大規模修繕工事の定義とは?なぜ必要なのか?費用、大まかな流れまで詳しく解説

大規模修繕工事は、マンションの資産性や居住性を左右する重要なイベントです。12年~18年に1度、マンションを新築時の性能まで回復する目的で修繕工事をするのです。修繕工事の対象箇所は、おもに共用部になります。街を歩いていると、足場をかけメッシュシートを張り工事しているマンションを見かけませんか?そのイメージです。共用部はマンションの管理組合が管理することになります。もし管理組合のメンバーに大規模修繕工事の知識や経験をお持ちの方がいればよいですが、そうでない場合、どこを工事するかを検討し、施工会社を選び、工事中は工事の品質や進行を確認し、完成後も気を使うなど、工程の多さと慣れない業務に大きな不安を感じる方も多いのではないでしょうか。大規模修繕工事には膨大な費用と時間がかかります。予備知識がないと、修繕積立金をドブに捨てるも同然になるなど、大きなトラブルに発展することも。大規模修繕工事をスムーズに進めていくためにも、工事の必要性をよく理解したうえで、費用相場や流れ、注意点などを事前に把握しておきましょう。本記事では、大規模修繕工事を進めるにあたり必要な情報をまとめています。よくあるトラブル事例を交えた注意点も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

大規模修繕工事の必要性とは

大規模修繕をする主な理由は、経年劣化により傷んだ箇所を補修し、新築時まで性能を回復させることで居住快適性を取り戻し、外壁タイルの剥落などから居住者や地域住民を守り、安全性を確保することです。マンションの資産価値を維持することにも繋がります。

劣化が進み、居住快適性を失ったマンションは、資産価値が下がります。資産価値が下がると、売りたくても売れないマンションとなり、マンションの高齢化や過疎化が進み、よりマンション管理が難しくなるなど、負のサイクルが連鎖するでしょう。

日常的に行う小規模な修繕だけでは、築年数の経過や雨風などによるマンションの全体的な劣化には対応できません。

たとえ3mmのコンクリートのひび割れでも、雨水や空気が内部の鉄筋まで浸入すると、錆びが生じ、十分な耐久性を確保できなくなることもあります。また、外壁タイルが剥落すれば、地域住民まで被害が及び管理組合が賠償責任を問われることになります。

大事に至る前に、適切に大規模修繕が実施することで、経年により劣化したマンションの機能を回復させ、快適で安全な状態を維持できるのです。

大規模修繕の定義とは

大規模修繕の定義は、国土交通省の長期修繕計画ガイドラインと建築基準法で、内容に相違があります。いわゆるマンションの大規模修繕は、国土交通省の定義です。ここでは、大規模修繕の定義について、掘り下げて解説します。

国土交通省の定義

国土交通省「長期修繕計画ガイドライン」における「大規模修繕工事」の定義は、以下のとおりです。

大規模修繕工事~建物の全体又は複数の部位について行う大規模な計画修繕工事(全面的な外壁塗装等を伴う工事)

引用:国土交通省「長期修繕計画標準様式 長期修繕計画作成ガイドライン 長期修繕計画作成ガイドラインコメント 第2編 第1章 4項」

さらに「マンションの改修・建替え等について」でも「大規模修繕」について、以下のように定義しています。

大規模修繕工事~マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値を維持するために行う修繕工事や、必要に応じて建物及び設備の性能向上を図るために行う改修工事のうち、工事内容が大規模、工事費が高額、工事期間が長期間にわたるもの等

引用:国土交通省「マンションの改修・建替え等について」

国土交通省の定義では、大規模修繕工事の工事内容や工事個所から、具体的な工事の目的まで、言及されています。

改修・修繕・改良の違い

修繕と似ている用語に「改修」「改良」があります。大規模修繕をより深く理解するために、それぞれの違いについてみてみましょう。

国土交通省「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」では以下のように解説されています。

修繕工事~劣化した建物や部分の性能・機能を事実上支障のない状態に回復させること

改良工事~建物の性能や機能をグレードアップさせること

改修工事~修繕工事と改良工事により建物全体の性能を改善すること

上記は普段何気なく使っていたり目にしていたりする用語ですが、実はそれぞれ違うことを意味しています。見積り書の内訳などで使い分けられていることもあるので、気を付けてみてみてください。

