新型コロナ感染拡大により、増えた「おうち時間」。
それにともない、さくら事務所にもマンションの騒音トラブルに関するお問合せを多数のお問合せをいただきました。
これまでの生活では気にならなかったものの、家で仕事をする、日中も長く自宅で過ごす、というこれまでにない環境に置かれ、初めて気になるようになった、というひともいるでしょう。
ここでは、マンション管理士がマンションの騒音トラブルについて解説します。
マンションの永遠の課題、騒音トラブル
マンションの騒音問題はマンション住まいの永遠の課題とも言えるかもしれません。
居住者の構成、ライフスタイル、音の種類、建物の構造によって問題になるものならないもの、またその騒音の原因も大きく変わってきます。
耳に入る音を騒音と思うか?思わないか?これは個人の感覚の違いによるところも大きくなります。
例えば、駅前の騒音の多い場所にあるマンションと、少々駅から距離があり喧騒から離れた場所にあるマンションで似たような構造だった場合、騒音被害の相談が多いのは実は後者なのです。
人が集まって暮らしているのだから、多少の音はお互いさま、便利なところにすんでいるのだから多少の騒音は織り込み済み、ということもあるでしょう。
どうしても伝わってしまう音を“騒音”として捉えるか否か、というお住まいの方の意識のよっても変わってくるのです。
残念ながらさくら事務所に当事者さまから頂くお問合せの中には、サポートできないケースも多々あります。
騒音が原因となり個人間の感情的な問題にまでもつれてしまった場合、第三者としてサポートできることは残念ながらありません。理事会や管理組合にとってもこれは同じでしょう。
(また、さくら事務所の組合向けコンサルティング業務は、基本的に理事や委員の方からのお問合せにお答えしています)
マンションの騒音、種類は2つ
では、マンションの騒音トラブルは、なぜ起きるのでしょうか?
そもそも音の伝わり方は2種類あります。
①空気伝搬音
空気の振動によって伝わる音のこと。日常の生活音でいえば楽器やテレビ、オーディオなどのスピーカーからの音、外で遊んでいる子供たちの声など空気を伝わる音で、距離が近いほど大きくなり、壁や窓などによって遮られると小さくなるという特徴があります。
②固体伝搬音
コンクリートなどの固体を振動させて伝わる音のことで、日常で言えば、上階の住人の足音や、物を落としたときの音など、床や天井などを通して伝わりやすい音
一般的にマンションで問題になりやすいのは、この固体伝搬音です。
上下階や隣室などの生活音が原因であることが多く、床・天井に絡む固体伝搬音となります。稀には隣接することのない住戸からの音が騒音の原因となっていることがあり、隣接する住戸からの音であるという先入観から苦情を申し立てたりしたことで、相隣関係が破綻するトラブルに発展するという残念なケースもあるので注意が必要です。
固体伝搬音は床・壁の構造によっても異なり、その原因は単純化して考えることは難しく、調査を行っても原因が判然としないことも少なくありません。
直床か?二重床か?も騒音に影響するのか
マンションの住戸の床は階下の天井にもあたり、この構造によっても音の伝わり方は異なります。床の構造の違いを見てみましょう。
直床
鉄筋コンクリートの構造体(床スラブ)に直接フローリングを貼る構造です。
構造体に直接貼っているため音が響きやすいイメージがあるかもしれませんが、直張りの遮音性が必ずしも劣るということはありません。
直張り用の場合にはフローリング材とクッション性のある素材を合わせ、音を吸収する対策が一般的に取られているからです。
二重床(置床)
構造体との間に置床形式の空間を設けて床を貼る方法です。
床下に空間があるので音が分散され、響きづらいイメージがありますが、鉄筋コンクリートと接している金属や樹脂製の置床の足部分から、音が伝わってしまうこともあります。
その足部分にゴムのブーツのようなものを履かせるという対策を取ることで、固体伝搬音を緩衝させることができます。
このように、単純に比較するこもできず、騒音対策に関する配慮や対策がきちんと取られているかによっても大きく異なります。
タワマンは騒音トラブルが多い?
「タワーマンションは騒音トラブルが多い」「隣の音が聞こえやすい」と言われることがあります。
確かに、タワーマンションは一般的なマンションとは異なる工法を用いることもありますが、一概にタワーマンションだから遮音性が劣る、とは言えません。
タワーマンションで代表的とされる特徴的な工法について、いくつかご紹介します。
ボイドスラブ(中空スラブ)
タワーマンションでは、構造体を軽量化するために床や天井の構造体に「ボイドスラブ(中空スラブ)工法」などが用いられる事が多くなっています。
ボイドスラブとは、コンクリート内部に中空部分を設けてあることから、床スラブを厚くしても軽量にすることができます。
床スラブを厚くすれば、計算上の強度が増し、梁を少なくすることができるため室内の空間をすっきりさせるというメリットがあります。
ですが、梁がないために固体伝搬音に関しては、床の上で振動が起きたときに太鼓を叩いたときのように振幅する面積が大きくなってしまい、下の部屋に騒音として伝わってしまうことがあります。
ただ、これもボイドスラブだから必ず音が伝わるということではなく、音が響く直接の原因がわからないことも多々あります。
上階が原因だと思ったら、違う住戸が原因だった、というケースもあるのです。
また、本来であれば必要な梁を減らすことができるのがボイドスラブの特徴であり、タワーマンション以外でもワイドスパンのマンションでも梁を少なくするために一般的に用いられていており、タワーマンションに限ったものでもありません。
乾式耐火遮音パネル
タワマンの戸境壁(隣りの住戸との境の壁)は旧来のマンションのように、型枠を組んで鉄筋を組み立て、そこにコンクリートを打設するようなつくり方はしておらず、工場でつくられた耐火と遮音の性能を備えたパネル(乾式耐火遮音パネル)という壁が使われています。
製品自体の耐火性や遮音性は確保されているため、人の話し声やオーディオ機器などの音は伝わりづらくなります。
ただし、構造体(コンクリート)ではないため、地震の揺れなどの影響による歪みなどに耐久性を有するものではないため、亀裂などが発生し遮音性が低下する可能性もあります。
また、コンクリート壁のように壁と床が一体となっているわけではないため、隙間をつくらないように施工される必要があります。
乾式耐火パネルと床や天井のコンクリート隙間があると著しく遮音性が低下してしまうからです。
騒音トラブルは、仕様自体が問題というわけではなく、施工精度が原因になっているケースも少なくありません。
施工精度や設計の配慮不足のケースも
タワーマンションでよく使われる工法を例に挙げましたが、やはり単純に構造や施工状況だけで比較することもできません。
騒音をめぐる問題は個人間のトラブルに発展してしまうケースが多々ありますが、中には建物の工法・仕様に必要なその施工精度、そもそもの設計の配慮不足などから発生することもあります。
騒音トラブルが多発している、というマンションの方は、そういった可能性の1つとして踏まえておくといいでしょう。