「現在の建設ラッシュはオリンピックが理由で、オリンピックが終わる2020年以降は需要が一段落して工事費も下がる」と考えている人も多いかもしれません。
この頃を見計らってマンションの大規模修繕工事を考えている、先延ばしにしている管理組合も多いようです。
果たしてそれは正しいのでしょうか?
ここでは2020年~2022年までの不動産市場の動向について説明します。
大規模修繕工事の費用は2020年以降も高止まりのまま
東京オリンピックを前に、建設需要に沸く建設業界
バブル崩壊以降長らく不況の煽りを受けていた建設業界ですが、一転してここ数年の建設ラッシュと呼も呼べる状況です。
理由としては東日本大震災の復興需要や安倍晋三内閣が主導する国土強靭化計画に伴う公共事業の増加、2020年に迫った東京オリンピック・パラリンピックの開催のためのスポーツ施設や宿泊施設の建設などが挙げられます。
このような事情から建設費用は右肩上がりの状況となっており、マンションの管理組合の中には近々予定していた工事を仕方なくオリンピック以降に延期するケースが増えてきています。
オリンピックが終わっても工事費が下落するとは考えにくい
では、2020年のオリンピックが終了すれば建設ラッシュが落ち着いて工事費用も下落するのかというと、決してそうはならないでしょう。
それどころか一層の工事費アップという状況すら考えられます。
なぜなら先程述べた復興需要や国土強靭化計画に伴う建設需要の高まりと同時に潜在的な人手不足も大きな要因となっているからです。
なぜここまで建設業界の人手不足が深刻化してしまったのか?
リーマンショックや政権交代の影響
バブルの崩壊以降厳しい状態が続いてきた建設業界ですが、2008年に起こったリーマンショックは建設業界にとどめを刺したと言ってもいいでしょう。
これまでなんとか耐え忍んできた建設会社の業績は一気に悪化しました。
さらに2009年の選挙で自民党が負けると、新しく誕生した鳩山政権は公共事業を大幅に減らす方針を示しました。
これにより建設会社の多くは資金繰りが厳しくなり、廃業する会社が相次ぐ結果となったのです。
東日本大震災と安倍政権の発足
このように建設業に携わる労働者の数が減っていく中で、今度は東日本大震災が発生。
その復興事業のために多くの職人が被災地に集められ、関東の職人がまったく足りないという深刻な状況に追い込まれました。
さらに2012年には安倍政権が発足し、これまでの鳩山政権の方針を一転させて公共事業を大幅に拡大させます。
この悲惨な状況に「一体誰が工事を請け負うのか」と疑問の声すらささやかれたほどです。
ピークの3割減にまで至る慢性的な人材不足へ
通常なら建設需要が膨らみ仕事が大幅に増えれば新しい働き手が流入して来そうなものですが、実際にはそうはなりませんでした。
一度建設業界を離れた高齢の職人が現場に復帰することはなく、若手も厳しい労働環境を嫌ってか現場で働くことに興味を示しませんでした。
結果として建設業は慢性的な人材不足に見舞われ、1997年には685万人もいた職人は20年後の2017年には500万人程度にまで減っています。
今後、建設業界の人手不足は解消されるのか?
若い世代の働き手が圧倒的に不足
今後建設業界の人手不足が解消されることがあるのか気になるところですが、残念ながらこの傾向は今後も続くと考えられます。
というのも現在建設業界で働いている500万人の労働者のうち60歳以上の人が80万人程度であるのに対して、20代・10代は合わせて35万人程度しかいないからです。
60歳以上の人たちの大半は10年後には引退していると考えられるため、さらなる人材不足が大きな問題となりそうです。
負のスパイラルから抜け出すことができない建設業界
慢性的な人材不足により、すでに建設業界には多くの悪影響が出てきています。
職人が少ないことで1件1件の工事の工期が長引いてしまうのです。
工期が長くなれば工事の件数をこなすことができないため、建設会社の利益も頭打ちになってしまいます。
無理に工期を短縮しようとすれば今度は工事の質が問題となり大きなトラブルを引き起こす可能性も否定できませんので、そうもいきません。
結局は職人の給料も据え置きとなり、若い労働者は他の魅力的な業界へと流れてしまうという負のスパイラルから抜け出せないのです。
大規模修繕工事を行うならどのタイミングが良いのか
深刻化する人手不足、状況を一転させるのは技術改革
元々建設業界は3K(キツイ・汚い・危険)のイメージがあり人手不足の傾向がありましたが、それに加えて現在の日本は超が付くほどの高齢化社会に突入しており、労働力を担う若い世代の人口が減少し続けています。
そして住宅やオフィスビルの分野は工事が後回しになり、実際に工期の遅れも目につくようになってきています。
このような状況を一変させるには無人でも工事を進めることができるような大幅なテクノロジーの進歩が必要になりますが、ここ2~3年でそのようなことを望むのは非現実的でしょう。
このような状況を見ても、オリンピック後に工事費が下落するという保証はどこにもないのです。
結局のところ、オリンピック以降の工事費下落を見込んで長期修繕計画を組み込んでいた管理組合の多くは、そのスケジュールをさらに先へ延ばさざるを得なくなるでしょう。
大規模修繕工事を先延ばしにする組合の増加から、逆に今がねらい目?
ですが、ここにきて大規模修繕工事の世界では変化も現れました。
大規模修繕工事をオリンピック以降に先延ばしにするマンション管理組合の増加から、大規模修繕工事の費用が落ち着きつつあるという側面も見られるようになりました。
当初の工事受注見込額がクリアできない工事会社が、受注に向けて割安な金額で引き受ける傾向があるのです。
今がねらい目ともいえるでしょう。
とはいえ、適切な仕様・内容で適切な施工会社選定方法によって進めなければ、大規模修繕工事が成功しないことはどのタイミングにやっても同じことです。
修繕積立金を無駄にせず、大規模修繕工事を目指すべく、第三者のプロを入れることもお勧めします。