参照:国土交通省「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」

建築基準法での定義

建築基準法では「大規模の修繕」について、以下のように定義されています。

大規模の修繕~建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕

引用:建築基準法「第1章第2条用語の定義」

工事箇所について、主要構造部と限定されているのが特徴です。主要構造部とは、柱や梁など構造上重要な部分を指します。マンションの大規模修繕は、外壁塗装や屋上防水がメインで「柱の本数を変える」などはめったにありません。

国土交通省の「大規模修繕工事」と建築基準法の「大規模の修繕」、言葉は似ていますがそれぞれ意味が違うことを覚えておきましょう

大規模修繕工事にかかる費用

大規模修繕工事にかかる費用は、マンションの規模やグレードなどにより大きく異なります。工事内容ごとの費用相場の目安を比較してみましょう。

工事内容 大規模マンション

(総戸数100戸以上)

小規模マンション

(総戸数50戸以下)

防水工事 3,000~4,000万円 600~800万円
外壁工事 3,500~5,000万円 700~1,000万円
仮設工事 3,000~4,000万円 600~800万円
設備工事 500~1,000万円 100~200万円
大規模修繕工事全体 1億5,000万~2億円 3,000~4,000万円

工事全体の費用をみると、大規模マンションで5,000万円、小規模マンションで1,000万円の幅があることからも、マンションによって大きな差があることがわかります。

また、規模ごとに工事費用を比較すると、当然ながら、小規模マンションのほうが低額です。しかし、1戸当たりで考えると「小規模マンションだから負担額が少ない」とはいいきれません。

大規模修繕工事の資金の大部分は、区分所有者から徴収する修繕積立金です。戸数が少ないほど、少人数から資金を調達する必要があるため、小規模マンションのほうが割高になる可能性もあります。工事費用が安いからといって、戸当たりの費用が安いわけではないということを覚えておきましょう。

工事費用や修繕積立金については、下記の記事で詳しく解説しています。

マンション大規模修繕工事の費用はいくらが適切?算出方法や費用を抑えるコツ・注意点を解説

1回目と2回目以降の大規模修繕工事の違い

1回目の大規模修繕工事は、特に劣化が進んでいる状態ではないといえるため、2回目以降に比べると修繕箇所が少なく、費用も抑えられる特徴があります。

国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」をもとに作成

1回目の大規模修繕工事でもっとも多い割合は「〜6,000万円」なのに対し、2回目は「~8,000万円」。3回目になると「~15,000万円」が増えています。

また、工事内容ごとの費用割合は回数ごとにさまざまです。

出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」

外壁塗装は回数が増えるごとに費用割合が増える一方、床防水は徐々に減っています。外壁タイルは1回目、屋根防水は2回目がもっとも多い割合です。

初めての工事と比較すると、2回目以降の工事は、管理組合に大規模修繕工事の経験値が蓄積されているため、工事の手続きを比較的スムーズにできるといった違いもあります。1回目の経験を活かし、住民説明会や関係会社との打ち合わせなど、段取りよくおこなえるのでしょう。

大規模修繕工事の期間

工事期間は、マンションの形状や規模によってさまざま。一般的には、50戸以下の小規模マンションであれば「着工開始から2~3カ月」、50戸を超える大規模マンションであれば「着工開始から5~8カ月」という期間が目安です。

ただし、劣化が目立ってきたのを見て「じゃあ明日から大規模修繕工事を始めましょうか」というわけにはいきません。

修繕工事の計画、見積もりの取得、住民説明会の開催など、工事を始めるまでの工程はさまざまなものがあり、工事の計画から着工開始までは1~1年半ほどかかるのが普通です。つまり、準備期間を含めると全ての工事が終わるまで2年前後の期間が必要だということです。

大規模修繕工事の周期(タイミング)と回数

大規模修繕工事の周期は「12年に1回」が主流でしたが、現在は18年程度まで伸長するマンションも増えてきています。

もともと、平成20年に公開された国土交通省のガイドラインに準じて、12年に1回という周期が一般的になりました。ガイドラインでは「おおよその目安」「マンションの仕様、立地条件に応じて修正する」と記されていましたが、12年に1回の大規模修繕工事が義務付けられているかのように周知されていったのです。

しかし現在は、高耐久化の工事をおこなうことで、18年程度まで周期を延長できるといった考え方が広まりつつあります。高耐久化の工事は、従来に比べ1回の工事費用は高額になりますが、工事回数を減らせるため、長期的にみると大幅なコスト削減が可能です。

まだ実績が乏しいこともあり、高耐久化工事に前向きな施工会社は多くありません。ただ、修繕積立金不足に悩んでいるマンションは多いため、周期の伸長がスタンダードになる日もそう遠くないでしょう。

大規模修繕工事の周期については以下の記事で掘り下げて解説しています。

マンション大規模修繕工事の最適な周期は?12年周期はもう古い?

