいほど積立金額は高額になります。

修繕積立基金で万が一の修繕に対応できる

修繕積立基金とは、修繕積立金の一部となる資金のことで、新築マンション購入時に支払います。始めにまとまった資金を集めておくことで、月々の費用負担を軽減する効果があるのです。

また、新築時から一度も見直しを行っていない長期修繕計画や、見直しを行ったけど、項目や金額に漏れがあるような長期修繕計画を運用しているため、本来備えておくべき金額に満たない修繕積立金の徴収にとどまるマンションは、予定外の修繕費用が発生した場合、余力がなく、即予算不足に陥ることが考えられます。とくに建設から数年間は修繕積立金が少ないため、修繕費用を支払えないこともあるでしょう。

修繕積立基金は、修繕積立金を補う役割があり、月々の費用負担を軽減しつつ、修繕費用に余力を持たせられる貴重な資金です。

修繕積立金が値上がりする可能性がある理由とは

分譲マンション購入後、修繕積立金が値上がりする理由として「段階増額積立方式が採用されていること」と「長期修繕計画で見積もられた金額と現在の見積金額がずれていること」があげられます。

修繕積立金の徴収方法が段階増額積立方式の場合、将来にわたって段階的に積立金額が増額されることになります。段階増額積み立て方式は、築年数が浅いほど修繕積立金が低額で、一見ランニングコストが抑えられるように見えますが、どこかのタイミングで増額しなければ2回目、3回目の大規模修繕工事の際に、費用が不足する事態に陥ります。

平成30年時点で、段階増額積立方式が採用されているマンションは全体の約43%。築年数の浅いマンションほど段階増額積み立て方式が採用される傾向が見受けられました。あなたは自宅のマンションの修繕積立方式をご存じですか?

このタイミングでいつ、いくら増額する予定なのか、事前に確認しておきましょう。

また、長期修繕計画が作成された当初と現在では、必要な修繕内容や工事見積りは少なからず変わっています。消費税や人件費、資材などの高騰により、当初の計画よりも修繕にかかる費用がかさむことは珍しくありません。

計画通りに修繕積立金を徴収していたとしても修繕費用が足りず、修繕積立金の値上げを余儀なくされるケースは多いのです。

値上げのタイミングに決まりはない

修繕積立金が値上がりするタイミングに、業界的な統一ルールは存在しません。
なぜならマンションの修繕箇所や期間、費用などはマンションごとに異なり、必要な修繕積立金もマンションごとに異なるからです。
築年数が古くなるにつれて修繕が必要になる箇所が増えていくため、修繕積立金を増額する必要が生じることがあります。
また耐震性を高めるために耐震補強工事を行う必要がある場合もあるでしょう。
その場合、修繕積立金を増額し、工事の費用をまかなうことになります。
修繕積立金が値上がりすると、管理組合員には少なくない負担が生じることになりますが、
修繕積立金が値上がりすることは長い目で見ると良いことなのです。
適切な修繕計画に基づいて積立金を設定し、適切な修繕工事を行うことは、マンションの資産価値と居住快適性を維持するために欠かせないからです。
修繕積立金が不十分である場合には修繕費用を捻出するために、急遽住民から追加負担を求めることになります。
急な出費に慌てるよりも、あらかじめ余裕を持って修繕積立金を準備しておく方が、安心できるでしょう。

均等積立方式でも値上がらないとは言い切れない

均等積立方式は、計画期間において修繕積立金を原則値上げすることなく均等に徴収する方法です。
段階増額積立方式と比べると値上がりする可能性は低く、家計の計画も立てやすいメリットがあります。しかし均等積立方式でも値上がりしないとは言い切れません。
なぜなら、修繕計画は計画時の予測に基づくものであり、実際に必要になる工事や費用は変動するからです。
例えば想定より早く劣化した箇所や新たに発見された不具合があった場合、追加工事や予算の見直しが必要になるかもしれません。
災害や法改正などで工事内容や費用が変わることもあり得ます。
このように修繕計画が変更される場合は、修繕積立金もそれに応じて値上げされる可能性があります。
修繕積立金が値上がりするタイミングは、決まりもなければ予想もできないのです。
そのためマンション所有者は常に、修繕積立金の値上がりに備えておく必要があります。

マンションの修繕積立金について理解を深めよう

マンションの修繕積立金を負担に感じる居住者も多いかもしれません。マンションの財務状況によって積立金額や増額の有無に違いはありますが、修繕積立金は、適切に修繕をおこなうために必要な資金です。修繕積立金の理解を深め、当事者意識を持ち向き合っていきましょう。

また、修繕積立金を適切に使うには、マンション工事の知識が欠かせません。しかし、知識不足が原因で、管理会社任せになってしまったり割高な工事を発注してしまったりする管理組合が多いのも事実です。

さくら事務所では、一級建築士やマンション管理士など、国家資格を持つマンション管理のプロが、日常修繕工事や長期修繕計画の工事内容および見積書の妥当性をチェックするサービスをおこなっています。プロへの依頼は、管理組合が適切な修繕積立金の見直しを図るきっかけになるでしょう。

さくら事務所は管理組合のミカタです。よりよいマンション運営に向けてサポートいたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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