高級感、意匠性からマンションの外壁や床にしばしば用いられる「石張り」ですが、外壁タイル同様、実はその不具合に悩む組合も少なくありません。
天然石はその扱いが難しく、仕上げの加工によっても施工上の注意点があります。
せっかくの高級感溢れる石張りが残念なことになっているケースも多々あります。
ここでは、マンションの「石」の不具合相談を多数受けてきたさくら事務所のマンション管理コンサルタントが石張りの不具合とその原因、対処法について、実例を交えて解説します。
石張りの「床」でよくある不具合
①濡れ色現象
「雨が掛かる場所でもなのに」「このあいだの雨で濡れたまま。まだ乾かないの?」そんな、水染みが消えないようなところがあれば、それは「濡れ色現象」と呼ばれるものです。
石材は水を吸えばもちろん表面の色は代わりますが、それがいつまでたっても消えない場合は、単なる水染みではありません。
濡れ色現象は、石材の裏面(下地面)や目地から入った雨水から石材の微細な隙間に水が浸入してしまっていることから発生します。
本来、石材の下地には雨水が浸入した際に水が溜まらないらないよう、勾配をつけるなどの適切な排水処理が必要です。
下地に水分が残ったままだと、石材の裏面から水分を吸ってしまいます。
下地処理において、本来とるべき勾配と逆の「逆勾配」になっていたり、勾配はとれていても排水口が不十分なケースも見られます。
石材を貼る際、下地には砂の配合が多いモルタル(バサモルタル)を使用しますが、石材の裏面に水分が溜まると、バサモルタルに含まれる石灰分が溶け出し、二酸化炭素と結晶してエフロレッセンスの発生に繋がることもあります。
濡れ色だった石材の表面が、白っぽくなってくるのです。
エフロレッセンスとは・・・「マンション外壁の白い染み、エフロレッセンスの原因と対策」
多くのマンションで、石張りについて2年目のアフターサービスによる保証の対象となっていますが、不具合を申し出ても「天然の石材だからしかたがない」と言い訳されてしまうこともあります。
また、保証対象として補修してもらえる場合も、バーナーで表面の水分を強制的に蒸発させ、表面にコーティングを施されて終わり、というケースもあります。
下地面や目地からの雨水の浸入が原因の場合は、一時的な解決にしかなりません。
過去には、風除室、エントランス、ロビーと広く濡れ色現象が発生し、アフターサービスですべてを張り替えられたという例もあります。
②浮き・盛り上がり
石張りの床では、「一部の石材が浮き上がっている」という状態を眼にしたことがあるかもしれません。
原因は伸縮目地を適切にとっていないこと。
伸縮目地とは、季節の温度変化などによるコンクリートやモルタルの伸縮を最小限にとどめるために、一定間隔で隙間を設け弾力性のある素材を充填し、大きなひび割れなどを防ぐためのものです。伸縮による力を分散させる役割があります。
したがって、この伸縮目地が適切に取られていないと、伸縮によって起きる動きが逃げ場を失ってしまい、石材の表面が割れてしまったり、石材が盛り上がってしまったりするのです。
床材が平滑にならず、一部が盛り上がってしまった目地部分に躓く転倒事故の危険性もあります。
こちらもアフターサービスの保証期間内であれば、補修をお願いできるものです。
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石張りの「外壁」でよくある不具合
石張りにはコンクリート躯体に設置された金物に石材を固定する「乾式工法」と、モルタルなどで張付ける「湿式工法」があります。
不具合が多く発生しやすいのは湿式工法のケースです。
建築物が安全な状態で維持されているかを確認するため、一定の規模以上のマンションや事務所ビルの所有者(管理組合等)に義務付けられている「特定建築物定期調査報告」制度でも、湿式工法による石張りのみが調査・報告の対象とされています。
石材と接着に使用した材料の相性が悪かったり、施工方法に明確なルールが定められていないケースも多いことが原因でしょう。
中には、石材に対して適切な接着材料が用いられておらず、表面に接着材料の成分が染みだして表面上に染みとして現れてしまった、というケースもあります。
乾式工法においては不具合が起き難いと言われていますが、過去には石材の裏側の空洞に、強い風が入り込み石材が捲りあがり剥がれてしまったという事例もありました。
これは、石材の固定方法により、石材の隅に風が入り込む隙間ができてしまっているなど、施工時の配慮が不十分であったことが原因でしょう。
なぜ、石材の不具合やトラブルが多いのか?
なぜこのように石材にまつわる不具合やトラブルが多いのでしょうか?
外壁・床ともにタイルや石材を用いる場合の施工基準として建築工事標準仕様書がありますが、基本的には日本工業規格(JIS)に準じた材料が対象となります
しかし、規格外のもので、施工方法に公的基準が明確に定められていないものも多数存在し、製造メーカーによる施工マニュアルも曖昧な記載しかされていないというケースも多々あるのです。
鍵になるのはアフターサービスの期限か否か?対処法にも注意
これらの不具合が発覚した場合、売主・施工会社に責任を問えるか否かのポイントになるのが、アフターサービスの期限です。
期限内で不具合がその対象とされていれば、無償補修をしてもらえますが、補修方法にも注意が必要です。
不具合の原因を十分に検証することなく補修をしても、不具合が繰り返し再発する可能性があります。
また、不具合の起きた部分のみを確認・補修しても、同じような現象が他の箇所で今後起こる可能性もあります。
建物に不具合が発生した場合は同様の仕様部分のチェックをしっかり行い、他の箇所でも同じようなケースが起こらないようにすることも重要です。
アフターサービスを有効活用するためには、第三者による建物のチェックにより不具合をきちんと洗い出しておくといいでしょう。
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