大規模修繕工事開始までの流れ

ここでは、大規模修繕工事を始めるにあたっての具体的な流れを見ていきましょう。大まかには以下の流れで進めていくことになります。

  • ①修繕委員会を設立
  • ②コンサルティング会社の決定
  • ③施工会社の決定
  • ④居住者向け説明会を実施
  • ⑤修繕工事準備~開始

①修繕委員会を設立

まず、マンションの理事会で大規模修繕工事の実施が決まったら、管理組合内での体制作りを行います。一般的には、「修繕委員会」といった専門の委員会を設立します。理事会は通常の組合運営業務も担当しているため、大規模修繕工事関係の業務までは手が回りません。そこで理事会の諮問機関として修繕委員会を設け、修繕委員会が大規模修繕工事にまつわる業務を前面に立って担当する、というわけです。

②コンサルティング会社の決定

修繕委員会のメンバーが決まったら、次は修繕工事の流れを考えていきます。施工会社をどうするか、修繕工事中のチェックはどのように行っていくかなど、検討すべきことは山ほどあります。

もし修繕委員会だけで大規模修繕工事を進めていくことが難しい場合は、専門のコンサルティング会社に依頼することをおすすめします。

コンサルティング会社はプロの知識、プロの目線をもって、施工会社の選定や工事中のチェックなどを修繕委員会に寄り添って進めてくれます。1戸につき3~5万円のコンサルティング費用はかかりますが、委託すればスムーズに大規模修繕工事を進めることができるので、一つの方法として覚えておいてください。

③施工会社の決定

次は施工会社を決めます。当然ながら、適切な工事が行われていないと余分な手間や費用がかかる可能性があります。安心して工事をお任せできる施工会社を選定しなくてはなりません。

選定にあたっては、大きく分けて3つの方法があります。

1つ目は「特命随意契約」です。以前にも大規模修繕工事を依頼した施工会社など、理事会や管理組合と既に信頼関係にある1社を指名して見積もりを取り、その内容を検討して決める方法です。

2つ目は「見積合わせ」です。設計図面や現地での説明会をもとに複数の施工会社に見積もりを依頼し、その内容を比較検討して決める方法です。

3つ目は「競争入札」です。公募または指名によって入札希望会社を選んだ上で、競争入札を行う方法です。

いずれの方法にもメリット、デメリットがありますので、以下の記事もご覧いただき、慎重に選定するようにしてください。

大規模修繕工事の施工会社選定方法、それぞれのメリット・デメリット

④居住者向け説明会を実施

施工会社が決まり、工事の内容や期間などの概要がある程度決まったら、居住者向けに住民説明会を開きます。いざ工事が始まってしまうと、ベランダが使用できなくなるなど日常生活に支障を来す可能性があるからです。

防犯対策はどうなっているか(足場が組まれているため不審者が入りやすくなってしまう)、安全対策はどうなっているか(小さい子どもがいる場合は危険が伴うことがある)、工事中に部屋が暗くならないか(工事中に貼られるシートには透過性の高いものが使われるのか)、家にいないといけないことはあるか(基本的には住民が不在でも工事は進められるが、玄関枠の塗装など、住民がいなくては進められないものもある)。以上のような点において、修繕委員会、住民ともに意見交換を行い、全員が納得している状態にしておく必要があります。

⑤修繕工事準備~開始

住民の同意が得られたら、工事の準備を進めます。具体的には、足場の設置、資材倉庫の設置、現場事務所の設置、作業員用の休憩所やトイレの設置などが行われます。当然、これらの間にも修繕委員会、コンサルティング会社、施工会社とで綿密な打ち合わせを行い、必要に応じて住民への説明もしなくてはなりません。

準備が整ったら、着工です。大規模修繕工事の検討からここまでがおよそ1~1年半と、長期プロジェクトとなりますが、マンションの品質を保つためには必要なこと。修繕委員会のメンバー、住民、いずれの立場であっても、協力して進めていきたいものです。

大規模修繕工事を行う際の注意点

大規模修繕工事は、期間も長く居住者への負担も大きいことから、特段の配慮が欠かせません。また、工事業者など外部の人間の出入りが増えるなど、イレギュラーなことも多くあります。

