マンションに潜む深刻な瑕疵 「構造スリットの施工不良」に泣き寝入りしないために

このところ報道が相次いでいる、マンションの構造スリットの瑕疵問題。

さくら事務所にも分譲マンションの管理組合だけでなく、賃貸マンションのオーナーさんなどからも構造スリットの不具合に関する相談が寄せられています。

ここでは、これまでに数多くの構造スリットをはじめとする多くの瑕疵補修のコンサルティングを行ってきたさくら事務所のマンション管理コンサルタントが、構造スリットの施工不良と、泣き寝入りしないためにマンション管理組合が備えるべきことを解説します。

阪神淡路大震災以降、本格的に広まった「構造スリット」

構造スリットの起用は、1981年の建築基準法改正にともなう、新耐震基準の施行にさかのぼります。

本格的に耐震設計の手法として採り入れられるようになったのは、阪神淡路大震災(1995年)以降。

その後、主に鉄筋コンクリート造のマンションでは、スタンダードな手法とされてきました。

構造スリットとは構造計算をする上で、柱、梁、床を重視して構造上重要でない壁にはスリット(すき間)を設けることで柱や梁に対する影響をなくすという考え方に基づいたものです。

地震発生時に水平方向の揺れに対し、構造上重要な梁や柱に対する損傷を防ぐ役割があります。

構造スリットの設置は構造設計者が柱、梁、床、基礎、耐震壁により構成されるようにして、構造計算ソフトを使用して検証を行い、建物全体のバランスを考慮して決定されます。

なぜ構造スリットの施工不良が起きるのか?

施工会社は型枠施工時に構造設計者により決定された構造スリットの設置位置に、 水平方向および垂直方向のスリット材を型枠内に設置しすき間をつくりますが、コンクリートの打設に際し、スリット材にねじれや曲りなどの不具合が発生します。

しかし、型枠脱型後にスリットの設置状況を確認して不具合がある場合に補修するということが確実に実施されていないことが多く、未設置(設置忘れ)やねじれ、曲がりなどの不具合が放置されたまま工事が進められるという実態があります。

構造スリットが設置される目的は、震度6強の地震が発生した場合でも建物利用者の人命を守ることができるように、建物が大規模に倒壊することを防ぐということですが、設置に不備があるとスリットにより切り離されていない部分で構造的に弱い部分に地震による応力が集中することで、 壁や梁のひび割れや柱が折れる(座屈)などが発生してコンクリートの脱落やタイルの剥離、落下などの発生原因となります。

特に構造スリットの未設置や曲がりに影響を受け柱が規定よりも細くなることで断面欠損や、鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さの減少などが生じます。

これらの現象が生じている場合には、構造設計者が検証した構造計算の前提が根本的に成り立たなくなるだけでなく、建物の耐久性にも影響をおよぼすため看過することができない重大な瑕疵になります。

これまでに関わった構造スリットの不具合の調査や補修では、発生原因について新築時の施工会社にヒアリングを行ったケースがありますが、構造スリットを完璧に施工することは事実上難しく、構造スリットが設置されている建物では何らかの不具合が発生しているという驚きの発言もありました。

これが一般的な新築時の施工会社の感覚であると考えると、これまでに構造スリットに不具合があることが確認されたマンションは氷山の一角であり、多くのマンション居住者にとってこの問題が他人事とは言えないでしょう。

以下の記事でも構造スリットの施工不良について詳しく解説しています。気になる方はぜひご覧ください。
[insert page=’4270′ display=’構造スリット(耐震スリット)の施工不良発覚!もしマンションで施工不良が発覚したら?|https://www.s-mankan.com/information/4270/|excerpt|excerpt-only|content|post-thumbnail|all’]

大規模修繕工事の際に発覚しても報告されないことも

分譲マンションでは第1回目の大規模修繕工事の着工後に外壁タイルの不具合と共に構造スリットの不具合が発覚するケースは多くあります。

ですが、ほとんどの大規模修繕工事のコンサルタント(設計監理者)や大規模修繕工事の施工会社はコンクリート躯体の構造に関しては知見がなく、また、不具合の発生による工事の中断や工期が延長されることを嫌い、このような不具合が発覚しても管理組合に正確に報告されないこともあります。

マンション管理組合は、竣工引渡し後10年未満であればこのような重大な瑕疵について、分譲会社と施工会社の双方に責任を追及することが可能です。

構造スリットの未設置や設置不良など構造的な瑕疵については対応せざるを得ないものとなります。

また、竣工引渡し後10~20年であれば民法上不法行為責任を追及することは可能ですが、それにはマンション管理組合にその瑕疵の立証責任があるため、かなりハードルが高くなります。

さらに、竣工引渡し後20年を超えた場合には、新築時の施工会社に対しても責任を追及することもできなくなります。

2年目のアフターサービス、もしくは10年の保証が切れる前に

このように、マンション管理組合は、引渡し10年以内に、マンションの不具合や施工不良を洗い出す必要がありますが、通常のマンションで竣工引渡し後に建物全体を対象として行う調査がされるのは、10年を過ぎた後です。

最初の大規模修繕工事のための劣化診断という名目で、管理会社や大規模修繕コンサルタントにより行われるものです。

2年目のアフターサービスが切れる時期や10年の保証が切れる前に、構造スリットを含め建物全体の調査を第三者の調査会社に依頼することを強くお勧めします。

構造スリットの施工不良の被害に泣き寝入りしないため、マンション管理組合にとってこれが最善の策であることは間違いありません。

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