マンション大規模修繕工事に備え、知っておくべき注意点

マンションの大規模修繕工事は、時間の経過とともに劣化していく建物を、これから先長く安心して住める状態を維持できるよう修繕する工事です。

大事な修繕積立金を使い、建物の寿命をも左右する、マンション管理組合にとって大きな仕事です。

無駄のない適切な修繕工事ができるのか?工法や施工に問題はないのか?

不要不急、過剰な工事を行い、修繕積立金を無駄にしていないのか?

ここでは、大規模修繕工事で失敗しないために知っておきたい注意点ついてさくら事務所のコンサルタントが解説します。

注意点1:大規模修繕工事は12年ごと?見直される修繕周期

現在、分譲マンションにおける大規模修繕工事は概ね12年毎に実施するのが主流となっています。

長期修繕計画でも、新築時から概ね12年程度の周期で大規模修繕工事を行うことを前提とした、修繕計画や積立の計画が立案されています。

ですが、実はこの12年の周期、学校や市(区)役所などの鉄筋コンクリート造の公共建築物や、賃貸マンションなどの修繕周期と比較するとだいぶ短いものとなります。

「建物や設備の劣化状況に関わらず、定期的にこまめに修繕しましょう」というスタンスは建物を長期に維持するには最も望ましい、いわば理想ともいえる考え方です。

ですが、マンションの修繕費用は区分所有者で負担しなければならず、その予算が無尽蔵にあるわけではありません。

また、これまでマンション管理業界ではタブーのように扱われていた修繕周期の伸長も、近年、大手管理会社が高耐久性の修繕によるサービスを商品化し、徐々に広まりつつあります。

高耐久性の修繕を行うことで、長く持たせ、修繕の周期を伸ばすことができるのです。

関連コラム:大規模修繕工事の周期延長、可能にするための4つの条件

より耐久性を高める材料・工法を用いることで、1回の工事費用は15~20%程度アップしますが、長期的な視点からすれば大規模修繕工事の回数が減りますので、マンションの修繕維持に要する費用を削減、ひいては、マンション居住者の経済的・心理的負担の軽減にも繋がります。

必ずしも12年毎にに大規模修繕工事を実施しなければならないと、固執する理由はありません。

管理組合の修繕積立金計画などに照らし、維持管理に関する方針を管理組合の皆様で共有して決定しましょう。

注意点2:修繕積立金の残高が大規模修繕工事の予算ではない

大規模修繕工事の予算は修繕積立金の残高ではない大規模修繕工事の予算は、その時の修繕積立金の残高ではありません。

特に、新築時は入居の際の修繕積立基金をまとめて支払っており、建物の劣化もさほど進んでいないことから、比較的積立金には余裕があるでしょう。

ですが、これは12年で貯めたものではなく、お引き渡し時の積立基金が含まれていますので、月々の修繕積立金に直して計算するとだいたい15~16年分にあたります。

ですから、これから12年で同じ金額がたまるわけではありませんし、2回目、3回目の工事費は建物の劣化に伴い、どんどん増幅していきます。

大規模修繕工事の予算は、今回計画を行う大規模修繕工事の費用だけでなく今後少なくとも30年程度に亘り実施する必要が生ずると予測される、建物や設備の修繕費用を盛り込み、将来的に増額される修繕積立金の負担額の概要まで把握した上で検討しましょう。

注意点3:劣化診断をしても「予定通りの大規模修繕工事」が行われる

劣化診断本来、大規模修繕工事の前に行われる劣化診断は、大規模修繕工事の実施の必要性や実施時期を判断するためのものですが、実際には「予定通りの大規模修繕工事の実施」を前提として行われるケースがほとんどです。

大規模修繕工事の内容や範囲は、長期修繕計画にも予め示されている通り、劣化診断の結果を受けて改めて作成(設計)されるものではありません。

多くの場合、「足場を必要とする工事」や「保証期間を過ぎた防水工事」をすべて行うことを前提として作成されているのが実情です。

劣化診断により「大規模修繕工事が今、本当に必要なのか?いつ頃、必要になるのか?」を見極めるためには、管理会社や施工会社ではなく、大規模修繕工事に利害関係のない第三者の専門家に調査してもらうことも検討しましょう。

関連コラム:劣化診断(建物診断)は大規模修繕工事の実施ありきで行うもの?

注意点4:ウィークポイント、元通りにするだけでは同じことの繰り返し

建物には、多くの場合どこかしら「ウィークポイント」があります。

他の部分に比べて汚れやすい、ひび割れなどが数多く発生しやすい、いつも水が溜まるなど、建物形状や立地、仕上げの種類などにより特徴的に劣化が進行したり、使用上の不便をもたらしたりする部分のことを指します。

これらの部分は、汚れを落とす、補修をするといった新築時の状態に戻すだけでは、また同じことを繰り返すだけです。

清掃・修繕が必要になる度に都度対応するのではなく、大規模修繕工事のタイミングで今後そうならないよう仕上げ方法などを変更しておくといいでしょう。
マンションの美観を保つための、大規模修繕工事のちょっとしたコツ

注意点5:施工会社選定の談合・癒着でムダになる修繕積立金

現在、最も一般的行われているマンション大規模修繕工事の施工会社選定方法は、「設計監理方式」と呼ばれるものです。

設計事務所や管理会社が修繕工事の仕様を決定し、業界紙などにより公募を行いこの仕様に基づく見積を複数の候補会社に行わせ、その中から選定を行います。

一見すると透明性が高く公明正大な方法のようですが、この方法による設計事務所、管理会社、大規模修繕コンサルタントと施工会社との多額なバックマージンの授受など、不正な癒着が問題視されてきました。

国土交通省がこの問題について異例の通達を出したのは、管理組合の多くの方のご記憶にあるかもしれません。

関連コラム:設計監理方式ではマンションの大規模修繕工事の談合は防げない


さくら事務所でお勧めしているのは、不正な談合や癒着など可能な限り回避すべく施工会社に工事内容まで自由に提案させる「プロポーザル方式」です。

設計監理方式に比べ、手間はかかりますが、談合や癒着が行われにくく、管理組合の貴重な修繕積立金をバックマージンなどによって無駄にしないための施工会社選定方法です。

プロポーザルについて:プロポーザル方式の大規模修繕工事、進め方とメリット&デメリット

注意点6:新築時の不具合が発見されることも少なくない

第一回目の大規模修繕工事では、新築時の不具合が発見されることも少なくありません。

例えば発覚するのはこんな事象

1)外壁タイルの広範な浮き(タイル仕上げ面のシーリング目地の設置不良
2)構造スリットの不設置または設置不良
3)鉄筋の切断を伴うコンクリート躯体への不正なコア抜き(穴あけ)
4)鉄筋に対するコンクリートの被り厚さ不足

これらの事象が発見された場合には、分譲会社や施工会社へ通知を行い補修費用の負担を求める必要が生ずる場合がありますが、発見された状況によっては調査ならびに交渉や補修に長期間を要することもあります。

これらの事象が発見された場合には、分譲時の売主、施工会社に問い合わせると「経年劣化です」「近年の地震による影響です」「構造上直ちに問題があるわけでありません」「図面通りに施工されています」等というような曖昧な回答が返ってくることが少なくありません。

ですが、新築時の施工に問題があることが証明できれば、分譲会社や施工会社との折衝で、修繕費用の全部又は一部を負担してもらえるケースもあります。

第1回の大規模修繕工事で、これらの不具合が確認されたら確実に解消しておきましょう。

参考:1回目の大規模修繕工事で解消しておきたいマンション新築時の施工不良

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