トラブルを防止するためにも、大規模修繕工事をおこなう際の注意点をおさえておきましょう。

修繕委員会立ち上げの注意点

修繕委員会を立ち上げるときは、かならず総会で承認を得ておきましょう。承認を得ずに活動をはじめてしまいトラブルになった事例があります。

そのマンションでは、管理組合内で候補者を募り、修繕委員会を結成しました。計画を進めるにあたり、必要な経費を年度予算予備費から拠出したところ「総会で承認されていない修繕委員会への拠出は規約に反している」と批判の声があがったのです。

円滑に計画を進めるためにも、総会で承認を得たうえで、修繕委員会を立ち上げましょう。

修繕委員会については下記の記事で詳しく紹介しています。

マンション大規模修繕工事における修繕委員会の役割と注意点

マンション居住者とのトラブル

大規模修繕工事中は、居住者の生活が制限されることも多いため、工事に協力的でない方もいます。専有部での作業もありますが、入室許可を得る段階でトラブルになることも。

居住者とのトラブルを避けるためにも、工事内容やスケージュール、工事の重要性を事前にしっかり伝えておきましょう。また、工事に対する不安や困りごとなど、居住者の声に耳を傾け、真摯に対応することも大切です。

修繕費用に関するトラブル

修繕費用が計画よりも高額になり、トラブルになるケースもあります。大規模修繕工事の場合、足場をかけてからでないと、上階の外壁など目視できない場所も多く、概算で見積もるのが一般的です。

そして、いざ着工して足場をかけたときに、見積もり以上の不具合が発覚すると、工事費用が大幅に増額し予算不足になることもあります。

万が一の場合によっては、一時金を徴収し費用を捻出することにもなります。そのため、長期修繕計画をこまめに見直し、万が一のケースも想定しながら、余裕をもった資金計画をたてておきましょう。

各業者とのトラブル

マンションの大規模修繕に慣れていない工事業者に依頼してしまうと、工事の遅延や施工ミスなどのトラブルを招きます。業者を選定するときは、管理組合である一定の審査基準をもち、どのような実績があるのか、信頼できるのか、よく確認しましょう。

コンサルタントに依頼するのであれば、コンサルティング会社選びも重要です。残念ながら、なかには工事会社と手を組み、安い契約で高い工事料金を搾取する悪徳業者もあります。見積もりだけを見て判断するのではなく、コンサルタントや工事会社と面談し、質疑応答を通して実績はもちろん、担当者の人柄なども確認するようにしましょう。

空き巣被害

大規模修繕工事中は、多くの工事関係者がマンションに出入りします。機材の搬入時や玄関周りの工事のときは、オートロックが空いたままになっていることもあるでしょう。足場を利用すれば、窓からの侵入も可能になります。空き巣にとっては、都合のよいことばかりです。

工事関係者は共通のベストを着用してもらう、窓は必ず施錠するなど、いつも以上に防犯意識をもちましょう。

大規模修繕工事中のトラブルや対処法について、より詳しく知りたい方は下記の記事を参考にしてください。

マンション大規模修繕工事でよくあるトラブル!原因・対策と問題発生時の対処法を解説

大規模修繕工事ならさくら事務所にお問合せください

大規模修繕工事を適切におこなっていれば、マンションの居住快適性を長く保て、資産価値も維持できます。しかし「適切な工事を行うこと」は意外と難しく、多くのマンションでは、管理会社やコンサルタント会社の提案をそのまま受け入れて修繕をおこなっているケースが多い状況です。

その結果、不要不急の工事までおこなうなど、「修繕積立金の無駄遣い」といえる状況が発生し、後の財政状況に大きなダメージを与えています。そのほか、管理会社に施工会社の選定を任せた結果、手数料を考慮したとしても、妥当ではない工事金額で工事を発注してしまうことも。

大規模修繕工事には多くの専門知識が必要です。技術面でも運営面でもマンションの大規模修繕工事に精通した専門家が多数所属するさくら事務所なら、大規模修繕工事の施工会社選びから工事内容・見積の精査、住民への説明までをトータルサポートが可能です。

管理会社と関係のない第三者の専門家がマンションの劣化を診断。「今、本当に工事をしなければならないのか?」など現状必要な工事を見極め、大規模修繕工事の実施時期からコンサルティングさせていただきます。

また、大規模修繕工事を実施する場合には、不要な工事を見定め、カットするアドバイスもさせていただくため、もしかしたら、工事費用を大幅にコストダウンできるかもしれません。予算に応じて、コンサルタントが関わる頻度を調整することもできますので、無理のない範囲でコンサルタントを起用することもできます。ぜひお気軽にお問い合わせください。

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