近年、多発する自然災害の保険金支払い増加にともない、火災保険の料率が見直されました。
エリアによっても大きく異なりますが、東京都では料率が20%程度改定されます。
マンション火災保険も例外ではありません。
ここでは、さくら事務所のマンション管理士が今回の火災保険値上げとそのポイント、管理組合がすべき対応について解説します。
目次
火災保険の値上げ、マンションへの影響は?
近年、漏水事故などの増加により損害率が悪化、更新時に保険料が2~3倍になるという管理組合の声が聞かれます。
「高くて保険に入れない」というだけでなく、「保険加入を断られた」「加入こそできたが、漏水事故は不担保になった」という組合もあるようです。
この保険料値上げの背景には、築年数別保険料体系への移行があります。
築年数別保険料体系とは、「保険事故発生の有無にかかわらず、築年数だけで保険料率が決定する」仕組みです。
結果、高経年マンションは保険料が高く、築年数の浅いマンションは保険料が安くなるのです。
維持管理状態が保険料に反映されることはないのです。
とはいえ、築30年、40年マンションといった高経年マンションはこれからどんどん増えて続けます。
このままいけば、高経年マンションは火災保険に入れない、もしくは漏水事故は不担保という条件になるかもしれません。
漏水事故の保険料が支払われないと、どうなる??
では、今後「保険に加入できない」「漏水事故は不担保」「保険が適用されたが、補填率50%」このようなマンションは、どうなるのでしょうか?
例えば、専有部で水漏れがあっても、共用部の不具合が原因であれば、管理組合が負担することになります。
加入している保険で保険金が支払われない場合、組合のお金で被害の修復に関する費用を支払わなければならないのです。
例えば、50%の補填率の場合、漏水事故1件で400万円の被害があれば、200万円を組合で負担しなければなりません。
もし、共用部が原因の漏水事故で専有部に被害があり、管理組合がその費用を賠償できないとなると、一時金が徴収されることや専有部の区分所有者から訴えられる可能性もあります。
このような事故が頻発するような場合、保険に入れない、保険で賄えない部分については、管理組合はどれだけの資金をプールしておかなければならないのでしょうか?
高経年のマンションの場合は、更生(オーバーホール)は考えずに、更新(交換)することをお勧めします。
更生についてさまざまな情報がインターネット上にも掲載されていますが、やはりうまくいかない、もしくは結果的に無駄になる、というケースも少なくありません。
今なら、60~65年の耐久性が期待できる配管材料で更新するのがベストでしょう。
マンション管理組合は値上げにどう備える?
①切り替えで時間稼ぎ
もし間に合うようであれば、秋の値上げ前に、長期契約に切り替えることをお勧めします。
次回契約更新の際には、十分な修繕計画を立てておき、その分を評価してもらえるような保険に切り替えてもいいでしょう。
建物の維持管理状況に応じて保険料を割り引きする損害保険もあります。
②長期修繕計画の見直し
今後は、高経年になっても火災保険への加入を確実に継続するためには、従来の計画よりも早めに給排水管のメンテナンスが必要になります。
通常、給水管の更新が30~40年、排水管の更新が35~45年とされているケースが多いのですが、それまでの間は清掃しか予定されていません。
これまで通りの計画に沿ってやっていたら、将来的に火災保険には入れない、若しくは、漏水事故は不担保の条件になってしまうかもしれません。
近年、配管材料の性能向上により、高耐久の更新工事が可能になりました。以降の更生や更新を不要とすることができるため、更新工事が選択されるケースが多いようです。
火災保険に頼らない、給排水の維持管理
そもそもですが、保険に加入している、していない以前に、漏水事故は起こさないことが一番。
排水管の寿命を見極めるには、管材の種別と接合方法を知る必要があります。
管理組合が、漏水事故を防ぐためのコツは、「どこでどんな材料(配管・継ぎ手)が使われているか?」を把握しておくことです。
1回目の大規模修繕工事が終わったくらいの頃から、専有部でもリフォームする住戸が増えてきます。
その際、どんな配管が使われているのか?どこでつないでいるのか?を管理組合が把握していないと、万が一漏水があった際に、どこで水漏れしているのか?見当をつけることができなくなります。
リフォームはトラブルも多く、想定外の施工がされているケースも多く聞かれます。
給排水設備の改修方法について管理組合が配管材料や接合方法、改修の範囲を管理規約の細則で定めておくのです。
また、その改修工事について、細則で定めた通りの仕様になっているか?きちんとそれ通りに施工されているかどうか?第三者の工事チェックを推奨する、という組合もあります。
その際の検査費用は、リフォームを行う区分所有者が行いますが、細則に則ったリフォーム工事がなされていれば、補助金を管理組合から交付する、というシステムを導入しているところもあります。
高経年マンションほど、管理状態がその評価を左右する
これから高経年マンションは増加の一途をたどるでしょう。
今回の保険の改定のように、厳しい状況に置かれる可能性もあります。
ですが、高経年マンション程その維持管理状態に大きな差が生まれ、その管理状態を評価される局面も出てくるでしょう。
築年数の浅いうちから、持続可能なマンションの修繕計画を考えておくことをお勧めします。